第2部第1章 - 内閣府経済社会総合研究所

ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
第2部第1章
20 代未婚者における交際相手との結婚意欲
―男女による高まり方の違いと問題―
高見
1
具広
問題意識
本稿では、20 代未婚者における交際相手との結婚意欲を問題にする。そして、結婚意欲
が何によって喚起・左右されるか、その男女差に焦点を当てて検討するとともに、カップ
ルの結婚決定にあたって男女の結婚意欲がどう問題なのかについて考察する。
現代の少子化の要因のひとつに、平均初婚年齢の上昇に表される晩婚化の進行がある 6。
そして、晩婚化の背景には、未婚カップルにおける交際期間の長期化も関係しよう。例え
ば、国立社会保障・人口問題研究所「第 14 回出生動向基本調査」(2010 年)によると、
夫妻が出会ってから結婚するまでの平均交際期間は 4.26 年と、1987 年(2.54 年)に比べ
て 1.72 年長くなっている。交際期間の長期化は平均初婚年齢を押し上げている一因とい
える。
では、なぜ交際相手がいるにも関わらず結婚に進まないのか。カップルにおける結婚の
決定が、男女双方の結婚意欲が高い次元で釣り合うことで実現するものと考えるならば 7、
結婚決定の遅れには結婚意欲が鈍いことこそが問題となる。
といっても、現代の若者に結婚自体への関心がないのかというと、そうではない。前述
の「出生動向基本調査」を基にするならば、
「いずれ結婚するつもり」という意味での意欲
(未婚者の生涯の結婚意思)は依然高い水準にある 8。にもかかわらず結婚が進まない背
景には、出会いの機会に原因を求められる部分もあるが 9、交際相手がいる者でも、様々
な理由による結婚の「先延ばし」意識があり、それが交際期間の長期化や晩婚化をもたら
していると考えられる。そうすると、交際相手がいる者においては、
「いずれは結婚を」と
考えているか否かよりも、どういう場合に「近いうちに結婚したい」という意欲を持つ(持
てる)のかを議論する必要がある。特に、平均初婚年齢が 30 歳頃となる中、20 代の者が、
交際相手がいるにもかかわらず結婚を躊躇する背景には何があるのか。どうすれば結婚意
欲を喚起できるのか。本稿は、こうした問題関心から、20 代未婚者における交際相手との
結婚意欲を問う。
6
厚生労働省「平成 27 年人口動態統計月報年計(概数)の概況」によると、平成 27 年の平均初婚年齢
は、夫 31.1 歳、妻 29.4 歳であり、平成 7 年における夫 28.5 歳、妻 26.3 歳と比べて約 3 歳上昇している。
もっとも、交際開始のタイミングが遅くなっていることも平均初婚年齢の上昇に関係することが、同調査
からうかがえる。
7 妊娠先行型の結婚など、場合によっては結婚意欲の高まりを伴わずに、特定のきっかけで結婚が決まる
場合もあるが、本稿では議論しない。
8 「平成 25 年版厚生労働白書」を参照。2010 年調査において、
「いずれ結婚するつもり」
(男性 84.8%、
女性 87.7%)は、「一生結婚するつもりはない」(男性 10.4%、女性 8.0%)に比べて、大きな割合を占め
る。時系列的にみると、「いずれ結婚するつもり」の割合はやや小さくなっているものの、多数派である
ことに変わりはない。
9 岩澤・三田(2005)など参照。
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ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
では、何が未婚者の結婚意欲を左右するのだろうか。山田(2007)は、若者が結婚に進
まなくなった要因として、経済的要因、男女交際に関する社会的要因を挙げる。経済的要
因については、若者が稼ぎ出せる収入水準が低下する一方、結婚や子育てに期待する生活
水準が上昇して高止まりしていると論じる。なお、この期待水準の上昇には、未婚者が親
と同居して結婚を先延ばしできるという状況も関係する
10。また、男女交際に関する社会
的要因については、結婚しなくても男女交際を深めることが可能になったという意識変化、
および男女の交際機会の拡大にともなう魅力格差の拡大を挙げる。特に「恋愛と結婚の分
離」の中、交際相手のいる未婚者にとって「結婚のメリット、デメリット」といった「結
婚する理由」を考慮する必要が生じるようになったことを、未婚化の背景として論じる。
量的な実証研究の知見も、山田の議論と整合する部分が多い
11。まず、仕事の状況につ
いて、非正規雇用の男性は結婚意欲が低いなど、特に男性において結婚意欲を大きく左右
する
12。加えて、親との同居の有無 13、交際相手との同棲など 14、生活環境の影響が検証
されてきた。さらに、周囲からの影響については、友人関係の影響
トワーク有無による違いが検討されてきた
15、職場での異性ネッ
16。
本稿では、こうした既存研究をふまえつつ、データの特性を生かし、「交際相手のいる
20 代未婚者」にフォーカスし、現在の交際相手との結婚意欲を問う。このように対象を限
定する理由は、結婚意欲の高低がもつ意味が、対象とする未婚者の年齢層、また交際相手
の有無によって大きく異なりうるからだ。まず、結婚意欲の有無は、分析対象とする年齢
層によって意味合いが多分に異なろう。未婚者が多数を占める若年層に対象を限定するこ
とで、どういう者が「結婚はまだ先でいい」
「結婚するかわからない」と考え、どういう者
が「近いうちに結婚したい」と考えるのかの知見を得ることが可能となる
17。加えて、交
際相手がいる者といない者とでは、結婚意欲の意味合いが当然異なろう。本稿では、
「交際
相手のいる 20 代未婚者」について十分な分析サンプルが確保できるというデータの特長
を活かし、結婚意欲の高まり方が男女で大きく異なり、それがカップルの結婚決定におい
10
山田は、学卒後もなお、親と同居し、基礎的生活条件を親に依存している未婚者を「パラサイト・シ
ングル」と呼び、未婚化・少子化の大きな背景と位置づけている。山田(1999)も参照。
11 ここで挙げる先行研究は、必ずしも本章の対象とする、交際相手のいる者、20 代の者に限った知見で
はない。
12 永瀬(2002)は、男女とも非正規雇用の者ほど、結婚に利益があると感じない傾向があり、その背景
として、特に男性では、低所得であることが関係することを検証している。
13 菅(2011)によると、親との同居は結婚の阻害要因になる。
14 不破(2010)によると、交際相手と同棲している場合、同棲していない場合と比べて結婚意欲が高い
とはいえない。
15 釜野(2008)
、野沢(2005)など参照。
16 職場の異性ネットワークによる違いについては、内閣府経済社会総合研究所(2015)参照。
17 これに対して、未婚者割合が相対的に少なくなる 30 代後半~40 代層を対象とするならば、結婚意欲
が高いことは「意欲が高いけれど結婚して(できて)いない状態」をも含意しうるなど、20 代未婚者を
対象としたときとは結婚意欲が異なる意味をもとう。なお、未婚者のみを対象として結婚意欲を検討する
際には、結婚意欲の高い者ほど結婚し、未婚者の母集団から抜けやすいことからくるセレクションバイア
スに注意が必要である。この点からも、多くの男女が既婚者となる 30 代以降においては結果の解釈に困
難を伴うため、未婚者が多数派を占める 20 代に対象を限定したものである。
2
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「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
てどう問題なのかについて検討したい
18。データは、内閣府経済社会総合研究所が
2016
年に実施した「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票データを用いる。
2
結婚意欲はどう問題なのか
交際相手のいる 20 代の未婚男女の結婚意欲は、カップルの結婚決定においてどう問題
なのか。まず、個々の結婚意欲が結婚決定プロセスにおいてきわめて重要な要素であるこ
とから確認しよう。本データから、3 年前時点での交際相手との結婚意欲別に、その後の
カップルの結婚・別離の有無をみると
19(図
1)、男女とも、3 年前時点で「近いうちに結
婚したいと考えていた」者では、結婚(予定含む
20)の割合が大きく、結婚意欲が低かっ
た場合ほど、その後の別離の割合が高い。男女個々の結婚意欲は、カップルの結婚・別離
を大きく左右する要素と言えるだろう
21。
図1 3年前の交際相手との結婚・別離の有無
―男女別・3年前時点での結婚意欲別―
(3年前時点で20代の男女)
0%
20%
40%
60%
80%
100%
▼男性
62.7%
近いうちに結婚したいと考えていた
40.5%
将来的には結婚を考えていた
結婚するかどうかはわからなかった
結婚しないだろうと考えていた
▼女性
13.2%
30.9%
44.7%
68.9%
10.8%
5.1%
84.1%
73.8%
57.8%
将来的には結婚を考えていた
結婚しないだろうと考えていた
14.7%
17.9%
近いうちに結婚したいと考えていた
結婚するかどうかはわからなかった
6.4%
32.9%
9.6%
15.5%
14.3% 12.0%
結婚(予定含む)
4.4% 21.8%
32.7%
51.6%
73.7%
交際継続
別離
18
もっとも、本調査の設計(「3 年前に未婚で交際相手のいた者」を対象)にともなう未婚者サンプルの
偏りもあろう。
19本調査は、3 年前時点で交際相手のいた未婚者を調査対象にしており、その当時の状況とその後の結婚
決定プロセスとの関係を検討できるというメリットがある。なお、図 1 では、3 年前時点で 20 代だった
男女を対象とし、3 年前時点の結婚意欲と、その後の結婚決定有無との関係を検討している。
20 調査票では、
「結婚の予定」とは、「家族の承諾や周囲への公表等を行っている場合に限らず、お互い
の意思を確認し、結婚の合意がある場合」としている。つまり、本人の結婚意欲だけでなく、相互の意思
決定であることが大事な要件である。
21 もっとも、本図での結婚意欲は、3 年前時点の意欲について回顧式に尋ねたものであり、その後のカ
ップルの状況を反映したバイアスがある可能性を否定できない。
3
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「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
ここで、20 代の未婚カップルが結婚を決めるまでの障壁のひとつは、結婚意欲の高まり
方の男女差にある。男女別・年齢別に結婚意欲の分布を見ると(図 2)、
「25~26 歳」では
男女差が小さいが、「27~29 歳」においては、女性は男性に比べて「近いうちに結婚した
い」の割合が高いのに対し、男性では「将来的には結婚」の割合が高い。ここからは、男
女で結婚意欲の高まる年齢にズレがあり、27~29 歳頃においては、女性が近いうちの結婚
を希望しても、男性は「まだ先でいい」という意識にある場合が多いことがうかがえる
22。
図2 交際相手のいる未婚者の結婚意欲
―年齢別・男女別―
0%
20%
40%
60%
100%
80%
▼25~26歳
45.3%
16.1%
男性(N=236)
21.6%
女性(N=357)
28.4%
44.8%
10.2%
25.2%
8.4%
▼27~29歳
男性(N=341)
15.8%
43.7%
25.5%
女性(N=462)
近いうちに結婚したい
32.3%
37.4%
将来的には結婚
8.2%
29.0%
結婚するかわからない
8.0%
結婚しないだろう
図3 交際相手の結婚意欲についての推測
―男女別―
(「近いうちに結婚したい」とする20代未婚者)
0%
20%
60%
62.0%
男性(N=92)
女性(N=195)
40%
80%
22.8%
33.3%
48.2%
近いうちの結婚を考えていると思う
結婚は考えていないと思う
100%
3.3%12.0%
3.1% 15.4%
将来的には結婚を考えていると思う
わからない
これは、交際中のカップルにおいても、結婚意欲の男女差として感じられよう。20 代未
婚者のうち「近いうちに結婚したい」とする者に対象を限定し、男女別に「交際相手が結
婚をどう考えていると思うか」についての推測をみると(図 3)
、結婚意欲の強い男性にお
いては、その交際相手(女性)も「近いうちの結婚を考えていると思う」と推測する割合
が高い(62.0%)
。これに対し、女性においては、自身の結婚意欲が強い場合でも、交際相
手(男性)が「近いうちの結婚を考えていると思う」と推測する割合は 33.3%にすぎず、
22
図表は割愛するが、男性の結婚意欲(「近いうちに結婚したい」の割合)は、30 代前半(30~32 歳)
では 20 代に比べて高く、交際相手のいる未婚男性の 20%以上が「近いうちに結婚したい」とする。これ
に対し、女性では 30 代のほうが結婚意欲が高いという関係は認められない。
4
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「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
「将来的には」と推測する割合が 48.2%と高い。「近いうちに」と「将来的には」を合わ
せた割合では男女差は大きくないものの、近いうちの結婚となると、女性が結婚意欲を強
く持っても、交際相手の男性がそれに見合う結婚意欲を持ち合わせていないケースが多い
といえる。
このように、男性の結婚意欲の高まりは女性に比べて往々にして鈍いといえるが、カッ
プルの結婚決定プロセスにおいて男性の役割は無視できない。カップルで結婚を先に決め
た側をみると
23(図4)
、男性においては「自分が先」が多く(51.6%)
、女性においては
「結婚相手が先」が多いなど(41.9%)
、男性の意思決定が結婚決定プロセスにおいて重要
な役割を担っている。以上の検討から、カップルでの結婚決定において男性の役割が大き
いにもかかわらず、20 代においては、男性の結婚意欲が女性に比べて高まらず、それがカ
ップルの結婚決定の障壁となっている構図がうかがえる。
図4 カップルで結婚を先に決めた側
―男女別―
【3年前時点で20代の現在既婚者・結婚予定者】
0%
20%
51.6%
男性(N=1906)
女性(N=4870)
60%
18.8%
19.5%
自分が先
3
40%
41.9%
結婚相手が先
80%
100%
29.6%
38.7%
ほぼ同時
結婚意欲を左右するもの―男女の違い
3-1
結婚意欲有無の理由から
では、結婚意欲を喚起・左右する要因は、男女でどう異なるのか。本章では、先行研究
をふまえ、未婚者の結婚意欲を喚起・左右する要因として、大きく次の 3 つの観点から検
討する。つまり、①本人の状況(年齢、仕事、親との同居など)、②交際相手との関係性(交
際期間、同棲、コミュニケーションなど
24)
、③周囲からの影響(期待・プレッシャーな
ど)である。なお、この 3 つの要素が結婚意欲を喚起・左右する度合いは、男女で大きく
異なる可能性があり、以下で検討していきたい。
まず、結婚意欲のある 20 代の男女未婚者について、その理由を男女で比較することか
ら始めたい。表 1 をみると、男女とも「家族になりたいと思える相手だから」が結婚意欲
の理由として最も多いが、男女による違いもうかがえる。結婚意欲の理由のうち、挙げる
割合の男女差が大きいものをみると、男性が多く挙げる理由は、
「結婚相手に求める条件を
23 ここでの対象は、3 年前時点で 20 代未婚者であった者のうち、現在までに結婚した者、もしくは結婚
を決めた者(結婚予定者)である。設問は、既婚者、結婚予定者を対象とし、「結婚することを先に決め
たのはあなたでしたか。結婚相手でしたか」というもの。結婚のプロポーズが男性側からなされることが
多いという慣行を反映しているとも考えられる。
24 この中には、交際相手が結婚を望んでいることを受けて、自身の結婚意欲も喚起される場合も含む。
5
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「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
満たしていると思うから」
「相手が結婚を望んでいるから」であり、女性が多く挙げる理由
は、
「自分が特定の年齢になるから」
「婚期を逃したくないから」
「交際期間が長くなるから」
「子どもが欲しいから」「周囲からの期待・後押しがあるから」となっている。
ここから、結婚意欲が高まる背景には男女差があることがうかがえる。女性の結婚意欲
は、自身の年齢・婚期、出産願望や周囲の後押しによって喚起されるが、男性は異なり、
交際相手(女性)の意欲を受けて自身の意欲も高まる面、相手の見極めによってようやく
高まる面もあると考えられる
25。
表1 現在の交際相手との結婚意欲ありの理由(複数回答)
―男女別割合と男女差―
男女差
男性
女性
(男性%-女性%)
(N=92)
(N=195)
結婚相手に求める条件を満たしてい
51.1%
36.9%
14.2
ると思うから
家族になりたいと思える相手だから
64.1%
73.3%
-9.2
趣味・娯楽やボランティア活動など
25.0%
31.3%
-6.3
を一緒に楽しめるから
現在の交際相手を逃したくないから
30.4%
32.3%
-1.9
相手が結婚を望んでいるから
23.9%
12.3%
11.6
子どもが欲しいから
31.5%
47.7%
-16.2
周囲からの期待・後押しがあるから
9.8%
21.0%
-11.2
共通の友人・知人がいるから
7.6%
9.7%
-2.1
交際期間が長くなるから
17.4%
34.9%
-17.5
自分が特定の年齢になるから
19.6%
51.3%
-31.7
相手が特定の年齢になるから
21.7%
25.6%
-3.9
自分の仕事が軌道に乗るから
5.4%
1.5%
3.9
相手の仕事が軌道に乗るから
2.2%
4.1%
-1.9
諸事情でお互いの住む場所が遠くな
2.2%
1.5%
0.7
る予定があるから
婚期を逃したくないから
10.9%
35.9%
-25.0
その他
4.3%
3.1%
1.2
注:男女別割合についてそれぞれ上位5個の理由、男女差について10%以上の差がある理由について太字とした。
では、近いうちの結婚を考えていない 20 代の者において、その理由は何があるのか
26。
男女別にみると(表 2)、男性では「結婚する必要性をまだ感じないから」が多く挙げられ
るのに対し、女性では、「結婚を決めるタイミング、きっかけがないから」「交際相手の仕
事が安定しないから」が多く挙げられる。また、男女とも 2 割程度が「結婚後の経済状況
に不安があるから」を挙げている。この結果から、まず、特に男性の就業の不安定性と処
遇が、男性本人や交際相手にとってネックになっている様子がうかがえる。加えて、男性
では「結婚の必要性を感じない」という意識も、結婚に進まない背景を成している。逆に
25
図は割愛するが、結婚を予定している者について、結婚を決めた理由を男女別にみても、男性では「結
婚相手に求める条件を満たしていると思うから」が多く、女性では「子どもが欲しいから」「自分が特定
の年齢になるから」
「婚期を逃したくないから」
「交際期間が長くなるから」といった理由が多く挙げられ
た。
26 ここでいう「結婚意欲なし」は、
「近いうちに結婚したい」以外の者を扱い、なぜ近いうちに結婚した
いと考えないのかを検討している。つまり、「結婚するかわからない」「結婚しないだろう」のほか、「将
来的には結婚」とする者も集計対象として含まれることに留意したい。
6
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ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
女性では、
「結婚を決めるタイミング、きっかけ」が多く挙がっており、きっかけ次第では
結婚に進みうる状態の者も多いと推測される。
表2 現在の交際相手との結婚意欲なしの理由(複数回答)
―男女別割合と男女差―
男性
女性
男女差
(N=485)
(N=624)
(男性%-女性%)
結婚する必要性をまだ感じないから
34.8%
25.5%
9.3
結婚を意識して交際しているわけでは
12.6%
11.7%
0.9
ないから
結婚を決めるタイミング、きっかけが
23.5%
40.5%
-17.0
ないから
現在の交際の状態が心地よいから
14.0%
14.3%
-0.3
相手のことをもっとよく知りたいから
16.5%
15.4%
1.1
今は、仕事(または学業)にうちこみ
13.6%
12.5%
1.1
たいから
独身の自由さや気楽さを失いたくない
13.4%
18.4%
-5.0
から
結婚後の経済状況に不安があるから
20.4%
24.4%
-4.0
自分の仕事が安定しないから
17.9%
17.5%
0.4
交際相手の仕事が安定しないから
3.3%
17.5%
-14.2
自分もしくは相手がお互いの実家と良
4.3%
13.3%
-9.0
い関係が築けるか不安だから
金銭感覚が合わなさそうだから
2.5%
6.7%
-4.2
自分や相手がいい父親・いい母親にな
4.1%
9.9%
-5.8
れるか不安だから
結婚相手としてもっとふさわしい人が
7.2%
15.4%
-8.2
いるかもしれないから
その他
8.9%
9.6%
-0.7
注:男女別割合についてそれぞれ上位5個の理由、男女差について10%以上の差がある理由について太字とした。
3-2
仕事の状況と結婚意欲
次に、仕事の状況によって結婚意欲がどう異なるのか、男女の違いを含めて検討する(表
3)
。就業形態についてみると、男性では、本人が非正規雇用である場合と比べ、正規雇用
である場合に「近いうちに結婚したい」の割合が高い。また、女性では、交際相手(男性)
の就業形態が正規雇用である場合に、非正規雇用である場合と比べて「近いうちに結婚し
たい」の割合が高い。つまり、男性が非正規雇用であることは、本人・交際相手双方の結
婚意欲を阻害することがうかがえる。
収入については、男性において本人年収が「200 万円程度以下」と比べて「300 万円程
度」
「400 万円程度」「500 万円程度以上」である場合に「近いうちに結婚したい」の割合
が高く、
「結婚するかわからない」
「結婚しないだろう」の割合が低くなる
27。この点、女
性において、交際相手(男性)の収入と結婚意欲の関係をみると、交際相手の収入によっ
て結婚意欲に大きな違いはなく、男性が収入を気にするのと非対称な結果となっている 28。
27
なお、「500 万円程度」以上の高収入層の傾向はやや異なる可能性もうかがえる。
女性では交際相手の収入「わからない」場合に「結婚するかわからない」の割合が高いが、因果関係
の識別が困難であり(結婚を意識していない相手だからこそ収入にも関心がない可能性もある)、特段の
解釈は控えたい。
28
7
36
ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
本データからは、男性の収入について、男性自身の結婚意欲にはかかわるものの、交際相
手の女性にとって相手の収入は結婚意欲をそれほど左右しないことがうかがえる
29。
このほか、男性においては今後の就業見通しも結婚意欲に関係する。図 5 をみると、
「5
年後も就業継続可能」
「5 年後も勤続希望」について「あり」の場合、「なし」の場合と比
べて、「結婚するかわからない」の割合が低く、「将来的には結婚」の割合が高い。また、
「定年までの勤続希望」がある者では「近いうちに結婚したい」という結婚意欲が高いと
いう特徴がみられる。男性が仕事面でキャリア展望が描けるかどうかは、交際相手との結
婚に前向きになれるかどうかに大きく関わることが示唆される
30。
表3 交際相手のいる2 0 代未婚者の結婚意欲
―男女別・ 仕事の状況別―
男性
女性
近いうちに
結婚したい
将来的には
結婚
結婚するか
わからない
結婚しない
だろう
近いうちに
結婚したい
将来的には
結婚
結婚するか
わからない
結婚しない
だろう
▼本人・就業形態
正規雇用
20.0%
44.8%
28.4%
6.8%
24.1%
40.1%
27.3%
8.5%
非正規雇用
5.7%
52.9%
33.3%
8.0%
27.8%
39.5%
25.8%
6.9%
雇用以外
13.9%
27.8%
41.7%
16.7%
25.7%
31.4%
34.3%
8.6%
無職・学生
6.4%
40.4%
36.2%
17.0%
8.1%
50.0%
30.2%
11.6%
正規雇用
16.4%
44.7%
30.8%
8.1%
25.5%
41.8%
26.9%
5.9%
非正規雇用
16.3%
46.7%
25.9%
11.1%
15.1%
41.9%
29.1%
14.0%
雇用以外
5.9%
23.5%
52.9%
17.6%
29.3%
28.0%
29.3%
13.4%
無職・学生
16.3%
46.9%
32.7%
4.1%
12.5%
50.0%
23.2%
14.3%
6.9%
▼交際相手・就業形態
▼本人・収入
200万円程度以下
7.8%
43.5%
36.3%
12.4%
24.4%
39.8%
28.9%
300万円程度
18.3%
47.6%
27.8%
6.3%
23.9%
42.4%
27.2%
6.5%
400万円程度
23.6%
45.0%
23.6%
7.9%
19.8%
40.7%
24.4%
15.1%
500万円程度以上
17.8%
41.5%
33.1%
7.6%
25.0%
43.2%
15.9%
15.9%
200万円程度以下
14.2%
45.9%
31.7%
8.3%
24.1%
42.0%
25.0%
9.0%
300万円程度
22.5%
45.0%
25.8%
6.7%
25.8%
42.4%
22.7%
9.1%
400万円程度
20.5%
46.6%
30.1%
2.7%
26.0%
44.0%
22.0%
8.0%
500万円程度以上
9.6%
44.2%
30.8%
15.4%
25.5%
44.9%
21.4%
8.2%
わからない
12.3%
39.5%
34.2%
14.0%
21.3%
36.1%
35.4%
7.2%
▼交際相手・収入
29
なお、図表は割愛するが、女性における結婚決定有無と交際相手(男性)の収入の関係をみると、交
際相手である男性の収入は結婚決定の有無に大きくかかわる。男性の収入は、その交際相手の女性におけ
る結婚意欲を阻害するとは言えないが、実際に結婚するとなると、物理的な制約として働く可能性は否定
できない。
30 女性においては、本人の就業見通しは結婚意欲に関係しない。
8
37
ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
図5 交際相手のいる20代男性の結婚意欲
―今後の就業見通し別―
0%
20%
40%
60%
80%
100%
▼5年後も就業継続可能
あり(N=126)
なし(N=392)
23.8%
52.4%
15.1%
15.1%
34.9%
42.6%
8.7%
7.4%
▼5年後まで勤続希望
あり(N=64)
なし(N=454)
20.3%
59.4%
16.7%
17.2% 3.1%
43.0%
31.9%
8.4%
▼定年まで勤続希望
39.0%
あり(N=41)
なし(N=477)
近いうちに結婚したい
3-3
51.2%
15.3%
44.4%
将来的には結婚
結婚するかわからない
7.3%
2.4%
32.1%
8.2%
結婚しないだろう
交際相手との関係性と結婚意欲
次に、交際相手との関係性が結婚意欲にどう関わるのかを検討しよう。まず、交際期間
の長さと結婚意欲との関係をみると(図 6)、女性では大きな違いがみられない一方、男性
では交際期間の長さによる結婚意欲の違いがうかがえる。具体的には、「交際 1 年以内」
で「結婚するかわからない」の割合が高いのに対し、
「1 年超~3 年以内」
「3 年超~5 年以
内」
「5 年超」では、「わからない」が減り「将来的には結婚」の割合が増える。特に交際
期間「5 年超」では「近いうちに結婚したい」の割合が高いという特徴がみられる。20 代
において、交際期間が 1 年を超える頃から、男性は将来的な結婚を意識する人が多くなる
と読み取れるが、男性が近いうちの結婚を意欲するには 5 年超という長い交際期間を要す
ることがうかがえる。
次に、親との同居、交際相手との同棲の有無別に、結婚意欲の有無を検討する(図 7)
。
女性では、親との同居、交際相手との同棲によって結婚意欲に違いはみられない。一方で、
男性においては、
「親同居あり」の者で「結婚するかわからない」の割合が高い一方で、
「親
同居なし・同棲なし」の者で「将来的には結婚」
「近いうちに結婚したい」の割合が高くな
る。特に、
「親同居なし・同棲あり」の者で「近いうちに結婚したい」の割合が高い。男性
においては、親との同居有無や交際相手との関係性が結婚意欲を左右しよう
31。
31
ただ、後に計量分析で確認するように、同棲それ自体が結婚意欲を喚起するとは言い難い。図表は割
愛するが、同棲の有無は、交際期間の長さとの相関が強く、特に交際期間 5 年超の場合に同棲割合が高い
という特徴がある。同棲は交際相手との親密な関係性のひとつの指標であり、交際期間の長さのほうが、
結婚意欲との関係では関係性の指標として適していることが、計量分析で確認される。
9
38
ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
図6 交際相手のいる20代未婚者の結婚意欲
―男女別・交際期間別―
0%
20%
40%
60%
80%
100%
▼男性
交際1年以内(N=187)
11.8%
39.6%
交際1年超3年以内(N=157)
15.3%
交際3年超5年以内(N=121)
15.7%
38.0%
50.3%
28.7%
43.0%
24.1%
交際5年超(N=112)
10.7%
30.6%
45.5%
21.4%
5.7%
10.7%
8.9%
▼女性
20.6%
交際1年以内(N=243)
26.1%
交際1年超3年以内(N=241)
24.9%
43.3%
28.1%
交際5年超(N=171)
32.1%
41.1%
20.7%
交際3年超5年以内(N=164)
近いうちに結婚したい
39.9%
26.2%
38.6%
将来的には結婚
25.1%
結婚するかわからない
7.4%
7.9%
9.8%
8.2%
結婚しないだろう
図7 交際相手のいる20代未婚者の結婚意欲
―男女別、親との同居・交際相手との同棲有無別―
0%
20%
40%
60%
80%
100%
▼男性
親同居あり(N=246)
親同居なし・同棲なし(N=261)
親同居なし・同棲あり(N=58)
11.4%
43.9%
18.0%
35.4%
48.3%
27.6%
32.8%
25.7%
25.9%
9.3%
8.0%
13.8%
▼女性
親同居あり(N=404)
親同居なし・同棲なし(N=289)
親同居なし・同棲あり(N=119)
近いうちに結婚したい
25.5%
40.8%
21.1%
39.8%
25.2%
42.9%
将来的には結婚
結婚するかわからない
26.7%
29.8%
22.7%
6.9%
9.3%
9.2%
結婚しないだろう
交際相手との関係性について、交際相手との連絡頻度別に結婚意欲の有無をみると 32
(図
8)
、男性では、交際相手との連絡が「毎日」の場合に「結婚するかわからない」の割合が
低く、「近いうちに結婚したい」「将来的には結婚」の割合が高い。女性においては同様の
関係はみられず、連絡が「週 1 日程度以下」の場合に「結婚するかわからない」「結婚し
ないだろう」の割合が高いという特徴がみられる。男性においては特に、相手との密接な
32
ここで交際相手との連絡頻度とは、
「電話で話す」
「メールする」
「SNS」のいずれかでも行っている頻
度のこととする。
10
39
ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
連絡が結婚意欲と関係する可能性がうかがえる
33。
以上の検討からは、女性と比べて男性では、交際相手との関係性が結婚意欲と強く関係
し、相手との十分な交際を経た上で結婚意欲が高まることがうかがえた
34。
図8 交際相手のいる20代未婚者の結婚意欲
―男女別、交際相手との連絡頻度別―
0%
20%
40%
60%
80%
100%
▼男性
20.0%
毎日(N=355)
週2,3日程度(N=140)
48.5%
10.7%
週1日程度以下(N=82) 7.3%
25.6%
41.4%
38.6%
9.3%
39.0%
31.7%
5.9%
22.0%
▼女性
毎日(N=530)
24.5%
週2,3日程度(N=174)
25.3%
18.3%
週1日程度以下(N=115)
近いうちに結婚したい
3-4
44.7%
23.4%
37.4%
27.0%
将来的には結婚
32.2%
38.3%
結婚するかわからない
7.4%
5.2%
16.5%
結婚しないだろう
周囲からの影響と結婚意欲
ここでは、周囲との関係から結婚意欲が喚起される可能性について検討する。結論から
述べるならば、男性においては周囲との関係で結婚意欲が喚起される部分は少ない
35。唯
一、親戚・親類付き合いの有無によって差がみられた(図 9)。男女とも親戚・親類付き合
いがある場合とない場合に、結婚意欲に差がみられる。特に男性においては、親戚・親類
付き合いがある場合、「結婚するかわからない」「結婚しないだろう」の割合が低くなり、
「近いうちに結婚したい」「将来的には結婚」の割合が高くなる傾向がうかがえる。
女性においては、友人・知人との交流から結婚意欲が喚起される部分が大きい。図 10
で、結婚して子どものいる友人の有無と結婚意欲との関係をみると、男性ではそうした友
人数による結婚意欲の差は小さいが、女性においては、結婚して子どものいる友人が周囲
にいるほど、結婚意欲が高いという傾向がみられ、特に「大勢いる」場合、
「近いうちに結
婚したい」割合が高い
36。
33
なお、クロスセクションの分析からは「連絡頻度が毎日であるほど結婚意欲が高まる」とは必ずしも
言えない。
「この人と結婚したい(逃したくない)」と思える相手だからこそ連絡を密にとっているという
影響関係も十分に考えられる。特に、男女とも連絡が「週 1 日以下」の場合に結婚意欲が低いという結果
については、長期的な関係を持ちたいという気持ちにない相手だからこそ、連絡が週 1 日以下になると解
するほうが妥当かもしれない。
34 なお、交際相手と会う頻度(毎週会うかどうか)
、デートの過ごし方によって、結婚意欲に大きな違い
はみられなかった。
35 男性では、職場の上司・同僚との付き合い、知人・友人との付き合い、近所の人との付き合いなどは、
当データでは結婚意欲に関係していなかった。
36 図表は割愛するが、女性においては、友人・知人との付き合いの頻度が「年 1 回程度以下」の場合と
11
40
ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
図9 交際相手のいる20代未婚者の結婚意欲
―男女別、親戚・親類付き合いの有無別―
0%
20%
40%
60%
80%
100%
▼男性
17.8%
親戚・親類付き合いあり(N=444)
親戚・親類付き合いなし(N=133)
46.6%
9.8%
28.4%
36.8%
38.3%
7.2%
15.0%
▼女性
26.1%
親戚・親類付き合いあり(N=587)
18.1%
親戚・親類付き合いなし(N=232)
近いうちに結婚したい
41.1%
39.7%
将来的には結婚
27.1%
28.0%
5.8%
14.2%
結婚しないだろう
結婚するかわからない
図10 交際相手のいる20代未婚者の結婚意欲
―結婚して子どものいる友人の有無別・男女別―
0%
20%
40%
60%
80%
100%
▼男性
大勢いる(N=38)
13.2%
多少いる(N=273)
15.8%
あまりいない(N=152)
17.1%
ほとんどいない(N=114)
15.8%
44.7%
31.6%
47.6%
28.2%
42.8%
31.6%
38.6%
35.1%
10.5%
8.4%
8.6%
10.5%
▼女性
35.0%
大勢いる(N=100)
多少いる(N=376)
25.0%
あまりいない(N=179)
23.5%
ほとんどいない(N=164)
14.6%
近いうちに結婚したい
34.0%
19.0%
43.1%
26.3%
41.3%
38.4%
将来的には結婚
30.2%
31.7%
結婚するかわからない
12.0%
5.6%
5.0%
15.2%
結婚しないだろう
では、こうした周囲との関係はどのようにして当人の結婚意欲につながるのか。考えら
れるのは、周囲との関係を持つ人の場合、周囲からの期待やプレッシャーによって、
「ある
年齢になれば結婚するのが自然」といった規範を意識させられ、規範意識を通じて結婚意
欲に結びつく可能性である。むろん、プレッシャーばかりではない。周囲に結婚して子ど
もがいる友人がいれば、子どもをもつ(親になる)という、次のステージをイメージしや
すく、子どもを持ちたいという気持ちを喚起する可能性がある。この点、女性において結
比べて、
「月 1 回程度」
「年数回程度」ある場合に、
「近いうちに結婚したい」
「将来的には結婚」の割合が
高い傾向がみられた。男性においては同様の関係はみられない。
12
41
ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
婚して子どものいる友人の有無別に、結婚や出産に関する意識をみると(図 11) 37、そう
した友人が多くいるほど、
「ある年齢になれば結婚するのが自然」や「親になった自分をイ
メージできる」程度が高まるとともに、
「一生、子どもを持てなくてもかまわない」の程度
が下がる
38。20
代の女性において、先に結婚して子どもをもった友人の存在は、年齢的プ
レッシャーばかりでなく、親になることの意識や意欲を高め、結婚意欲を喚起するものと
考えられる
39。
図11 結婚や出産に関する意識(点数)
-結婚して子どものいる友人の有無別-
(20代の未婚女性)
1.8
2.0
▼ある年齢になれば結婚するのが自然
大勢いる(N=100)
多少いる(N=376)
あまりいない(N=179)
ほとんどいない(N=164)
▼親になった自分をイメージできる
大勢いる(N=100)
多少いる(N=376)
あまりいない(N=179)
ほとんどいない(N=164)
▼一生、子どもを持てなくてもかまわない
大勢いる(N=100)
多少いる(N=376)
あまりいない(N=179)
ほとんどいない(N=164)
4
2.2
2.4
2.6
2.8
3.0
2.84
2.63
2.56
2.20
2.50
2.32
2.17
2.01
2.03
2.18
2.41
20 代の未婚男女における結婚意欲の規定要因
4-1
20 代男性における結婚意欲の規定要因
ここでは、前節までの検討をふまえ、20 代の未婚男女における結婚意欲の規定要因を、
男女別に、基本属性を統制した多変量解析によって検討する。分析方法は多項ロジスティ
ック回帰分析とし、「結婚するかどうかはわからない」を基準として、「近いうちに結婚し
たい」「将来的には結婚」の規定要因を分析する
40。
まず 20 代男性の結婚意欲から検討しよう。前節でみたように、男性本人の状況につい
ては、正規雇用であるかどうかや将来的なキャリアの見通し、親との同居有無が結婚意欲
37
図 11 では、各項目について、
「そう思う」=4 点~「そう思わない」=1 点のように点数化して、その
平均点を比較している。
38 図表は割愛するが、こうした友人が多いほど結婚・出産に関する意識(
「ある年齢になれば結婚するの
が自然」「親になった自分をイメージできる」)が高まる関係は、男性においても同様にみられた。ただ、
図 10 でみたように、男性においては友人数と結婚意欲との関係が弱いことから、本稿では議論しない。
39 もっとも、20 代の女性は男性に比べて、周囲の状況の影響を受けることが多い年齢段階かもしれない。
「周りの交際状況が気になる」
「周りで結婚する人が多いと感じる」
「自らの交際を友人にオープンに話す」
といった各項目で、20 代後半の女性は男性よりもそう感じる度合いが高い。女性は、友人など周囲との
関係の中で結婚や規範を意識することを通じて結婚意欲を喚起されやすく、それが結婚意欲の男女差につ
ながっている可能性もうかがえる。
40「結婚しないだろう」の規定要因に関わる結果は本稿では表示しない。
13
42
ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
に関係する。また、交際期間や連絡頻度といった交際相手との関係性や、親戚・親類付き
合いからくる規範意識なども結婚意欲を左右する可能性がある。この点を検証したい。
投入する変数は、モデル 1 で、年齢、本人学歴、本人の就業形態、相手の就業形態、本
人の収入、相手の収入、5 年後も就業継続可能、定年までの勤続希望、交際期間、親同居・
同棲の有無、交際相手と会う頻度、交際相手との連絡頻度、親戚・親類付き合い有無を投
入し、モデル 2 では、規範意識に関わる「ある年齢になれば結婚するのが自然」変数を追
加で投入した。
表 4 交 際 相 手 の い る 20代 未 婚 男 性 に お け る 結 婚 意 欲
分析対象
交際相手のいる20代未婚男性
被説明変数
(基準:結婚するかどうかはわからない)
近いうちに結婚したい
モデル1
係数値
標準誤差
将来的には結婚を考えている
モデル2
オッズ比
係数値
標準誤差
モデル1
オッズ比
係数値
標準誤差
モデル2
オッズ比
係数値
標準誤差
オッズ比
年齢(基準:25~26歳)
27歳
-.397
.555
.672
-.454
.575
.635
-.511
.439
.600
-.507
.446
.603
28歳
-.037
.546
.964
.063
.556
1.065
-.465
.444
.628
-.443
.448
.642
29歳
-.638
.538
.528
-.629
.551
.533
-.808
.414
.446
-.780
.421
.458
本人学歴(基準:中学・高校)
短大・高専・専門学校
大学・大学院
-.154
.859
.858
-.044
.887
.957
.472
.554
1.603
.519
.561
1.680
.204
.487
1.226
.175
.503
1.192
-.225
.368
.799
-.273
.372
.761
.120
.447
1.128
.180
.451
1.197
-.115
.676
.891
.046
.677
1.047
1.449
本人の就業形態(基準:正規雇用)
非正規雇用
雇用以外
-1.946
.889
.591
.746
1.807
.143 *
-1.868
.914
.860
.770
2.363
.154 *
交際相手の就業形態(基準:正規雇用)
非正規雇用
雇用以外
無職・学生
.226
.538
1.254
.328
.549
1.388
.285
.409
1.330
.371
.413
-1.809
1.302
.164
-2.080
1.352
.125
-1.880
.967
.153
-1.996
.976
1.218
.810
3.381
1.429
.845
4.174
.631
.636
1.880
.771
.652
.136 *
2.162
本人の年収(基準:200万円程度以下)
300万円程度
.765
.608
2.148
.778
.628
2.177
.261
.444
1.298
.261
.449
1.298
400万円程度
.761
.670
2.140
.982
.699
2.671
.236
.511
1.267
.338
.514
1.402
500万円程度以上
.267
.715
1.306
.287
.737
1.332
.035
.529
1.035
.051
.531
1.053
交際相手の年収(基準:200万円程度以下)
300万円程度
.240
.605
1.271
.276
.619
1.318
.477
.472
1.611
.503
.472
1.654
400万円程度
-.258
.709
.773
-.372
.729
.689
.157
.572
1.170
.084
.577
1.088
500万円程度以上
-.217
.860
.805
-.135
.877
.874
.346
.657
1.414
.340
.664
1.405
わからない
-.240
.592
.787
-.075
.601
.928
.398
.427
1.489
.380
.429
1.462
5年後も就業継続可能(なし=0、あり=1)
.659
.452
1.933
定年までの勤続希望(なし=0、あり=1)
1.905
.772
6.718 *
.520
.465
1.683
.758
.376
2.133 *
.697
.380
2.008
1.815
.786
6.142 *
1.328
.712
3.774
1.303
.709
3.682
交際期間(基準:1年以下)
1年超~3年以下
.681
.491
1.975
.688
.502
1.989
1.043
.368
2.838 **
1.056
.370
2.874 **
3年超~5年以下
.661
.542
1.937
.721
.557
2.057
.909
.392
2.482 *
.941
.396
2.563 *
2.274
.552
9.715 *
2.357
.564
1.445
.446
4.240 **
1.478
.450
4.382 **
.432 *
5年超
10.560 **
親同居・同棲の有無(基準:親同居・同棲なし)
親と同居
交際相手と同棲
交際相手と毎週会う
-.840
.413
-.797
.423
.451
-.745
.312
.475 *
-.753
.314
.471 *
.068
.648
1.071
.277
.670
1.319
-.629
.557
.533
-.590
.560
.554
-.440
.440
.644
-.441
.448
.643
-.847
.337
.429 *
-.842
.339
.431 *
交際相手との連絡(週2、3日程度)
毎日
1.116
.475
3.052 *
1.098
.481
3.000
.459
.339
1.582
.445
.342
週1日以下
-.327
.740
.721
-.389
.749
.678
-.310
.498
.733
-.357
.499
.700
親戚・親類付き合い(なし=0、あり=1)
1.107
.517
3.024 *
.882
.530
2.416
.637
.343
1.890
.503
.353
1.653
.223
2.118 **
.166
1.432 *
ある年齢になれば結婚するのが自然
χ2乗値
自由度
-2 対数尤度
Cox と Snell
Nagelkerke
N
.751
142.66 **
166.638 **
.359
142.66 **
1.561
166.638 **
84
87
84
87
749.387
732.787
749.387
732.787
0.319
0.362
0.319
0.362
0.35
0.397
0.35
0.397
371
371
371
371
**1%水準で有意,*5%水準で有意
結果をみよう(表 4)。まずモデル 1 の結果から読む。
「近いうちに結婚したい」につい
ては、定年まで勤続希望であるほど、交際期間が「5 年超」であるほど、交際相手との連
絡が毎日であるほど、親戚・親類付き合いがあるほど、その確率が高くなる。逆に、本人
が非正規雇用であるほど、親と同居しているほど、その確率が低くなる。
「将来的には結婚
を考えている」については、
「5 年後も就業継続可能」であるほど、交際期間が「1 年超~
3 年以下」
「3 年超~5 年以下」
「5 年超」であるほど、その確率は高い。逆に、親と同居し
ているほど、交際相手と毎週会うほど、その確率は低い。
14
43
ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
分析結果から言えるのは次のことである。まず、20 代男性では、自身が非正規雇用である
場合、近いうちの結婚を希望しにくい
41。加えて、将来のキャリア展望も結婚意欲に関わ
る。この点、5 年後も就業継続可能であれば、将来的な結婚を見通せる。さらに、定年ま
で勤続を希望するなど、職業キャリアの長期的展望を描けていれば、近いうちの結婚にも
前向きになれる。また、交際期間が 1 年を超えると、
「将来的には結婚」といった、結婚
を意識した交際に移行しやすいが、
「近いうちに結婚したい」という意欲が高まるのは、5
年超の交際期間を要する
42。交際相手との連絡が「毎日」といった関係性の場合は、近い
うちの結婚に前向きとなる
43。また、親と同居している場合は、結婚を見据えた交際にな
りにくい。さらには、親戚・親類付き合いがない場合、結婚意欲が高まりにくい。
モデル 2 では、モデル 1 の変数に加えて「ある年齢になれば結婚するのが自然」変数を
追加で投入し、結果の変化を検討した。結果をみると、
「ある年齢になれば結婚するのが自
然」は係数値プラスで統計的に有意であり、こうした意識をもつほど結婚意欲が高い。注
目すべきは、
「近いうちに結婚したい」において有意な影響を示していた、親戚・親類付き
合い「あり」の係数値が 0 に近づき、統計的有意性が消滅していることである。ここから、
親戚・親類付き合いの頻度が高い男性ほど、
「ある年齢になれば結婚するのが自然」という
規範意識が高まることを通じ、結婚意欲に結びついていることがうかがえる。なお、
「親と
同居」についても、モデル 2 で係数がやや変化するとともに、有意性の消滅が見られた。
ここから、20 代後半まで親と同居することは、
「ある年齢になれば結婚するのが自然」と
いう規範意識が希薄となり、それが男性の結婚意欲を阻害する面もあると考えられる。
4-2
20 代女性における結婚意欲の規定要因
次に、20 代女性の結婚意欲を検討しよう。前節の検討でみたように、女性においては、
友人など周囲との関係が重要なファクターと考えられる。具体的には、既に結婚して子ど
ものいる友人との付き合いからくる結婚規範や意識の高まりが結婚意欲に関わる可能性が
ある。この点を検討したい。
投入する変数は、モデル 1 で、年齢、本人学歴、本人の就業形態、相手の就業形態、本
人の収入、相手の収入、交際期間、親同居・同棲の有無、交際相手と会う頻度、交際相手
との連絡頻度、結婚して子どものいる友人数であり、モデル 2 で「ある年齢になれば結婚
するのが自然」
「親になった自分をイメージできる」を追加で投入した。
41 表 3 では、男性自身の収入も結婚意欲に関わるように見えたが、表 4 の多変量解析では有意な結果を
示していない。収入による結婚意欲の違いは、雇用形態(正規雇用か非正規雇用か)の効果を間接的に示
していたものとうかがえる。
42 なお、図 7 では、交際相手との同棲があるほど、結婚意欲が高まるという関係がうかがえたが、表 2
の計量分析では有意な結果を示していない。同棲の有無は交際期間と関係が強く、図 9 の関係は、交際期
間の長短を反映していたものと考えられる。
43 ただ、これは、先に述べたように、因果関係の向きについて別の解釈もあろう。男性の場合、現在の
相手と結婚したい(逃したくない)と思う場合特に、毎日連絡をとる行動を取りがちという説明も可能だ
からだ。この点の解明は、今後の検証課題となる。
15
44
ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
表5
交 際 相 手 の い る 20代 未 婚 女 性 に お け る 結 婚 意 欲
分析対象
交際相手のいる20代未婚女性
被説明変数
(基準:結婚するかどうかはわからない)
近いうちに結婚したい
モデル1
係数値
標準誤差
将来的には結婚を考えている
モデル2
オッズ比
係数値
標準誤差
モデル1
オッズ比
係数値
標準誤差
モデル2
オッズ比
係数値
標準誤差
オッズ比
年齢(基準:25~26歳)
27歳
-.158
.346
.853
-.098
.358
.907
-.601
.305
.548 *
-.543
.312
.581
28歳
.267
.347
1.306
.360
.361
1.433
-.178
.305
.837
-.081
.314
.922
29歳
-.436
.384
.647
-.275
.397
.759
-.293
.319
.746
-.163
.327
.850
本人学歴(基準:中学・高校)
短大・高専・専門学校
大学・大学院
1.375
.387
3.956 **
1.384
.400
3.991 **
.701
.336
2.015 *
.712
.341
2.038 *
.819
.330
2.268 *
.841
.341
2.318 *
.310
.268
1.364
.294
.273
1.342
1.603
本人の就業形態(基準:正規雇用)
.476
.328
1.609
.709
.345
2.032 *
.297
.296
1.346
.472
.307
雇用以外
非正規雇用
-.376
.684
.687
-.031
.708
.970
-.245
.604
.783
-.036
.620
.965
無職・学生
-.868
.585
.420
-.564
.601
.569
.512
.415
1.669
.716
.427
2.045
交際相手の就業形態(基準:正規雇用)
非正規雇用
雇用以外
無職・学生
-.566
.470
.568
-.605
.485
.546
-.233
.373
.792
-.271
.383
.763
.585
.422
1.796
.538
.440
1.712
.052
.405
1.053
.017
.413
1.017
-1.017
.768
.362
-.945
.787
.389
.212
.506
1.236
.265
.516
1.304
本人の年収(基準:200万円程度以下)
300万円程度
.097
.365
1.102
.066
.380
1.068
.182
.324
1.199
.196
.332
1.216
400万円程度
.092
.518
1.097
.095
.529
1.100
.425
.433
1.530
.398
.443
1.489
500万円程度以上
.744
.648
2.105
.621
.661
1.861
.610
.599
1.840
.492
.610
1.636
交際相手の年収(基準:200万円程度以下)
300万円程度
-.233
.435
.792
-.360
.453
.698
-.026
.389
.974
-.124
.399
.884
400万円程度
-.394
.486
.674
-.569
.507
.566
.002
.424
1.002
-.120
.436
.887
.240
.440
1.271
.163
.450
1.177
-.369
.310
.692
-.428
.316
.652
500万円程度以上
-.347
.511
.707
-.528
.534
.590
わからない
-.720
.361
.487 *
-.806
.375
.447 *
交際期間(基準:1年以下)
1年超~3年以下
.703
.324
2.020 *
.710
.336
2.033 *
.351
.282
1.420
.374
.288
1.453
3年超~5年以下
.189
.369
1.209
.172
.384
1.187
.167
.312
1.182
.178
.320
1.194
1.111
.370
3.036 **
1.173
.381
3.233 **
.349
.333
1.417
.356
.337
1.428
5年超
親同居・同棲の有無(基準:親同居・同棲なし)
親と同居
.542
.283
1.719
.666
.294
1.947 *
.368
.249
1.444
.425
.256
1.530
交際相手と同棲
.442
.440
1.556
.688
.461
1.989
.562
.372
1.754
.759
.385
2.137 *
-.058
.277
.944
-.184
.287
.832
.253
.245
1.288
.172
.251
1.187
.146
.296
1.157
.075
.307
1.078
-.990
.434
-.953
.448
交際相手と毎週会う
交際相手との連絡(週2、3日程度)
毎日
週1日以下
.371 *
.386 *
.493
.267
1.638
.436
.272
1.547
-.669
.383
.512
-.656
.390
.519
.803
結婚して子どものいる友人数(基準:ほとんどいない)
大勢いる
.947
.481
2.578 *
.367
.504
1.443
.199
.427
1.220
-.219
.447
多少いる
.301
.369
1.351
-.088
.391
.915
.125
.300
1.133
-.114
.315
.892
あまりいない
.564
.420
1.758
.352
.435
1.422
.025
.351
1.025
-.151
.362
.860
ある年齢になれば結婚するのが自然(点数)
.358
.163
1.430 *
.335
.136
1.398 *
親になった自分をイメージできる(点数)
.688
.172
1.989 **
.348
.147
1.416 *
χ2乗値
自由度
145.478 **
198.249 **
145.478 **
198.249 **
87
93
87
93
-2 対数尤度
1310
1261
1310
1261
Cox と Snell
0.222
0.29
0.222
0.29
Nagelkerke
0.242
0.315
0.242
0.315
579
579
579
579
N
**1%水準で有意,*5%水準で有意
結果をみよう(表 5)。まずモデル 1 の結果から読む。
「近いうちに結婚したい」につい
ては、学歴が「短大・高専・専門学校」
「大学・大学院」であるほど、交際期間「1 年超~
3 年以下」
「5 年超」であるほど、結婚して子どものいる友人が大勢であるほど、その確率
は高い。逆に、交際相手の年収が「わからない」ほど、交際相手との連絡頻度が「週 1 日
以下」であるほど確率が低い。
「将来的には結婚を考えている」については、学歴が「短大・
高専・専門学校」であるほど確率が高く、年齢が「27 歳」であるほど確率が低い。
ここで注目すべき結果は、交際期間の影響と、結婚して子どものいる友人数の影響であ
る。まず、男性の場合と異なり、交際期間「5 年超」ばかりでなく「1 年超~3 年以下」の
場合も「近いうちに結婚したい」確率が高くなるのが特徴といえる。また、結婚して子ど
ものいる友人が周囲に大勢いる場合、女性の結婚意欲が高まることがうかがえる。
16
45
ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
モデル 2 では、モデル 1 の変数に加えて、規範・意識に関わる「ある年齢になれば結婚
するのが自然」
「親になった自分をイメージできる」変数を追加で投入し、結果の変化を検
討した。結果をみると、この両変数は係数値プラスで統計的に有意であり、こうした意識
をもつほど結婚意欲が高い。注目すべきは、「近いうちに結婚したい」のモデル 1 で有意
な影響をもっていた「結婚して子どものいる友人数」の係数値が 0 に近づき、統計的有意
性が消滅していることである。ここから、結婚して子どもがいる友人が周囲に多い女性ほ
ど、
「ある年齢になれば結婚するのが自然」や「親になった自分をイメージできる」という
意識が高まり、それが結婚意欲に結びついていることがうかがえる。
5
結論と考察
本稿では、交際相手のいる 20 代の未婚男女を対象に、その結婚意欲について議論した。
本稿の要点は以下のようにまとめることができる。
①カップルが結婚を決めるには、男女双方の結婚意欲が重要な条件である。しかし、20 代
後半においては、女性に比べて男性の結婚意欲が鈍く、カップルの結婚決定を阻害して
いる可能性がある。
②男性の結婚意欲は、正規雇用であるかどうかや将来的なキャリア展望を描けるかといっ
た本人の仕事によって大きく左右される。20 代後半まで親との同居があることも、結婚
意欲が高まらない要因である。加えて、長い交際期間、密接なやり取りなど、交際相手
との関係性も重要な要素である。これには、十分な交際を経て結婚への気持ち(覚悟)
が固まる面、相手の期待や意欲を感じ取ることによる意識変化があることが考えられる。
男性では(交際相手以外の)周囲からの影響で意欲が喚起される部分は多くないが、親
戚・親類付き合いがある場合に、規範意識の高まりを通じて、結婚意欲を刺激しうる。
③女性の結婚意欲は、友人関係など周囲からの影響によって喚起される部分が大きい。具
体的には、結婚して子どものいる友人数が周囲にいるほど、年齢(規範)を意識するの
みならず、友人がいわばロールモデルとして働き、子どもをもつ(親になる)という、
次のライフステージをイメージしやすくなり、移行に前向きになると考えられる
44。
本章の議論から、次のような含意を導くことができる。まず、20 代カップルの結婚決定
は、とりわけ男性の結婚意欲にかかっている。つまり、カップルの結婚決定において男性
の役割が大きいにもかかわらず、20 代後半においては、男性の結婚意欲は女性に比べて
往々にして鈍い。女性が近いうちの結婚を希望(期待)しても、相手の男性が「まだ先で
いい」という気持ちならば、結婚への移行は簡単には進まない。20 代カップルの結婚決定
のカギは、周囲からの影響や規範意識によって先に高まりやすい女性の結婚意欲に、男性
44
なお、こうした友人関係、親戚・親類付き合いを通じた規範意識の高まりは、大都市部よりも地方に
おいて高いなどの地域差、地元定着者など地域移動経験の有無によっても異なる可能性がある。今後の検
討課題としたい。
17
46
ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
が答えられるかにある。いっそうの晩婚化・未婚化を防ぐには、男性の結婚意欲をいかに
喚起するか、社会として条件を整える必要があろう。
では、男性の結婚意欲をどのように高めるか。まず、男性の場合、相手(女性)の結婚
意欲を受けて自身の意欲も高まる面があるほか、長い交際期間を経るなど関係を深める中
で、ようやく「この人と一緒にやっていこう」という気持ち(覚悟)が固まる面がうかが
えた。20 代の場合、女性のように年齢規範を意識することも少なく、周囲からのプレッシ
ャーも多く感じない中で、近いうちの結婚を考えるのは、交際相手からの心理的圧力(期
待・意欲)に依る部分も少なからずあるのは致し方ないかもしれない。とはいっても、男
性が「近いうち結婚」と思うまでに 5 年超かかるとしたら、女性が結婚を意識するタイミ
ングとは大きなズレがあり、交際の継続にも困難をきたす場合がありえよう
45。
それ以外の部分で、男性の結婚意欲を阻害する要素はないだろうか。この点、仕事の面
では、正社員である場合のほか、定年までの勤続希望がある場合に結婚意欲が高い傾向が
みられた。長期的な職業キャリアの展望を描けるならば、結婚しようという気持ちも高め
うる。非正規雇用がキャリア展望を描きにくい働き方であることは、言うまでもない。男
性が結婚して家庭をもつステージに移行する気持ちを妨げないためにも、安定的な職業キ
ャリア形成を支援することが重要な課題となろう。
また、親との同居も、男性が結婚に気持ちを向かわせられない背景を成している可能性
がある。男性が結婚によって得られるメリットとして、相手女性に一定の家事を期待する
と考えることもできるが、親(とりわけ母親)と同居している男性は、そのメリットを既
に享受している立場にあり、結婚によって得られる便益をイメージしにくく、結婚したい
という意欲も当然高まりにくいだろう
46。加えて、20
代後半まで親との同居が続けば、
「特
定の年齢になれば結婚するのが自然」といった規範意識も希薄になり、結婚意欲が喚起さ
れにくい面も考えられる。結婚して家庭をもつというステージに移行する前に、希望に応
じて、進学時や就職時などに離家を選択しやすいよう、社会として条件を整える必要があ
るといえるだろう
47。
45
図表は割愛するが、本データで、3 年前時点の交際期間別に、その後の結婚決定・交際継続・離別の
状況をみると(対象は 3 年前時点で 20 代の男女)、3 年前時点で交際 1 年以内だったカップルで別離割合
が高いのは妥当な結果として、交際「1 年超~3 年以下」のカップルでも、その後約 4 割が別離にいたっ
ている。交際「1 年超~3 年以下」の女性は「近いうち結婚したい」と考えがちという分析結果とあわせ
ると、男女の意識のズレがカップル別離の背景をなしている可能性も否定できないだろう。
46 こうした男性は、山田(2007)のいうように、結婚のメリットを描きにくいと考えられる。
47 もっとも、本データでは、男女とも、親との同居有無には本人の就業形態や収入がかかわっていた。
すなわち、非正社員であるほど、低収入であるほど同居割合が高い。離家を選択できるために、安定した
就業、一定の収入が不可欠であることは忘れてはならない。
18
47
ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
参考文献
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壁―非婚・晩婚の構造』勁草書房、第 4 章.
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子・三輪哲編著『結婚の壁―非婚・晩婚の構造』勁草書房、第 5 章.
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田中慶子(2010)
「友人力と結婚」佐藤博樹・永井暁子・三輪哲編著『結婚の壁―非婚・
晩婚の構造』勁草書房、第 9 章.
筒井淳也(2010)
「結婚についての意識のズレと誤解」佐藤博樹・永井暁子・三輪哲編著
『結婚の壁―非婚・晩婚の構造』勁草書房、第 6 章.
山田昌弘(1996)『結婚の社会学―未婚化・晩婚化はつづくのか』丸善.
山田昌弘(1999)『パラサイト・シングルの時代』筑摩書房.
山田昌弘(2007)『少子社会日本―もうひとつの格差のゆくえ』岩波書店.
19
48
ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
第2部第2章
結婚の意思決定と結婚意欲
三輪
1
哲
はじめに
結婚の意思決定のプロセスと、それを規定するメカニズムはいかなるものなのか。これら
の問いに対し、日本の若年者の意識調査データを用いて、計量的にアプローチするのが本稿
のねらいである。
結婚意思決定を促す要因として、本稿では特に社会経済的要因と意識・態度的要因へと注
目する。最初にあげた社会経済的要因の範疇では、非正規雇用であることや(永瀬 2002;
酒井・樋口 2005; 津谷 2011)
、あるいは階層の低さ(加藤 2004)や賃金の低さ(Keeley
1977)が結婚確率を下げることが指摘されている 48。ただしこれら社会経済的要因の影響は、
男女で効果の向きの違いが報告されてもいる。男性はそれらが低いほど結婚しにくくなる
のに対して、女性ではむしろ高くなるほど結婚しにくくなるとされる。女性の学歴(樋口・
阿部 1999; 津谷 2011)や収入(樋口・阿部 1999; 小椋・ディークル 1992)については、
結婚確率と社会経済的地位との関連が負になることが報告されている。
意識や態度的な要因では、結婚意欲ないしそれに類する意識が結婚選択へと影響するこ
とが、日本でも繰り返し実証されてきた(水落・筒井・朝井 2010; 坂本 2005; 滋野・大日
1997)。いずれもが、結婚意欲が高いほど、結婚確率が高まるという関連を実証している。
結婚にかんしては、男性での高階層性(地位が高いほど結婚が起きやすい)
、女性では逆
に低階層性、それから結婚意欲の正の効果というのが概ね一貫した知見で、定説というべき
かもしれない。だがこれら諸先行研究では、結婚のイベント生起やタイミングへの影響をみ
るのみで、結婚に至る意思決定プロセスへせまるという視点を持ちえていない。要するに、
交際のしやすさと交際から結婚への移行を分離できていないのに加えて、交際が継続でき
るのかであったり、自分から結婚の意思決定をしたのかそれとも相手が先に決定したのか
など、詳細なプロセスやメカニズムについての知見までは提供しえていないのである。
そこで本稿では、結婚への意思決定について若年者の考えの詳細とその変化をたどるこ
とのできる貴重な調査データを利用して、上述の未踏の課題へととりくむ。分析上の独自性
としては、意思決定の段階を分け、交際しているカップルがどの段階で社会経済的あるいは
意識的要因に影響を受けて結婚が近づいたり、遠ざかっていくのかを明らかにすることが
ある。そのうえで、結婚を決めるにあたっての理由をもとに、若年者の意思決定へ至るいわ
ば「思考回路」をも読み解くことを試みる。
このあと本稿では、次の 2 節にて、研究方法について述べる。それから 3 節では、どのよ
うな人が結婚しやすいのか、結婚にいたる過程のどの段階でどのような要因が影響するの
か、そしてまた結婚意欲が強い理由あるいは弱い理由とその後の結婚意思決定理由との対
応関係を、実証的に検討する。最後に第 4 節で、分析結果を要約するとともに考察をし、結
論を導く。
48
ただし、学卒直後の非正規雇用が結婚へと影響しないという知見もある(水落 2006)
。
49
ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
2
研究方法
2-1 データ
本稿で用いるデータは、内閣府経済社会総合研究所が実施した「結婚の意思決定に関する
意識調査 49」より得られた個票データである。同調査は、平成 28 年 3 月に、日本全国の 25
歳以上 35 歳未満の男女個人を対象におこなわれた。通常の調査と異なるのは、調査対象と
する条件に、
「3 年前には未婚であり、恋人として交際していた異性がいた者」で、かつ、
「現在も未婚で本人・交際相手ともに結婚経験がない者、または、現在は既婚で初婚同士で
ある者」に限定していることである。なお、実査は登録モニターに対して、インターネット
を介しておこなわれた。最終的な回収票数は、13321 となった。
このデータの何よりの強みは、上述のように複雑な条件ではあるが、それがつくことによ
り、22 歳以上 32 歳未満の若年者における交際から初婚にいたる過程をとらえやすい大規
模データが得られたことである。結婚選択の分析のための若年者調査データはさまざま存
在するが、多くのデータは未婚だけでなく既婚までも含む、あるいは未婚者のみでも交際相
手のいない者も多く含むため、実際に交際している人びとがその後どうなっていくかを検
討するにあたって、サンプルの小ささに伴う検出力不足に悩まされることがしばしばある。
理想的には、パネルデータを収集したいところではあるが、そうなれば調査費用や期間、サ
ンプル脱落などの問題をはらむため、それはそれで課題が残るものと思われる。したがって、
回顧的に、3 年前の交際時の情報を収集したこのたびの意識調査は、今回の目的のもとでは
現実的な次善の策として評価できる。
しかも、結婚の意思決定にかかわる変数については、客観的な属性から主観的な結婚意欲
や結婚理由まで、きわめて豊富に有する。それらを組み合わせて解析することによって、単
に結婚したかどうかというだけでなく、どのような段階でどの要因が影響を及ぼしていた
のか、あるいはどのような理由で結婚をためらっていた人がその後どのような理由で結婚
の意思決定をしたのか、など、従来迫りえなかった諸側面にまで検証をすることが可能とな
る。
表1 調査時点現在の結婚・交際の状況
現在、結婚をしている
現在、結婚の予定がある
3年前の
交際相手と 現在でも交際を継続している
現在は別れている
度数
5392
925
1432
5572
うち、別の相手と結婚
891
575
1100
3006
うち、別の相手と結婚予定
うち、別の相手と交際
うち、現在交際相手なし
13321
49
相対度数
0.405
0.069
0.107
0.418
0.067
0.043
0.083
0.226
1.000
調査のより詳しい情報は、第 1 部の石田論文を参照されたい。
50
ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
ここで、データに含まれる 13321 の回収票の内訳を、調査時点の結婚および交際状況を
もとに整理してみよう。表 1 が、その集計結果である。4 つに分類したカテゴリーのうち、
最も多いのは、3 年前の交際相手と結婚した人たちであり、全体の 4 割を占める。まだ結婚
はしていないがその交際相手と結婚予定 50がある人まで含めると、5 割弱にまで達する。な
かには、3 年前の交際相手とは別の人と結婚した人(予定も含む)も概ね 1 割いる。結婚を
せずに同じ交際相手と交際を継続しているものの割合も、だいたい 1 割程度であることが
確認される。
2-2 分析手法
使用する分析手法は、2 つに大別される。1 つは、結婚意思決定の規定要因を探るため
のロジットモデルである。もう 1 つは、非線形主成分分析である。
ロジットモデルは、カテゴリー従属変数の多変量解析法の 1 つとしてよく知られた手法
である。あるイベントの起きる確率そのものではなく、確率を対数オッズ変換したもの
(ロジット)を、独立変数の線形結合によって予測をする。これについては、現在では標
準的な分析法であるゆえ、多くの説明を要さないだろう 51。本稿では、結婚をしたか否か
を従属変数、3 年前の社会経済的属性や結婚意欲などを独立変数として分析をおこなう。
さらに本稿では、ロジットモデルの応用の 1 つで、Mare(1980)によって提唱された
トランジションモデルも用いて、さらなる分析に挑む。トランジションモデルの特徴は、
段階的に分かれていくイベントに対し、二項ロジットモデルを連立させて解く点にあ
る 52。たとえば教育達成の過程の分析において、第 1 段階で高校へ進学するか否か、進学
した人に対しては第 2 段階で高校を卒業するか否か、さらに卒業した人に対しては第 3 段
階として大学へ進学するか否か…というように、各々の段階ごとにイベント発生ロジット
に対する要因の効果を検証する。そして、先の段階で脱落した者は、後の段階では分析対
象から外れるようになっている。
交際から結婚までのトランジションを、図 1 のように模式化してとらえる。今回は、ま
ずは交際が継続するか否かを第 1 段階とする。そして継続した者(3 年前交際相手と別れ
なかった者)に限り、自分が先に結婚の意思決定をしたかどうか 53という第 2 段階の分析
をおこなう。それから、自分から意思決定しなかった者だけを対象に相手から先に結婚の
50
この調査では、ただ対象者本人が結婚を決めたというのではなく、互いの意思を確認し
たうえで結婚の合意があることをさして、結婚の予定と定義している。
51 詳しくは、Long(1997)などの成書を参照されたい。
52 各段階の選択ごとの誤差相関はみられなかったため、ネステッドロジットモデルではな
く、トランジションモデルを採用することとした。
53 結婚の意思決定を自分か相手かどちらが先にしたかについても、この調査ではたずねら
れている。そのおかげで、トランジションモデルで、自分から結婚を決めたのか、そうで
はなく自分より先に相手が決めたのかを、区別してとらえることができる。ただし、一方
の意思決定に加えて、同時にその相手方が受け容れたということまでも、これら変数の正
応答には意味が含まれているとみなければならない。
51
ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
意思決定をしたかどうか、すなわち第 3 段階の分析をする。これら 3 つの段階を経て、3
年前の交際相手と別れた人(第 1 段階で負応答をして脱落)
、自分から先に意思決定して 3
年前の交際相手と結婚した人(第 2 段階で正応答をして脱落)、相手から先に意思決定し
て 3 年前の交際相手と結婚した人(第 3 段階で正応答)
、別れることなく自分も相手も結
婚意思決定せずに交際継続中のもの(第 3 段階で負応答)の 4 つのパターンを順次識別し
ていく。そして各々の段階ごとに、どの要因が効果をもつのかを精査することができる。
図1 交際から結婚へのトランジションのフローチャート
本稿ではさらに、非線形主成分分析(PRINCALS)も使用する 54。こちらは、カテゴリ
カル主成分分析との別称で呼ばれることもあり、名義尺度変数、順序尺度変数、量的変数
をすべて同時に扱って、情報縮約することを可能にするモデルである。対応分析をより一
般化したものと位置付けてもよい 55。多数の変数の関連に基づき、できるだけ少数の次元
からなる空間でデータの持つ情報を再現しようとする。そうして、複数の変数のカテゴリ
ーのうち、どれとどれが同時に反応しやすいか、明らかにすることができる。分析結果
は、しばしば 2 次元ないし 3 次元の散布図にて、各カテゴリーの布置を視覚的に表現する
よう提示される。
今回についても、さまざまな結婚意思決定理由と、結婚意欲があった理由、もしくは意
欲がなかった理由との関連の全体像を読み解くために、3 次元散布図による視覚的検討を
おこなう。見方は非常に単純で、散布図内で近い位置にプロットされているカテゴリーほ
ど関連が強い、すなわちそれらの理由は同時に回答選択されやすいということである。
2-3 変数
さて、本稿での計量分析で用いる変数を説明しよう。以下述べる変数については、男女
別に平均値、標準偏差、最小値、最大値を表 2 に示している。
トランジションモデルにおいては、既に述べたように、結婚に至る過程の 3 つの段階そ
れぞれをあらわすダミー変数が従属変数となる。第 1 に交際継続のダミー変数、第 2 に自
分から結婚意思決定をしたことをあらわすダミー変数、そして第 3 には相手から結婚意思
54
55
非線形主成分分析については、Van de Geer(1993)に解説がある。
日本で広く知られた、数量化理論Ⅲ類と類似した原理・方法であるとみてもよい。
52
ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
決定したことをあらわすダミー変数である。なお、結婚意思決定の順番の質問の選択肢に
は「同時に」というものもあるが、これは本人も意思決定したということであるから、
「本人が先」と同じカテゴリーに合併している。
ロジットモデルおよびトランジションモデルでは、基本属性のうち、年齢を統制変数と
して含めている。それから社会経済的要因では、学歴を、中学卒は 9 年、大学卒なら 16
年というような教育年数に変換したうえで、独立変数として用いることとした。就労地位
は、非正規ダミー変数、自営ダミー変数、その他ダミー変数を用意した。これらを同時に
用いることで、正規が比較参照基準となる。年収は、なし、150 万円未満、450 万円以上
850 万円未満、850 万円以上の、4 つのダミー変数を用意した。なお交際相手の年収の選
択肢にかんしては、
「わからない」を提示したので、それもダミー変数化した。労働時間
は、月あたり 160 時間未満、240 時間以上の 2 つのダミー変数を用意した。学歴から労働
時間まで、これら社会経済的変数にかんしては、3 年前の回答者本人のものと当時の交際
相手のそれらとを対応付けるようにすべて用いている。
人間環境的要因についてであるが、本人が、自分の親と同居していたかどうかを示すダ
ミー変数を用意した。また、本人に限り、当時の住居での居住年数もたずね、量的変数と
して用いられる。相手の居住地との距離の近さは、一緒に住んでいたが 3 点、日常的に行
き来できる範囲に住んでいたが 2 点、日常的に行き来できない範囲に住んでいたに 1 点を
与え、量的変数として扱った 56。周囲の異性環境は、「特定の交際相手ではないがよく話
をする同年代の異性」の人数についての質問に、大勢いたという回答に 4 点、多少いたが
3 点、あまりいなかったに 2 点、ほとんどいなかったに 1 点を与え、量的変数として扱っ
た。周囲の結婚している知人というのは、「仲のよい友人のうち結婚して子どもがいる
人」の人数にかんして、先ほどと同じ選択肢でたずねられたものに対し、同様のスコアを
与えた。交際期間は、年を単位とした量的変数として用いることとした。
結婚意欲については、本人と、交際相手のもの 57が測定されている。結婚意欲のたずね
方はいろいろあるが、ここでは、
「3 年前の交際相手との結婚に関して、3 年前(平成 25
年 2 月頃)の時点であなたご自身はどのようにお考えでしたか」とのリード文で、選択肢
は「近いうちに結婚したいと考えていた」、「将来的には結婚すると考えていた」、
「結婚し
ないだろうと考えていた」のなかでいずれかを回答するように求められている。本来は、
結婚の早さをきいているように思うが、それを結婚意欲の強さと解釈し、近いうちへと 3
点、将来的へと 2 点、しないだろうに 1 点を割り当てて 58、量的変数化して独立変数とし
て用いることにした。
56
実際には、
「その他」というカテゴリーがあるが、これは中身を特定できないので、や
むなく 1.5 点を代入した。
57 ただしこの値は、調査対象者本人に、当時の交際相手の意欲の程度を推測して回答して
もらったものであることには注意が必要であろう。
58 これら以外に「結婚するかどうかはわからなかった」というカテゴリーがある。こちら
についても、やむなく 1.5 点を代入した。
53
ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
続いて、非線形主成分分析において使用する、理由の変数について述べる。3 年前当時
の結婚意欲の質問への回答が「1 近いうちに結婚したいと考えていた」の場合、その直
後で結婚意欲があったのはなぜなのか理由が聞かれている。また、そのほかの回答の場合
は、やはり直後で結婚意欲がなかったのはなぜなのか理由がたずねられている。それと、
結婚した者と結婚予定の者には、結婚を決めた理由も質問されている。
それらにかんして、どういった選択肢が揃えられていたのか、あるいはどのような文言
で提示されていたのかについては、以下の表 2 にまとめているので、そちらを参照された
い。以下に掲載した表 2 から、それぞれの選択肢の文章と、度数分布の基本傾向を知るこ
とができる。
表2 使用変数の記述統計量
交際継続
結婚移行
自分が意思決定
相手が意思決定
年齢
(歳)
本人教育年数 (年)
相手教育年数 (年)
非正規
本人就労地位 自営
その他
非正規
相手就労地位 自営
その他
なし
本人年収
150万円未満
450-850万円未満
850万円以上
なし
150万円未満
相手年収
450-850万円未満
850万円以上
不明
本人労働時間
相手労働時間
月160時間未満
月240時間以上
月160時間未満
月240時間以上
本人親との同居
居住年数
(年)
相手居住地との
(近さ3件尺度)
距離
周囲の異性環境 (多さ4件尺度)
N
mean
4724
0.50
2370
0.60
951
0.37
4724 27.61
4724 15.09
4724 14.63
4724
0.10
4724
0.05
4724
0.16
4724
0.21
4724
0.02
4724
0.19
4724
0.06
4724
0.18
4724
0.18
4724
0.01
4724
0.08
4724
0.19
4724
0.06
4724
0.00
4724
0.17
4724
0.25
4724
0.30
4724
0.33
4724
0.15
4724
0.45
4724 11.33
男性
sd
min max
0.50
0
1
0.49
0
1
0.48
0
1
2.73
22 32
2.01
9 18
1.88
9 18
0.30
0
1
0.22
0
1
0.37
0
1
0.41
0
1
0.15
0
1
0.39
0
1
0.24
0
1
0.38
0
1
0.38
0
1
0.11
0
1
0.27
0
1
0.39
0
1
0.23
0
1
0.06
0
1
0.38
0
1
0.43
0
1
0.46
0
1
0.47
0
1
0.35
0
1
0.50
0
1
9.96
1 35
N
mean
7589
0.65
4934
0.50
2468
0.72
7589 26.78
7589 14.60
7589 14.76
7589
0.27
7589
0.02
7589
0.15
7589
0.11
7589
0.05
7589
0.14
7589
0.07
7589
0.25
7589
0.04
7589
0.00
7589
0.05
7589
0.13
7589
0.13
7589
0.02
7589
0.24
7589
0.27
7589
0.20
7589
0.21
7589
0.40
7589
0.55
7589 12.78
女性
sd
min max
0.48
0
1
0.50
0
1
0.45
0
1
2.61
22 32
1.86
9 18
2.11
9 18
0.44
0
1
0.15
0
1
0.36
0
1
0.31
0
1
0.22
0
1
0.35
0
1
0.26
0
1
0.43
0
1
0.20
0
1
0.05
0
1
0.23
0
1
0.33
0
1
0.34
0
1
0.12
0
1
0.43
0
1
0.44
0
1
0.40
0
1
0.40
0
1
0.49
0
1
0.50
0
1
10.23
1 35
4724
1.90
0.55
1
3
7589
1.90
0.60
1
3
4724
2.56
0.86
1
4
7589
2.43
0.91
1
4
4724
2.39
0.88
1
4
7589
2.29
0.92
1
4
4724
4724
4724
3.57
2.04
2.02
2.78
0.63
0.70
1
1
1
19
3
3
7589
7589
7589
3.63
2.19
2.08
2.65
0.68
0.71
1
1
1
19
3
3
2351
0.48
0.50
0
1
5432
0.37
0.48
0
1
結婚意思決定 家族になりたいと思える相手だったから
理由
趣味・娯楽やボランティア活動などを一
緒に楽しめたから
2351
0.65
0.48
0
1
5432
0.73
0.45
0
1
2351
0.19
0.39
0
1
5432
0.25
0.43
0
1
当時の交際相手を逃したくなかったから
2351
0.17
0.38
0
1
5432
0.17
0.37
0
1
周囲の結婚して
(多さ4件尺度)
いる知人
交際期間
(年)
本人結婚意欲 (早さ3件尺度)
相手結婚意欲 (早さ3件尺度)
結婚相手に求める条件を満たしていると
思ったから
54
ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
相手の仕事が軌道に乗ったから
表2 (続き)
2351
0.29
0.45
2351
0.16
0.37
2351
0.05
0.22
2351
0.07
0.26
2351
0.06
0.24
2351
0.15
0.35
2351
0.13
0.33
2351
0.16
0.37
2351
0.07
0.25
2351
0.02
0.14
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
5432
5432
5432
5432
5432
5432
5432
5432
5432
5432
0.32
0.28
0.09
0.12
0.09
0.22
0.28
0.14
0.02
0.07
0.47
0.45
0.28
0.32
0.28
0.41
0.45
0.35
0.14
0.25
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
諸事情でお互いの住む場所が遠くなる
予定があったから
2351
0.02
0.14
0
1
5432
0.04
0.20
0
1
2351
2351
0.09
0.04
0.28
0.20
0
0
1
1
5432
5432
0.20
0.04
0.40
0.19
0
0
1
1
結婚相手に求める条件を満たしていると
思ったから
889
0.53
0.50
0
1
2422
0.44
0.50
0
1
家族になりたいと思える相手だったから
889
0.66
0.48
0
1
2422
0.73
0.45
0
1
趣味・娯楽やボランティア活動などを一
緒に楽しめたから
889
0.18
0.38
0
1
2422
0.23
0.42
0
1
相手の仕事が軌道に乗ったから
889
889
889
889
889
889
889
889
889
889
0.18
0.22
0.23
0.08
0.07
0.18
0.18
0.18
0.06
0.01
0.39
0.41
0.42
0.27
0.26
0.38
0.39
0.38
0.23
0.10
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
2422
2422
2422
2422
2422
2422
2422
2422
2422
2422
0.19
0.18
0.39
0.11
0.09
0.32
0.40
0.15
0.03
0.05
0.39
0.38
0.49
0.31
0.28
0.47
0.49
0.36
0.16
0.21
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
諸事情でお互いの住む場所が遠くなる
予定があったから
889
0.02
0.14
0
1
2422
0.03
0.18
0
1
結婚する必要性をまだ感じなかったから
889
889
1462
0.10
0.02
0.37
0.30
0.15
0.48
0
0
0
1
1
1
2422
2422
3010
0.26
0.03
0.28
0.44
0.16
0.45
0
0
0
1
1
1
結婚を意識して交際しているわけではな
かったから
1462
0.18
0.38
0
1
3010
0.17
0.37
0
1
結婚を決めるタイミング、きっかけがな
かったから
1462
0.39
0.49
0
1
3010
0.36
0.48
0
1
相手のことをもっとよく知りたかったから
1462
1462
0.14
0.14
0.34
0.35
0
0
1
1
3010
3010
0.13
0.18
0.33
0.38
0
0
1
1
当時は、仕事(または学業)にうちこみた
かったから
1462
0.12
0.33
0
1
3010
0.15
0.36
0
1
1462
0.15
0.36
0
1
3010
0.17
0.38
0
1
交際相手の仕事が安定しなかったから
1462
1462
1462
0.24
0.15
0.04
0.43
0.36
0.20
0
0
0
1
1
1
3010
3010
3010
0.24
0.10
0.17
0.43
0.29
0.37
0
0
0
1
1
1
自分もしくは相手がお互いの実家と良い
関係が築けるか不安だったから
1462
0.04
0.20
0
1
3010
0.11
0.31
0
1
金銭感覚が合わなさそうだったから
1462
0.03
0.18
0
1
3010
0.06
0.24
0
1
自分や相手がいい父親・いい母親にな
れるか不安だったから
1462
0.05
0.21
0
1
3010
0.08
0.27
0
1
結婚相手としてもっとふさわしい人がい
るかもしれなかったから
1462
0.08
0.26
0
1
3010
0.15
0.36
0
1
その他
1462
0.06
0.24
0
1
3010
0.08
0.27
0
1
相手が結婚を望んでいたから
子どもが欲しかったから
妊娠したから
周囲からの期待・後押しがあったから
共通の友人・知人がいたから
交際期間が長くなったから
結婚意思決定 自分が特定の年齢になるから
理由
相手が特定の年齢になるから
自分の仕事が軌道に乗ったから
婚期を逃したくなかったから
その他
当時の交際相手を逃したくなかったから
相手が結婚を望んでいたから
子どもが欲しかったから
周囲からの期待・後押しがあったから
3年前結婚意欲
共通の友人・知人がいたから
ありの理由
交際期間が長くなったから
自分が特定の年齢になるから
相手が特定の年齢になるから
自分の仕事が軌道に乗ったから
婚期を逃したくなかったから
その他
当時の交際の状態が心地よかったから
独身の自由さや気楽さを失いたくなかっ
たから
3年前結婚意欲
結婚後の経済状況に不安があったから
なしの理由
自分の仕事が安定しなかったから
55
ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
3
分析結果
3-1 結婚に至る要因
まずは、どのような人たちが結婚へと至りやすいのかを確認したい。表 3 は、3 年前の
交際相手とのあいだで結婚に至るか否かを判別するロジットモデルの分析結果である。な
お、男女に分けたうえで、事実として結婚する確率と、結婚の意思決定が済む確率とを、
分析対象とした。どちらの結果もそう大きな違いはないが、本研究プロジェクトの趣旨に
沿うように、後者の結果を優先して解釈する。
男性サンプルの推定結果で、社会経済的変数の効果に注目すると、それら要因が系統的
に結婚確率へと影響を及ぼしていることがわかる。一言でいえば、高階層性といえよう。
すなわち、社会経済的地位の高い男性ほど、結婚しやすい。男性本人の教育年数の係数は
プラスであるほか、非正規雇用ダミーの係数はマイナス、そして年収はやや曖昧ではある
ものの中程度の者を基準としてみると、低い層でマイナス、より高い層ではプラスとなっ
ている。ただし、年収の分布の両端ではそうした傾向から外れていることもわかる。
他方で、3 年前交際相手の女性属性については、結婚へと影響する要因はみあたらな
い。就労地位の「その他」というカテゴリーは、無職や学生などを含むのでマイナスなの
はとりたてて不思議でもない。また、相手年収の「不明」は、当時の交際相手のことをよ
く知らなかったということで、結婚に至らない程度の付き合いであった可能性もある。い
ずれも、社会経済的要因の効果として論ずるに値するとは思えない。
女性サンプルの推定結果では、交際相手の属性のほうで効果があり、本人の属性につい
てはそうではない。だがこれこそ、先にみた男性サンプルの結果と整合的であるというべ
きである。なぜなら、男性側の社会経済的地位が結婚へと影響し、女性側の地位は影響し
ないことを示唆するからである。諸要因のなかでも、年収については、むしろ女性サンプ
ルにおいて交際相手年収としてたずねられた男性側年収の効果のほうが、より仮説に符合
するクリアな結果となっている。男性の収入が高くなるにつれて、結婚する蓋然性はより
高くなっていく。ただしそれは中程度までであって、もっとも収入の高い層では反転して
結婚がおきにくい。男性の年収と結婚確率について、そうした曲線的な関係が浮かび上が
る。
労働時間については、顕著な影響はみられない。それが長ければ結婚確率を下げると予
測されたが、推定結果はその説を支持していない。意外ではあるものの、労働時間の長さ
が結婚の妨げとなっているわけではなさそうである。
居住にかかわる要因でみると、本人が親と同居しているかどうかにも着目したが、それ
らの影響がある様子は特になかった。また、3 年前当時の住居の居住年数にかんしても、
まったく効果はみられなかった。
だが 1 点、交際相手の居住地との距離は、結婚と関連がある。住んでいる距離が互いに
近いほど、結婚が起こりやすい。男女ともにほぼ同等の結果が観察されたため、これは安
定的な知見といえそうである。
56
ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
表3 3年後の結婚にかんするロジットモデルの推定結果
男性
結婚のみ
女性
結婚意思決定
結婚のみ
coef
s.e.
coef
s.e.
coef
.017
(.015)
-.022
(.014)
.042 ** (.011)
結婚意思決定
s.e.
coef
s.e.
.010
(.011)
-.012
(.016)
年齢
(歳)
本人教育年数
(年)
.060 ** (.023)
.063 ** (.021)
-.027
(.016)
相手教育年数
(年)
-.019
(.024)
.003
(.022)
.055 ** (.014)
.043 ** (.014)
本人就労地位(基準:正規)
非正規
自営
その他
-.605 ** (.160)
-.475 * (.201)
-.298
(.229)
-.456 ** (.145)
-.254
(.179)
-.302
(.209)
.039
.196
-.199
(.071)
(.185)
(.140)
.026
.180
-.206
(.072)
(.186)
(.139)
.020
(.107)
.045
(.276)
-.541 ** (.208)
-.025
-.157
-.417 *
(.103)
(.260)
(.188)
-.141
(.094)
-.535 ** (.129)
-.038
(.160)
-.087
(.093)
-.505 ** (.126)
-.042
(.157)
-.101
-.199
.306 **
-.094
(.258)
(.160)
(.102)
(.369)
-.032
-.266 †
.210 *
-.392
(.233)
(.147)
(.100)
(.361)
.102
-.117
.092
-.180
(.153)
(.085)
(.139)
(.518)
.145
-.067
.147
.016
(.150)
(.085)
(.142)
(.508)
.306
-.147
-.170
-.872
-.868 **
(.229)
(.148)
(.160)
(.658)
(.122)
.034
-.184
-.102
-.411
-.827 **
(.209)
(.137)
(.156)
(.601)
(.111)
-.525 **
-.235 *
.168 †
-.914 **
-.685 **
(.171)
(.105)
(.087)
(.232)
(.070)
-.538 **
-.213 *
.117
-.965 **
-.673 **
(.165)
(.104)
(.090)
(.227)
(.069)
-.111
.110
(.164)
(.086)
-.028
.052
(.152)
(.083)
.074
.131 †
(.102)
(.072)
.124
.092
(.101)
(.073)
-.168
-.036
(.137)
(.107)
-.013
-.013
(.128)
(.104)
-.324 *
.040
(.126)
(.061)
-.190
.068
(.124)
(.062)
-.042
(.096)
-.056
(.090)
.045
(.069)
.011
(.070)
-.007
(.005)
-.001
(.005)
.000
(.003)
.004
(.003)
相手就労地位(基準:正規)
非正規
自営
その他
本人年収(基準:150-450万円未満)
なし
150万円未満
450-850万円未満
850万円以上
相手年収(基準:150-450万円未満)
なし
150万円未満
450-850万円未満
850万円以上
不明
本人労働時間(基準:月160-240時間未満)
月160時間未満
月240時間以上
相手労働時間(基準:月160-240時間未満)
月160時間未満
月240時間以上
本人親との同居(基準:なし)
同居
居住年数
(年)
相手居住地との距離
(近さ3件尺度)
.197 ** (.047)
.140 ** (.047)
(.047)
-.137 ** (.031)
-.169 ** (.031)
-.340 ** (.051)
-.233 ** (.048)
-.153 ** (.032)
-.121 ** (.032)
.176 ** (.067)
周囲の異性環境
(多さ4件尺度)
-.054
周囲の結婚している知人
(多さ4件尺度)
.182 ** (.064)
(.050)
-.106 *
交際期間
(年)
.045 ** (.013)
.040 ** (.013)
.035 ** (.010)
.047 ** (.010)
本人結婚意欲
(早さ3件尺度)
.895 ** (.070)
.796 ** (.067)
.670 ** (.044)
.714 ** (.044)
相手結婚意欲
(早さ3件尺度)
.803 ** (.064)
.880 ** (.061)
.864 ** (.043)
.873 ** (.043)
-4.679 ** (.601)
-3.699 ** (.561)
-4.430 ** (.421)
-3.371 ** (.421)
定数項
Model Chi-squared
d.f.
Log Likelihood
1246.8 **
30
-2283.9
N of persons
1245.6 **
30
-2502.7
4724
1865.7 **
30
-4325.2
1829.5 **
30
-4295.0
7589
注) † p <.1 * p <.05 ** p <.01(両側検定)
結婚意思決定とは,結婚予定がある者も含めたことを意味する.
57
ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
周囲の人間関係要因については、負の効果が全般的に観察される。周囲によく話す異性
が多いほうが、結婚はむしろしにくい傾向にある。そしてまた、周囲に結婚している知人
が多いことも、結婚に対しては負の影響がある。
最後に、交際している 2 人の期間および結婚意欲についてだが、すべて正の影響がみら
れる。交際期間が長いほど、結婚は起きやすい。結婚意欲については、自分の結婚意欲は
もちろん、相手の結婚意欲も、それらが強いほど結婚しやすい。結婚したいという意識と
結婚をすると決めるのとは別ではあるが、これらの関連は至極当然ではある。
まとめると、結婚に正の影響を及ぼすものとして、男性側の社会経済的属性の高さや結
婚意欲の強さ、そして交際期間の長さと居住地の近さがある。逆に、負の影響を及ぼすも
のとしては、周囲の人間関係で異性の多さや結婚している知人の多さをあげることができ
る。
3-2 結婚までの過程における諸要因の影響
結婚をアウトカムとした分析結果は、既にみたとおりである。だがそれでは、結婚の意思
決定に至るプロセスにまで立ち入った検討はできない。そのためには、トランジションモデ
ルによる分析結果を待たなければならない。表 4 がその結果である。
結婚する意思決定までのプロセスにおいて、段階を分けると、どのような違いがみえるだ
ろうか。大きくいうと、社会経済的要因と、それ以外の要因とで、効果がある段階に違いが
あるといえる。
交際が継続するかどうかという段階では、社会経済的要因の効果はほとんどみられない。
例外的に、男性側の学歴と、男性の高収入層においてのみ、結婚への影響を確認することが
できる。これらの影響の符号は逆であり、男性の学歴が高くなるほど交際が継続しやすくな
る一方で、男性が高収入層に属するとむしろ交際は継続しにくくなる。
表 4 では、女性にかんしてのみ、親との同居が結婚の意思決定と関連していることがう
かがえる。親と同居している女性のほうが、女性自身から結婚を意思決定する確率が低いも
のの、相手の男性が先に意思決定する確率はむしろ高くなる。先の表 3 では、交際が続くか
どうかは分けていなかったために、こうした効果はみえなかったのだが、プロセスを区切る
ことで、思わぬ効果がみえるようになったわけである。
そのほかの要因では、居住年数の長さや相手居住地の近さは交際継続に対してプラスに
はたらき、周囲の異性や結婚している知人が多くなると交際の継続に対してマイナスには
たらくことがわかった。これらの要因のほとんどについては、男女ともに、交際継続の段階
のみで効果をもつものである点が強調できる。
さらには、交際期間の長さや結婚意欲の強さなども、交際継続に正の影響がある。すなわ
ち、二人の交際をより安定的にさせるものであるといえる。
58
ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
表4 3年後の結婚にかんするトランジションモデルの推定結果
女性
男性
交際継続
自分から意思決定
相手から意思決定
交際継続
自分から意思決定
相手から意思決定
coef
s.e.
coef
s.e.
coef
s.e.
coef
s.e.
coef
s.e.
coef
s.e.
-.012
(.013)
-.012
(.019)
-.021
(.034)
.017
(.011)
.008
(.013)
-.001
(.022)
.053 ** (.019)
.019
(.028)
.012
(.050)
.002
(.016)
.040 *
(.019)
-.061 †
(.032)
.014
(.020)
.006
(.030)
-.034
(.051)
.028 †
(.014)
-.045 ** (.017)
.070 *
(.029)
(.125)
(.155)
(.183)
-.240
-.186
-.011
(.187)
(.242)
(.278)
-.866 ** (.323)
-.183
(.396)
-.291
(.459)
.072
.339 †
-.167
(.072)
(.193)
(.139)
.074
-.107
.212
-.082
.043
-.355
(.145)
(.337)
(.277)
.127
-.098
-.137
(.095) -.198
(.134)
-.173
(.232)
(.230) -1.007 ** (.349)
.616
(.495)
(.165) -.024
(.255) -1.237 ** (.456)
.027
-.243 *
-.026
(.094)
(.124)
(.154)
.070
.077
.366 †
-.019
-.041
.123
-.598 †
(.200)
(.126)
(.095)
(.330)
.038
-.349 †
.199
.827
(.302)
(.194)
(.134)
(.608)
.201
-.009
.186
-.128
(.149)
(.085)
(.143)
(.496)
-.229
-.191 †
-.367 *
-.707
(.179)
(.099)
(.155)
(.658)
.124
.057
.510 †
.602
(.285)
(.168)
(.292)
(.911)
.001
-.209 †
.146
-.117
-.472 **
(.181)
(.121)
(.152)
(.550)
(.095)
-.355
-.064
-.096
-.930
-.420 **
(.275)
.307
(.180)
-.104
(.206)
-.653 †
(.857)
-.981
(.149) -1.616 **
(.502)
(.301)
(.382)
(1.266)
(.284)
-.284 †
-.125
.082
-.748 **
-.482 **
(.162)
(.104)
(.091)
(.217)
(.069)
-.226
.032
.023
-.744 *
-.214 *
(.205)
(.124)
(.095)
(.308)
(.084)
-.790 *
-.495 *
.099
-.813 †
-.823 **
(.313)
(.205)
(.196)
(.425)
(.136)
.139
-.050
(.136)
(.078)
-.249
.187 †
(.198)
(.112)
(.326)
(.196)
.097
.045
(.102)
(.073)
.052
.105
(.117)
(.081)
.126
.145
(.195)
(.153)
(.117)
(.098)
.134
.038
(.172)
(.140)
(.289)
(.241)
-.240 †
.012
(.123)
(.063)
-.105
.071
(.149)
(.069)
.057
.162
(.240)
(.124)
-.069
(.082)
.141
(.119)
-.242
(.205)
-.095
(.070)
-.199 *
(.080)
.311 *
(.138)
(年)
.008 †
(.004)
-.014 *
(.006)
-.011
(.010)
.005
(.003)
.000
(.004)
-.001
(.007)
相手居住地との距離
(近さ3件尺度)
.265 ** (.060)
-.013
(.084)
-.042
(.148)
.154 ** (.048)
-.001
(.052)
.078
(.095)
周囲の異性環境
(多さ4件尺度)
-.121 ** (.043)
-.025
(.063)
-.115
(.113)
-.240 ** (.032)
-.004
(.035)
.065
(.062)
周囲の結婚している知人
(多さ4件尺度)
-.189 ** (.043)
-.046
(.063)
-.140
(.112)
-.135 ** (.033)
.011
(.037)
-.066
(.065)
(.018)
.052 †
(.031)
.095 ** (.011)
.004
(.011)
-.091 ** (.019)
(.180)
.583 ** (.045)
1.135 ** (.059)
.300 ** (.100)
1.641 ** (.160)
.677 ** (.044)
-.449 ** (.055)
1.465 ** (.097)
-2.450 ** (.421) -1.712 ** (.488)
-2.409 ** (.855)
年齢
(歳)
本人教育年数
(年)
相手教育年数
(年)
本人就労地位(基準:正規)
非正規
自営
その他
-.158
-.082
-.279
(.082)
(.210)
(.164)
相手就労地位(基準:正規)
非正規
自営
その他
本人年収(基準:150-450万円未満)
なし
150万円未満
450-850万円未満
850万円以上
.407
-.079
.626 *
-.524
(.525)
(.317)
(.248)
(1.100)
(.109)
-.455 * (.177)
(.155) -1.045 ** (.249)
(.192)
-.372
(.313)
相手年収(基準:150-450万円未満)
なし
150万円未満
450-850万円未満
850万円以上
不明
本人労働時間(基準:月160-240時間未満)
月160時間未満
月240時間以上
-.225
.306
相手労働時間(基準:月160-240時間未満)
月160時間未満
月240時間以上
-.194 †
-.099
.612 *
.328
本人親との同居(基準:なし)
同居
居住年数
交際期間
(年)
.047 ** (.012)
-.033 †
本人結婚意欲
(早さ3件尺度)
.619 ** (.063)
1.257 ** (.101)
相手結婚意欲
(早さ3件尺度)
.615 ** (.056)
.132
(.086)
-.268
定数項
-2.918 ** (.506) -2.127 ** (.767)
Model Chi-squared
d.f.
Log Likelihood
N of transitions
1652.5 **
92
-4746.6
8045
-1.591
(1.328)
2876.5 **
92
-8577.3
14991
注) † p <.1 * p <.05 ** p <.01(両側検定)
太字は「自分から意思決定」の係数との差(交互作用)が両側10%有意であること,太字斜体は両側5%有意であることをそれぞれ示す.
59
ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
第 2 の段階として設定したのは、自らが先に結婚の意思決定をする段階である。そこで
結婚意思決定をするか否かを分かつ要因は、男女でやや異なる結果が出ている。たとえば、
男性サンプルにおいて学歴の効果がみられないのに対し、女性サンプルでは本人学歴が正
で、相手学歴が負の効果がとらえられている 59。他にも、女性サンプルで本人年収の中間層
を頂点とした上に凸の曲線形で年収と結婚意思決定との関係が描かれるが、男性サンプル
の結果ではそれに相当するものは見当たらない。さらには親との同居や居住年数の効果に
ついても、結果が必ずしも男女間で一致しない。
結婚意欲にかんしては、本人の結婚意思決定に対しては自身の結婚意欲がもっぱら影響
するという知見を得た。交際相手の結婚意欲はというと、自分ではなく相手が先に結婚の意
思決定をする確率を高めるというように作用している。
第 3 の段階としたのは、本人が意思決定をせずに、相手が先に結婚の意思決定をすると
いうものである。これについては、女性本人の学歴が高いほど交際相手の男性から結婚意思
決定されにくいこと、交際相手たる男性の学歴が高いほうが相手からの結婚意思決定がな
されやすいことがわかった。交際していた男性が非正規や自営だと、正規の場合に比べて、
男性のほうから意思決定はしにくいこともまた明らかとなった。また、交際相手である男性
の年収の逆 U 字に近い曲線形の効果も、表 3 に類似したものが再現された。要するに、先
ほどみた結婚生起に対する社会経済的地位の効果というものは、概ね、男性の意思決定にお
いて顕現しているものとみることができるのである。
注目すべきは、交際期間の効果である。これは、男性の本人意思決定段階において、およ
び女性の相手決定段階において、要するに男性の意思決定で負の影響を与えていることだ。
この知見は、交際が長く続いた後では、男性は結婚へと踏み出さなくなることを意味する結
果である。
それから結婚意欲では、本人の意欲はここではそれほど大きな効果があるわけではなく、
相手の結婚意欲こそが強い正の効果をもつことがうかがえる。交際相手の意思決定なのだ
から、これもまた納得のいくところではある。
知見を整理すると、親や友人など人的な環境は交際継続に効き、結婚の意思決定の要因は
それぞれの結婚意欲と男性側の社会経済的属性により概ね決定されるとみることができる。
3-3 結婚意欲がある人にとっての結婚意思決定までの考えの筋道
続いて、結婚意思決定の理由へと着目し、それらさまざまな理由が、3 年前のどのような
結婚意欲があった理由、あるいはなかった理由と対応しているのかを検討する。ここでは 3
次元空間にいろいろな意思決定理由を布置することとなるが、図の見方としては、理由同士
が近くに位置していればそれらは同時に回答される傾向があること、逆に遠い位置にあれ
ばそれらは同時には回答され難いものであることを意味する。図の原点付近であれば、どれ
59
今回の分析は、意識や人間関係を除けば、だいたいカップルの両方の状態を知ることができ
るので、いずれも独立変数として投入しているが、サンプルの大きさゆえか、どちらかといえ
ば女性サンプルの結果のほうがクリアな結果であるように思える。
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ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
図2-1 結婚意思決定理由と結婚意欲ありの理由:同じ相手・男性
図2-2 結婚意思決定理由と結婚意欲ありの理由:同じ相手・女性
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ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
とも同程度に関連するということで、さしあたって特徴がみられない理由ということにな
るだろう。これについては積極的に解釈はしない。
まず図 2-1 より、3 年前に交際相手と結婚意欲があり、なおかつ、その後同じ相手と結婚
した男性の理由の回答にみられる関連を読み解く。交際していた相手と結婚した相手が同
じであることから、3 年前に結婚意欲があった理由と結婚意思決定の理由とが、きれいに対
応付いていることがわかる。たとえば、図の下のほうで、結婚意欲ありの理由としての「家
族」という回答(有:家族と略記)が、結婚意思決定理由での「家族」という回答(結:家
族と略記)と近い位置にプロットされているのが確認できる。他の理由についても同様で、
ほとんどが 3 次元座標軸において結婚意欲ありの理由と結婚意思決定理由とがだいたい近
いところにある。つまり、この図であらわされているのは、交際からスムースに結婚に至っ
た対象者たちの意識空間であるので、思っていた通りに結婚していった様子がうかがえる。
ただし、理由はいくつかのクラスターへと分けられる。第 1 に、年齢を理由とするクラス
ターである。図の右上に、本人や相手の年齢を理由に結婚したがり、そして実際に結婚に至
ったとする回答がかたまっている。婚期を理由とする回答も、位置的にはやや距離があるも
のの、ベクトルの方向性としては類似しており、このクラスターと一部重複するとみてよい。
第 2 に、図の上方にある、仕事を理由とするクラスターである。こちらについても、自分
の仕事が軌道にのったことも、相手の仕事が軌道にのったことも、ほぼ同じような回答パタ
ーンがなされていることがうかがえる。
第 3 に、結合とでも呼ぶべきか、互いに結びつきたい理由が重なる右下のクラスターであ
る。ここには、相手を逃したくない、相手が望んだから、交際が長くなった、子どもが欲し
いなどの理由が含まれる。
そして第 4 に、相性というべき理由のクラスターである。これは図の下にあり、趣味が合
うことや、家族になりたい相手だとする理由が含まれている。
こうした 4 つのクラスター内では、1 つを回答するならばクラスター内の他のものもあが
りやすいというわけだ。そんななか、妊娠したことを結婚の意思決定理由とする回答は、他
から浮いた位置にあることも興味深い。それは男性にとっては突発的な自体で、3 年前に結
婚を望む理由などとはほとんど関係がないのである。
次に図 2-2 から、
結婚意欲があって交際していた人とそのまま結婚した女性についても、
回答パターンをみてみよう。原点付近に多くの理由が布置することでわかるように、女性で
は構造が明確ではない。言い換えれば、それぞれの理由が緩やかに関連しあっており、局所
的に強く相関する様子があまりない。
それでもクラスターはいくつかみられ、その最も顕著なものは、図の右上に位置する、相
手を逃さないとする理由を中心としたクラスターである。男性でも似たクラスターはあっ
たが、実のところ意味はまったく異なる。というのも、男性のそれは、相手を逃したくない
だけでなく、相手が望んだとか、交際が長くなったなど、相手の都合も同時反応していた。
しかし女性のクラスターでは、自分にとって相手が条件を満たしていた、自分の婚期など、
62
ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
明らかに自己都合な理由がかたまっているのである。相手を逃したくないから結婚すると
いう背景には、男女間で意味の違いが隠れているとみることができよう。
第 2 のクラスターとして、図の下にある、仕事を理由とするものがあげられる。それから
第 3 のクラスターは、左の妊娠を中心としたクラスターである。男性と異なり、交際時の結
婚意欲ありの理由や結婚意思決定理由でその他との答えが、妊娠との結婚理由と重なる。そ
の他の中身は残念ながらうかがいしえないが、妊娠というトリガーが単に偶発的に理由と
されているだけではないようにも思える。
残りの理由は、原点近くにばらついている。それらから少しだけ離れたところに、子ども
が欲しかったからという理由が位置する。つまり女性にとっては、この理由は他から区別さ
れて独立に存在するものなのである。男性の場合は、子どもが欲しいという理由は相手と結
びつく形であらわれていたが、女性はまったく事情が違うことを示唆し、男女の違いを浮き
彫りにしている。
では、3 年前の交際相手と結婚相手が異なるときはどのようになるか。それは、男性につ
いては図 3-1、女性は図 3-2 をみることにより理解することができる。どちらの図も、先に
みた図 2-1 や図 2-2 と比べて、構造がより明確ではない。1 つ 1 つがばらついていることも
あるが、それ以上に顕著なのは、結婚意欲ありの理由と結婚意思決定理由とで、各々の理由
の項目が一致していないことだ。一目瞭然なことだが、対応するはずの内容の理由が、まっ
たく違う位置にプロットされているのである。これは、そもそも対象としている相手が違う
のだから、むしろ当然のことなのかもしれない。
それでもなお、婚期や年齢といったものは、結婚意欲ありの理由と結婚意思決定の理由と
が、図 3-1 の中では比較的近い位置にある。どちらも結婚にかんする規範の影響を受けやす
いものであることが、こうした結果を生み出しているのであろう。
図 3-2 は、詳細な理由の内容が同じである結婚意欲あり理由と結婚意思決定理由とが近
くには位置しないが、その代わりに、別のまとまりができている。第 1 に、結婚意欲があっ
たクラスターで、図の上部が該当する。このエリアには、結婚意欲があったことの理由がい
ろいろ並んでいる。
第 2 には、図の右側で、仕事や周囲の友人を理由として結婚意思決定したとする回答が緩
やかにまとまっている。
そして第 3 は図の下部で、ここには年齢や相手関係にもとづく結婚意思決定の理由がた
くさんあがっている。よくみると、3 年前に結婚意欲があった理由としての婚期という回答
が、この中に混ざっていることに気づく。相手が違うにもかかわらず、ただ 1 つだけ交際当
時の理由と結婚意思決定理由とが対応するのは、やはり規範の影響であろう。相手が代わっ
たとしても、自分の婚期がまさに今だと思っているならば、女性も何らかの他の理由と結び
付けつつ結婚へ向かっていくように思われる。
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ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
図3-1 結婚意思決定理由と結婚意欲ありの理由:異なる相手・男性
図3-2 結婚意思決定理由と結婚意欲ありの理由:異なる相手・女性
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「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
3-4 結婚意欲がない人にとっての結婚意思決定までの考えの筋道
3 年前には結婚意欲がなかった人たちには、なぜなかったのか理由をたずねている。それ
を用いて、その後結婚の意思決定をした理由との同時反応を空間表示してみたら何がみえ
るだろうか。図 4-1 は、男性で、3 年前には結婚意欲がなかったものの、その後同じ相手と
結婚に至った人たちについての分析結果である。
意欲なしの理由と結婚意思決定理由なので、さすがに性質が違うわけで、これまでみてき
た図に比べて、対応関係が悪い。図の上には、結婚意欲なしだった理由が位置している。そ
れから右には、仕事や年齢による結婚意思決定理由のクラスター、下は相手との相性に基づ
く結婚意思決定理由クラスターとも読み取れる。
局所まで眼を向けると、仕事にかかわる理由は、比較的対応関係があることがわかる。図
でいえば右側となるが、今はまだ仕事に打ち込みたいや、自分の仕事が不安定、あるいは経
済的に不安という結婚意欲なしの理由は、仕事や年齢といった結婚意思決定理由クラスタ
ーとだいたい重なる位置にある。つまりこの証拠から、仕事にかかわる理由で結婚を控えて
いるだけならば、それが解消されれば、かつ交際を継続できていれば、結婚への道が開かれ
やすいということが推察される。
結婚の必要性を感じない、結婚を意識して交際していない、これら 2 つはきわめて強力
な結婚を抑制する理由であると思われる。それらと、結婚意思決定で妊娠を理由とするもの
が近い位置にあるのは興味深い。結婚に関心を寄せない男性を半ば強制的に方向転換させ
る理由があるとすれば、それこそまさに妊娠でしかないことを示唆するからである。
そのように、男性の場合はまだ、3 年前に結婚意欲なしの理由と結婚の意思決定をした理
由とが局所的に結びつく。ところが女性はまったくそうではない。図 4-2 によれば、図の上
方には結婚意欲がなかったことの理由群、下方には結婚意思決定の理由群が位置するのみ
で、ほとんど対応関係はない。全体的のみならず、局所的にみても、原点付近を除き、意欲
なし理由と結婚決定理由とが重なりをもたない状態である。つまり、女性の場合、何か結婚
を抑制している理由が解消されたことで、結婚へと向かうというような構造になっていな
い。これらの結果をみる限り、結婚意欲のない女性が結婚へと向かうのは、筋道がみえない
以上、今回の分析からは手がかりさえ見出し難かったと認めざるをえない。
なお分析結果の掲載は割愛したが、3年前の交際相手とは別の相手と結婚した場合にお
ける、結婚意思決定理由と結婚意欲がなかった理由との対応関係についても同様に分析を
おこなった。だが、男性においては、あまりクラスターはみえてこず、女性においても対応
関係が希薄であることが再び裏付けられた。相手が代わっているのはそれなりに理由ある
とみるべきで、意欲なしから結婚意思決定へ移る筋道は見出すことが困難であった。
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ESRI Discussion Paper No.332
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図4-1 結婚意思決定理由と結婚意欲なしの理由:同じ相手・男性
図4-2 結婚意思決定理由と結婚意欲なしの理由:同じ相手・女性
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「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
4
まとめ
本稿では、結婚の意思決定にかかわる要因を精査することと、そこで重要となる結婚理由
の対応関係を把握することを目的に、調査データの実証分析をおこなうものであった。先行
研究における定番の知見と比べると、結婚確率にかんする男性の高階層性、結婚意欲の重要
性は再現されたが、女性の低階層性の証拠はあまりみられなかった。
結婚に正の影響を及ぼすものとして、男性側の社会経済的属性の高さや結婚意欲の強さ、
そして交際期間の長さと居住地の近さがある。逆に負の影響を及ぼすものとしては、周囲の
人間関係で異性の多さや結婚している知人の多さをあげることができる。ただし、交際から
結婚の意思決定に至る段階を区別して検討したところ、人間関係的な環境は交際継続に対
して、交際している二人それぞれの結婚意欲と男性側の社会経済的属性が結婚の意思決定
に対して、効果をもつことが明らかとなった。
従来から、社会経済的属性は交際の発生には影響せず、結婚には影響するといわれていた
が、今回の結果によって、それが結婚でも特に男性の意思決定にかかわるものであることが
特定された。社会的あるいは経済的地位の低い男性は、結婚へと踏み出すことは難しいので
ある。驚くような発見ではないが、段階を分けることで、問題の所在がよりはっきりとみえ
るようになったことは注目に値する。
相手との関係において、交際期間が、結婚に対し、正と負の両面でかかわることも非常に
興味深い知見である。交際期間が長くなるほど、交際は継続しやすいが、一方で男性の結婚
の意思決定を遅らせやすくさせている。交際している状態が心地よくなり、そのままで構わ
ないとする心性は、どちらかといえば男性においてみられる傾向といえそうである。
交際も継続させ、さらには結婚の意思決定を促す要因として強力なのは、やはり結婚意欲
である。本人が結婚意欲が高ければ、自分から結婚を意思決定するし、相手の結婚意欲が高
かいのなら、相手から結婚意思決定する蓋然性は高くなる。結婚選択を研究するうえでは、
こうした結婚意欲という要因を外して考えることはできない。そして、結婚意欲の中身を取
り出すために、その理由までたずねることは、有効な研究方略である。
2 つの時点での結婚にかかわる理由の対応から描かれる空間的付置パターンからみえた
系統性は、3 点に整理できる。第 1 には、構造に男女差がみられることである。比較的男性
のほうが構造が明確で、類似した理由ごとにクラスターがいくつか形成されている様子が
みえやすかった。他方、女性は、輪郭がぼやけたような構造でしかなく、とりわけ 3 年前の
交際と結婚とで相手が異なるときや、結婚意欲がなかった理由と結婚意思決定理由との対
応では、意味のありそうな関連を見出すことはできなかった。これらからいえることは、男
性は、結婚についての考え方の筋道がはっきりしており、それが時点間で一貫しやすい。言
い換えると、理想の結婚など同じ考えに固執しやすい。女性はそうではなく、別れて相手が
変わったり、自分の考えが変わり結婚しようと思い立ったら、それまでとはまた異質にみえ
るような理由を掲げて結婚へと進むというように、より柔軟であるとも解釈できるだろう。
第 2 に、結婚の規範が反映している結果がみえることである。年齢や婚期といった理由
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ESRI Discussion Paper No.332
「結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~」
では、性別や、相手の異同にかかわらず、結婚意欲がある理由と実際に結婚する理由とのあ
いだに意味のあるつながりがみてとれる。それは、現代の若年者においてなお、ある年齢ま
でには、あるいは婚期と呼ぶべき時期のうちに結婚したいとする考えにとらわれている者
が一定程度いることを裏付けるものといえる。初婚年齢は上昇し、時代は変わってきたのは
確かであろうが、それでもなお、日本において結婚についての年齢規範はいまだ明に暗に存
在するとみなければならない。
それから第 3 に、数多ある理由の中で、一貫して対応関係がよいのは、仕事にかかわる理
由であったことである。仕事が軌道にのったことで結婚意欲をもった者は、結婚意思決定で
もそれをあげやすいし、仕事が不安定でまだ結婚意欲を持てない者でも、それが解消されて
仕事が順調になれば結婚するという意思決定をしやすいというわけである。
結婚の意思決定に着目した本稿では、男性の社会経済的地位の低さが結婚の妨げになっ
ていることと、結婚意欲が弱ければ結婚の決定には至らないことがわかった。非正規雇用の
拡大や高学歴化といった社会構造の大きな変化とは対照的に、若者が内面化した結婚規範
や性別役割分業意識などの主観的側面はより変化の速度や程度が穏やかなのであろう。両
者のギャップは、結婚をしたくてもできない若者が増加する背景要因となっているように
思われる。この問題を解消する方策の一つとして、個々人が結婚や子育て、学業、キャリア
形成等についての希望を実現できるよう、ライフデザインに関わる教育を、とりわけ中等教
育レベルの年代へと導入することが求められよう。実際に、山形県において、「高校生等の
ライフデザインセミナー」を実施し、結婚や子育てについての正しい知識を啓発する先進的
取組がなされていることから、これは非現実的な話ではないのである。
結婚意欲が弱いのが、仕事の不安定さや経済的な問題であれば、その解消が結婚意思決定
につながることもまた見出された。将来のみえにくい非典型雇用への就労や低賃金労働が
結婚へと踏み出すことを躊躇させる要因となっていても、それさえ何とかなれば結婚へつ
ながる人たちがある程度のボリュームでいるのなら、この層をターゲットに絞って新たな
制度設計をすることを視野に入れるべきであろう。未婚問題に対し、政策的に介入すること
はかなり困難であろうが、その手掛かりの一つがこの点により垣間見えるからである。
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