女性社員を優遇する施策を講じる際の留意点とは何か

人事管理関係
女性活躍推進に当たり、
女性社員を優遇する施策を講じる際の留意点とは何か
当社では今年、女性社員を多く採用したのを機に、女性社員がこれまで以上に活
躍できる環境を整備したい考えです。ついては、以下のような女性社員の優遇施策
を講じる際の留意点をご教示ください。
①営業社員に必要な女性らしい所作を身に付ける“エレガンス研修”を女性社員の
みに実施する
②管理職に対し、女性社員は定時に退社させるべく業務配分に留意するよう徹底する
③若手女性社員から配属の希望があれば、人事(採用担当)や営業・広報など人と
の関わりが多い職種に就くことができるよう、男性社員より優先的に聞き入れる
(京都府 F社)
男女雇用機会均等法 8 条に基づき、女性社員のために優遇施策を講じる
ことは許されるが、その優遇施策がかえって均等法の趣旨に反したもの
にならないよう注意が必要である
回答者 渡辺雪彦 わたなべ ゆきひこ 弁護士
(髙井・岡芹法律事務所)
1.男女雇用機会均等法について
消する目的で女性のみを対象としたり、女性を有
ご質問のケースは、女性社員のみを対象に、研
利に取り扱ったりする措置については、同法 6 条
修、業務配分への配慮、優先的な配属といった優
違反にはならないとされています。
遇施策を講じるというものですが、雇用の分野に
同法 8 条のいう「雇用の分野における男女の均
おける男女の均等な機会及び待遇の確保等に関す
等な機会及び待遇の確保の支障となつている事情
る法律(以下、均等法) 6 条では、配置、昇進・
を改善することを目的として女性労働者に関して
降格・教育訓練、福利厚生、職種・雇用形態の変
行う措置」
(以下、ポジティブ・アクション)の具
更、退職勧奨・定年・解雇・労働契約の更新につ
体例としては、女性社員が少ない職務に新たに女
いて、性別を理由とする差別的取り扱いが禁止さ
性社員を配置する場合に、その配置のために必要
れているため、このような措置は同条に違反する
な資格試験の受験を女性社員のみに奨励したり、
ようにも思われます。
女性社員が少ない職務や役職に従事するために必
しかし、同法 8 条では、
「前三条の規定は、事業
要とされる能力を付与する教育訓練に当たって、
主が、雇用の分野における男女の均等な機会及び
その対象を女性社員のみとすることなどが挙げら
待遇の確保の支障となつている事情を改善するこ
れます(労働者に対する性別を理由とする差別の
とを目的として女性労働者に関して行う措置を講
禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主
ずることを妨げるものではない」とも規定されて
が適切に対処するための指針 平18.10.11 厚労告
おり、これまでの女性社員に対する取り扱いなど
614 第 2 の14)
。
が原因で職場に事実上生じている男女間格差を解
128
労政時報 第3895号/15. 9.25
2.適法なポジティブ・アクションとは
修”となっていますが、女性の営業社員には「女
適法なポジティブ・アクションを行うに当たっ
性らしい所作」が必要ということになると、ジェ
ては、まず「雇用の分野における男女の均等な機
ンダーハラスメントに当たってしまうおそれがあ
会及び待遇の確保の支障となつている事情」が存
ります。そのため、会社が実施する研修としては、
することが前提となります。この点、
「支障となつ
性別にかかわらず営業に必要な能力を身に付ける
ている事情」とは、固定的な男女の役割分担意識
ためのセミナーを基本とすべきであると考えます。
に根ざすこれまでの企業における制度や慣行が原
因となって、雇用の場において男女労働者の間に
事実上格差が生じていることをいうとされていま
②管理職に対する女性社員への定時退社に向けた
業務配分の留意徹底について
す。そして、この格差は最終的には男女労働者数
「女性は定時に退社させるべく業務配分」とあり
の差となって表れるものと考えられることから、
ますが、なぜ女性のみ定時に退社させる必要があ
支障となっている事情の存否については、女性労
るのかという目的に立ち返って考えてみると、例
働者が男性労働者と比較して相当少ない状況にあ
えば、家事・育児のためということであれば、そ
るか否か、具体的には、日本の全労働者に占める
れは家事・育児は女性が行うものであるという性
女性労働者の割合を考慮して、一定の雇用管理区
別役割意識を前提にしており、均等法の趣旨に反
分(職種、資格、雇用形態、就業形態等による区
してしまいます。また、女性の体力面・健康面に
分)における職務・役職において女性労働者の割
配慮したということであったとしても、個人差が
合が 4 割を下回っているか否かにより判断するこ
あり、女性であることのみをもって一律に定時退
ととされています(平18.10.11 雇児発1011002、
社させるべく業務配分を行うのは行き過ぎである
平27. 1.23 雇児発0123第 1 )。
と思われます。また、このような業務配分が行わ
また、ポジティブ・アクションは、上記支障と
れてしまうと、給与や昇進に影響が出る可能性が
なっている事情を「改善することを目的」として
あり、本件措置がかえって女性にとって不利益に
いなければなりません。この点、一見改善するこ
なってしまうおそれがあります。
とを目的としているように見えても、実際には、
そこで、上記目的を達成するには、例えば、女
次項で見るとおり、その措置が男女役割分担意識
性に限らず個々の社員の事情を踏まえて対応する
に基づいており、かえって女性に不利益を与える
こととし、また、会社が一方的に業務配分を調整
結果になってしまっていることもあるので注意が
するのではなく、本人の申請に基づいて対応する
必要です。
ことなどが考えられます。
3.ご質問のケースについて
③若手女性社員からの配属希望の優先的聞き入れ
①
“エレガンス研修”
を女性社員のみに実施について
について
営業に占める女性社員の数が男性社員の数と比
人事(採用担当)
、営業、広報などの各職種に占
較して 4 割を下回っている場合に、女性社員だけ
める女性社員の数が男性社員の数と比較して 4 割
を対象として、営業に従事するために必要とされ
を下回っている場合であれば、女性からの配属の
る能力を付与するための研修を行うことは均等法
希望を優先的に聞き入れるということは均等法違
違反にはなりません(なお、現に営業に従事して
反には当たらないと思われます。
いる女性社員への研修ではなく、将来営業に就く
ただし、本件では優遇される女性社員が「若手」
ための研修である必要があります)。
に限られており、これには合理的理由が見いだし
ただ、本件研修の内容は、営業社員に必要な女
難いので、
「若手」という限定は外すべきであると
性らしい所作を身に付けるための“エレガンス研
考えます。
労政時報 第3895号/15. 9.25
129