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7.4
マニピュレータの 2 自由度化
本節では,これまでの 1 自由度可変粘弾性関節マニピュレータを 2 自由度に拡張する.
ここで,
Fig.7.8 に作製した 2 自由度化マニピュレータを示し,Fig.7.9 に第 2 関節の正面図を示す.各関
節の駆動方法は従来の関節と同様であり,第 2 関節の回転角度はポテンショメータによって計測
される.また,第 1 関節には LORD 社製の MR ブレーキ(MRB-2107-3)が取り付けられている.
そして,第 2 関節にはより小型な MR ブレーキ(ER テック社製)を適用し,関節の軽量化を図
っている.さらに,いずれの MR ブレーキもドライバにも TITech Driver PC-0121-2 を使用してい
る.
Joint1
Link2
Link1
Joint2
Fig. 7.8 2-DOF variable viscoelasticity joint manipulator
Link1
MR brake
Rotary potentiometer
Link2
Fig. 7.9 Second joint
117
7.4.1
2 自由度可変粘弾性関節マニピュレータのバネモデル
マニピュレータの自由度増加に伴い,バネモデルも 2 自由度に拡張する.ここで,Fig.7.10 に
2 自由度可変粘弾性関節マニピュレータのバネモデルを示す.そして,モデルの拡張により運動
方程式は以下のように拡張される.
θ&& 
θ& 
θ − θ 
H (θ1 ,θ 2 )  1  + h (θ&1 ,θ&2 ,θ1 ,θ 2 ) + D( E1 , E 2 )  1  + K j ( P1 j1 , P2 j1 , P1 j2 , P2 j2 )  1 d1  = 0
&&
&
θ 2 − θ d 2 
θ 2 
θ 2 
(7.2)
ここで,H は慣性行列,h はコリオリ力と遠心力に関する行列,D は粘性行列,K は関節剛性行
列,E1,E2 は MR ブレーキに印加する電圧,P1j1, P2j1 は第 1 関節の人工筋肉に印加する空気圧,
P1j2, P2j2 は第 2 関節の人工筋肉に印加する空気圧である.
Y
X
Fig. 7.10 Spring model of 2-DOF manipulator
118
7.4.2
実験によるモデルの検証
2 自由度バネモデルの検討をするために,実験結果とシミュレーション結果の応答を比較する.
本実験では両関節を瞬発力発生手法によって駆動し,各関節は Table 7.2 の条件に従う.また,
アーム先端には 0.85 kg の重りを取り付け,アームの運動は地面に対し水平におこなう.さらに,
各 MR ブレーキからは基底粘性のみを出力し,両関節は同時に駆動を開始する.
ここで,Fig.7.11 に実験結果の一例を示し,Table 7.3 にこのときのピーク値,定常値を示す.
本結果では第 1 関節の関節剛性は 0.12Nm/deg であり,
第 2 関節の関節剛性は 0.07Nm/deg である.
応答を比較すると,シミュレーション結果と実験結果に差がみられる.特に,実験結果の第 2
関節においてアームの運動が停滞している部分がある.これは,第 1 リンクが駆動することで第
2 関節に反トルクが生じ,第 2 関節の駆動トルクと釣り合い,第 2 関節の駆動トルクが静摩擦ト
ルクを超えるまでアームの運動が停滞したと考える.しかしながら,シミュレーション結果は実
験結果の傾向を再現できており,ピーク値の差や定常偏差も小さいため,検討に用いることがで
きると考える.
Table 7.2 Experimental conditions.
Initial
Joint stiffness
Equilibrium
[Nm/deg]
position [deg]
joint1
0.08, 0.10, 0.12
60
0
joint2
0.06, 0.07
45
0
position
[deg]
Fig. 7.11 Example of experimental result and simulation result
119
Table 7.3 Results of dynamic response experiment by the 2-DOF manipulator
Joint 1
Joint 2
Experiment Simulation Experiment Simulation
Peak angle [deg]
78.3
80.7
46.7
49.1
Steady state [deg]
59.9
60.0
45.2
45.0
Error of Peak angle [deg]
2.4
2.4
Steady state error [deg]
0.1
0.2
7.5
2 自由度マニピュレータによる投擲運動の検討
本研究では,可変粘弾性関節を利用したダイナミックな運動として,2 自由度マニピュレータ
による投擲運動を設定した.ここで,投擲運動をおこなう際は関節の剛性と粘性を制御し,投擲
のタイミングと各関節の駆動タイミングを決定する必要がある.本節では投擲運動設計の始めと
して,探索するパラメータを関節剛性と関節駆動のタイミングに絞り,手先速度の最大化を試み
る.このとき,関節駆動のタイミングとは第 1 関節の MR ブレーキ解放から第 2 関節の MR ブ
レーキ解放までの時間である.本節ではシミュレーションによって手先速度が最大となるような
パラメータを探索し,実験によって検証する.
7.5.1
シミュレーションによる投擲運動の検討
本シミュレーションでは,各関節の剛性と関節駆動のタイミングを変えて投擲運動をおこない,
手先速度の最大値が最も大きくなる条件を探索する.ここで,第 1 関節の関節剛性は 0.08,0.10,
0.12Nm/deg とし,第 2 関節の関節剛性は 0.06,0.07Nm/deg とする.そして,各関節剛性のすべ
ての組み合わせにおいて関節駆動のタイミングを探索する.このとき,アーム先端には 0.85 kg
の重りを取り付け,アームの運動は地面に対し水平におこなう.また,各 MR ブレーキからは
基底粘性のみを出力する.
ここで,シミュレーションによる探索結果を Fig.7.12 に示す.図中の横軸である Drive time は,
第 1 関節と第 2 関節の解放の時間差である.本結果より,関節剛性が高いほど速度が出やすい傾
向があった.これは関節にポテンシャルエネルギを溜めると見なした場合,高い関節剛性ほどエ
ネルギを溜めやすいためと考える.そして,最高速度を得た条件は,第 1 関節の関節剛性が 0.12N
m/deg,第 2 関節の関節剛性が 0.07Nm/deg,第 2 関節の駆動タイミングが第 1 関節の駆動から
0.250 s 後のときであった.そして,これらの条件化でのシミュレーション結果を Fig.7.13,7.14
に示す.ここで,Fig.7.14 における各関節の加速度に着目すると,第 2 関節は第 1 関節の速度が
負となった時に駆動を開始していることがわかる.これにより,第 1 関節からの反トルクによっ
て第 2 関節が減速されることなく,手先速度が増加したと考える.
120
Joint1: 0.08, Joint2: 0.06 [Nm/deg]
Joint1: 0.10, Joint2: 0.06 [Nm/deg]
Joint1: 0.12, Joint2: 0.06 [Nm/deg]
Joint1: 0.08, Joint2: 0.07 [Nm/deg]
Joint1: 0.10, Joint2: 0.07 [Nm/deg]
Joint1: 0.12, Joint2: 0.07 [Nm/deg]
2.90
Maximum
Muximumvelocity
velocity[m/s]
[m/s]
2.70
2.50
2.30
2.10
1.90
1.70
1.50
0.00
0.05
0.10
0.15
0.20
0.25
0.30
0.35
0.40
Drive time [s]
Fig. 7.12 Plot of the maximum velocity of the end effector versus drive time in simulation
Fig. 7.13 Simulation result of searching drive timing of the second joint (velocity).
121
Fig. 7.14 Simulation result of searching drive timing of the second joint (acceleration).
7.5.2
シミュレーション結果の再現実験
本実験ではシミュレーションで得た探索結果を用いて,同条件で再現をおこなう.ここで,
Fig.7.15 に実験結果とシミュレーション結果を示し,Table 7.4 に各応答のピーク値を示す.本結
果より,実験結果とシミュレーション結果は同様の応答とピーク値を示したが,実験結果のピー
クはシミュレーションよりも遅れて現れている.これは,実験において MR ブレーキの拘束を
解放する際に遅れが生じたためと推測する.この原因の一つとして,MR 流体の残留磁化が挙げ
られる(5).本 MR 流体が磁化されるとクラスタを形成するが,磁場の印加を中止しても磁性流体
が磁化されたままになる.そのためすぐにクラスタが崩れず,外力を与えられてからクラスタが
せん断される場合がある.これについては必要以上に強い磁場を印加しないことが対策となる.
また,本章では手先速度の最大化を目指したが,実際の投擲では速度の方向も考慮しなければ
ならず,投擲動作の探索はより複雑になると予想する.そのため,探索のアルゴリズムを構築し,
多くの試行をこなす必要があると考える.
122
450
400
350
300
250
200
150
100
50
0
-50 0.8
-100
Joint1(simulation)
Joint2(simulation)
End-effector(simulation)
3
2
1
0
Velocity [m/s]
Angular velocity [deg/s]
Joint1(experiment)
Joint2(experiment)
End-effector(experiment)
-1
-2
1
1.2
1.4
1.6
1.8
2
Time [s]
-3
Fig. 7.15 Experimental result for verifying the simulation result
Table 7.4 Results of throwing motion experiment
Experiment Simulation
Max. angular velocity of Joint1 [deg/s]
207.5
216.1
Max. angular velocity of Joint2 [deg/s]
393.0
370.0
Max. velocity of End-effector [m/s]
2.8
2.8
7.6
本章のまとめ
本章では,1 自由度可変粘弾性関節マニピュレータをバネモデルに近似し,実機の応答と比較
することで近似が可能であることを明らかにした.さらに,本マニピュレータを 2 自由度に拡張
し,バネモデルも同様に 2 自由度化した.そして,実験とシミュレーションによって 2 自由度マ
ニピュレータのバネモデルが実験結果を再現できていることを示した.これにより,今後の投擲
動作の設計には本モデルによるシミュレーションの繰り返しが利用可能となる.
最後に,本モデルを用いた投擲運動の簡易なシミュレーションをおこない,実験によって検証
した.結果として,第 1 関節の駆動による反トルクを第 2 関節が受けており,反トルクが負に転
じた時に第 2 関節を駆動する傾向が見られた.これは反トルクによる第 2 関節の角加速度減少を
123
抑えることで手先速度を向上させるためと考える.本実験により,多リンクマニピュレータにお
けるリンク間のエネルギのやり取りを再現し,その効果を示した.ただし,本章では手先速度の
最大化を目指したが,有用な投擲を達成するために速度の方向を考慮する必要がある.また,本
実験では投擲の仕方を限定しパラメータ数を抑えていた.そのため,任意の投擲動作を達成する
ためには多くのパラメータが必要であり,その探索にはアルゴリズムを用いる必要があると考え
る.
参考文献
(1) 市川泰久,望山洋,藤本英雄,物体投擲のためのねじりばねの直列構造に基づく瞬発力
発生装置,日本ロボット学会誌,Vol. 29,No. 1,pp. 47-54,2011.
(2) T. Senoo, A. Namiki and M. Ishikawa, High-speed Throwing Motion Based on Kinetic Chain
Approach, Proc. of the 2008 IEEE/RSJ Int. Conf. on Intelligent Robots and Systems(IROS08),
pp. 3206-3211, 2008.
(3) H. Arisumi, K. Yokoi, T. Kotoku and K. Komoriya, Casting Manipulation (Experiments of
Swing and Gripper Throwing Control), JSME International Journal of Mechanical Systems,
Machine elements and Manufacturing, Vol. 45, No. 1, pp. 267-274, 2002.
(4) E. Watari, H. Tsukagoshi, A. Kitagawa and Y. Kitagawa, Control of Magnetic Brake Cylinder
and its Application to Pneumatically Driven Robots, Proceedings of the 2008 JSME Conference
on Robotics and Mechatronics, Vol. 2008, p. ROMBUNNO. 1A1-B09, 2008.
(5) 横田雅行,白石俊彦,土屋高志,森下信,MR 流体を用いたクラッチの基本特性,日本
機械学会機械力学・計測制御部門講演会論文集,Vol. 2000,No.Pt.7,pp. 2094-2097,2000.
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