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論文内容要旨
論文題名 Association between head-an
d-neck cancers and active and pa
ssive cigarette smoking
(頭頸部癌と喫煙および受動喫煙との関連性の検討)
掲載雑誌名
Health
4巻 9号 619-624頁
2012年
外科系耳鼻咽喉科学専攻
櫛橋
幸民
内容要旨
喫煙および受動喫煙が人体にとって有害であるという事実は世間一般で
も広く知られている。タバコ煙中には約200種類の有害物質が含まれて
おり、その中の69種類が発癌物質として同定されている。発癌のメカニ
ズムにタバコ煙中の発癌物質が深く関わっている事は疑う余地はない。タ
バコ煙による鼻・副鼻腔、咽頭、喉頭の上皮への化学的刺激や機械的刺激
などの直接刺激が発癌に強く影響していることが推察される。そこで、わ
れわれは喫煙および受動喫煙が頭頸部癌に及ぼす影響を検討した。
対象と方法:2001年4月から2010年6月までの9年2カ月間に昭
和大学横浜市北部病院耳鼻咽喉科を受診した頭頸部癌患者で喫煙および
受動喫煙の有無を含めた詳細が確認できた283例を対象症例とした。う
ちわけは鼻・副鼻腔癌27例、舌・口腔癌48例(舌癌22例、口腔癌2
1例)、咽頭癌99例(上咽頭癌11例、中咽頭癌41例、下咽頭癌47
例)、喉頭癌79例、頸部食道癌30例であった。対象症例における喫煙
率、受動喫煙率、ブリンクマン指数を癌の発症部位別、男女別、病理組織
分類別にretrospectiveに調査した。
結果:鼻・副鼻腔癌症例では喫煙率が44%、受動喫煙率が19%、喫煙・
受動喫煙率は63%であった。舌・口腔癌症例における喫煙率は65%、
受動喫煙率は8%、喫煙・受動喫煙率は73%であった。上咽頭癌症例に
おける喫煙率は64%、受動喫煙率は0%、喫煙・受動喫煙率は64%で
あった。中咽頭癌症例における喫煙率は76%、受動喫煙率12%、喫煙・
受動喫煙率は88%であった。下咽頭癌症例における喫煙率は85%、受
動喫煙率は4%、喫煙・受動喫煙率は89%であった。喉頭癌症例におけ
る喫煙率は94%、受動喫煙率は4%、喫煙・受動喫煙率は98%であっ
た。頸部食道癌症例の喫煙率は90%、受動喫煙率は10%、喫煙・受動
喫煙率は100%であった。いずれの部位においてもブリンクマン指数は
高かった。また頭頸部癌では扁平上皮癌(SCC)患者の占める割合が高
く、SCC患者と非扁平上皮癌(非SCC)患者における喫煙率および受
動喫煙率は有意差をもってSCC患者の方が高かった(p<0.0003)
。
考察:ベルヌーイの定理より鼻・副鼻腔や舌・口腔よりも咽頭や喉頭など、
タバコ煙の通過する単位面積が小さい部位の方が機械刺激や化学刺激な
どの直接刺激が強くなる。結果として同じ重層扁平上皮細胞で覆われた粘
膜から生じた扁平上皮癌でも、舌・口腔癌症例と比較して咽頭癌症例、喉
頭癌症例、頸部食道癌症例の喫煙・受動喫煙率が高値となっていると考え
られる。頭頸部癌症例において、タバコ煙による直接刺激を強くうけると
考えられる部位での喫煙率および受動喫煙率は高値であり、ブリンクマン
指数も高い事から頭頸部癌の発癌にはタバコ煙による直接刺激が強く影
響している事が示唆された。