i : L i代社会 文化研 究 No . 49 201 O隼 1 ユ1 ] 育児不安研究の現状 と課題 坂 井 摂 子 Abs t r ac t Thepur pos eort hi sp a pe rj st oe x; l l 一 i net hei s s u e sofc hi l dr e a r i ng-a n xi e t ybyr e vi e wi ng we l l kno wnr e s e a r c he s .Va r i ousr e s e a r c h eso nC hi l dr e a r i ng nxi e t ys t a r t e di nl L ) 73wh e na - a me di a h) r pe di nf a nt i c i dec a s eo c c ur r e d.Mos toft hes t udi e sha vee onc l udc dt ha tt hel l l a i n i ng a nxi e t yi si s ol a t i o1 -0ft hemot he r s ・Es pe c i a l l y .r es e a r c l e sbyMa ki no c a us eorC hi l dr e a r Ka l s ukowho f or mul a t e dt her a t i ngs c a l et l orc l i l dr e a r i ng n xi e t yha 、 ・ ′ ebe e nC ons i de r e d - a r e l ・ p ol ut i ona r y ,be c a us ehe rr e s e a r c hc o ul dr e l e a s emo t he r sf l r on lt he i rr e s po ns i bi l i t i e sf l or C a r i ngt he i rc hi l dr e n.Al t ho ug t lMa ki no' ss c al ei ss t i l lwi del yus e d,t h epr e s e nts t udypoi nt s bl e msi nhe rs c a l e -Fi r s t l y ,s omei t e 1 SOrt l C rS c a l ea r eno ts ui t e dt ot t l er e al i t yof outs omepn r C hi l dr e a r i ng n xi e t y .Se c o ndl y .mo t he r ' si s ol i l t i ondoe snoti l l wa y sC a us ea1 i g hr a t eof - a L l hi ] dr e a r i ng-a nxi e t y .Thi r dl ymo t he r swhoa r er a t e dl 州・ ri nh e ra nxi e t ys c al ea r eno tal way s pr obl e m1 t e e . キー ワー ド・ ・ ・ -育児不安の誇張 母子 関係パースペ クテ ィブ 育児 不安尺度 は じめに 近年 児童虐待の増加 を もた らした原 因 として育児不安 が注 目され てい る。 「 健やか親子 2呈 」 な どの施策 でも主要課題 に育児不安の軽減 が掲 げ られ 、そ の軽減 と虐待 に よる死亡数減少 とが 関連付 け られ たO育児不安 は児童虐待 と結びつ き、一般 に広 がったO しか しなが らそれが社会 問題化 され る こ とによ り、育児不安 の捉 え方 が単純化 され誇 張 され る弊害 もあ る。 す なわ ち、 「 時々育児 の 自信 がな くな った り焦 った り、イ ライ ラす る ことす ら育児 不安 とみ な され る単純 化」と、「 持続 され蓄積 され た不安」であった育児不安が 拡大解釈 きれ 、母親 太 多数 が不安 を抱 えてい るかの よ うに誇張 され た ことに疑問が呈 され た く 広井 201 0: 67) O 育児不安 の誇 張が何 を もた らす のか。 育児不安 がそ もそ も母親 を育児 問題 の責任者 とす るこ と-の批判 と して見 出 され たのに、誇 張に よって母親 一般 を問題 にす る有力 な根拠 となって し まった ( 広井 201 0:68) O さらに、母親 の責任 でない こ とが過度 に主張 され る と、「 子 どもを愛 せ ない こ とがあって も当然 」 とい うメ ッセー ジ となって日 日 入歩 き し、新 たな育児問題 が生 じる -83- 育児不安研 究の現状 と課題 ( 坂井) こ とが危惧 され た ( 山根 200 0:37) O 育児 不安 は誰 にで も起 こる問題 で あ り、大多数 の母親 が 児童虐待 を引 き起 こす 可能性 があ るもの と して把握 され るO 母親 は、再度 、育児 責任 を負 う虐 待 予備 軍 として位 置 づ け られ た と考 え られ る。 この よ うな虐 待 予備 軍 の 母親たちは、乳幼 児健康診査 で育児 不安 を尋ね られ 、「 乳児家庭全戸 訪 問事業 」で は全 て の母親 が虐待 の恐 れ をチ ェ ック され る。訪 問型 サ- ビスは画期的 な試み だ が 、 調査 され る内容 が果 た して虐 樽 を見分 け るもの なのか疑 問が残 る。 単純化 され た誰 にで も 該 当す る育 児 不安 が児 童虐 待 の見極 め にな る とは考 えに くい。 さらに、拡 大解 釈 され る以前 の 「 持 続 され 蓄積 され た」研 究上の育児 不安 も明確 とはい えない。 育 児 不安研 究 におい て も、その概念 定義 は暖味で多様 で あ る ( 岩田 1 997a: 23)。また、育児 不 安 を明確 にす るため に作成 され た育児不安尺度 もあ るが、そ の測定尺度 が標 準化 され ていな い ( 川崎他 2約 8:53) o 育児 不安研 究 はい くつ かの研 究領域 にまたが り、心理 学 や母子保健分 野 社 会 的意義 を検 討す る必 要 があ るo 98 0年代 以降 の研 これ まで育児 不安研 究の レビ誌- は山根 ( 2000)が行 って い る。 山根 は 、1 究が母子 関係 パ- スペ タテ イブ を問い 直 し、近代家族 の母性観 及び家族 単位 視 を相 対化す る 上 で大 きな貢献 を した とい う視点 か ら研 究 史を整理 した。 母子 関係パ - スペ タテ イブ とは育 児 閤 題 が家族 内の 問題 、 と りわ け母原 病 に象徴 され るよ うに、子 どものケア にあた る母親 の問題 と してのみ語 られ るこ とをい う。 育児 不安研 究 に よって、母親 が育児 問題 の要 因 ではな く育児 問 題 を 体現 す る主体 と して位 置付 け られ 、親 -母親 とい う前提 を見直 し、育児 問題 を家族外- と 拡 大 した ( 山根 2000:24) O 山根 に よって育児 不安研 究の母 子 関係 パー スペ クテ ィブの転換 は 明 らかに な ったが、その成 果 に中心が置 か れ たた め育児不安 の内容や 尺度 の検 討 はな されてい ない。 那0 本稿 では 、育児不安研 究 の研 究成 果 か ら抜 け落 ちて い る育児不安 の内容 を捉 えなが ら、l 年代 か ら行 われ てい る育児 不安研 究 の レビュ- を行 い、育児 不安研 究の課題 を明 らか にす る。 以 下、 1では育児 不安 の概 念 定義 をま とめ、 2で は育児 不安研 究 を育児 不 安 の 要 因 と育 児不安 の測定に着目して年 代 を追 いなが ら整 理す る0 3で は育児不安研 究 の展 開の 中か ら見 出 され た 課題を示す。 1 育児不安 の概念 定義 ここで は、育児不安研 究 において育 児不安 は ど う定義づ け られ た のか確認 す る。 嘆味で多様 といわれ る育児 不安 で あ り、育児 不安 の定義 お よび定義 を検討 した先行研 究 は数少 ないO 最初 に育児 不安 を論 文 で 取 り上 げたの は、育児不安 に着 目 して母親 の精神 衛 生 の研 究 を行 っ ー8 4- 現代社会文化研究No . 49 2 01 0年 1 2月 た高橋 ・中 日那 損 で あるo 高橋 書中は、 「 『育児 不安』 とは一体 ど うい うこ となのだ ろ うか と い う疑 問 にぶつか る」と し、不安 が育児 に限 定 され た こ とではない こ とか ら 「 『育児 につ いて の 悩 み 、心配』 といった言葉 に言 い換 えた方 が よいか も しれ ない」 とす る。 しか し、育 児相 談 で の母親 の状態 か ら悩 み ・心配 を超 えた不安 が あ る こ とを見 出 し、育児 不安 を 「 予 どもの将来 に 対す る漠 然 と した恐 れ 、 自分 の扱 い方 に 自信 が持 て ない こ とな どは 、見通 しを欠 いた不安 な状 態 」 と解 釈 した ( 高橋 書中 1 971:61 ) 。 定義 の難 しさに触 れ なが ら、育児不安 は育児 に関す る 悩みや心配 の域 を超 えた不安 な状 態 と提示 した0 1 980年代 には育児 不安 を タイ トル に した研 究が現れ る。 育児不 安研 究 を 1 981- 1 9約 年 に行 った牧野 は育児不安 をつ ぎの よ うに定義 した01 981年 の論文で 、不安 と恐れ を比較 して 育児 に お け る不安 を 「 子 の将来 あ るいは育児 の結果 に対す る漠然 と した恐 れ を意 味 してお り、それ は 対象 ( 理 由) のは っ き りと しない非合理的 な もので あ り、無力感 や疲 労感 な どを伴 ってい る」 と説 明 した 日981:43) o翌年 、 「 無力感や疲 労感 あ るい は育児意欲 の低 下な どの生理 現象 を伴 って ある期 間持続 してい る情 緒 の状態 あ るい は態度 」で あ り、「 健 康 な育児行動 を阻害す るよ う な一種 U ) "負荷 事象 " を主観 的 に表 明 した もの」 とつ け加 えた ( 1 98 2:3435 ) 01 983年 には育 児 不安 を、F 育児 の 中で感 じられ る疲 労感 や気 力 の低 下 、イ ライ ラ、不安 ∴悩み な どが解 消 され ず に蓄積 され たままになってい る状態 」 と修 正 した 日983:68)。 牧野 は一連 の研 究 を 1 989年 に再検討 した論 文 の 中で 「 不安 とい う言葉 か ら誤解 や 分 析 の 甘 が生 じる こ とが あ る こ ともわ か って きた 」 と捉 え、子 どもを拒否す る母親 を 「 育児不安 の概 さ 念 で説 明で きるのか」と問題点 を あげ る。そ の後 牧野 は実証的 な育児 不安研 究 を行 わ なか ったが 、 辞典で 「 育児 を担 当 してい る人 が 、子 どもの状態や 育児 のや り方 な どにつ いて感 じる漠 然 と し た恐れ を含 む 不安 の感情o 疲 労感 や焦 り、イ ライ ラな どの精神 状態 を伴 うo 悩 みや恐れ はそれ を引 き起 こす 特定 の対象が あ るの に対 して、不安 は 明確 な対象 が な く漠 と して い る」 と定義 し 993:36)。 この 中に蓄積 とい う言葉 は入 らず 、「 育児 不安 が解 消 され ず に過 度 に蓄積 た ( 牧野 且 され る と、育児 ノイ ロ-ゼや 子殺 し、母子心 中を引 き起 こす 」 と して、 蓄積 の 度 合 い を育児 不 安 と育児 ノイ ロ-ゼ の差異 に用 い た。 しか し、不安 を恐れ ・心配 との差異 、す なわ ち 「 恐れ ・心配 には対 象 が あ るが不 安 には ない 」、 「 恐れ ・心配 はあ る時間で終 わ るのに不安 は蓄積 され る上 「 恐れ は 対象 か ら逃 げ よ うまた は 攻 撃 しよ うとい う感 が伴 うが不安 には無 力感 が伴 う」 で把握 した こ とに よ り不 明 に な る点 も で て 安で説明で きない こ とで あ り、それ は攻 撃す る母親 も同様 で あ る。 も う一つ は時 間 に よる 区 分であり 、育 児 の悩み はあ る時間 で終わ り育児 ノイ ローゼ は過度 の蓄積 とい うよ うに質 では な く時 間の長さ で 区分 で きるか とい うことで あ る。 こ うした意 味づ けが、 育児 不安 を特 定の母親 に起 こる病 理 的 な もの か誰 にで も起 こる ものか , = 適性 か長期 に亘 る ものか、不 明瞭 さに繋 が った と考 え る。 漫 990年 代以降 には育児不 安 の唆昧さを検討 した研 究が現れ たO川井 らは小児保 健活動 や 子 ど くる。 -つ は恐れ を排 した場合 、牧野 自身 が示 した予 どもを拒否す る母 親 を育児 不 -85 - 育児不安研究の現状 と課題 ( 坂井) もの相 談 に 寄 尊 す る こ とを 目的 と して 旦 99 3年 か ら育 児 不 安研 究 に 着 手 した o は暖味、 多 義 的 で あ り、そ の明確 化 な しに 的確 な 対 応 、 援 助 はな し えない 」 概念 を明確 化す る調査項 目を作成 した。 そ こで は 敢 え て 瞭 味 で多義 的で あ F育 児 不安 の概 念 と して 、育児 不 安 る こ と を育児不安 の 特性 に置 き、不安 を 43①現実 的 な不 安② い わ ゆ る育児不 安③抑 うつ状 態④ 不満 や焦 燥状 態 紘 分類 した。② いわゆる育児不安 の 説明 は、「 不安 の強 い状 態 で、子 どもをめ ぐって 跡 己 や 配 、いて もたっ て もい られ な い、巨 招言が ない、落 ち着 か な い な ど と訴 えが多 いoまた 、不眠 、食欲 不振 、 動摩 、冷や汗 な どの身 体 的反 応 を伴 うこ とも稀 で は な い」 ( 川井他 1 993:28)。 これ を基 に調 査 を行 い、 育児 困難感 、す な わ ち、 育児 - の 自信 の な さ、困惑 とチ ビ も- の ネガテ ィブ な感 情 、 態度 か らな る心性 が② の本態 なの で は ないか と考 察 した。 育児 不安 は誰 で も感 じる 「 通常な不 安 」 で も 「うり 的 な不安」 で もな く、 そ れ には母性 の発 達 を援助 す る相 談 が妥 当であることを 提 示 したQ 川 井 らの研 究 が、 育児 不 安 が 唆 味 で 多義 的 な こ とを前提 と した た め 、 タ イ プ別 に検 討 す る必 要 は あ るが 、育児 不 安 は 誰 に で も 起 こる不 安 では な く身 体 的反 応 を伴 う程 の 強 い不 安 で あ るこ とが示 され たO つ ぎに、「 そ もそ も 『育児 不 安 』 とは何 を意 味 して い るのだ ろ うか」 とい う問いか ら育 児不 安 研 究 を開始 した岩 田は 、「 子育て全般 につ いて の困難 な状況 や危機 状 況 に あ る母 親 の 心 理 的側 面 を捉 え、「 す べ て 『育 児 不安』とい う用語 で代表 させ て い る」こ とを批 判す る ( 岩田 旦 997a: 27)。 結 局 の ところ 『育児 不安』 が何 もの で あ るのか突 き止 め られ な さ らに、 先行研 究 につ いても 「 9 9 7 b: 23) . しか しなが ら、岩 田も育児 不安 をつ ぎの よ うに説 明 した に い」 と指 摘す る ( 岩田 息 と どま るO「 一般 的 に母 親 が抱 く育児 の心 配や悩 みや 不安感 を育児 不安 と して示 し、そ の 中で も 特 に親 の心理 8意識 的側 歯 に注 目 し、 育児雑 誌等 で 取 り上 げ られ る こ との多い 『育児 不安』 と は 、一線 を画 して用 い る」 ( 岩 田 1 999: 25)。 悩 み と不 安 の 区別 は な く、期 間 も言及 せ ず 、 一 般 的 に母親 が抱 く育児 の 心 配 と育児 雑誌 等 の育児 不安 との差 異 が明 らかで は ない。 また 、 「 育児 不安 の概 念 定義 の 再検 討 」 を行 った恵 良は ( 1 9 98)、定義 の ズ レの要 因 を既 存 の 研 究方 法 が質 問紙 法 に よる こ と、 育児 不 安 が各 母親 に個別 的で多様 な こ とにお くO そ の こ とか ら面接 法 を用 い、母 親 の どの よ うな状 態 を母親 。録親 以外 の者 が育児 不安 と認識 す るか を検 討 し、そ の 内容 を分析 した o恵 良 は、「 育 児 不安 は 、予 どもの 身体発 育 状態 や 精神 的発 達 状態 が順 調 では な い と施慎 され る子 どもの状態 、育児現場 が ス トレス状 態 に あ り、養 育者 の心身状態 が 不安 定 にな って 、適 切 な育児 対応 が で きない状態 、養 育者 が 、 育児 や 子 どもに 関心 を持 てな い 状 態 に よって生 じる状 態不安 で あ る 。 また、育児 不 安 は、 子 ど も が健 全 に成長 して い く上 で支 障 とな る危 険 を回避 す る機 能 を持 っ 」 と定義 した ( 恵良 旦 998 :69 )o ここで は不安 を状 態不安 と して捉 え、個 人 のパ - ソナ リテ ィー特性 よ りも学習 性 動 因 で あ 扮育児状況 に規 定 され て生 じら とみ なす 。恵 良 は、 面接 対象者 の質 的 限定が あ った こ とを研 究の限界 と した が 、 面接 で得 られ た 「 叱 りなが らこん な こ とで叱 って はい けない と思 うの だ が、プ レ- キがか け られ ない 」や 「 子 どもが憎 ら しくな って しま って顔 も見 た くな くな った」 な どの例 が特性 不安 で は な く状 態不安 ー8 ( ド 現 代 社会 文化研究 No . 4 L )2 01 0年 1 2f l であ る と ど う判 断 で き る の か O そ こ に は 病 理 的 な 母 親 の 特 性 は含 まれ て いないO さ らに、 育児 不安 を負 の事 象 と して の み 扱 うの で は な く健 全 な 成 長 を 保 障す るた めに重要 な 役割 を もつ とみ な してい る 。 以上 育 児 的である これ ら を こ 通 不 の 定 義 を 検 討 した が 、 育 児 不安 は対象 がな くて漠 と してお り、唆 味で多義 安 研 究 と が 特 性 し て、育児不安 は、誰 にで も起 こる心配 か特定 の病理 的 な不安 を含 む のか 、一時 的 と 考 え られ た た め に、 意義づ けほそれ を明確 化 す る試 み で あった とい え る。 負 の事象 なのか肯定 的 な意 味 も含 むのか 、とい う差異 は把握 で きたO あ るい は持続 的 な ものか、 しか しなが ら、すべ ての定義 で共通 した内容 はない。 それ に もか かわ らず 、育児不安 は育児 を 担 う者 に 当然 あ るもので あ り、そ の不安 を十 分 に受 け とめた援 助 が 求 め られ 「 初 めて 出会 う保 健 師 であ って も、子 どもの発達過程 に応 じた養育者 の育児 ス トレスや 育 児 不安 を短 時 間 に把握 手 島他 20 0 4:83) 。 なぜ 、唆 味 で 多 義 的 な育児不安 で きる質 問紙 」 が盛 んに作成 され て い る ( を測定す るよ うにな ったの か、そ の経 緯 を 2で検討 す る。 2 市 児不 安 研 究 の 展 開 ( i )育児不安研究の萌芽 育児不安 研究 が心理学や社会学などの分野 で行 われ たの は 、1 97 3年 頃社会 問題 にな った コイ ンロッカ-ベ ビー事件 、「 子捨 て、子殺し」報道 の増加 が大 き く関与 してい る ( 大 日向他 1 995: 豆 0)。育児 中の母親 が なぜ子殺 しをす るのか 、 母親 の意識 に焦 点 を当てた実証研 究 が開始 され た。 母親 の意識 を解 明す るた め、初期 の研 究は進 め られ た。 心理学 の分野 か ら研 究 が着 手 され 、大 日向が子殺 しを母親 単独 の責任 とす る風潮 に疑義 を唱 えたO 旦 976- 見 開0 年 に母性 に 関す る質 問紙調 査 を実施 し、母親 が 「 社 会参加 を希求 しなが ら、 現実世界 で はそれ が 叶 え られ ない とい う生活 状況 に生 じた精神 的余裕 の喪失」 を抱 えてい る こ とを導 き出 した く 太 日向 1 988:248) 。母 親 の 心理 の安 定 には、対人 関係 の広 が りと夫 婦 関 係 が 重要であ るこ とを指摘 した。 さらに、心理 学 ダル - プ 上の洞 察 が行 われ なか っ の 佐 々木 らは 、「これ ま で所 謂 『育 児 ノイ ロ- ゼ』 といわ れ 、 そ れ 以 分 野 疲 労 を 検 を 比 較 で あ る 疲 労感 は全 くの主観 で言 語 報 告 で あ 法 は存在せず 、疲 労感 は 行 動 の 指 針 とす る の 調 査方法 労研 究 の調査 を用 い育 児 で専業主婦 と産 業労働 者 て も、遥 か に過酷 な労 働 と べ て遥 か に過 酷 か ど うかは こ を 、構 造 的 に解 明 で き るの で はない か」 と考 え、 心 理 検 査 と 疲 た と 討 した ( 佐 舟木 他 1 979:2日0 位 原審 らほ疲 労 負覚症 状調 査 し 指 、 乳幼 児 を もつ 専 業 主 婦 の育児 は他 の産業 労働 者 と比較 し 摘 した ( 佐 々木 地 1 980)。 しか し、疲 労 自覚症状 調査 は 、 る ことか ら被 調 査 者 が で 経 度 は 明 適 当 な応 答 を しているか確 かめ る方 の もの で あ る ( 吉竹 1 9 7 5 ) 。他 の産 業 労働 に比 ら か にで きないが、それ が主観 で あ るな らば 、 多 くの母親 が疲 労 を訴 えた こ とにはな る O -87- 育児不安研 究の現状 と課題 ( 坂井) つ ぎに、小 児 保 健 分 野 で 育 児 不 安 調 査 が 開 場か ら 「 最近 の母 親 た ち は 、 発 育 順 調 で 特 に 児不安 が強い」こ とを見 出 し、1 977年 に 健 康 診 育児 目 た03 か月健 康診 査 の際、鈴 異 認 め られ ない乳 児 を持 つ者 で も、 査 常 が 木 は 医 師 の 一般 に 育 P 後 に質 問紙調 査 を行 った ( 鈴木 1 980:朋 終 立 f 乳や発 育な どの 育児 の心配 を指す と考 3)o え ら 不 安 O 鈴 木 は発 音上 の不安 の他 に、指 導 に よって もなお残 る強い育児 不 安 を 8欝j の母親 が育 児 れる 書 の定義 は示 され て ないが 、質 問項 始 さ れ か ら 離 で 解 決 しよ うと してい る こ と、学歴 が高い ほ ど育児 不安 が高い こ とを調査 か ら導 き出 した。 初 期 の研 究 を検討 した結果 、 コイ ン ロ ッカ-べ ど- とい う衝 撃的 な事 件 を受 けて 「 母 性喪失 の 鬼母 」 を検 証す る必 要が あった こ とが理解 で きた。 それ らの研 究 に は育 児 を担 う母親 の意識 を構 造的 に解 明 し、育児 問題 は母親 一 入 の責任 では な く、育児 不安 U)背 景 を探 り実践 に生かす とい う悶的がある。 これ らか ら得 られ た母親 の疲 労 感 や葛藤 、対 人 関係 の広 が りや 夫 婦 関係 の 還要性 な どの 知見 は 、 これ 以 降 の 問題 提 起 とな る。 漠 然 と した意識 を質 問紙調 査 に よっ て数値 で表そ うと試み、調 査 方 法や調 査 項 目に試 行錯 誤 の跡 がみ られ た。 : : ・ !章票 小安 尺 淫 1 980年代 に母 子 関係 パ- スペ クテ イブ を問い直す 実証研 究が現れ 、育 児不安 に関す る計最的 研究が 日本で本 格 的 に始 ま った ( 山 根 20 00:鍼 )。それ は、「 育 児 不安や 育児 ス トレスに関す る 研 究 が 牧 野 に よる育児 不安 尺 度 U)作 2008:1 71 ) 。育児不 安 研 究 を 、 「牧 成 以 来 、数 多 くな され て き た 」 こ とに よ る ( 高橋 ⇔園 旺] 野 を 児 不安 は牧野 に よっ て 研 究 が 開 始 さ れ は じめ とす る幾 つ か の研 究」く 住 田 や藤 井 1 998:79)㌔ 「育 た 始 ま りとす る見解 が あ る 。 そ の こ と か ら もの」 ( 松 田 2綱 目 39) とい うよ うに、牧 野 の 研 究 が ほ )では牧 野 の研 究 を中心 に置 き、実証的 な 育 児 不 安 研究 の推 移 を検討す る。 1)牧野 カツ コの育 児不安研究 さきに牧野 が定義 に修 正を加 えた こ とを確 認 した が、そ もそ もなぜ 育児不 安 を 取 り 上 げ た の か とい う理 由を 3つ掲 げてい る. 一 つ 目に、子 どもの問題行 動が多発 した か らで あ り、象 徴 的 な 例 した状 況 は母親 の育児 不安 を増 しやす いた めであ る。こ こでは子殺 しや 母子心 中 が あ げ られ 、孤 立や 不安 の状況 にあ る母親 が少 な くない と指摘す る。三つ 目は、親 の不安 や 酎 言のな さは、子 ど もに有形 無形 の多大 な影響 を与 え るか らで あ る ( 牧野 1 981:42) 。牧 野 は母子 分離の調査か らも 母親 の不安 とチ ビもの問題 行動 との相 関 は高 く、家庭 内暴力や子殺 しが どの家庭 で起 きて も不思 議 では ない と捉 え、育児 不安 は深刻 な 問題 が発生す る以前 のむ しろ、ご く-般 的な育 児U )状況 の 中に多様 に存在 して い る と考 えた。 事件 を発端 に育児 不安 は誰 にで も起 こる もの と して把握 し、牧 野 は喫 緊 の 課 題 と し て 「親 の 不 安症候 はチ ビもの問題行動 と相 関し、 長期や過度 の不安 は子 どもに 対す る影 響 も深 刻 に な る こ と -8 8- 現代社会文化研究 No . 4 92 01 0年 浅 2月 が 予 想 」 され 、 親 の不安症 候 を測定す る方法 の整備 を 目指す。 しか し㌔ 「 不安 の対象 が も とも と 漠 然 と した も の で 在 す る無 限 定 あ るこ とか らも、本 丸 曽身 が明確 に不安 の内容 を意識 してい る とは限 らず 、内 的な不安 を測 定す る こ とは必ず しも容 易で はない」 ( 牧野 i 981:43) o そ うした難 し さ を 自 覚 しながらも、 育児不安 を疲 労感や 意欲 の低 下 な え 、 どの実態 と関連づ け る必要 がある と考 蓄積的疲労徴候調査 を参考 に して調査票 を作成 したo l 粥2年、乳幼児をもつ母親 を対象 に、母親 の育児不安 の程度や そ の特質 な どの実態 を把握 し、 育児不安 と母親 の生活や意 識 の 実 態 育児 不 安を減少させ育児 - の 自信 を 増 のが育児 不安尺 度 で あ るo 育児 不 安 が ど う関連 してい るか、育児 不 安 を高めてい る要因 は何 か、 す要因 は何 か を質 問紙調 査 で検討 したOそ こに用い られ た は、( 1 ) の佐 々木 らの調 査 で 使 周 され た疲 労 自覚症状調 査 の 問題 点 を補 うもの と して開発 され た 蓄積的疲 労徴候調査 の尺度 を採 用 し、= 時的 な疲 労で はな く 何 日間か継続、滞留 して感 じられ る症 状徴候 を測 る こ とを特徴 とす るo蓄積的疲労徴候 調査 では 81項 目を 6つの特性群 に分類 して い るが 、 この 中か ら牧 野 は 5特性 取 り上げ項 目も 漫 射 こ絞 り、 育児に対応す る表現 を用 い たO それ をつ ぎに示すo 比較 と してポジテ ィブな感 情 刺 も含 む。 ド。 般 的疲 労 、 Ⅲ一般 的 気 力 の低 下、Ⅲイ ライ ラの状態 、Ⅳ 育児不安徴候 、 V育児意欲 の低 下 ① 毎 日くた くたに疲 れ る。 I ② 朝 、め ざめが さわや かで あ る。 王 制 ③ 考 えご とがお っ く うでいや にな る。 Ⅲ 王制 ④毎 E Hまりつ めた緊 張感 が あ るo I ⑤ 生活 の 中に ゆ と りを感 じる。 Ⅲ 津) ⑥ 子 どもがわず らわ しくて、イ ライ ラ して しま う。 班 p) ⑦ 自分 は子 どもを うま く育 ててい る と思 う。 Ⅳ ( ⑧ 子 どもの こ とで、 ど うした らよいかわか らな くな るこ とが あ るO Ⅳ ⑨子 どもは結構 一丸 で育 ってい くものだ と思 う。Ⅳ ( P) ⑲ 子 どもをお いて外 出す るのは心配 で仕方 が ない。 Ⅳ ⑪ 自分 一丸 で予 どもを育 て てい るのだ とい う圧迫感 を感 じて しま う。 V ⑫ 育児 に よって 自分 が成長 してい る と感 じられ るo V ( P) ⑬ 毎 日毎 日、 同 じこ との繰 り返 し しか してない と思 うo V ⑭子 どもを育 て るた めにが まんぼか りしてい る と思 う。 これ らの ワーデ ィングは 「 育児 期 の 母 親 達 の投書 、乳幼 児学級 な どの発 言 な どか ら収 集 が 中 自 分 V 達 の生活 感情や意識 を表現 した言葉 を、新 聞 分類 し、特性 に対応 す る表現 を探す作 業jか ら見 98 2:35) 具 体的 な作 業 は示 され てないが、項 目数 や ワーデ ィ ングは 小西 書出香 出 した ( 牧野 1 。 日982)の論 文 に若 干 記載 され て い る。 これ につ いて は、蓄積 的疲 労徴 候調 査 の問題 も含 めて 3 -8 9 - 育児不安研究の現状 と課題 ( 坂井) で検討 したい。 調査対 象 は、横 浜 市 在 住 の専業 主婦 と有職 の母親 で、専 業 主婦 は幼 児 教室 に参 加 した 母親 と 5名 で あ るo 育 児 不安 に 幼稚 園児 の母親 1 49名 、 有職者の母親 は家庭教育通 信 講座 の受講生 21 母親 自身 さ家族 U )人 間 関係 ・母親 自身 の意識 や母親 の 生 活 関連す る こ とが 予想 され る 5要因 亡 のあ り方 ・母親 の社 会活動 と社会 関係 ) と育児不安 との関連 を分析 した。調査 を適 して 、牧 野 は育児 不 安 の極 めて高い人 か ら低 い人 まであ るこ とを確 認 した。 しか し、不安 の程 度 は属 性 と 関連 が低 く、育児 不安 の要 因は夫婦 関係 と母親 の社 会的 な 人間関係 にあ り、 予 ども との距 離 は 密接 な ほ ど不安 が高 く、子 どもか ら離れ る活動 が育児 上望 ま しい態度 を生 む こ とを明 らか に し た ( 牧野 1 ( ) 8二:535( i ) この ぷ 982年 の結果 の は ま982年 のサ ンプル を 補 用 強 8 発 展 と して、牧野 は翌年 か ら育児不安研 究 を継 続 した。 旦 983年 い て 働 く母親 について再分析 した。そ こでは、働 く母親 は疲 労感 や イ ライ ラを強 めて育児 に 自 信 を な くす 可能性 が あるが 、子 ど もか ら離れ る時 間が あ り大勢 の太 と の育児不安 の大 きな要因は 夫婦 関係 に あった ( 牧野 息 983:76) C 1 984年 は思春 期 の子 どもを持つ母親 を対象 と して不安 を検 の母親 400名 に質 問紙調査 を実施 したO 尺度 は 1 特性 ( 気力 討 の 情緒 の状 態 を 豆 0項 目 ( ① ④⑨⑫ を除 く) 設定 した。 育児 と 同 た 低 じ 項 目に決 め た か記 され て な い。結 論 と し て 、 チ ビ もの 自立 を 強 くな る、母 親 が地域 活 動 や学 習 会 な どに 参 加 す る と不 安 が し 。 下 表 神 ) 現 奈 を も 川 除 あ き る 県 内 、 特 、 が の 性 な 中 学 に 該 ぜ 4 認 め た く な い 感 情 が 強 い 低 下 す る 、 夫 婦 関 係 が 不 1 当 特 と 安 年 す 度 る 且 O 性 不 生 安 と が 強 く関連す る こ とが得 られ た ( 牧 野 ま9銅 :4748)O 翌年 、 牧野 は 中西 と共 同 して 、 幼 児 教 室 研 究 所 修 了 児 の 父 母 及 び 横 浜 市 内 に居 住 す る乳 幼 児 を もつ父母 269組 を対象 に 、母 親 の 育 児 不 安 と父 親 の 生 活 お よび意 識 との 関連 を考 察 した。 尺 度 は調 査 の簡便 化 の た め 洞 か ら 1鋸 こ減 ら し 、 こ の iO項 巨‖ま項 目分析 にお い て 完 2値 の 太 き い 順 で あ り、 これ が 育児 不 安 尺度 の 簡 易 版 に な っ た o この 調 査 か ら、 父 親 の 協 力 的 な態 度 が 母 親 の 満 足感 を高 め 、 母親 は 安 定 した 心 理 状 態 で 子 育 て が で き る こ とが 見 出 され た ( 牧 野 や中 西 1 ( )8 5:コ3二4㌧ 1 987年 には母親 U )学 習 活 動 へ の 参 加 が育児不安 に影響 す るか を確 か め るた め 、横 浜 e藤 沢 市 内で 開設 され た乳幼 児家庭 教育 学 級 に参加 した母親 旦 88名 を対象 と し、 学習 開始時 と終 γ時 に 調査 を実施 したoここで は 1 4項 目の尺度 を用 いた。牧 野 は、子 どもを預 けて学習す る こ とは育 児 不安 を減 ら し、自分 のた めの活 動 が育児 不安 と関連 す る こ とを確認 した ( 牧野 1 987:1 21 3 ) 0 この一連 の研 究 の ま とめ と して 1の 育児不安 の概 念 定義 で示 した よ うに、育 児 不安 尺 度 につ いて再検 討 してい る。 尺度 の修 正 につ いては 3で検討す るが、 これ らの調査 か ら、牧 野 は育児 不 安 の要 因が父 親 の育 児 参加 と育 児期 の 母親 U )ネ ッ トワ- クの大 き さに あ る こ とを見 出 した ( 牧野 1 989:30) 0 -9 0- 現代社会 丈化研究 No. 49 201 0年 ) 2月 牧野 の研 究成 果は 、育児 不安 尺度 につ いては 「 牧野 の 尺度 は 、 近 隼 で も しば しば 使 用 され 、 尺 度 聞 発に応 用 され 」( 川崎他 2008:55)、青 [ , E 上下安 ノ ー )要因 も、 「(-ど もか ら 『離 れ る』 とい ' ) こ とと、『よ りよい 育児態度が関連 してい る』- そ うは っ き り結論 を出 した研 究者 がい ます Oい わ ゆ る 『育児 ノイ ローゼ 』『育児 不安』 につ いて 1 0年 間 も調査 を積 み重 ね て きた牧野 カ ツ コで す」( 落合 1 994:1 82) と支持 され る。牧野 の研 究 は 、調 査 か ら得 た結果 が従 来 の母子 関係 論 杏 覆 し、育児不 安 の概 念 定義 が瞭味 で多様 なた めに 育 児 不安 尺度 の項 目が 育児不 安 の内容 と して 把握 され た こ とに よ り、そ の内容 はほ とん ど検証 され る こ とがなか った と考 え られ る。 2) 社会 学 に おける育児不安研究 H の牧 野 の研 究成 果 は 、育児ネ ッ トワー クや 援助 サ ポー トと して家族社 会 学の領域で注 目さ れ た。 育 児ネ ッ トワ- 夕研 究 では 、牧野 の育児 不 安 尺 度 摘 項 目、簡 易版 10項 目、修正版 1 2項 目を用い る。家族社 会学 の領域 では牧 野 の 見 解 に概 ね 賛 同 してい るが、その 中で牧野 の育 児 不安 に疑 問 を呈 したのは牧野 の研 究 を追試 し援 助 シ ス テ ム の 確 立 を提 唱 した本村 ら 日985) で あ る0 本村 らは 、育児不安 の要 因 を明 らかに し、そ の結果 、母親 の育児不 安 を軽減す る援助 システ )母親 ム とは何 か を検討す るこ とを 目的 として、大阪府 和泉保健 所 で健康診鷹 を した 0-2歳児 U 1 1 4 名 に 質 問紙調査 を実施 した。母親 の属性 と育児不安 との相 関 はみ られ ないが表 の 育 児 参加 は相 関が あ り、 さらに母親 が孤立せず ネ ッ トワ- タの 中に 自分 を位 置づ け い考 えが不 安 を低 くす る こ とを導 いた。 これ は牧野 の報告 とほぼ同様 の結 が追 第 加 さ れ --は 相 関が 見 、 子 育 て に 埋 没 しな 果 だ が 、 つ ぎ の こと た 。 、 育 児不安項 目につ いてで あ り、「 牧 野 報告 では 、いずれ の項 目も育児 不安得 点 の 間 に られ 、各項 目の有効性 が確認 され て いたが 、本調 査 で は、牧 野報告 に比較す る と、全 体 に総合 尺度 と各 項 関 は弱 い」 と論 じ、続 けて 「 特 に、<④ 毎 日は りつ めた緊 張感 が あ 目 の 相 る>とい う項 目にお い 第二は、牧 野や佐 舟 て 総 合 指 木 し、 そ して育児 に よっ て しか し本 論 文 では、家 標 との相 関が極 めて希 薄」 と提示 した ( 本村他 1985:4) 0 ら の 調 査 を阻 そ れ 族 外 結果 と反 対 の結果 が出た こ とであ るOそれ は、「 家族外 を指 向 ま れ た場 合 に、 育児 不安 が 高 くな る とい う結論 となって い る。 を指 向 した もの は育児 不安得 点 が低 くな って い る」 。この相 違 を、本 村 らは 「 平 日の昼 間 の健 康 診 査 に、保健所 を訪れ る こ とが で きるの は、多少 の融通 を きかせ て 対応 がで きてい るこ とを 示 てお り、比較 的条件 の恵 まれ てい るなかで 、保健 所 な どの資源 を うま く利 周 してい る母 るな らば 、健 康診査 第三 は 、不安 が 親 で あ る」か らと推 察 してい る ( 本 村他 及 985日 息 ) 。 しか し、そ うで あ の 調 査 は 有効 な もの とい えな くな る。 題 ケー スにな るわ けでは な く、低 い 母親 だか ら問題 が ない わ けで い 母 親 が 問 はない こ とで あ る 。 調 査 の 指 標 で得 られ た不安 の高い母親 は、ほ ぼ健康 とい え る程度 の不 安 を抱 き、育児 神経症 逸 脱 行動 に走 るわ けで はない か らで あ るo不安 が低 い母 親 につ いては、予 ども や 高 時 し 985:1 2) に関心 の薄 い母親 とも考 え られ 、育児 不安徴候 を表 しに くい と考 えてい る ( 本 村他 1 。 191- 育児不安研 究の現状 と課題 ( 坂井) 1 9呂射 、岩 田 H995) が これ ら本 村 らの 批 判 に対 し、その後部分的 に牧 野 自身 が 図 番 した り ( 検 討 を加 えた りしてい るO この こ とについては、 3で 検討 したいO 本村 らの援助 シ ステ ムは、育児ネ ッ トワ- 夕研 究に引 き継 がれたO 漫 990年以降 隆親 の育児援 助ネ ッ トワー クの研 究成果 が蓄積 され 、多様 な援助源 を もち子育て以外 の活動領域 を もってい る 母親 ほ ど育児不安 の経度 が低 い とい う知見が導かれ てい る。 育児不安 と育児不安ネ ッ トワ- クをテ-マ に研 究 した宮坂 ( 200齢 は、公 園づ き あ い に着 目 し て、牧野 の尺度の修 正版 を用 いて奈 良市保健所の健康診査受診者 452名に質 問紙調査 を行 っ た 。 宮坂 の調査 か ら、核 家族 U )母親 は他 の家族類型の者 に比較 して公園づ きあい をす る傾 向にあ り、 公 園づ き あ い を す る丸の 目的 は育児情報 を得 るためである こ とが示 され た。そ のため、遠 隔地 に 生 活 す る 母 親 に と って、 公 園仲間 との情報交換や人間関係 が大 きな意味 をもつ ( 宮坂 し か し調 査 的意 2¢醐 ニ 鯛70) 0 か らは 「 予想 に反 して、育児不安 の高いガ が、非 日常的なイベ ン ト-のつ きあい や 目 識 や 参 加 - の 労力 が必 要 と思 われ る公 園外 づ きあ い が多 い とい う結 果 に な った 」 (宮 坂 2000:66) 。 宮坂 は この因果 関係 の分析 は今後の課題 としたが、外 に出る母親 ほ ど育児不安 が 低 いわけで はない こ とが見出 され た。また、これ まで属性 と育児不安 との関連 はない とされ て きた 接 的 に 比較 できないが、この 結 は 輿な る」 ( 宮坂 2000ニ61 ) 。 果 こ は 、 育児不安 と子 ども数 は関連 がない とす る牧野の研 究結果 と 以上 れ 宮 坂 は 見 解 を示 していないが、時代差や地域 差、対象 の 違 い も考慮 してい く必要が あ るだ ろ う O 育児 ネ ッ トワー クの存在 が親子 与 え る 影 響 デ ザ イ ン 研 究所実施の 「 子育てに関す るア ンケー ト」の全 国 り入れ てい るo調査対象 は ライ フ 5歳以下の予 どもがい る世帯 の母 を調査 した松 田 ( 20馴) は、育児 不安尺度 を取 に 親 で 、 有 効 回収数 は 587であ る - タが育 児不安度 。生活満 足度 に ど う影響す るがを分析 した。 育 の育児参加 が 多 く、世帯外 の育児ネ ッ トワ- タの規模 が大 き く、 。 具 体 的 には、育児 ネ ッ トワ 児 不 安 度 の 親 族 割 合 と 密 度が中程度 な場 父 親 も 育児 に関わ 野、親 合 育児不 安 が低 く生活満 足度 が高い こ とが明 らかになった。松 田は、 分析結果 は、父親 族 と非親 族 とが適度 に混合 したネ ッ トワー クの中で育児 を紹 う体制 を搾 ることが必要 である こ とを指摘 した。地域 全体で育児 を した 一 枚岩 のネ ッ トワ- 夕構造での育児 ではな く、適度 にル - 弟で多様性 と自律性 を兼 ね備 えたネ ッ トワ- タの中で育児 を行 う環境 の構築 が 目指 され る。 さらに松 田 ほ002) は、東京都 の郊外 と都 心部の 4-6 歳 の幼稚 園児 と保育 園児 を もつ母親 407 名 を対象 に地 域 で育児不安度 が ど う違 うか質問紙 調査 で確 かめた。 サボ- トの効果は都 市 部 と郊 外 で異 な り、郊外 において密度 は低過 ぎて も高過 ぎて も育児満足度 は低 下 し、育児不安 度 は高いo この松 田の研 究 を受 け、ネ ッ トワ- クの負 の機 能 に着 目して質問紙 調査 を行 った前 田 0 (20 4) で 、 有 は 商 い は、牧野 の育児 不 安 度 を変数 にお く。デ- タは岐鼻市の住民台帳か ら抽 出 した母親 効 回 収 数 は 490であ るQ こ の 調査では、松 田の密度 が低過 ぎて も高過 ぎて も育児不安度 とい う知 見 を得 るこ とはで きなかった。 その結果 に対 し、前 田は調査地 が地方都市だ か -9 2 - 現代社会文化研 究 No. 49 2 01 0年 1 2月 ら現 れ なかった と考 察 した。 松 田 書前 田の調 査結果 か ら、育 児 不 安 は 都 市部 と郊外 で 違 い 、 地 方都 市 で も違 うことは 明 らか に な った とい え よ うo 家 族 社会 学 の研 究で は、育児 不 安 を育 児 サ ボ- ト、育児ネ ッ トワー ク との関係 で捉 えてい る が 、調 査 を 査対象者 実 施 の 違 い す る と牧野の報告 と輿 なる結果 も出て きたO その差 異 は、地域 差や 時代差 、調 によってお り、項 目自体 に も問題 が あることが推察 され る。 育 児 不安研 究 の展開 を追 ったが、なぜ 唆味で多義的 な育児不安 が測定 され るよ うにな った の か ま と めてお く。 それ は、 コイ ンロッカ-ベ ビー事件 が太 き く関与 し、核家族 の孤立 と 育児 責 任 が 母 -一 丸に集 中す る状況 に よって育児不安 が増大 した ことが背 景 として論 じ られたO う な 育 児不安 は どの家庭 で も起 きる と考 え られ 、早急 に全ての母親 を対象 と した調査が 以 上、 この よ 求 め られ簡便 な育児 不安尺度が用 い られ たQ中で も、「 子 どもとの距離 は密接 な ほ ど不安が高 く、 子 どもか ら離れ る活動が育児上望 ま しい」 とい う測定結果 を導いた牧野 の研究 は、母か ら育児 を解 散す る画期的な研 究 と して支持 された。様 々な分野で牧野の尺度 を端緒 と して育児不安尺 度 が開発 され たが、踏襲 したのは家族社会学 の分野 で ある。 追試 の 中で 、牧野 の育児 不安研 究 とは異 な る点 も見出 され たが、あ くまで牧野 の 「 母親 に はサポー トとネ ッ トワ- タが必要」 と い う視点 に立 ってい るため、牧野 の結果 を支 持 し項 目に修 正 を加 えないO しか しなが ら、現在 の 育 児不安 を背景に した虐待 、機 能 していない子 育 て支援 を鑑 みた とき、牧野 の調査 と異 なっ た調 査結果 を再度検討す る必要が ある。つ ぎの 3では、牧野以降の研 究 の指摘 を中心 に、育児 不安 尺度 の項 目を再考 し、課題 を見出 してい きたいO 3 蘭児 不 安研 究 の課 題 2で牧野の育児不安研究に対す る疑問が出てきたが、それ らを本村 らの指摘 にそ って整理す ると、第-は育児不安項 目が育児不安の実態 に合 ってい るか,第二 に育児不安 は母親 が外 に出 られない ことによって高まるのか、第三 は尺度 で測 られた育児不 安 が低 い璃二 親 に問題 がないの かとい うことであ るO 第-の指摘 、育児 不安項 目か ら検討す る。本村 らの実施 した調 査 で は、牧 野報 告 に比べて全 体 に総合尺度 と各項 目の相 関が弱 く、「 毎巨 ‖まりつ めた緊張がある」が総合 指 標 との相 関が極 め て希薄で あった。牧 野報告 では緊張感 があるほ ど育児不安 は低か った が 、本村 らの報告 は 不安 の高い群 に緊張感 が あった ( 本 村他 1 粥5:4)O これ に対 し、牧野 は Fわれ わ れ の有効性 の検定 で も<毎 日は りつ めた緊張がある>は、最 も有効性 が低 く尺度 として適 当で なか った こ とを反省 し上 「 一般的疲労感 と一般的気 力の低 Fが相 対的 にあま り良い指標 ではな く」、これ は蓄積 的疲 労徴候調査 を参考 に した こ とか らくる問題 点 である こ とを認 めてい る ( 牧野 1 9 8 9:26) 。 牧野 が参考 に した蓄積 的疲 労徴候調査 は、継続 ・滞留 して感 じる症状徴候 を調べ る調 査で あ るが、 あ くまで疲 労 を知 る 目安 と して位置付 け られ る。 す なわち、面接 が最 も適切 で あるが時 -93 - 育児不安研究の現状 と課題 ( 坂井) 握 で きないので、そ の欠点 を補 うもの として蓄積 的疲 労徴候調査が作成 され た。 しか しなが ら 越河 ( 3 975:25)は 「もちろん、質 問紙 法の限界内での こ とであって、-。 設 定 され た質 問- の 『報 告』 か ら、働 いている人た ちの 良寛的な疲 労の 『表現』 に近づ くこ とは並大抵 の こ とで は ないo疲 労感 の調査 とかい って、その訴えが〇%だ った とか、 どの項 目- の応 答 が高 い とか低 れだけで終わ らせ るのは時 と して きれい ご とす ぎる」 と指摘 した。 さらに、その調 査は 1987年 に越河 らに よって改良 され 「毎 日くた くたに疲 れ る」とい う項 目 般的疲 労 か ら、 新しく立て られ た項 目で、 一 般 的疲労 よ り進 んだ状 態 で あ る慢性 疲 労 の特 い とか、ただそ が一 性 に移 行 した。 こ齢 項目は仕事 に相 当追いま くられ る状況 を現す が、牧野 と本 村 らの 調 査 で 共 に 相 関 が 希薄 であ った。牧野の尺度 で削除 した特性 の身体不調につ いて も、越 河 らの 調 査 で は 疲 労が進 行 した状況 として塵視す る。 牧野の抜粋 した 1 4項 目に対 して越河 は 81項 目、 1万人 を超 え る資 料 で分析 して もなお、 r CFS‡( 蓄積 的疲 労徴候 調査)応 答 にT つ いて の結 果 表 示の 基 準 は、 あ くま で も 目安のひ とつで あって、実際の調査 にお いてほ、ただ、 これ ら の 目安にあて は め て結 果 を 処 理 す れ い 資料のt l 」を 、 縦 に ば い い とい うわ けにはいかないo ・ ・ 書 資料 を棲 みあげ た 透 視 で き る よ うな何 かを得 ない と、 この種 の調査 法 育児不 安尺度の基 にな った 蓄積 的 疲労徴候調査a用 三 意点や 改良 点 とき 、 は本 当の と 相 こ 当 ろ に 部 厚 い切 使 を 考 慮 す る こ と な く、 そ れ を参考に した問題 点 を認 め なが らも育 児不安尺度 を修 正な く用い るのは検討 を要す る。 では、 どの よ うに 6特性 Sj項 目か ら 5特 性 摘 項 目を選択 したのか、尺度 の選定 とワーデ ィングにつ いて も調 べてみ る0 1 4項 目の育児 不安 尺 度 は 、蓄 積的疲 労調査 を参考 に して作成 した牧野 の 6特性 43項 目 のF 蓄 積 的 育児疲労調査薬」の中か ら小薄 らが選定 した ものであった 巨) 、 西 。山本 l 粥2:35)。小西 鋸こ らは育児 に関わ るも翻 こ限 って考 え、i特性 に 2-4項 目お き、それ ぞれ +a )方 向 と-の方「 設 問 を定 めた〔 )身 体不調については、「 必ず しも育児 に よって生 じるものではないので、 舷的 疲 労 、気 力 の低 下に お ける質 閤項 目で意 とす る こ とは含 まれ る とも考 え、項 目か ら削除 した」 摘 、函 *山本 ま 982:37) o Lか し、蓄積的疲 労徴候調査は 「 頭が蓋 い」「 肩 が こる」 とい う身体 不 調 が発端 にあ り、先 に示 した よ うに身体不 調は 般 的疲 労 よ り一歩進 んだ状態 であって、そ れ を除いた こ とも育児不安 が病 理 的な ものか誰 に も起 こ りうるのか、な ど嘆昧 さにつ ながった と考 え られ る。 つ ぎに、蓄 積 児不安尺 度 項 か論争 しよ う 目 」 労徴候 調 査 の項 目を育児 の言葉 に変 えた ワ-デ ィンダにつ いてで ある 的 疲 作 成 に参考 に され た新 聞記事 は朝 日新聞家庭欄 1 979年 まま月 6 日 「 仕 。 事 か 育 家庭 に対 す る読 者 の投稿 だ った 摘、 西 ・山本 1 982:1 3) o育 児 不 安が 、専 業 主婦 か 有職者 か とい う視 点 か らきてお り、専業主婦 の 「 健 の 中か ら取 り残 され た孤独感 上 有職者 の 「 後 ろ髪 を子 どもにひかれ なが ら出てい く」といった悩み が対立軸 にあ る ( 小西 8山本 1 982:1 9) U -9 4- 現 代社会 文化研究 No. 49 201 0年 1 2. T j そ うした専業 主婦対有職者 とい う軸のゆえ、 本 村 らの第 二 の 指 摘 、 育 児 不 られ ない こ とに よって高ま るのかが生 じた と考 え られ る。 そ も そ も 「専 業 主 安 婦 は 母 親 が外に出 は生 活 の単調 さ と孤独感 が育児 の 自信 を喪果 させ る」 とい う前提 が あった ( 牧 野 及983 :70)。 調 査 対 象者 の意 見 をみてみ る と、有職者 については 「 女性 が働 く こ と」の 問い に有 職 者 は 「 女 性 は働 い て 当然 」 早 く子育てを終 え、社 会 に飛び出 したい - と誰 もが考 えてい る と答 え、専業主婦 に つ い ては 「 と思 う。 しか し、実 際には、い ろい ろな実情 がか らん で、考 え とは矛盾 して 、家庭 の 中で 悶 府 」 とい う意 見が示 され る 摘、 西 砂山本 1 98 2:20扶 育 児不安 尺度 に有職者 の不安 が少ない とみ な 仕 事が したいの にで きない母親 は育児不安 が高 くなかった す視点が あったため 、牧野報告は 「 とい う結果 」 ( 本村 他 1 985:1 呈 ) や 、「 外 に出 る母親 ほ ど育児不安が低 い とい うわ けではない 」 ( 宮坂 2000:61 ) とい う追 試の調査結果 とズ レがt L t J f たのではなか ろ r )かし . ここまで検討 した結果、蓄積的疲 労徴候調査 の注意 点や改 良点 を考慮せず に特 択 され 、その選択や項 目の作成 には専業主婦対有職 者 とい う視 点が大 き く作 用 性 や 項 目が 選 し て い こ とがわ か り、育児不安尺度 の項 目を再検討 しなけれ ばな らない こ とが把握 され た。 さらに第 三の指摘 、 尺度 で測 られ た育児不安 が低 い母親 に問題 が ないのかについて検討す るO 本村 らは、不安が低 い程健康 な望 ま しい母親 とはい えない と指摘す る。 す なわ ち、子 どもに関 心の薄い母親 は育児不安兆候 を表 しに くく、 子 どもに無 関心 な母親 と考 え られ るか らであ る( 香 村他 浬 985:1 2)O この指摘 に対 して牧野 は、「これ は育児不 安の概 念 の問題 で あ る と同時に育児 牧野 1 98 9:25) 。 しか し、牧野 は 不安尺度 の再検討 を必要 とす る問題提起であ る」 と答 えた ( 本村 らが指摘 したチ ビも- の無関心潤 感情 は育児不安 の概念の中に過度 の母子 一体感 とともに 含 まれてい る と説 明 した。牧野の尺度では F 子 ども をおいて外 出す るのは心配 で仕方 がない 」 と、「 子 ど もがわず らわ しくて、イ ライラしてしまう」とい う項 目の両方を採 用 してお り、チ ビ ち- の一体感 か らくる分離 で きない不安と、煩わし くて分離 したい不安 の両者 を含 ん でい るの で尺度 に問題 はない ことを主張 したO加えて、「 育児不安の概念 も、過度 の母 子一体 の感 情 ( 揺 近) とイ ライ ラや 予 ども嫌 い ( 離反) の感情の 両極性をもつ ものであ り、 ともに育児 にお け る 負 荷事象 で あ ることを改めで確認 してお きたい 」 と論 じ、 あ くまで も 「 育児 不安 が高す ぎる状 態は望ま しくな く、低 い場合 は よ 牧野は育児 不安研究の再検 討 り 健 康 的 で あ る で 第 三 の 指 摘 、 育 ることな く、1 989年 以降 自 ら調査 を行 わ な か っ 」 こ とを再度 示 した ( 牧野 ま 98 撃:25-26) O 児 不 安 が低 い母 親 に 問 題 は な い のかを受 け入れ たO しか しなが ら、 この第 三の指摘 、尺度で測 られ た 育児 不 安 が低 い母親 に問題 がないのかは、 岩 田の育児不安研 究 日995) によって再び疑 問が呈 され た。岩 田は、牧野の育児不安 尺度 を基 に 育児 期の母 親 の感情 の構 造化 と、母親 の主体的な社会関係 の形成 に着 冒した調査 を行 ったO 岩 田は 、3歳児健 康診査 での質問紙調査 は9昔名) の他 に面接調査 ( 44名) も実施 し、社会活 動 をす るほ どに、またネ ッ トワ- タが大 き く頻繁 に会 うほ どに、育児不安 が低 め られ ない こ と 尺度 として用い る際 には、本村他 の を明 らか に した。この結果 を、岩 田は研究の限界 と捉 え 、 「 -95 - 育児不安研究の現状 と課題 ( 坂井) 前 提 を克服 しよ うと したに もかかわ らず 、同様 の問題点が残 され て しま った」 として 、 牧 野 の 育児不安 を 「 『低 い場合 は よ り健康 的』 と捉 えた ことに問題 があった」 と指摘す る。つま り、そ れ は母親 の現実 を反 映せず 、問題 とすべ き ことは、「 極端 に不安の 高 い母親 た ち、そ して見逃 し てな らないのが、『不安 がない ( 意識 され ない)』 とい う母親たちの 存 在 である ことを課題 にお で 育児不安 をみ る視点が必 川l りL ) 5:コ31 上 いた (L l l . r ・ 岩 田は、 上記 の課 題 を基 に育児構造 をよ り具体的 に捉 え、その 中 要で ある ことを論 じた ( 岩田 1 997a:32)。 さらに、3歳 児健康 診査 で 回 答 を得 た母親 20名 を 4 年後 に縦 断調査 し、 育児 不安 の社会的性格 を概観 した。調査 で得 られ たの は つ 育児不安 は子 どもを持つ、育児 をす るために感 じる不 安 が 多 く、太 多数 が 医 ぎ 療 と しない健康的な不安であ る。 育児不安 は夫や友人づ く りで解 消 され る もの で の こと で あ る 。 的 な 応 を 必 要 は な 、 育 児 不 に 、 育 安が商いのは∴ 情報 育児産 業 によって 引 き起 こされ た他 児 との比較 が要 因 に あ る。 対 く さ ら 児不安 が解 消 され るだけで育児 の問題 が解決 され るので は な く、育 児 不 安 を感 じな くて も 育 児 困難 と して問題 を抱 えてい る母親 に生活保 障 をす る必要 が あ る こ とで あ る ( 岩田 1 997b)o 育児不安尺度 では捉 え られ ない育児 困難 、育児不安 の変 容 を捉 え る視 点 な ど、岩 田 は 安研究- の明確 な問題提起 を してい る。 しか しこの視点 は 、尺度 で測 られ た育児 不 安 が 育 児 不 低 い 母 親 に問題 がないのか に直接答 えた ものではない。育児不安 を感 じる余裕 のな い生活困難者- 節 生活保 障 は重要だが、生活 困難者 とは巣な る予 どもに無関心 8拒否 的 な 母 親 は対象か ら外れ て しま う。育児不安研 究は、 生活 国難者 U )育児 困難 に対象 を移行 して解 決す るもの とは考 え難 いo す なわ ち、従来の日 当投の母親 も対象 にす る視 点 も必要である0 一 般 の母親 を対象 とした とき、 岩 田が面接 調査か ら得 た、母親 の意識 である他児 とU )比較 が育児不安 の要因で あ り、それ は末 や友人づ くりでは解 消 され ない とい う知見は現状 を映 し出す手がか りとな る。 以 巨、本村 らの指摘 を基 に して育児 不安研 究 を検討 して きた結果 、つ ぎの こ とが明 らかにな ったO まず、第-の育児不安項 目が実態 に合 ってい るかについては、牧 野が定義す る育児不安 「 育児酌 中で感 じられ る疲 労感や気力 の低 下、イ ライ ラ、不安∴悩み な どが解 消 されず に蓄積 され たままになってい る状態」を表 してい る とは言い難 く育児不安 の業態 と合 うとはいえないO その理 由 として、蓄積的疲 労徴候 調査 を採用 した こ と、 さらにその調査 の特性 の選択 があげ られ るO蓄積的疲 労徴候調査 は一時的な疲 労 を測 る疲労 自覚症状調査 の欠点 を補 う調査であ り、 何 日間が継続 沸滞留 した疲 労 を測 定す るが、 あ くまで 目安 として用 い られ る。 蓄積的疲 労徴候 てお り、一般的疲労が よ り進 んだ特性 と して身体不調 8慢性疲 労が位 置付 け られ る。 しか しな が ら、育児不安尺度 では身 体不調 を初 めか ら削除 してい る。そ もそ も蓄積 的疲 労調査が育児不 安尺度 に適 さない こ とも考 え られ 、「 毎 日は りつ めた緊張感 がある」につ いて牧野 が最 も有効性 が低 く項 目として不適切 だ った こ とを認 めたが、越河 に よって一般 的疲 労か ら慢性疲 労に移行 された 「 毎 日くた くたに疲 れ る」 とい う項 目も育児 不安尺度 では相 関が低 い。 牧野の調査 を追 -9 6- 現 代社会文化I r 7 r ' 程No. 4q 2 01 0隼 l コH 試 した 本 村 らは全 体の項 目と育児 不安 との相 関 も弱 い と指摘 し、牧 野 の 調 査 結 果 は 蓄積 す る疲 労や気力 の低 下 な どを表す もの とはい えない。 つ ぎに、第二の育児不安 は母親 が外に出 られ ない こ とに よって高ま るのかにつ いて も、牧野 の尺度 を周いた追試 では育児不安 と外 に出 る こ との関係 はみ られ ない。育児 不安尺度 の項 目は、 専業主婦 と有職者 の対立が書かれ た新 聞の投稿欄 か ら採用 し了育児 責任 を仙人 で背負 ってい る 牧野 1 982:34) とい う前提 があ り、項 目の 若 い母親 達が、孤独感や 育児不安 に陥 りや す い 」 ( 選択や表 現 内容 に も偏 りが あった。た とえば 、蓄 積 的 疲 労 徴 候 調 査 の 「 労働意欲 の低 下」を 「 育 児 意欲 の低 下」の特性 に変 えた作業ではつ ぎの よ うに な る。 蓄 積 的疲 労徴候 調査 の 「 や ってい る仕 事 が 単調す ぎる、仕 事 が手 につかない、職場 の雰 囲 気 が 暗 い、上役 の人 と気 が合 わない こ とが 多い、仕 事仲間 と うま くいかない、働 く意欲 が ない、仕事 に興味が な くな った、今 の仕 事 をいつまで も続 けた くない 、生活 には りあい を感 じない」 ( 越河 1 975:24)か ら、育児 不安尺 度 では、育児 に適す るもの として 「自分一丸 で子 どもを育 ててい る とい う圧迫感 を感 じて しま う、 毎 日毎 日同 じ こ との繰 り返 ししか してい ない と思 う、予 どもを育て るためにがまんぼか り してい る と思 う」 こ の 項 目の 選 に変 択 に は してい る。働 く母 親 の えたO 職場 の人間関係 な ど外 でのス トレスは入 らず 、内容 も母親 の孤 立 を意識 「仕 事、家事、育児す べ てが手 を抜 けるわけではな く、真剣 に 考 えれ ば 考 えるほ ど難 しくイ ラ イ ラす る」 ( 小西他 1 98 2:ま 98)な どの悩み は着 目されず 、育 児 不安 は孤 立 した母親 を対象 としたのである。 その背景 には、核家族 の専業主婦 を母原病 とみ る見方 か ら 解放 しよ うとい う研 究者の意図が あった と推 察 で き るo Lか し、乳幼児健康診 査 の際 の調査 な どでは、外 に出 られ ない専業主婦 の葛藤 は結 果 に表 れ なか った0本村 らは、それ に対 して、平 田の昼間健康診査 を受 け られ る条件 の恵 まれ た母親 であることを理 由にあげたが、 これ までの 育児不安研究尺度 では有職者 の育児不安が測 りに くい とい えよ う 。 第三の指摘 、尺度 で測 られた育児不安が低 い母親 に問題 がないのかについて は、低 い母親 に こそ注意 しな けれ ばな らない と捉 え られ た0 本村 らは不安 が低い程健康 な望ま しい母親 とは い えない と指摘 し、そ れを受 けて追試 を した岩 田が、極端 に不安 の高い母親や 「 不安が ない ( 意 識 され ない)」母 親の存在 に着 目 したoLか し岩 間の検討す る不安 の低 い母親 が、育児 不安 を感 -舷 の母親 を対象 にす る視 点 も必要で あ る。 じる余裕 のな い生活困難者 に限定 され てい るので、 以上か ら、育児不安項 目の見直 し、核家族 の専業主婦の不安 が高 く有職者や 外 に出 る母親 の 不安が低 い とい う視点の問い直 し、育児 に無 間心 中拒否的 な 「育児 不安 が低 い母親」- の対象 の拡大が課題 としてあげ られ る。 4 結論 近年、育児不安は児童虐待 の増加 に伴 い虐待 要因 と して注 目され たo Lか し、育児不安 が社 -97- 育児不安研究の現状 と課題 ( 坂井) 会 問題化 され る こ とに よ り、育児 不安 の 捉 え 寿 が 単 純 化 さ れ 誇 張 きれ る弊害 が起 きたO 育 児 不 安 の誇 張 は、母親全 てが虐 待 予備 軍 とな る 根 拠 に な っ て し ま ったO そ もそ も育児不安 とは何 であ り、育児不 安 研 究 は ど の よ う に 対象 が な く漠 と してお り唆 味で多義的 な こ とが 特 性 と 考 え ら 化 の試 み であ った とい え るが、育児不安 の定義 を検 討 展 開 して きたのか。 育児 不安 は れ る。 これ までの概 念定義 は明確 し た 先 行 研 究 か らは、育児 不安 は誰 にで も起 こる心配 か特定 の病理 を含む のか 、一時的 あ るい は持 続 的な ものか 、否 定 的 な意 味 か肯 定 的 な意 味 も含 む のか とい う差異 は見 出せ る。 瞭 味 で多義 的 な育児 不安 は、1 973年 頃か らの子殺 し 書子捨 て事件 の増加 を受 けて、母親 の孤 立がそ の要因 と捉 え られ た。 この よ うな育児 不安 ほ どの家庭 で も起 きる と考 え られ 、早急 に全 ての母親 を対 象 と した調査 が求 め られ た。 しか しなが らそ の定義 が唆味 なため、育児 不安尺度 が育児 不安 を表す もの と して、育児不 安尺度 に評価 が置 かれ たので あ る。 育児 不安 尺度 は牧野 の研 究 に始 ま り、尺度 を用 いた 調査 に よ り 「 予 ども と距離 をお くほ ど育 - スペ タテ イブ を覆す もの と して支持 され た。したが って、尺度や 内容 が見直 され る こ とな く、 孤立 した母親 を社 会 参加 させ 、父親 の 協力 を得 る対策 が重 要 とみ な され たO この よ うに育児 不安 尺度 - の評価 が高 いため に、尺 度 はほ とん ど検 討 され る こ と な く 尺度 開 発 が進 め られ て きた。 しか しなが ら、牧野 の尺度 を用 いた 追試 か らつ ぎの よ うな 疑 問 が 呈 され た。 第 - は、牧野の 育児 不安民度 の項 目が育児不安 の実態 に合 ってい るのか、第 二 に 、 育児 不 安 は 牧 野 の 見解 で示 され た 、母親 が外 に出 られ ない こ とに よって高 ま るのか、第 三は 、尺度 で 測 られ た 育 児不安 の低 い母 親 に関越 はないのか とい う指摘 である。 第 - の 育 児 不 安 の実態 に合 わない こ とに関 しては、育児不安尺度 の基 にあ る蓄積 的疲 労徴候 調 査 の 注 意 点 や 改 良点 を考慮せず に特性 や項 目が選択 され 、項 目の 内容 も専 業 主婦 対有職者 と い う視 点 か ら ワーデ ィングが選 ばれ て いた こ とか ら、育児 に よる蓄積す る疲 労や気 力 の低 下 な どを表す もの に合致 しない こ とが 把 握 され た O 第二 の外 に 出 られ ない僧二 親 の育児 不安 の高 ま り は、第 - の項 目内容 と関係 して お り、 育 児 不 安 は 母親 の孤 立 を前提 と して項 目が立て られ た こ とか らくる。 乳幼児健康 診 断 で の追 試 で 、外 に出 られ ない ことが不安 と関わ りが弱 か った こ と か らも、働 く母親 の育児 不 牧野 は育児不安 には接 近 安 へ の 視 点 が 弱 い oさ らに 、第三 の育児不安 の低 い母親 につ いては、 と離 反 の 感 情 の 丙極 性 が 含 ま れ てお り、不安 が低 い場合 は よ 粉健康 的 であ る こ とを主張 したが、面接調査 か らは育児不安 を感 じな くて も育児 困難 を感 じる母親 の存 在 が捉 え られ た。 徴 候 調 査 の 特性 と合 わず 項 目内容 も核家族 な い 母 親 は 育 児 不安 が 高 く、 育児 不安 が低 い母 如上U )疑 問 を通 して 、育児 不安尺度 は蓄積 的疲 労 の専 業主婦- の偏 りが あ り、従来 の外 に出 られ 親 は よ り健康 で あ る とい う見解 に問題 が あ る こ と が 理 解 で き た この こ とか ら、尺度 の再検討 、地域差や時 代 差 を 捉 え 、 調 査 I9さ ト 。 対象者 を 考 慮 した 面接 調 査 を探 現 代社会 文化研究 No . 4 9 2 01 0年 1 2日 用 してい く必 要がある と考 え らえ るo Lか し、それ 以前 に、育児 不安研 究は 「 母子 関係パー スペ クテ ィブ を問い直す視点」 か ら抜 け出 さなけれ ばな らないD母子 関係パ- スペ タテ イブに とらわれ てい る限 り、「 子捨て 中子殺 し」 が 「 虐待」問題 に変わっただ けで、いつ もそ の枠 の 中で議論 され る こ とにな るか らで あ る。 育 児 不 安 研究は 育児 の母親責任論 の視点か ら抜 け出 し、新 たな問い を立てなけれ ばな らないO < 引用文献 > 岩 田美 香 、 ま 995了 育児期 の母 親 の不安 と ソ- シャル 8ネ ッ トワ- ク」『北海 道大学教育学部紀要』 68、1 9ま 233 0 岩 田美 香 、1 997a、「 『育児不 安 』研 究 の 限界- 現 代 の育児 構 造 と母親 の位 置- 」北 海 道 大学教育学部 教 育 計 画研 究室編 『教 育福祉研 究 』3、27 3 4。 岩 田美 香 、豆 99袖 、 「 縦 断調 査 か らみ た 『育児 不安 』 の性 格 」 『北海 道 大 学 教 育学 部紀 要 』7 魂、2 3碩呂 。 岩 田美香 、1 99 9了 育児 困難 の構 造 と類 型 」北海 道 大 学 教 育学 部 教 育 計 画研 究 室編 『教 育福 祉 研 究銅 、25 3 40 998、 「育 児不安 の概 念 定義 の再検討 」『日本 女子 大 学 入 間社 会研 究科 紀 要 』凍、 61-700 恵 良典子 、ま ) 落合恵 美 子 、豆 9 94、『2五世紀 家 族 - 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