「一人ひとりの自主化をめざして ~国語科を中心に~」 尼崎市立武庫東小学校 主幹教諭 東田 明子 1 取組の内容・方法 (1) 自主的に学ぶ子をめざして 本校では「一人ひとりの自主化をめざして」と研究主題を設定し、国語科を中心 に研究に取り組んできた。研究主題にある「自主化」とは、児童が自主的に学習す る力の育成と捉えている。具体的な内容の一つとして、学習内容や到達点をはっき りさせることに取り組んでいる。児童の発達に見合った内容と言葉を用いて課題を 提示することが、学習意欲を引き出す有効な手立てであると考えている。また、 ある程度の規則性がある学習方法を児童に活用させることによっても、学習課題 解決への見通しを持ち、自主的に学習する力が育っていくと考え研究を進めている。 (2) 国語科の学習を通して 自主的に学ぶための基盤となる確かな言葉の力をつけるために、語彙力・文章を 的確に読む力・感じ方や考え方の違いを伝え合う力を育てることや「話す・聞く・ 読む・書く」活動を活かす教材開発に取り組んでいる。また、細かな文章の読みと ともに、読書が好きになり、様々な本の読み方ができる子を育てたいと考え、授業 づくりを進めている。 ○明確な課題の提示 より具体的に、児童の発達に見合った内容と言葉で提示することをめざしている。 また、課題達成のためのより有効な手立てを考えていくこととした。 低学年では課題に沿って読むこと、中学年では課題を的確に捉えること、高学年 では課題の解決に向かうことをめざす子ども像にしている。 〈例〉〈第4学年〉単元名「科学読み物をしょうかいしよう 『ウナギのなぞを追って』」 課題(めあて) 課題達成のための手立て ① まとまりごとに自分の興味を持ったところを 見つけ、理由づける。 しょうかい文を書くために、一番きょう みをもったところを見つけよう 第6時 ② 紹介文を書く際には、一番興味を持ったとこ ろを中心に要約する。 ③ 文章全体から、自分が一番興味を持ったとこ ろとその理由を書く。 ④ 要約するために必要な文や語にサイドライン を引いて考える。 ⑤ アドバイスし合えるようペアトークを取り入 れる。 ○話し合い活動の充実 言葉を通して互いの考えや思いを伝え合うために、ペアトークやグループトーク の場を多く設定した。 特にグループトークでは、①必ず前の人につなげた発言をすること ②友達の考 えに対する感想や意見で話し始める 等のルールを決めたり、テーマを決めて話し 合ったりした。お互いの思いを受け止めることができるようになり、感じ方や考え 方の違いに気づくための手立てとして、有効であったと考えられる。 ○読書活動・言語活動へ広がる授業 図鑑づくり、帯づくり、シリーズ読み、同一作者読み、ジャンル読み等、精読か ら多読へと向かっている。また、比較して読む、読書会のような手法を取り入れる 等、発展的な授業づくりをめざしている。 〈実践例①〉第4学年 読んで考えたことを話し合おう 「ごんぎつね」・新美南吉作品 この単元では、教材文「ごんぎつね」で、叙述をもとに登場人物の人物像、気持 ちや関係の変化について読み合った後、他の新美南吉の作品へ読み広げる学習につ なげていった。同一作者の複数の作品を読み、交流させていくことで、作品に見ら れる共通点や作者らしさを考えることのできる単元であると考えたからである。 本時は、新美南吉の作品の中から心に残った1冊を選び、本を読んで感じたこと や考えたことを話し合う時間である。自分の考えと比べながら友達の考えを聞くこ とをめあてとした。 課題 みつけよう! この本の ここがおすすめ! ~新美南吉さんの作品から~ 学習活動 ・新美南吉の本を読み、心に残ったことや考えたこ とを交流することを確かめる。 ・話し合いの焦点を明確にするため、選んだ本のお すすめポイントを見つけることをめあてとする。 ・選んだ作品 「木の祭り」 ・選んだ本の心に残ったことや、他の作品と似てい 「きょねんの木」 るところなどについて、同じ本を選んだグループ 「あめだま」 で交流する。 「手ぶくろを買いに」 「でんでんむしのかなしみ」 ・話し合った内容から、一番のおすすめポイントを 見つけ発表する。 ・友達のおすすめポイントを聞いて、作品や作者に ついて考えたことをワークシートに書き、自分の 考えをまとめる。 本時に至るまでに、並行して、他の新美南吉作品を多く用意し、読書タイムの時間 等も活用し読むこととした。また、新美南吉について人物像等を知る時間を設けた。 ~授業後の児童の感想~ 南吉さんは、生き物や自然の中から、生きていることの大切さや、小さいものを大事 にしてほしいことを伝えていると思います。南吉さんは小さいころ母をなくして一人 ぼっちみたいに感じていた時があったから、 「おおぜいの人や友だちといっしょにいる と楽しくなるよ」と教えてくれているようで、うれしくなってくる感じがしました。 「木の祭り」より みんなの話を聞いて、南吉さんの本に出てくる動物や人は、すべてやさしいと思いま した。南吉さんのほかの本を読んでも、やさしさがつまっています。「手ぶくろを買い に」の中で、人間のお母さんが「ねむれ ねむれ 母のむねに。ねむれ ねむれ 母の 手に」というところでは、南吉さんもお母さんのむねでねむりたかったのかと思いまし た。 「手ぶくろを買いに」より 〈実践例②〉第4学年 科学読み物をしょうかいしよう 「ウナギのなぞを追って」 児童が興味を持ったところ、感心したところを中心に、文章を要約したり引用し たりして紹介するとともに、文章を読んで考えたことを話し合って感じ方の違いに 気づくことや、読書の領域を広げることをねらって設定した単元である。 〈学習の課題の流れ〉 学習の見通しを持とう。 「初め」を読み、要点をまとめよう。 「中①」を読み、要点をまとめよう。 「中②」と「終わり」を読み、要点をまとめよう。 しょうかい文を書くために、一番きょう味を持ったことを見つけよう。 「ウナギのなぞを追って」のしょうかい文を書こう。 「ウナギのなぞを追って」のしょうかい文を伝え合おう。 しょうかいしたい科学読み物を要約しよう。 しょうかいしたい科学読み物のしょうかい文を書こう。 科学読み物をしょうかいし、感想を伝え合おう。 この単元においても、教材文の学習と並行して、科学読み物を読むようにした。科 学読み物を多く用意し、読み聞かせもしている。また、科学読み物を紹介する文を書 く際には、分量が多いため、自分が興味を持ったところに絞って本文を要約したり引 用したりして書くことを押さえるようにした。 児童は科学読み物の面白さに触れ、意欲的に読書を進めていた。また、紹介し感想 を伝え合うことで、同じ本を読んでもそれぞれの考え方や感じ方が違うことに気づく こともできた。さらに、紹介し合った本の中から自分のお気に入りの本を見つけ、読 み進める姿も多く見られた。 2 取組の成果 (1) 学校の取組として 児童に学習課題や学習方法を明確に提示することで自主的に学ぶ力を育てることに ついては、学校全体で意識的に取り組んできた。その結果、分かりやすい言葉で課題 を提示することで、見通しを持ち、課題に沿った学習活動ができるようになってきて いる。また、高学年の国語科では、読みの手順を示すことで、自分なりの読みの視点 を持って学習を進めることができるようになりつつある。 (2) 学級の児童について 児童が話し合う活動を多く設けたことで、言葉を通してお互いの考えや思いを伝え 合う力がついてきている。継続して取り組んだスピーチタイムやグループトークでは、 自分たちの生活経験やテーマに沿った考え、おすすめの本の紹介などを、楽しく語り 合う姿がみられた。児童が自分の考えや思いを十分に表現できる学級であることが、 基盤であると考える。 また、読書活動・言語活動へ広がる授業についても、取組を進める中で多くの成果 がみられた。まず、児童の読書量が増えたことである。学年当初に比べ、長編の物語 や小説を読むことができるようになった。さらに、同一作者の本を読んだり、幅広い 領域の本を読んだりするなど様々な本の読み方を学んだことを、自らの読書に活かす ことができるようになってきている。 3 課題及び今後の取組の方法 学校全体の取組として、明確な課題を提示し、自主的に学ぶ力をつけていくことに ついては、「自主的」に学ぶということはどういう姿を指すのか、さらに明確にし、共 通の理解を図る必要がある。その上で、児童にとって分かりやすく、自ら取り組んで いくことのできる課題提示や授業づくりの研究を進めていく。系統的な取組にしてい くことも課題である。 また、国語科の学習においては、「話す・聞く・読む・書く」活動を活かす教材開 発に取り組み、様々な読書活動・言語活動へ広がる授業づくりをめざしていく。 今後も研修、研究を進め、得たことを学校全体で共有し、児童一人ひとりの自ら学 ぶ力の育成をめざして取り組んでいく。
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