米連邦準備理事会:6月利上げを促す材料は何か? 2016年 6月6日 ゼーン・ E ・ブラウン パートナー、債券ストラテジスト 6 月 14-15 日に開催される政策決定会合において米連邦準備理事会の決定に影響を与え る可能性のある要因を以下に見ていきます。 要旨 米連邦準備理事会(FRB)当局者はすでに、フェデラル・ファンド(FF)金利の引き上げを 6 月に検討することを明らかにしています。 FRB によるこうしたシグナルは、景気リスクに対する彼らの見方が大きくシフトしたこと、 金利正常化の根本的な必要性があること、そして市場見通しを操りたいとの FRB の思 惑に起因していると考えられます。 とはいえ、6 月の利上げはまだ確かなものではありません。FF 金利先物が示唆する利 上げ確率は 30%であり、また、経済及び労働市場情勢は利上げを正当化しないと考える FRB 当局者もいます。 鍵となる論旨 - 5 月の雇用統計が予想外の力強い数字とならなければ、7 月の FRB 会 合で利上げが実施される可能性が高いと我々は考えています。 FRB は 12 月にリフトオフ(利上げ開始)に着手し、今や市場は 6 月に放たれるかもしれない第 2 弾の利上げに備える恰好となっています。FRB 当局者は、FRB 政策決定機関である連邦公開市 場委員会(FOMC)の 6 月 14-15 日の会合において、FF 金利引き上げを検討することを明らかに しています。そして投資家もそれに合わせて予測を調整しなければなりません。 5 月 18 日に発表された 4 月の FOMC 会合議事録と相まって、最近の FRB 当局者の発言は、議 事録公表前には 4%であった 6 月利上げに対する投資家見通しを、わずか 1 週間で 30%近くにま で押し上げました。市場の利上げ予測が 60-70%に上昇した後で利上げの引き金を引きたいと FRB は望んでいると思われますが、6 月会合前の景気・労働関連統計は、利上げが間近かつ適 切であることを、さらに投資家に納得させることができる内容となり得るでしょう。またこうした新た なデータが出なくとも、FRB 当局者の発言は、米国経済は多くの人々が危惧した 2 月の状態より はるかに好調であり近々の引き締めに耐えうるとの見方を示唆しています。 6 月会合が利上げの可能性について「ライブ(利上げがあり得る)」会合になるとの FRB の主張 は、経済リスクへの見方における大幅な転換と、金利正常化の必要性、そして市場見通しを操作 したいとの FRB の思惑に起因していると考えられます。3 月の FOMC 会合声明とその後発表さ れた議事録の大半を占めたのは、「世界金融市場と世界経済の進展」への新たな言及、そして 米国経済成長への懸念でした。これらの要因を受け、FRB が表明してきたインフレ率 2%目標(賃 1 金上昇を通じた)と完全雇用(失業率 5.0%と労働参加率の上昇を通じた)に向け進展が見られて いたにも関わらず、利上げの可能性は先送りされたかに見えました。 6 月会合は「ライブ」会合… しかしながら、4 月会合までに FRB の見方は大きく変わりました。4 月の FOMC 声明自体の内容 は穏やかなものでしたが、その後発表された 4 月会合の議事録は投資家に衝撃を与えました。 FRB の見方が大幅に変化していたことが明らかになったためです。FRB 議事録は「FRB は、利 上げを見送ってきたことが市場の安定化に寄与したと認識している」との自画自賛気味のコメント で始まっています。その後 FOMC は経済への見方が変化したことに言及しています。「幾人かの FOMC メンバーは、経済見通しへのリスクは今総じてバランスが取れた状態にあると判断してお り」、この先は、「ほとんどのメンバーが、もし(経済成長と労働市場、そしてインフレが改善される) なら…、6 月に FF 金利を引き上げることが妥当である可能性が高いと判断している」としていま す。FRB の見解の変化は投資家を驚かせました。そして 6 月の利上げ見通しは高まりました。4 月議事録は 6 月に利上げが検討される可能性が確かにあることを示唆した最初の兆候でした。 しかし一方で、忘れてはならないのは、短期金利の変動が FRB にとって重要な政策ツールであ り、FRB は市場環境が許せば直ちにそのツールの利用再開を望むだろうということです。セント ルイス連銀とサンフランシスコ連銀がそれぞれ 2015 年の 2 月に発表した調査は、2014 年に終 了するまで数年にわたって実施された量的緩和策は景気拡大の刺激に失敗したと指摘していま す。したがって、米国経済がいずれかの時点で景気後退へ逆戻りする危機にさらされることがあ るとするなら、FRB が望むのは今より正常な金利構造でしょう。特に、景気拡大促進を目的とす る金利の引き下げ調整を実施できるよう、高めの短期金利が望ましいのです。将来の景気拡大 に影響を及ぼし得るツールとしての高め金利の必要性は、条件が許せば FF 金利を正常化した いとの FRB の願望の中核をなすものでしょう。この理由からも、6 月の利上げは「ライブ」だと言 えるのです。 6 月利上げの可能性についての FRB と市場との対話は、FRB の中で過去 20 年間に培われてき た透明性の高さを求める気風と一致しています。この 20 年の間、FRB は政策動向によって市場 を驚かせることを望んできませんでした。むしろ市場見通しを手なずけ、その後で達成しようとし ています。例えば、ビアンコ・リサーチは、1994 年以降、市場が政策動向予想を価格に織り込む 前に FRB が政策調整を実施したことはないと指摘しています。したがって、6 月利上げが検討さ れていると FRB 当局者が繰り返し指摘している状況を目にすることは驚きには値しないのです。 市場は FRB からのメッセージを受け取り始めていると言えるでしょう。 …あるいは 7 月の可能性 とはいえ、6 月の利上げは決して確かなものではありません。エリック・ローゼングレン(ボストン)、 ジョン・ウィリアムズ(サンフランシスコ)、ロバート・カプラン(ダラス)、ウィリアム・ダドリー(ニュー ヨーク)、デニス・ロックハート(アトランタ)の各連銀総裁を含む FRB 当局者の 6 月利上げ可能性 を示唆する大合唱をよそに、投資家は依然としてその確率が高いとは見ていません。5 月 25 日 時点で、FF 金利先物の示唆によると、6 月の利上げ確率は 30%を下回っています。30%という数 字は、政策動向が市場に完全に織り込まれたと FRB が判断する数字を大きく下回っています。 政策立案者たちは、実際の利上げまでに期待がさらに広がることを望んでいるでしょう。 6 月利上げについて疑念を抱く FRB 当局者もいるでしょう。4 月の FOMC 議事録は「最近の国内 支出の減速が続く可能性がある」との懸念を明らかにしています。完全雇用目標に関しては、数 人のメンバーが労働市場の不振緩和についてさらなる改善の余地があると見ています。FRB の インフレ目標については、幾人かの FOMC メンバーが「労働市場には力強さが見られるものの、 賃金や物価インフレを押し上げる効果は依然としてほとんど見られない」と指摘しています。さら に、彼らは「インフレへの重要な下振れリスク」が存在するとも見ています。したがって、利上げが 確かなものになるまでには、数多くの課題で進展の余地がありそうです。 2 明らかに種々異なる FOMC メンバーの見解を受けて、6 月の会合はジャネット・イエレン FRB 議 長のリーダーシップが問われる興味深い会合となりそうです。4 月会合では全会一致に近い 9 対 1 の票でしたが、これは政策を下支えする-そして FRB の利上げ予測に関する投資家の安住姿 勢を変える-(5 月-6 月の)経済統計までにはまだ時間があるとの見方に支えられたと見られま す。6 月の会合では、もっと多くの不協和音が明らかになるかもしれません。一部の FRB 当局者 による最近のコメントは、政策動向に向けて、よりはっきりとした姿勢を示しています。一方でラエ ル・ブレイナード理事やスタンレー・フィッシャー副議長など、利上げの先送りを望む当局者もいる ようです。4 月の FOMC 会合議事録が発表された 5 月 18 日以降の最近のドル高、米国株式の 不振、そして米国債利回りの急騰は、6 月会合で議論の対象となるでしょう。そして最も重要な経 済統計は 6 月 3 日に発表される 5 月の雇用統計でしょう。 非農業部門就業者数に著しい下落 あるいは上昇があれば、判断はいずれかに傾き、イエレン議長は仕事がしやすくなるかもしれま せん。 総括 FRB が実際に動く前に市場が政策動向を十分に予測する状況を FRB が望んでいること、経済 が回復力を示すにはさらに時間が必要なこと、さらには時期尚早の引き締めという政策の誤りに よる下振れリスクがあることから、予想外に堅調な雇用統計が出ない限り、FF 金利引き上げを 議論する次の会合は 6 月よりもむしろ 7 月になる可能性が高いと見られます。一方で、6 月利上 げの可能性があるとする一部 FRB 当局者の主張は、7 月利上げに向けて見通しを調整する機 会を投資家に与えることになるでしょう。 リスクについての注記:債券の投資価値は金利変動によってまた市場動向に応じて変化します。 一般に、金利上昇時には債券価格は下落し、逆に金利低下時には債券価格は上昇します。 見通しや予想は現在の市場情勢を基にしたものであり予告なく変更されることがあります。予想 を保証ととらえるべきではありません。 フェデラルファンド(FF)金利とは預貯金取扱金融機関が即日利用可能な資金(FRB に預けてい る準備預金)を他の預貯金取扱金融機関にオーバーナイトで貸し出す際の利率です。 前述の経済レポートで示された見解は発表日現在のものであり、今後その内容が変更となる可 能性があります。また弊社の見解を表明するものではありません。本資料は特定の投資または 一般的な市場に関する予測、リサーチ、投資アドバイスとしての利用を目的として作成されておら ず、また法的・税務上の助言を提供するものでもありません。本資料は当社が信頼できると思わ れる情報に基づいて作成されておりますが、当社はその正確性および完全性について保証する ものではありません。 本資料は、情報提供を目的とした参考資料であり、有価証券の取得の申込み・取得の申込みの 勧誘・売付けの申込み・買付けの申込みの勧誘、有価証券に関する投資助言をするものではな く、以上のいずれの行為に関しても一切用いることができません。また、本資料は金融商品取引 法に基づく開示書類ではありません。 著作権 © 2016 by Lord, Abbett & Co. LLC 無断複写・転載を禁じます。 3
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