19 第3章 総論 1.福井県情報システム最適化計画書(第 2 期)の公表

第3章 総論
1.福井県情報システム最適化計画書(第 2 期)の公表について
現状、福井県が策定している情報システム化の推進計画等について、外部に対する公表
がなされていない。他都道府県の状況や現在公開されている情報システムの調達に関する
内容に照らし、外部に対して広く公表するべきである。
福井県では、
地域情報化の要請を受けて 1997 年 9 月に「福井県地域情報化推進ビジョン」
を策定して以降、
「福井県情報システム最適化計画」
、「福井県 IT 推進アクションプラン」
及び「u-ふくい推進指針」を順次策定、公表してきている。一方で、情報システム最適化の
ための費用削減等を目的として、現在では 2012 年度から 2016 年までの 5 年間を計画期間
とした「福井県情報システム最適化計画(第 2 期)
」を策定・運用している。しかし、こう
した策定の事実のみが公表されているにとどまり、その内容自体は公表されておらず広く
県民に周知されていない。
この点、民間業者が調査した結果によれば、各都道府県が公表している情報化計画等は
47 都道府県中 41 先にのぼる。計画を公表していない、または公表しているが調査において
公表の事実を識別することができなかった自治体は 6 先であり、全体の 15%ほどに過ぎな
い。もちろん、ここで公表されている計画が全て同水準の内容となっているわけではない
が、少なくとも各自治体の取組みを広く周知していることは評価されるべきである。こう
した他の都道府県の状況に照らせば、現在の福井県の取組みは後手に回っている。
また、広く県民に公表されていない事実は、情報化計画に関する大きな PDCA サイクル
の中で、結果として県民のチェックがなされない状況を生み出す。内容的に難しいことを
理由として敢えて周知しないことも想定されるが、その場合であっても平易に理解しやす
い表現で周知することが義務として要請されるべきである。
このほか、福井県の情報化に関して一義的に役割を担っている政策統計・情報課では、
福井県のホームページ上にて「情報システム等に係る調達案件の公表」と題し、各年度に
おける情報システム等の調達案件を上期と下期に分けて公表している。県の「情報システ
ム最適化の取組みの一環」として予め広く発注内容を公表している当該取組みでは、業者
に対する入札を促すために実施しているものである。こうした公表内容とのバランスから、
情報システム最適化計画書についても広く公表していくことが考えられる。
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2.情報システムに関する投資政策の方針について
先に記述したように、
「福井県情報システム最適化計画(第 2 期)
」自体は策定・運用さ
れている。しかし、情報システムの調達に際し、投資判断に関する方針が明確となってい
ない。特に、情報システムに関して設備を購入するかリースとするかの判断にあたっては、
明確な根拠が無いまま各課での判断に従い投資がなされている。この点、全庁的な視点か
ら中長期的な予算執行を見据えての判断根拠を設定することが望まれる。
福井県における情報システムの更新はその耐用年数や陳腐化の状況に照らして、おおよ
そ 5 年~7 年の期間でなされている。一方で、1 件当たりの投資予算は多額になる傾向にあ
るため、情報機器を購入するかリースによるかは各年度の予算執行に大きな影響を及ぼす
こととなる。
これまで福井県では予算執行の額を平準化する観点から、
「福井県情報システム最適化計
画(第 2 期)
」が策定される以前においてはリースによる情報機器の調達を行ってきた。し
かし、ここ直近では実質的な利息負担も多額になることから、購入に切り替えて調達する
方針に転換してきている状況にもある。現状、福井県としては原則として買い取りによる
機器調達を行っているものの、財源の制約等によりリースとしている場合もある。こうし
た判断は、財源の制約等によるものであり、全庁的な観点から情報システムに対する投資
政策がなされていない。結果として、福井県全体として情報システムの更新スケジュール
が明確となっておらず、組織横断的な視点からの情報システム投資に関する予算の執行状
況が不透明である。そのため、福井県にとって情報システムに対する必要十分な投資がな
されているのか否かについても、検討が困難な状況にある。
この点、各課にて対応していることから部分的な投資政策・判断で良いとすることも考
えられる。しかし、全体最適を目指す観点からは、全庁的な情報システム投資額の配分と
して把握しておくことが望ましい。特に、1 件当たりの予算執行額が多額になる傾向にあり、
5 年から 7 年といった中期的な期間での更新が定期的に行われる情報システムに関して言え
ば、他の予算執行案件とは異なり将来的な投資スケジュールを策定しやすいことが想定さ
れる。
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3.情報システムに関する人員配置及び育成について
現状、各担当課が情報システムの予算を執行するに当たっては、事前に政策統計・情報
課職員との協議を要する。そのため、政策統計・情報課の職員は幅広く情報システムやベ
ンダーの知識等を必要とするが、将来的にこうした役割を担う人材の育成が間に合ってい
ない。
福井県の情報システム化に関する重要な予算の執行については、「システム企画書」とし
て各課が取りまとめた後、全て事前に政策統計・情報課の検証を受ける必要がある。その
ため、政策統計・情報課の職員は情報システム化に当たり、情報システムの内容や金額的
な見積りの合理性といった観点からの関与が求められることになる。
現在、政策統計・情報課の職員は、実際の情報システムの稼働に際して各課が作成する
仕様書を含む、委託業者への運用・保守契約にかかる全庁的な事前検討を行っている。こ
の点、情報技術の発達とともに知識や経験といったスキル的な対応が必要となってくるが、
人材育成計画が明確に策定されておらず、将来的にこうした部署を担う人材の不足が懸念
される。
実際に情報システムを運用するだけであれば、外部委託業者に任せることで対応を図っ
ていくことが可能である。しかし、福井県としてどのような情報システムが必要であり、
そのためにどのような仕様書を記載すれば良いのかについては、あくまで福井県内部の課
題であって、こうした専門部署の人材が継続して関与していく必要がある。また、外部業
者の意見をそのまま取り入れることは経済性の観点からも懸念が生じる。そのため、外部
委託業者等ベンダーに対して対等に交渉できるような人材が必要であり、より積極的な人
材の育成が推奨される。
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4.情報システム関連資料の保存年限について
情報システムに関連した資料の保存年限について、他の資料と同様に予算執行の年度経
過後 5 年とされている。そのため、当該期間を超過して利用する情報システムに関して予
算執行の状況等を検討する場合、必要な資料が保管されていないケースもありうる。
福井県財務規則によれば、証拠書類の保存年限に関する規程として「年度経過後 5 年と
する」ことを定めている(第 220 条)。そのため、5 年を超過した後に当該書類を破棄する
ことについては合規性上の課題とはならない。
現在の福井県における情報システム化の取組みを見てみると、予算執行の都合もあり、
おおよそ 6 年~7 年の期間での更新が推奨されている。これは、おおよそ情報システムの陳
腐化サイクルを 5~6 年と見積もった上で、より長く利用していくことを想定して取り組ん
でいるものである。こうした取組みが推奨される中、書類の保存期間を 5 年とすると、6 年
目又は 7 年目を迎える情報システムに関しては該当する書類が破棄されてしまう可能性も
ありうる。
通常、情報システムに関しては全く破棄するケースは少なく、おおよそ同様の機能を持
たせた情報システムへの更新が検討される。また、福井県をはじめとした地方自治体にお
いては、職員の異動もありうる。そのため、情報システムの更新時期には、これまで利用
していた情報システムの関連資料を参照するケースも少なくないと推定される。こうした
情報システム更新時における混乱を回避するためにも、情報システムに関連した書類につ
いては、利用可能時期に合わせた保存期間を設定することが望ましい。
この点、同財務規則 220 条では、但し書きとして「債権の消滅していないものその他特
別の事由があるものについては、この限りでない」旨を規定しており、例外的に保存期間
を設定することが容認されている。こうした背景を踏まえ、情報システムに関連する書類
の保存期間について検討していくことが望まれる。
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5.福井県財務規則とシステムの企画開発のフローに関する整理について
情報システムの企画開発を含む調達にあたっては、「情報システムのライフサイクル・マ
ネジメントシステムガイドライン(福井県 IT 調達ガイドライン)
」を参照し、業務主管課
が主体的に調達に関与することとされている。しかし、こうした規程は福井県財務規則上
に触れられておらず、通常の調達に際して遵守すべき規程との整合性が明瞭となっていな
い。
現状、
「福井県における IT 調達の標準化」と「業務主管課による主体的な調達と、政策
統計・情報課の関与」といった 2 つの視点から、
「情報システムのライフサイクル・マネジ
メントシステムガイドライン(福井県 IT 調達ガイドライン)
」が設置されている。
この点、一般的な調達に関する事務の流れと情報システムに関する事務の流れを比較す
ると、企画開発と検収の段階において大きく異なる。特に、企画開発を伴う情報システム
の調達に当たっては、執行伺を作成するまでにシステム企画書に基づく政策統計・情報課
職員との協議が要請されるほか、支出負担行為書の決済を受けた後も情報システム一式だ
けでなく基本設計書、詳細設計書、テスト結果報告書及び検収書といった書類に基づく検
収がなされる。
各主管課が情報システムを調達する場合には、こうしたガイドラインを遵守して手続を
行うこととなる。しかし、上位規程となる財務規則上には当該ガイドラインの遵守につい
て一切触れられていない。規程の整備に関する観点から、遵守すべき体系について整理す
ることが望まれる。
なお、一般的な調達と情報システムの調達の業務フローを取りまとめると、次ページの
通りである。
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【一般的な調達の流れ】
【情報システムの調達の流れ】
(出典;県からの聞き取りをもとに監査人が作成)
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6.ライフサイクルコストを意識した運用について
福井県では「情報システムのライフサイクル・マネジメントシステム実施要領」を定め、
情報システム最適化計画の着実な推進を図ることとしている。今回の監査の過程において
ライフサイクル・マネジメントに関連して検討すべき課題も識別されたことから、下記を
取りまとめた。
今回、監査の対象とした情報システムの中に、各県立高等学校が有する教育用のネット
ワークシステムがある。教育用のネットワークシステムの基本的な設計・コンセプトはど
の高等学校においても同様であり、大きな差異が無い。その上、所管する教育振興課の方
針として 7 年間の利用を前提とした調達がなされている状況にある。そのため、情報シス
テムの更新時期は 7 年サイクルで統一されることとなり、順次更新の時期を見極めること
ができるほか、中長期的な設備投資の観点から予算執行の平準化が図られる。こうした取
組みは全庁的な観点からも対応していくことが可能であり、将来的な投資計画のためにも
検討することが考えられる。
現状、情報システムの調達に関して福井県はこうした調達単位に関わらず、調達コスト
の削減を意識した取組みを行ってきている。また、サーバ統合環境基盤への移行が進んだ
こともあり、情報機器を調達するためのコストも削減されている。ただし、全ての情報シ
ステムについて、サーバ統合環境基盤へ移行できる状況でもない。そのため、現在把握し
ている情報システムに関して今一度、ライフサイクルコストの観点から最適な調達単位を
含めた検討をしていくことを期待する。
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