博士学位請求論文要旨 「都市コミュニティ」の移動性と領域性に関する調査研究 ――インナーエリア・新宿大久保地域と「集合的な出来事」のエスノグラフィ―― 文学研究科社会学専攻博士後期課程 学籍番号: 12T3201001G 阪口 毅 研究課題 本研究の中心的な課題は、移動性(mobility)によって特徴づけられた都市社会において生きる人々 が、他の人々の間で社会関係を築いていく上で社会空間を分節化するあり方を「象徴的な領域性 (territoriality) 」の構築と捉え、その社会過程を記述し、その背後にある社会的条件を析出することに ある。 方法論 先行研究を踏まえ、本研究では「都市コミュニティ」を、生態学的位相(脱領域的なネットワーク) 、 制度的位相(諸組織・集団の連関) 、象徴的位相( 「象徴的な領域性」の複数性)という三つの位相の相 互連関の社会過程と捉え、これらの動的連関と、移動性との関係を捉えることを、リサーチクエスチョ ンに据えた。 また移動性に関しては、E. バージェスと磯村英一の議論を踏まえ、 「第一の移動性(転入/転出)」 「第 二の移動性(通勤/通学) 」 「第三の移動性(一時的滞在) 」に分節化し、これを分析枠組とした。 方法論に関しては、住民運動研究の方法を参照し、「集合的な出来事」を焦点とするイベント・アプ ローチを析出した。 調査対象は、東京のインナーエリア・新宿大久保地域と、そこで活動を展開する市民グループ「共住 懇」である。分析の対象としたのは、2009 年と 2011 年に「共住懇」が中心に運営した二つの「祭」で ある。本研究の知見は、2007 年 11 月から現在まで継続する参与観察に基づく。 得られた知見 歴史的な移動性の重なりによって、ある場所に関わる人々が空間に言及する際に参照する歴史文化的 資源には差異が生じ、一つの場所に複数の〈象徴的空間〉が生成する。こうした〈象徴的空間〉は人々 を結合させると同時に分断する機能を持つ。 一つの「祭」を運営するためには、 〈象徴的空間〉を「祭」の理念として擦り合わせる必要があるが、 実際の「祭」当日の時空間には、複数の〈象徴的空間〉が分立しうる。こうした〈象徴的空間〉は、特 定の型の移動性を含み込むため、構築される「象徴的な領域性」には差異が存在する。しかし「祭」の 過程で、予期せぬ「担い手」の参入や出来事によって、分立した〈象徴的空間〉が溶融し、複数の移動 性を含み込んだ別様の「象徴的な領域性」が起ち上がる瞬間が存在する。 本研究の意義 「都市コミュニティ」研究において、象徴的位相と連関する生態学的位相と制度的位相の重要性を示 した。これは構築主義アプローチと初期シカゴの「人間生態学」を架橋する意味を持つ。
© Copyright 2024 ExpyDoc