“固体状態で巻き方向を自在に 反転可能な”らせん高分子材料 金沢大学 理工研究域 准教授 物質化学系 前田 勝浩 1 キラリティー キラル 鏡 重ね合わせることができない 右手と左手の形がある 右手 左手 鏡 アキラル 像とその鏡像を 重ね合わせることができる 2 キラルな分子構造 らせん構造 中心不斉 Br H H C C F Cl F Br Cl 軸不斉 X = Y アキラル X ≠ Y キラル 右巻きらせん 左巻きらせん 分子がらせん構造を形成すればキラルになる 3 生体高分子におけるらせん構造 二重らせん α-ヘリックス (右巻き) (右巻き) タンパク質 H DNA D-糖 L-アミノ酸 C CO2H R NH2 らせん構造は生命活動に必要な機能発現において重要な役割を果たしている 4 エナンチオマーの認識 L体 D体 うま味なし うま味 グルタミン酸ナトリウム キラル アキラル 酵素の受容体部位における エナンチオマー認識の模式図 ◎ X X キラル ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ キラル 一方のエナンチオマーは酵素の認識部位にフィットするが、他方のエナンチオマーはフィットしない 5 エナンチオマーの認識 アスパルテーム (S,S)体 砂糖の200倍甘い (R,R)体 苦い 逆の味覚 エストロン プロポキシフェン (+)体 鎮痛作用 (–)体 鎮咳作用 異なる作用 ドーパ (L)体 抗パーキンソン病 (D)体 活性なし 一方にのみ活性 ナプロキセン ペニシリンG (+)体 女性ホルモン作用 (–)体 活性なし (+)体 抗菌活性あり (–)体 抗菌活性ありなし (S)体 鎮痛・抗炎症作用 (R)体 副作用あり 一方にのみ活性 一方にのみ活性 一方は薬、他方は副作用 エナンチオマーを分離・分析することが重要 6 高速液体クロマトグラフィー(HPLC) によるエナンチオマーの分離 : R-体 エナンチオマー : S-体 : キラル分離剤 R-体がより速くカラム内を移動し、 S-体が後から溶出する。 移動速度の差を利用して分離する手法。 溶出時間 7 実用化されているHPLC用キラル固定相 高分子型 低分子型 シリカゲル R1 = H, CH3, OCH3, F R2 = H, OCH3 (n = 1—3) 8 HPLC用によるキラル分離 (–) (+) 1. 分取により純粋なエナンチオマーを効率的に取 得するための分離条件 望みのエナンチオマー成分を先に溶出させる 2. 正確かつ高感度な鏡像体過剰率(光学純度)の 決定に必要な分離条件 溶出時間 (–) (+) 微量のエナンチオマー成分を先に溶出させる (+) 溶出順序の反転 (–) キラリティーの異なる2種類のキ ラル固定相を使い分ける 9 従来技術とその問題点 既に実用化されているHPLC用キラル固定相は、 合成時にそのキラリティーがすでに決まって いるため、光学分割能を全く変えることなく 溶出順序(不斉選択性)のみを自在に切り替 えることができない。 10 合成らせん高分子の分類 静的(安定な)らせん高分子 ポリクロラール 重合時に形成されたらせん構造が保持される ポリメタクリル酸エステル (PTrMA) ポリイソシアニド 動的らせん高分子 ポリイソシアナート ポリシラン ポリアセチレン 左右のらせん反転がポリマー鎖中で起こる フォルダマー 外部条件によって、ランダム構造とらせん構造の間で変化する ポリ(m-フェニレンエチニレン) 11 動的らせん高分子へのらせん誘起と記憶 1 R-体 S-体 らせん誘起 官能基 らせん誘起 右巻きらせん 左巻きらせん Chem. Rev. 2009, 109, 6102 アキラルアミン 光学活性アミン 酸 アキラルアミンによる置換 = -COOH -PO(OH)OEt らせん誘起 誘起らせん構造の記憶 Nature, 1999, JACS, 2004 12 動的らせん高分子へのらせん誘起と記憶 2 光学活性化合物 ヘキサン中 除去 poly-1 らせん誘起 誘起らせん構造の記憶 固体状態でのらせん誘起と記憶 除去 ヘキサン poly-1 CD測定 単離した poly-1 poly-1が不溶な 光学活性化合物 固体状態での らせん誘起 poly-1のヘキサン溶液 誘起らせん構造の記憶 円二色性(CD)と吸収スペクトル 13 不斉選択性の反転が可能なキラル分離剤 R-体 旋光検出器 らせん 誘起 光学分割 (+) (–) UV検出器 S-体 ラセミ体 らせんの 巻き方向 の反転 溶出時間 HPLCクロマトグラム poly-1 光学分割 溶出順序の自在反転が可能なキラル固定相の初めて の例 (–) (+) 溶出時間 14 新技術の特徴・従来技術との比較 • 光学活性化合物の存在下、固体状態でらせん の向きを自在に反転させることができ、さら に光学活性化合物を除去した後でもそのらせ ん構造が安定に保持されるらせん高分子を開 発した。 • 従来技術では不可能であった、溶出順序のみを 自在に反転することが可能なキラル固定相の開 発に成功した。 • 光学異性体の溶出順序を任意に逆転させるこ とできるので、高感度な微量キラル分析や高 純度の光学異性体の分取が可能になる。 15 想定される用途 • 光学異性体分離用材料 (カラム充填剤、分離膜) • キラルセンシング材料 • NMR用キラルシフト試薬 16 実用化に向けた課題 • 現在、HPLC用キラル固定相として使用した 際に、不斉選択性のスイッチングが可能であ ることを確認済み。 • 実用化に向けて、適用可能な光学異性体の 種類の拡大と光学分割能またはセンシングの 感度の向上が課題である。 17 企業への期待 • 未解決の光学分割能の向上については、ポリ マー側鎖に導入する置換基の最適化により 克服できると考えている。 • 光学異性体分離などに興味のある化学品 メーカー、新たな特性を持った化合物に興味 のある化学品メーカーとの共同研究を希望。 • 付加価値のある光学異性体分離剤を開発中 の企業、キラルマテリアル分野への展開を考 えている企業には、本技術の導入が有効と思 われる。 18 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称 :不斉選択性の切り替えが可能な クロマトグラフィー用充填剤 • 出願番号 :特願2012-109971 • 出願人 :国立大学法人金沢大学 • 発明者 :前田勝浩、井改知幸、下村昂平 19 お問い合わせ先 (有)金沢大学ティ・エル・オー ライセンシング・アソシエイト 木下 邦則 TEL 076-264-6118 FAX 076-234-4018 e-mail e-mail-to@kutlo.incu.kanazawa-u.ac.jp 20
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