暮らしの 判例 消費者問題にかかわる判例を 分かりやすく解説します 国民生活センター 相談情報部 恋愛心理を利用して投資用マンションを 購入させた勧誘者の不法行為責任 本件は、原告 (女性)が、結婚紹介所のウェブサイトで知り合った男性に勧誘されて、 不動産会社から投資用のワンルームマンションを購入し、購入資金の調達のために銀行 と約 2300 万円の金銭消費貸借契約を結んだが、これは勧誘者の男性が恋愛心理を悪用 したものだとして、男性に精神的苦痛による慰謝料 300 万円、銀行に金銭消費貸借契 約の消費者契約法による取消し等を主張した事例である。 裁判所は、男性の勧誘行為は信義誠実の原則に反しているとして慰謝料 20 万円の請 求を認めたが、金銭消費貸借契約の取消し 等は認めなかった (東京地裁平成 26 年 10 月 30 日判決、 『金融・商事判例』1459 号 52 ページ)。 原 告:X (消費者、1974 年生まれの女性) 被 告:Y1 (マンションの購入を勧誘した男性) Y2 (銀行) (不動産会社) 関係者:A社 B(Aの従業員) メールのやりとりをサイト内で行うことができ 事案の概要 るシステムである。 X は 1974 年生まれの女性で、1998 年から Y1 は、本件サイトに、実際は 28 歳であるの 会社員(総合職)である。2012 年8月に離婚し に 32 歳と偽って登録し、2012 年 11 月上旬に 業務も多忙であったことなどから 10 月頃には X にメールで連絡した。これをきっかけにメー 心労が重なった状態にあった。X は、2012 年 ルのやり取りが始まり、同月 21 日頃から電話 10 月、結婚紹介所のウェブサイト (以下、本件 で話をするようになり、12 月2日には喫茶店 サイト)に登録した。本件サイトは、自分のプロ で会い、その後、食事するようになり、メール・ フィールを登録、掲載したうえで、年齢や性別、 電話のやり取り等が頻繁になっていった。Xは、 居住地、趣味等の希望条件から相手を検索し、 12 月5日に食事をした際に、Y1 が不動産投資 2016.4 国民生活 36 暮らしの判例 をしていることを聞かされ、同月 10 日に食事 本件消費貸借契約)の締結手続きをし、本件消 をした時に年収を聞かれたうえで、 「不動産投 費貸借契約を締結した。 資の話を聞きたいか」と言われ、自分の年収を 契約終了後、Y1 から X への連絡は少なくなっ 答えたうえで話を聞いてもよいと答えた。同月 た。X は、インターネットで調べて、出会い系 15 日、X は Y1と再び会い、Y1からマンション サイトで知り合って投資用不動産の購入を勧め 投資について、1500 万円から 1800 万円くら られたと述べる者が複数いることを知った。そ いのマンションを購入し、 サブリースをすれば、 して、弁護士と相談したうえで、同月31日、A サブリース収入とローン返済額の差額として月 社に対してクーリング・オフの通知を出した。 2万円程度を負担するだけでマンションを所有 また、X は Y2 に対し、本件消費貸借契約を締 することができるなどの説明を受けたうえで、 結する際の説明に不利益事実の不告知や不実告 「やってみるか」 と聞かれた。お互いに好意を持っ 知があったとして、翌年2月12日到達の書面で、 ていると思っていた X は、Y1と連絡を取り続け 消費者契約法に基づき本件消費貸借契約を取り たいと思っていたことから、 「不安もあるけど、 消す旨の意思表示をした。 やってみようかな」と言った。Y1 は、 「自分がつ その後、X は、Y2 に対して本件消費貸借契約 いているので信用してほしい」 「12 月までに投資 の不存在確認、Y1 に対して 300 万円の損害賠 マンションを購入すれば今年の税金対策に間に 償を求めて提訴した。 合うので、できれば早くしたい」 と言った。Xは、 Y1 の要請に従って源泉徴収票の写しをメール 理 由 で送信した。 ⑴Y1 に対する請求について 同日夜、X は、Y1 に電話をしてマンション 購入に不安を感じていることを伝えたが、Y1は Y1 は、当初から、不動産業者と提携して投 「もう、年末の忙しいときなのに社内で人が動 資適格の低いマンションの購入を勧誘する目的 いている。信用してほしい。今、止めると言わ で、比較的金銭に余裕のある 30 歳代以上の女 れると、社内で自分の信用を失う」などときつ 性を対象とするために虚偽の年齢をサイトに登 い口調で返した。X は、離婚したばかりで、仕 録して X に近付いた。そして Y1 に好意を抱い 事も多忙な自分の境遇を含めて自分を理解して ていた X の交際に対する期待を利用し、X に冷 くれている Y1 の社内での信用を失わせてはい 静な判断をさせる機会や情報を十分与えないま けない、Y1 の意向に従うことが Y1 との関係を まに本件取引を行わせたというべきであって、 深めるためであると思い直して、Y1の意向に従 X の財産的利益に関する十分な意思決定の機会 うことにした。 を奪ったといえる。それだけでなく、X の交際や 同月 24 日、Y1 は X、宅地建物取引業者 A 社 結婚を願望する気持ちを殊更に利用し、恋愛心 の従業員 Bと待ち合せた。ここで Bは、本件マン 理等を逆手にとって、上記勧誘が X の人格的利 ションを 2570 万円で売買する合意ができたと 益への侵害をも伴うものであることを十分認識 して、重要事項説明書、土地付区分所有建物売 しながら、投資適格が高いとは言えないマン 買契約書、サブリース契約書を提示し、署名押 ションの購入を決意させたというべきである。 印をさせた。X は、署名押印後手付金 10 万円 Y1の上記勧誘行為は、信義誠実の原則に著し を支払った。X らはその後、同じビルにある く違反するものとして慰謝料請求権が認められ Y2 に赴き、抵当権設定金銭消費貸借契約 (以下、 る違法行為と評価することが相当である。 2016.4 国民生活 37 暮らしの判例 ⑵Y2 に対する請求について ているという。マンション販売業者との和解で Y2の説明が不利益事実の不告知もしくは不実 は、このうち 250 万円の免除額と 220 万円の 告知に当たるとは認められない。また、Y1およ 和解金との合計額 470 万円が回復されたことに び A 社が Y2 から本件消費貸借契約の締結につ なる。判決では、一連の事実関係とマンション いて媒介をすることの委託を受けた第三者であ 販売業者との和解の内容を含めた一切の事情を ることを示す客観的な証拠は見当たらない、とし 考慮して勧誘者が負担すべき慰謝料金額は 20 て、消費者契約法による取消しを認めなかった。 万円が相当であるとする。 勧誘者である男性はマンション販売業者の従 業員ではない点が、婚活サイト利用のデート商 解 説 法による投資用マンション販売商法の特徴であ 婚活サイトなどで知り合った相手から、投資 り、本件でも同様の問題点がある。勧誘者はグ 用マンションの購入を勧められ契約させられた ループ企業の従業員に過ぎないというが、消費 という被害が、2009 年頃から消費生活相談窓 者の主張や判決では、グループ企業の会社ごと 口に寄せられるようになり、 年々増加している。 の各業務内容や役割分担などについては触れて 国民生活センターは、2014 年1月 23 日 「婚活 おらず、明らかではない。そのような点がある サイトなどで知り合った相手から勧誘される投 としても、勧誘者が本件において果たした役割 資用マンション販売に注意 !!」*と題する報道発 を考慮すると、勧誘者の負担すべき慰謝料金額 表を行った。この中で、婚活サイトで知り合っ は少な過ぎるのではないかと思われる。 た相手からデート商法的な手口で購入したとい う相談をみると、契約者の平均年齢は 35.1 歳、 性別では女性が男性の2倍以上となっており、 中でも 30 歳代から 40 歳代の女性に被害が集 参考判例 中する傾向があることを指摘している。 本件は、 ①東京地裁平成 24 年3月 27 日判決 (LEX/DB、サブリース契約の消費者契約法4 条2項による取消しを認めた) その典型的な手口による被害に関する裁判例で ある。 ②京都地裁平成 19 年 12 月 19 日判決 (裁判所ウェブサイト、宝石に関するデート 商法に関する判決) 消費者は、マンション販売業者(A 社)、勧誘 者である男性(Y1) 、マンションの売買代金の 融資を受けた銀行 (Y2)を相手取って訴訟を提 起したが、マンション販売業者との間では、売 買代金残債務の250万円の支払いの免除と和解 金 220 万円との和解が成立したため、勧誘者 と銀行とに対する請求部分についての判決と なった。 消費者の主張によれば、本件マンションの評 価額は約 1300 万円程度であり、購入価格約 2600 万円との差額約 1300 万円の損害を被っ * http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20140123_2.html 2016.4 国民生活 38
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