FRBの世界市場重視姿勢は投資にどのような意味を持つのか(PDF

FRBの世界市場重視姿勢は投資にどのような意味を
持つのか
2016年 4月11日
ゼーン・ E ・ブラウン
パートナー、債券ストラテジスト
米連邦準備理事会(FRB)の政策考察に海外市場と海外経済の健全性が含まれたことで、
米国の利上げペースは鈍化する可能性があります。
要旨

米連邦準備理事会(FRB)の 3 月の政策声明の中には、完全雇用とインフレ率 2%という従来
のデュアル・マンデート(二つの使命)に加えて、新たに世界経済及び世界市場の健全性とい
う文言が入りました。
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このことが FRB の 2016 年の利上げペース減速見通しに反映されていると見られます。
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その結果、米国金利正常化の優先順位は世界市場の安定と景気改善よりも下になったと見
られます。
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鍵となる論旨— FRB の視点が従来よりもグローバルに広がったことで、米国金利正常化ペー
スが減速するとともに、リスク資産を下支えし世界経済成長に向けた状況が促進されると考
えられます。しかしながら、低金利と積極的な金融政策による成長促進には限界があります。
FRB の政策決定機関である連邦公開市場委員会(FOMC)の 3 月 15・16 日会合における最も重要な
論旨は、2016 年の利上げ見通し回数を 4 回から 2 回へ変更した予想外の動きではありません。会合
で明らかになった最も特質すべき事項は、利上げ見通し変更そのものの理由が何であったのだろうか
という点です。今回の FRB のハト派寄りの政策をもたらしたのは、完全雇用とインフレ率 2%というすで
に表明されている二つの使命への重視姿勢ではなく、「世界経済と金融市場の発展」という新たな重
点材料であったと言えます。この転換は政策、投資面で重要な意味を持ちます。欧州中央銀行(ECB)
による最近の動きとともに、FRB の今回の政策転換はリスク資産を下支えする環境の推進に寄与す
ると見られます。
FRB が「データ重視」姿勢にあると未だに主張しているのであれば、FRB はただ新しいデータを導入し
ただけのことです。FRB 政策の定番メニューである主要な月次、四半期ごとの定期統計発表よりむし
ろ、今回新たに加わったのは、米国外での市場、政策、地政学的進展状況です。「世界経済と金融市
場の発展」が政策目標というよりむしろリスクとしてとらえられる一方、それは FOMC の将来の利上げ
見通しにすでに大きく織り込まれており、とりわけ FRB の雇用とインフレ目標に向けた最近の動きを
相殺する形となっています。雇用面での進展としては、労働統計局によれば、失業率 4.9%が達成され、
雇用拡大が堅調に推移し、賃金の伸びが引き続き改善に向かっていることが挙げられます。インフレ
に関しては、経済分析局のデータは、コア個人消費支出(PCE)指数(FRB が好むインフレ統計)が
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2016 年 1 月までの 3 ヵ月間(取得可能な最も直近のデータ)に前年同期比 1.7%増(年率ベースでは
2.0%増)であったことを示しています。
FRB の二つの使命に向けた、こうした目に見える前進があったにもかかわらず、3 月の FOMC 声明
は、金利正常化が重要な事項であり今後すべての会合で利上げの可能性を俎上に載せるととらえる
べきであるという点について、喚起すらしませんでした。そうした議論が欠如していることは、インフレ
がこの先中期的に 2%まで上昇するとの政策立案者たちの予想が金利正常化の遂行には十分である
と示唆した過去の FOMC 会合議事録内容を考慮すれば、意外だと言えるでしょう。
新たな目標
それどころか FRB は、金融政策を方向付けるはずのデータを無視して新たな検討事項-海外市場と
海外経済の健全性-を優先することを選んだと考えられます。こうした転換は FRB の新しい視点が
従来よりも世界主義的になったことを意味しており、政策の重点に「世界経済と金融市場の発展」を含
め、そしてそれが世界経済成長の下支えに寄与するよう修正を図ることを示唆しています。言い換え
れば、米国の金利正常化は世界市場の安定と世界経済の改善より後回しにされたとも言えるのです。
こうしたグローバルな相互依存的視点が FRB 内で主流となれば、世界の主要中央銀行間での金融
政策実行はまさにより協調性のあるものとなり始めたと言えます。このことは投資面で重要な意味を
持ちます。まず第一に、世界経済成長に向けて協調的な重点が置かれれば世界的にリスク資産を広
範に下支えする環境が生まれることから、リスク資産は恩恵を受けることが予想されます。経済の脆
弱性が各国で進むなかで、FRB の意識が世界経済と金融市場の発展に向いていれば、米国の積極
的な利上げによって世界各国から資本を引き込むような事態の可能性は低いと見られます(米国の
高利回りは、国債利回りがマイナスに落ち込んだ他の諸国からの投資先として魅力的なものとなって
きました)。こうした見方から、厳選された新興市場投資は今年初めに懸念されたような状況に比べて
改善していく可能性が高いと我々は予想しています。
国内資産については、「世界経済と金融市場の発展」により重点を置く FRB 政策と利上げペースの減
速によって後押しされる形でドルが安定化することで、不確実性が緩和されるとともに米国の多国籍
企業への収益圧力も低下すると見られます。この二つの面が進むことで米国企業の収益性と企業価
値は下支えされていくことになるでしょう。
政策面での限界
利上げペースの減速によって、米国の信用力の低い発行体債券が高い利回りの積み上げに要する
期間が長期化する一方で、景気拡大促進に重点を置く政策はそうした企業の潜在的な収益性と信用
力の向上を後押しすることが見込まれます。ハイイールド債券と投資適格債の下位層にある企業は
興味深い投資機会をもたらす可能性があり、特に過去の水準比で利回りスプレッドの拡大が予想され
ます。同時に、他の中央銀行、なかでも ECB は、マイナスの領域とはいかないまでもユーロ金利を相
対的に低い水準に抑える政策を通じて、利回りで上回る米国債と米国社債に対する米国以外の投資
家の関心を刺激することになると見込まれます。
FRB の視点が従来よりもグローバルになったことは、米国金利の正常化ペースの減速化につながりリ
スク資産を下支えするとともに、世界経済成長環境を促進することになるでしょう。とはいえ、低金利と
積極的な金融政策による成長促進には限界があります。不確実性を減らし、成長への促進剤となり
得る誘因を作り出すうえで必要なのは、石油価格の安定、中国経済減速の緩和に向けた思慮深いア
プローチ、そして先進諸国において構造改革、企業投資、税制改革を促進する財政政策です。
これらを総合すると、こうした状況は、とりわけ緩和的な金融政策と相まっている情勢下においては、
米国及び世界市場双方で景気拡大をもたらす可能性が高いと考えられます。そうした状況になけれ
ば、緩和的金融政策の効果は限定的なものとなり、投資への潜在的な効果も弱まってしまう可能性が
あると言えるでしょう。
リスクについての注記:債券の投資価値は金利変動によってまた市場動向に応じて変化します。一
般に、金利上昇時には債券価格は下落し、逆に金利低下時には債券価格は上昇します。
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見通しや予想は現在の市場情勢を基にしたものであり予告なく変更されることがあります。予想を保
証ととらえるべきではありません。
コア個人消費支出(PCE)物価指数とは、食料品とエネルギー価格を除いた個人消費支出(PCE)で
す。コア PCE 物価指数は基調となるインフレトレンドを示すために、食料品とエネルギー価格の動向
による価格変動を除外し、消費者が物・サービスに支払った価格を測定する指数です。食料品は「購
入した場所で消費しない食料品や飲料」という PCE カテゴリーに含まれる食料品で構成されます。
PCE カテゴリーの「食品サービスと宿泊施設」に含まれる価格はこの「食料品」価格指数には含まれ
ていません。これはそれらのサービス価格が肉、新鮮野菜や果物といった一般的な食料品と比べ価
格変動がはるかに小さいためです。エネルギー価格は PCE カテゴリーの「ガソリン及びその他エネ
ルギー製品」と「電力及びガス」に含まれるもので構成されています。
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