だから円安が進まない 複数回の利上げシナリオが共有

Market Flash
だから円安が進まない
複数回の利上げシナリオが共有されていない
2016年6月1日(水)
第一生命経済研究所 経済調査部
主任エコノミスト 藤代 宏一
TEL 03-5221-4523
【海外経済指標他】
・5月CB消費者信頼感指数は92.6と市場予想(96.1)を下回った。2ヶ月連続の悪化で昨年11月以来の低
水準。内訳は現況(117.1→112.9)が大幅に低下した反面、より重要な期待(79.7→79.0)は小幅な減少
に留まった。足もとの原油価格反発が逆風となる一方、労働市場の持続的な回復が消費者マインドを下支
えしたとみられる。雇用統計の先行指標として有効な雇用判断(雇用機会が十分から不十分を差し引いた
数値)は▲0.1と4月から1.5pt悪化してマイナス転化。5月雇用統計(失業率・NFP)にとってネガテ
ィブなデータだが、仮に雇用統計が弱い結果だったとしても、そこには通信大手のストライキの影響が混
入しているため、評価が定まらない可能性があるだろう。
・5月ダラス連銀製造業景況指数は▲20.8とネガティブサプライズ。ISM換算では45.3と12ヵ月ぶりの低
水準を記録。本来、地味な指標だが、ダラス地区は原油生産の盛んなテキサス州を管轄しているため、今
次局面においてはエネルギー産業の動向を把握する手段として注目が集まっている。5地区連銀サーベイ
をISMに換算したうえで合成した指数は47.9と4月から1.8pt悪化。ここから推計した5月ISMは48.5。
ISMは50割れのリスクに晒されている。
CB消費者信頼感指数
140
60
ISM
現況
120
ISM・地区連銀サーベイ
55
総合
100
50
80
地区連銀平均
45
期待
60
40
40
20
07
08
09
10
11
12
13
14
15
35
16
07
08
09
10
11
12
(備考)Thomson Reutersにより作成
(備考)Thomson Reutersにより作成
13
14
15
16
・4月米名目個人消費支出は前月比+1.0%と市場予想(+0.7%)を大きく上回った。実質ベースでも前月
比+0.6%と強く伸び、3ヶ月前比年率では+2.5%へと加速。個人所得も前月比+0.4%、前年比+4.4%
と順調に伸びており、なかでも賃金は5%強の上昇が常態化している。実質賃金の上昇加速が消費の加速
に繋がるだろう。貯蓄率は5.4%へと高水準から低下した。
個人消費支出
(%)
8
7
6
5
4
3
2
1
実質
0
名目
-1
-2
10
11
12
13
14
15
16
(備考)Thomson Reutersにより作成 3ヶ月前比年率
(%)
10
米
貯蓄率
9
8
7
6
5
4
3
2
05 06 07 08 09 10 11 12 13 14
(備考)Thomson Reutersにより作成 3ヶ月平均
15
16
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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【海外株式市場・外国為替相場・債券市場】
・前日の米国株は反落。雇用統計、ISMなど重要指標の公表を控えるなか、PCEの強さがFEDの利上
げ観測を招き、株式市場は売り優勢。欧州株も全面安。WTI原油は49.10㌦(▲0.23㌦)で引け。2日に
実施されるOPEC総会では、増産凍結合意が困難との見方が支配的。
・前日のG10 通貨はGBPの弱さが目立ち、それに欧州通貨が追随した一方、JPYは買われた。GBPの弱さは最
新の英世論調査でEU離脱派が再びリードしたと伝わったことが背景。USD/JPYは111を割れて1日日本時
間では110半ば付近まで下落。
・前日の米10年金利は1.846%(▲0.5bp)で引け。6・7月の利上げが意識される一方、米株下落でリスク
回避。なお先週以降、市場が織り込む利上げ確立は6月が低下する一方、7月までの利上げ確率は上昇し
ている。欧州債市場は総じて堅調。ドイツ10年金利が0.139%(▲2.8bp)で引け、イタリア(1.356%、▲
0.8bp)、スペイン(1.473%、▲1.5bp)、ポルトガル(3.063%、▲0.7bp)も金利低下。3ヶ国加重平均
の対独スプレッドは小幅にワイドニング。
【国内株式市場・アジアオセアニア経済指標・注目点】
・日本株はUSD/JPY下落を受けて欧米株安に追随。日経平均は昨日まで5日続伸、736円上昇していたので、
その反動とみられる。
・本日時点で7月FOMCまでの利上げ確率は52.9%に上昇(Bloomberg算出)。2月のリスクオフ局面では一時
0%近傍まで低下していたので、この間のFEDの利上げシナリオに大きな変化が生じたと言える。5月
以降、FED高官が(組織ぐるみで?)相次ぎタカ派発言をするなど“利上げ織り込ませキャンペーン”
を実施したほか、住宅指標を中心に米指標が底堅さをみせ、米株価も最高値に迫ってきたので、市場参加
者も利上げの素地が整ったと判断したのだろう。
・しかしながら、USD/JPYの上昇は非常に鈍い。30日には111円を回復する場面があったものの、上値が重い
状態に変化はない。本来、FEDの利上げ観測とそれを反映した米2年金利の上昇は日米金利差拡大を通
じて円安要因となるはずだが、昨年12月の初回利上げ以降は日米金利差拡大をよそにUSD/JPYは下落基調を
辿っており、足もとでもそうした状況が続いている。7月利上げシナリオの復活にもかかわらず、USD/JPY
が上昇しない(USDが買われない)のは、市場参加者に複数回の利上げシナリオが共有されていないからだ
ろう。確かに、たとえ1回の利上げでも、それがUSD金利上昇を通じたUSD/JPY上昇要因になる。しかしな
がら、相場を動かすには6・7月の利上げとその後の継続的な利上げシナリオが描ける状況が必要だろう。
要するに市場参加者は、FEDの利上げに耐えられるほど、米経済ないしは世界経済が強いと考えていな
いのだろう。2-10年スプレッドの縮小はそうした見方を映し出している。
USD/JPY 日米金利差
(%)
140
1.2
日米金利差(右)
130
1
2・10年金利
(%)
3.5
3
2.5
120
0.8
110
0.6
2
1.5
USD/JPY
100
0.4
90
0.2
1
0.5
0
80
13/01
0
13/07
14/01
14/07
15/01
15/07
16/01
13/01
13/07
14/01
14/07
15/01
15/07
16/01
(備考)Thomson Reutersにより作成
(備考)Thomson Reutersにより作成
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
2
2-10年スプレッド
(%)
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
13/01
13/07
14/01
14/07
15/01
15/07
16/01
(備考)Thomson Reutersにより作成
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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