212 オレオサイエンス 第 16 巻第 5 号(2016) 特集序言 「脂質分析の新展開」の 企画と編集にあたって 仲 川 清 隆 (東北大学大学院農学研究科) 去る日本油化学会第 52 回年会(平成 25 年 9 月 3~5 日,仙台)において,脂質分析に関するシンポジウム が開かれ, 板橋豊先生(北海道大学)や財満信宏先生(近畿大学)から大変興味深いご講演をいただきました。 その後も,板橋豊先生はキラル HPLC による,財満信宏先生は質量分析イメージングによる脂質分析について, 先駆的な研究を積極的に展開されております。脂質分子の新しい分析手法としては,私どもも過酸化脂質の異 性体解析を近年達成しました。これらの方法は,国内外で広く活用されはじめ,当該分野のみならず界面科学 領域への展開も期待されています。そこで,こうした内容を,特集「脂質分析の新展開」としてはどうかとの 話がもちあがり,このたびの号の発行となりました。 板橋豊先生には,脂質の立体異性体(エナンチオマー,ジアステレオマー)解析の進展に大きく寄与してい るキラル HPLC について,詳しく解説していただきました。脂質の立体異性体解析の歴史と最新の技術まで を詳細に網羅した内容となっております。病態の解析や油脂栄養を考えるうえで脂質の詳細な異性体解析は重 要であり,このことが本総説により一層印象付けられると思います。 財満信宏先生には,脂質分子の位置情報を可視化できる質量分析イメージング法をわかりやすく解説してい ただきました。本法は,組織中に存在する脂質分子種の分布情報の解明につながります。こうした情報は,脂 質研究分野のみならず,生命化学領域や医療現場にとっても重要であり,今後の展開が大いに期待できる内容 と思います。本法において従来のイメージング手法では検出が不可能であった脂質分子種の可視化を達成され ており,この総説は読者の方々に大変斬新に映ると思います。 私どもは,MS/MS や HPLC-MS/MS,キラル HPLC-MS/MS を用いて,過酸化脂質(脂質ヒドロペルキシド) の異性体解析を可能としました。過酸化脂質は酸化機構ごとに特徴的な異性体となるため,本法による異性体 解析により,生体や食品における脂質過酸化機構の推定ができると期待されています。機能性食品等をはじめ とした産業分野における活用の観点からも大きな関心が寄せられています。 本特集号で取り上げました企画が,油脂研究の一層の推進の一助となれば幸いです。最後になりましたが, 本執筆にご理解をいただき,お忙しい中ご執筆をいただきました先生方に,この場を借りて厚く御礼申し上げ ます。 (執筆者) ・脂質分析におけるキラル HPLC の最近の進歩 Recent Advances in Chiral-Phase HPLC for Lipid Analysis 板橋 豊(北海道大学) ・質量分析イメージング法による脂質の可視化 Mass Spectrometry Imaging for Visualization of Lipids 久後裕菜,山本彩実,森山達哉,財満信宏(近畿大学) ・MS/MS, HPLC-MS/MS,キラル HPLC-MS/MS を活用した脂質過酸化機構の評価 Evaluation of Lipid Peroxidation Process Using MS/MS, HPLC-MS/MS, and Chiral Stationary Phase-HPLC-MS/MS 伊藤隼哉,仲川清隆,加藤俊治,宮澤陽夫(東北大学) ― 2 ―
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