平成 28 年度 4 月号 1300 人をシーンとさせた話 若いから未熟で、未熟だから自信がないのは当たり前? そんなことはない。余裕と自信が湧いてくる方法を紹介する。 全校朝会で 今日は全校朝会。校長講話に続いて日直のA教師がマイクの前に立ちました。A 教師は静かに語りかけるような口調でこう話し始めました。 「あのね、今朝、先生は校舎の中を回ってきたの。まだ、だれもいない校舎はと ても静かでした。私の足音だけがわずかに響いているだけです。ところが、少し先 の教室からエーン、エーンと泣く声が聞こえるではありませんか。 おかしいなあ、だれもいないはずなのにと思いながら、そっと教室の戸を開け て中をのぞいてみたの。だれもいません。でも、声だけがどこからか聞こえてきま す。耳をよく澄ませてみると、それは机の中からでした。 『エーン、痛いよう。僕の体はくちゃくちゃに折れ曲がっているよ。』 (A教師は後ろ手に隠していた表紙の折れたノートを見せました。) 『エーン、私は体中にかびが生えて、病気になっちゃうわ。』 (食べ残しのパン) ほかにもいろいろな子が泣いていました。それでね、先生は約束してきたの。 『わかったわ。あなたたちのことは○○小学校の子どもたちに話してきてあげ る。みんな良い子たちだから、きっとなんとかしてくれるよ。だから少しだけ待って いてね。』 ……あなたの机の中で泣いている子がいないといいな。」 高度なワザと普通のワザ 1300 人の子どもたちが水を打ったように聞き入りました。私たち教師も同様 でした。私が新卒で赴任した最初の学校でのことですが、いまだにこの場面が目 に焼き付いています。 中休みに職員室で同僚が話していました。 「A先生の話、素晴らしかったわ。私が担当する学級の子どもたちは、教室に 戻るとみんなが机の中の整理を始めたのよ。ふだんいくら言っても効き目がな かったのに。」 擬人法の駆使、実物の提示、静かな語り口などはもちろん、締めくくり方もス ゴイ。週目標が整理整頓だったので、普通なら指導めいた一言を言いたくなりま す。A教師はそれをバッサリ切ったのです。それで余韻が残りました。それが子 どもたちの心を強く動かしたに違いありません。 こうしたワザは、かなり高度なワザです。人柄、教育観、経験といったいろん な要素で練り上げられているので、簡単に真似することはできませんが、みなさ んも経験を積めばきっとできるようになります。 しかし、実はA教師には別の地道な実践があって、全校朝会の話ができあがっ ていたのです。だれもが余裕を持てるようになるごく普通のワザです。 教室一番乗り A教師はいつも学校に来ると教室にすぐに向かいました。 ―どの子よりも早く教室に入り、どの子よりも遅く教室を出る― これは先輩から教わった「教師の心得」だそうで、A教師はこれを忠実に実行し ていたのです。 「子どもの顔を思い浮かべながら、片づけをしたり今日一日の予定を考えたり しているのです。そうすると何だか気持ちに余裕が持てるのです。 」 机の中の泣き声の話も、こんな日常の実践から思いついたとのことでした。 私もずっと心がけてきました。みなさんのなかですでに実行している方も多 いことでしょうが、経験をもとにちょっとばかりのアドバイスをさせてもらい ます。 一日の始まりをつくる4か条 私のオススメは次の4か条です。あとはあなたが工夫して一日の始まりを作 ってみて下さい。小さな余裕が湧いてくること請け合いです。 ●黒板をきれいに拭く 放課後はあわただしく子どもを帰すことが多いので、黒板ふきがおざなりに なりがちではありませんか。きれいな黒板は教室を輝かせます。授業で教師の 字を引き立たせ、子どもに印象付けます。 ●朝の予定を書いておく 黒板の中央には、 「おはよう。 今朝は児童集会があります。一時間目の用意をして校庭で遊んでいてくだ さい。」 あまりたくさんのことを書かないことが肝心。 黒板の端には 1、国 2、算(体重測定) 3、音…… と今日一日の予定を時系列で略記しておきます。4~6月は離任式や身体計測、 行事が錯綜します。予定を書いておけば教師自身が見通しを持って動けますし、 子どもも自分から動けるようになります。 ●提出物の箱を出しておく 提出物を朝の会で集めるのは時間の無駄。教卓の上に箱と名簿を置いておけ ば収集・確認が簡単です。 ただし、集金は必ず教師が集めること。子ども任せは絶対に禁物です。 ●机の列を揃える 教室の中の整然とした印象は、子どもの気持ちを落ち着かせます。 「子どものため」ではなく「自分のため」に 教室一番乗りを子どものためと考えないほうがいいと私は思っています。も し、集会に遅れた子がいたときにはどう注意しますか。 「先生がちゃんと黒板に書いておいたじゃないか。それなのに何で遅れたん だ。」 と叱りませんか。本当は遅れたことだけを叱ればいいのに、「先生が書いてお いたのに」という理由で叱ってしまう。これでは親切の押し売りじゃありませ んか。子どもはきっと言い訳をして、教師はその言い訳に対して更にカッカす るでしょう。 朝一番乗りは自分の余裕の増進剤なのです。
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