フィブリン血栓構造に対するリバーロキサバンとワルファリンの影響

 2015年8月29~9月2日,英国・ロンドン
フィブリン血栓構造に対するリバーロキサバンとワルファリンの影響
2015.10.2
リバーロキサバンはフィブリン血栓(fibrin clot)の形成遅延および溶解促進において,ワルファリンに優る-8月31日,欧州
心臓病学会(ESC 2015)にて,Yee Cheng Lau氏(University of Birmingham Centre for Cardiovascular Sciences,英国)が
発表した。
●背景・目的
心房細動患者では,脳卒中発症抑制のために抗凝固療法の実施が不可欠であるが,使用する薬剤によってその効果や
出血リスクに差異があることが知られている。それらの差異は,各薬剤のフィブリン血栓構造に対する影響の違いによって
生じている可能性がある。
そこで今回,ワルファリン,リバーロキサバン,アスピリンを服用中の心房細動患者において,フィブリン血栓形成およびフ
ィブリン血栓退縮への影響に関して比較検討を行った。
●方法
対象は,心房細動患者234例(ワルファリン服用例153例[平均PT-INR 2.42],リバーロキサバン服用例44例,アスピリン服
用例37例)である。対象者から血液検体を採取し,トロンボエラストグラフィー(TEG)および線維素溶解アッセイ(比濁法)を
用い,凝固・線溶系パラメータを測定した。
●結果
1. ワルファリン,リバーロキサバン vs. アスピリン
TEGを用いて解析したところ,R-time(反応時間;フィブリン血栓形成開始までの時間)は,ワルファリン服用例7.3分,リバ
ーロキサバン服用例8.4分,アスピリン服用例5.0分となり,アスピリンにくらべ,ワルファリン服用例およびリバーロキサバン
服用例ではフィブリン血栓の形成反応が遅延することが明らかになった(p<0.001)。
同様に,K-time(凝固時間;フィブリン血栓形成開始から20mmの振幅が達成されるまでの時間)についても,ワルファリン
服用例で2.0分,リバーロキサバン服用例で2.0分となり,アスピリン服用例(1.4分)にくらべ延長しており,フィブリン血栓形
成を遅延させることが示された(p=0.03)。
アルファ角度(振幅の増加率を表す角度)についても,ワルファリン服用例で63.2度,リバーロキサバン服用例で63.6度,ア
スピリン服用例で68.3度となり,ワルファリン,リバーロキサバンはアスピリンにくらべ,角度が緩徐であった(p=0.004)。一
方で,最大振幅(大きいほど血栓の硬度が高い)については,3群間に有意差はみられなかった。
線維素溶解アッセイの結果,フィブリン血栓形成速度(光学濃度[OD]/秒)は,ワルファリン服用例で17.6OD/秒,リバーロ
キサバン服用例で12.3OD/秒となり,アスピリン服用例(25.1OD/秒)にくらべ,減速していた(p<0.001)。他方,フィブリン血
栓溶解時間(50%溶解)については,ワルファリン服用例で190秒,リバーロキサバン服用例で180秒と,アスピリン服用例
(204秒)にくらべ溶解時間が短縮していた(p=0.026)。
2. ワルファリンとリバーロキサバンの比較
ワルファリンとリバーロキサバンの2剤を直接比較したところ,リバーロキサバン服用例のほうがフィブリン血栓形成開始ま
での時間がより長く(R-timeの延長,p=0.0016),フィブリン血栓形成速度の減速(p=0.008),フィブリン血栓溶解時間
(50%溶解)の短縮(p=0.04)の程度がより大きかった。
●結論
アスピリンとの比較において,ワルファリンおよびリバーロキサバンの2剤はともにフィブリン血栓強度を変えることなく,血
液凝固を遅延させ,フィブリン血栓溶解を促進させる方向に働くことが明らかになった。 ワルファリンとリバーロキサバンの
比較では,血液凝固の遅延,フィブリン血栓溶解の促進に関して,リバーロキサバンのほうがワルファリンよりも優れてい
た。
Lau YC, et al. Effect of rivaroxaban and warfarin on fibrin clot structure. Eur Heart J 2015; 36(abstract supplement): 744.
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