暮らし - 国民生活センター

暮らしの
判例
消費者問題にかかわる判例を
分かりやすく解説します
国民生活センター 相談情報部
「競馬必勝法」
業者の不法行為責任
競馬情報提供業者の従業員から「勝つことができる」
「確かなレースがある」
などと続け
ざまに勧誘を受け、合計 100 回、総額約 4500 万円を事業者に支払った消費者が、従業
員の勧誘や情報料の請求は不法行為に当たるとして、事業者に対して使用者責任、事業
者の代表取締役に対して共同不法行為責任を主張し、損害賠償を請求した事例である。
裁判所は、情報提供に関する契約が詐欺に当たるとし、不法行為に基づき事業者らに
約 4900 万円の損害賠償を命じ、事業者の行為の悪質性
に照らし過失相殺を認めなかった(横浜地裁平成 26 年
8月 27 日判決〈確定〉、『判例時報』2270 号 67 ページ)
。
原 告:X(消費者)
被 告:Y1
( 競馬情報提供業者)
Y2(Y1 の代表取締役)
関係者:A・B(Y1 の従業員)
んだ。X が返金を求めることもあったが、その際
事案の概要
もB は
「今度は当てる」
などとして応じなかった。
X は 1952 年生まれの当時 50 歳代の男性であ
最初の支払いから1年半後、Xは、Yらの不法
る。2010 年 12 月上旬から突然、X は A から
「競
行為を主張して支払った総額に加えて慰謝料200
馬情報料を支払ってくれれば、勝ち馬情報を教
万円、弁護士費用約 400 万円の合計約 5100 万円
えます」
などと、勧誘を頻繁に受けた。Xは、競馬
の損害賠償を求めて提訴した。なお、X の代理
で負けが込んでいたこともあり、情報料を支払
人弁護士が Y らの銀行口座を凍結したところ、
えば勝てると思い、A の言葉を信じ指定された
Y2 は X に対して
「2500 万円を支払うから口座凍
銀行口座に何回か振り込んだ。その後 X は、B
結を解除してほしい」
「私が逮捕されると1円も
から
「X さんの担当は A には任せられない。自分
返還されない」
などのメールを送信している。
は確率の高い情報を持っている」
などと言われ、
理 由
B の情報をもとに馬券を購入したがことごとく
外れた。そのたびにBはXに対し、
会員のグレー
A・B の X に対する勧誘行為および競馬情報料
ドを上げることを勧め、
「次は当てますから」
「情
等の請求は、信用性も有用性もない競馬情報を
報元から金を取り戻すには、弁護士費用として
確実性の高い情報のように偽り、情報提供を口
200 万円を用意してほしい」
などと繰り返し情報
実に、種々の虚言を弄して、不当かつ高額な情
料等を要求してきた。X は、Y1 および Y2名義の
報料等を要求し、X にわずか1年半程度で合計
口座に100回にわたり合計約 4500 万円を振り込
100 回、総額約 4500 万円もの多額の送金をさせ
ろう
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暮らしの判例
た詐欺行為で、X に対する損害賠償責任を負う
消費者契約法による契約の取消しを認めた事例
べき不法行為に当たる。そして、Y2 は A・B と
もある
(参考判例⑤)
。
3人で競馬情報を提供する会社 Y1を営業してき
不法行為構成の判決の問題点として過失相殺
たこと、振込口座が Y2 名義だったこと等を考慮
の取り扱いがある。本件判決では、消費者が軽率
すれば、Y2 は A・B とともに組織的・計画的に
であったとの指摘をしつつも
「Y2 らの不法行為
X に対して詐欺行為を行ったと認められ、共同
の悪質性に照らすときは、当事者間の公平の見
不法行為を理由に、詐欺行為による X への賠償
地から過失相殺を相当とすべき事情があるとま
責任を負う。また、Y1 も、会社法 350 条(代表
ではいえない」
として過失相殺を否定した。しか
者の行為についての損害賠償責任)
、民法 715 条
し、宝くじ必勝法に関する参考判例①・②では
1項(使用者等の責任)に基づき、Y2 と連帯し、
3割の過失相殺をしている。その理由として参
X に生じた損害の賠償責任を負う。
考判例①では
「事業者らが原告をだまして送金
過失相殺については、Y2らの
「馬券の購入は最
させた経過にも不審な点は多いが、事業者らが
終的にすべて X の判断であり、不法行為の成立
原告の混乱に乗じて送金を重ねさせた手口は巧
はない」という主張を否定し、X が冷静さを欠い
妙であり、その言説を信じて送金したこと自体
ていたとはいえ、競馬情報料等で総額約 4500 万
に原告の過失があるとまでは言えないというの
円もの振り込みをしたことは軽率と言わざるを
が相当であるが、宝くじの当選番号に関する事
得ないが、Y2 らの不法行為の悪質性に照らす
前情報を不正に入手して利益を得ようとしたこ
と、当事者間の公平の見地から過失相殺を相当
とにつき原告には過失があるというべきであっ
とすべき事情があるとまでは言えないとした。
て、このような事情を考慮すれば、被告らが賠償
また、弁護士費用は全額認容したうえで、慰
すべき損害額を定めるに当たっては 30%の過失
謝料については「経済上の被害が回復されれば、
相殺をするのが相当である」
と判示されている。
特段の事情がない限り、X の精神的損害も慰謝
過失相殺に関する本件判決の指摘は妥当なも
されるものと解すべき」で、本件については特
のであると考えられる。詐欺業者は消費者の落
段の事情は認められないとして否定した。
ち度や人間的な欲に付け込んだ手口を用いるの
がこの種の商法の本質なのであり、事業者の違
解 説
法性や悪質性の高さからみれば被害者に落ち度
本件はいわゆる
「競馬必勝法」
と偽る情報提供
があったとしても過失相殺はなされるべきでは
詐欺の被害にあった消費者が事業者に対して損
ないと考えられる。被害にあったことを
「落ち
害賠償を求めて認められた事例である。
「競馬必
度」として過失相殺をするのは、本件のような
勝法」
(ギャンブル情報提供詐欺)
とは、消費者に
意図的な詐欺商法をある意味で肯定する姿勢に
対して確実に利益が得られるかのような虚偽の
も通じるものであり問題と言うべきであろう。
話を持ちかけて消費者から金銭を詐取する詐欺
参考判例
的商法の一種である。類似の被害が多発してお
り、民事裁判も多数ある。右記参考判例でも
「ロ
①東京地裁平成28年2月22日判決
(ウエストロー
ジャパン)
トくじ・宝くじ・パチンコ攻略法
(必勝法)
」
に関
②東京地裁平成 27 年 5 月 11 日判決(LEX/DB、
ウエストロージャパン)
する裁判例がある。これらの商法では、実態が
無い虚偽の話を持ちかけて消費者から金銭を詐
③東京高裁平成 26 年2月 20 日判決
取したとして不法行為による損害賠償を命じて
④東京地裁平成 23 年1月 12 日判決
いる判例が多い。パチンコ攻略情報に関する裁
⑤東京地裁平成 22 年5月 28 日判決
判例では錯誤による契約の無効
(参考判例④)
や
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