Investment Insights 日本悲観論は行き過ぎ

機関投資家向け資料
Investment Insights
2016年5月
日本悲観論は
行き過ぎ
⿠日本経済の先行き不透明感が強まっ
⿠
ているという見方もあるが、進
行している大きな変化を見落とすべきではない
郭 成慶
ポートフォリオ・マネジャー
在籍年数:13年
経験年数:31年
東京オフィス在籍
⿠政策当局は、
⿠
デフレ脱却と景気のてこ入れに決意を示しているが、リ
フレに向けた取り組みは、これからが本番
⿠外国人訪日客と女性雇用の増加は、
⿠
今後も成長を後押し
⿠企業は、
⿠
株主価値の向上をより重視する方向に変化
世界経済の先行き不透明感を背景に、日
本経済と日本株式市場に対する悲観的な
見方も強まっています。不安定な円の動き
も、株式市場の抑制要因です。安倍政権
の成長戦略に失望し、デフレ回帰とアベノ
ミクスの終焉を予想する批判的な見方も
あります。
しかし、このように結論付けるのは、時期
尚早と思われます。構造変化がこれほど
本格化しているのは、1980年代以降では
初めてと考えられるからです。ただし、構
造変化に向けた努力の多くは、結果が出
るのに時間がかかります。
明るい兆しは見え始めています。金融・財
政両面からの刺激策により、20年にわた
るデフレを脱し、消費者物価が上向いてい
ます。2016年3月の食料・エネルギーを除
く消費者物価指数は、前年同月比プラス
0.7%となり、2013年10月以降プラスを維
持しています。エネルギーを含む総合指数
(生鮮食品を除くコア指数)は、足元でマ
イナスとなっていますが、原油価格の安定
化に伴い今後はプラスへの回帰が見込ま
れます。また、スーパーなどのPOS(販売
時点情報管理)データをもとにした物価
指数も、2015年2月以降上昇傾向にありま
す。
リフレ政策下にある日本経済
日本経済の回復は道半ばではあるもの
の、政府・日銀が、デフレの克服と経済の
復活に向けて強い決意で臨んでいること
は間違いありません。政策の選択肢とし
て、追加の財政刺激策が想定されます。ま
た、震災などから、2017年に予定されてい
る消費税率引き上げが延期される可能性
が高まったとの見方もあります。
一方、2016年1月に導入された日銀のマイ
ナス金利政策は、企業や家計の貯蓄を、
投資や消費に向かわせ、デフレ脱却を確
実にするねらいがあります。また、
マイナス
金利政策は、銀行の収益に悪影響を及ぼ
すとの懸念が生じましたが、影響は限定的
と弊社グループでは評価しています。
thecapitalgroup.co.jp
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2016年5月
「政府・日銀が、デフレの克服
と経済の復活に向けて強い決
意で臨んでいることは間違い
ありません」
その理由は、
マイナス金利の適用が日銀当
座預金の一部に限られるからです。そのう
え、日本の金融機関は、長引くデフレ環境
の中で、ビジネス・モデルを融資主体から
金融商品の販売や手数料主体へと徐々に
シフトさせており、一部のメガバンクにお
いては、融資事業の利益に占める割合が
20%にまで低下しています。
ある銀行の経営陣は、弊社グループとの
面談において、
マイナス金利が利益の下押
し圧力となることを認めつつも、コスト削
減や持ち合い株の売却を通じて、配当な
どの株主還元を維持することに自信を示
しました。持ち合い株の売却は、コーポレ
ートガバナンスの改善と株主還元の向上
を目指す政府の改革に沿ったものです。
日銀は、4月の会合において、市場の期待
に反して追加金融緩和を見送りました。
日銀の黒田総裁は、
マイナス金利の効果を
見極めるという賢明な選択を行う一方で、
必要に応じて追加措置を講じる用意があ
ることを強調しました。
楽観的な見方をするもう一つの理由は、
労働需給の逼迫感が物価上昇を支えると
期待されることです。例えば、2016年3月
の有効求人倍率は、約24年ぶりの高水準
となる1.30倍まで上昇しています。それに
もかかわらず、賃金の伸びは停滞している
ようです。これには、労働力構成の変化が
関係しているとみられます。
賃金の低いパートタイム労働者が増えて
いるため、一人あたり賃金増加率の推移
は緩慢です。しかし、現実には、総実質賃
金の伸び率は上昇しており、労働者数の
増加に沿った動きです。今年の春闘でも
賃上げの交渉が進み、一人あたり賃金をさ
らに押し上げると考えられます。
同様に重要な点として、安倍政権は、女性
の就業促進を優先課題としています。保
育施設の拡充など、女性の労働参加率を
高めることを目的とした政策は、ある程度
有益な結果をもたらしています。2012年
以降、日本における働く女性の数は着実
に増加しており、今や過去最高水準にあり
ます。
世界に開放される日本
さらに、日本は、これまで以上に外国人の
訪日を促進しています。インバウンド・ツー
リズム(外国人の訪日旅行)は、最も成功し
ている成長戦略の一つといえます。4年前
まで、訪日外国人へのビザ発給要件は、不
法長期滞在への懸念から非常に厳格でし
た。2013年、政府は特にアジア人観光客を
対象に、訪日ビザの発給要件を緩和しまし
た。同年、訪日外国人数は、前年の約840
万人から24%増加し、1,000万人を超えまし
た。その後も、ビザ発給要件は段階的に緩
和され、2015年には中国人に対する大幅
な緩和が実施されました。
逼迫する労働市場が賃金上昇圧力を強め、消費者物価を押し上げる
4.0 (前年同月比、%)
3.0
3.0
2.0
2.0
雇用者数増加率
一人あたり賃金増加率
名目総賃金増加率
実質総賃金増加率
消費者物価指数(生鮮食品を除く、前年同月比、%、以下同じ)
同(食料・エネルギーを除く)
同(生鮮食品・エネルギーを除く)
1.0
1.0
0.0
0.0
-1.0
-1.0
-2.0
-2.0
-3.0
12年1月
13年1月
2015年12月現在
出所:内閣府、厚生労働省
14年1月
15年1月
-3.0
00年1月
04年1月
08年1月
12年1月
16年1月
2016年1月現在
出所:総務省、日本銀行
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2016年5月
「訪日外国人数は大幅に増加
し、2015年は1,970万人と記録
的な水準に達し、過去40年で
初めて、訪日外国人数が出国
日本人数を上回りました」
その結果、訪日外 国人 数は大 幅に増 加
し、2015年は1,970万人と記録的な水準
に達し、過去40年で初めて、訪日外国人
数が出国日本人数を上回りました。政府
は、2020年までの訪日外国人数の目標を
年間2,000万人から3,000万人に引き上げ
ましたが、安倍首相は、自らが議長を務め
る「明日の日本を支える観光ビジョン構想
会議」で、目標を4,000万人に引き上げまし
た。また政府は、訪日外国人による消費額
を、GDPの約1.6%に相当する8兆円に増や
すことも目指しています。一方、米国やフラ
ンスなどを訪れる観光客数は、6,000万人
から8,000万人にのぼり、これと比較すると
日本には大きな成長余地があります。
外国人労働者に対する規制緩和も議論さ
れています。対象は、建設や介護など人手
不足が深刻な一部の業種にとどまります
が、移民の実績がほとんどない日本のよう
な国にとって、極めて重大な変化と言えま
す。人口・労働力の減少が、高齢化の進む
日本にとって特に重要な課題です。
直面する課題は、これだけではありませ
ん。弊社グループは、最近の円高や、それに
伴い輸出企業が短期的に受ける影響に留
意しています。また、日本の輸出に波及的
影響をもたらす、中国経済の構造的な減速
などの外部要因も懸念材料です。中国政府
は、ハードランディングを回避し、安定成長
を取り戻すために、あらゆる手段を講じる
姿勢ですが、その道のりが順調に進むとは
思えません。
これらの懸念はあるものの、日本で構造変
化が進んでいるという事実に揺るぎはあり
ません。姿勢に変化が生じているのは、政
策当局だけに限りません。日本企業は、株
主価値の向上を一段と重視しています。安
倍政権による法人部門向けの政策は、こう
した変化を促しました。新しいコーポレート
ガバナンス・コードやスチュワードシップ・コ
ード、JPX日経インデックス400(経営、株
主重視などの点で評価の高い企業で構成さ
れる株価指数)導入により、配当の増加や
自己資本利益率(ROE)引き上げに向けた
取組みが加速しています。
一方、日本株式は、他の先進国の株式と比
較して依然割安です。日本株式のバリュエ
ーションは、株価収益率(PER)が16倍、株
価純資産倍率(PBR)が1.15倍、約30%の配
当性向で配当利回りが2%と、長期投資家
にとって魅力的な環境です(数値は、東証
株価指数の2016年4月末)。ただし、投資に
おいては、これまでと同様に深い洞察力が
求められます。
弊社グループでは、日本の構造変化が、長
期的に経済成長を押し上げるような原動力
を生み出しているかを引き続き精査してい
ます。また、企業レベルでは、より高い株主
価値を創出しているかを評価しています。こ
れまでのところ、日本はいずれにおいても
前進しているようです。
政府は、観光産業の振興と労働市場の改革に向けて、大胆な決断を下している
3,850 (万人)
180(万人、月次データの12ヵ月移動平均)
出国日本人数
訪日外国人数
3,800
(万人) 2,850
男性就業者数(左軸)
女性就業者数(右軸)
2,800
140
100
60
3,750
2,750
3,700
2,700
3,650
2,650
3,600
2,600
20
0
1964
1974
1984
2016年1月現在
出所:日本政府観光局(JNTO)
1994
2004
2014年
3,550
2000
2003
2006
2009
2012
2,550
2015年
2016年1月現在
出所:総務省
※当資料において、時点の記載がない場合は2016年4月30日現在の情報または見解です。また、当資料は、キャピタル・グループ全体ではなく、個人の意見や見解を含みます。
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金融商品取引業者
商号
関東財務局長(金商)
第 317 号
キャピタル・インターナショナル株式会社
代表取締役社長
トーマス・クワントリル
東京都千代田区丸の内二丁目 1 番 1 号 明治安田生命ビル
TEL : 03-6366-1050 (営業部代表)
加入協会
一般社団法人投資信託協会、一般社団法人日本投資顧問業協会
投資リスクについて
当資料に記載されている有価証券運用は、国内外の株式及び債券などの値動きのある有価証券等に
投資するものであり、組入有価証券の価格の下落や、組入有価証券の発行者の業績悪化や倒産、国
内もしくは国際的な政治・経済情勢、市場の需給関係等の影響により、運用資産の投資価値が下落
し、損失を被ることがあります。従いまして、投資家の皆様の投資元本は保証されているものでは
なく、投資価値の下落により損失を被り投資元本を割り込む可能性があります。当運用における主
要リスクには、有価証券等の価格変動リスク、為替変動リスク、金利変動リスク、信用状況の変動
リスク、カントリーリスク、有価証券先物取引等のリスク等、グローバル運用における通常のリス
クに加え、新興諸国市場投資に伴うリスク(政治・社会的不確実性、決済システム等市場インフラ
の未発達、情報開示制度や監督当局による法制度の未整備、為替レートの高い変動、外国への送金
規制、税制等)、低格付け債券のリスク(デフォルト、金利変動に対する価格変動等)等がありま
す。
ご負担いただく費用について
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