ハムスターのプークは知りたい・・・・ ベンとルーシーのお父さんはどうしちゃったの? Dr Laura J. Bach, Clinical Neuropsychologist Homerton University Hospital and Goldsmiths College, London University, UK Translated by Dr Yoko Okamura, Clinical Neuropsychologist Senshu University, Japan This book was originally funded by a grant from the South London and Maudsley NHS Charitable Trust. Pook has now been translated into JAPANESE and it is hoped that the book will be as helpful and beneficial to children and families in Japan and those whose mother tongue is Japanese, as it has been to English speaking children and families. It is our hope that the Pook book provides insight and support for children and their families who have had to bear witness to, and live with, the tragedy of a family member with a brain injury. It is our dearest hope that Pook brings knowledge, information, support and strategies on how to manage and cope with brain injury within a family or community and thus bring comfort and confidence in adapting to the new challenges in life that brain injury can bring. I am grateful to the South London and Maudsley NHS Charitable Trust who made the original book possible and also to the Homerton University Hospital (Specialist Acquired Brain Injury Unit) for its resources. No matter who you are or where you are from we all suffer the same and this book is designed to provide support for all. プークは、柔らかくてふわふわした金色のハムスター。黒いボタンのようなキラキラし た目をしている。ベンとルーシーと一緒にセイトン通り 12 番地に住んでいる。もちろん、 ベンとルーシーのお父さんとお母さんも一緒に。ベンは 8 歳で、ルーシーは 6 歳だ。 ベンとルーシーは、毎日かわりばんこにプークの世話をする。ベンとルーシーはプーク の面倒を一生懸命みている。毎日二人は、プークが飲む水入れに新しい水が入っているか な、エサ箱に新しい果物や種がいっぱい入っているかな、それから、プークが転がりまわ ったり、暖かくしたり、疲れてまるまって寝たりするのにちょうどいいきれいなおがくず があるかなと確認している。ベンとルーシーは、毎日プークのところに来て、話しかける。 ときどき二人は、プークをなでたりする。プークがとってもふわふわしていてやわらかい から。それに、プークのちっちゃなピンク の足や、ひくひくぴくぴくするお鼻や、肌 に当たるプークのひげの感じが好きだっ たから。プークも二人が遊んでくれるのが 大好きだ。ケージから外に出して遊んでも らうときは、プークは新しい遊びをしたがる。台所中をできるだけ早く走り回ったり、庭 にもしょっちゅう出ていこうとする。もちろん、お家から出て行っちゃったことは一度も ないけど。 ベンとルーシーはよくプークに秘密の話をしてくれる。プークは回し車を走って回すの が大好きなんだ。特に、ベンとルーシーがベッドでぐっすり寝ている夜中に。 ベンとルーシーのお父さんは 2 週間前に病院から退院してきた。ベンはプークに、お父 さんに腹が立つんだって言い、ルーシーはお父さんがこわい、またいなくなったらいいの にって言った。プークはベンとルーシーの言うことをきいてすごくびっくりした。ベンと ルーシーのお父さんはいつもすごく優しくて頭が良かったから。プークはベンとルーシー のことが心配になった。でも、おいしいご飯を食べて、回し車を回して、水入れから何回 か水を飲んで、気持ちのいいお昼寝をしたら、すぐにみんな忘れてしまっていた。突然台 所から泣き叫ぶ声が聞こえてきて目が覚めてしまうまでは。プークはぐっすり寝ていたけ ど、こんな騒ぎは普通じゃなかったから、起きて何があったのか調べたほうがいいぞと思 った。 プークは急いで寝床から飛び出して、自分のケージの明るいところまで出ていって、台 所を見わたした。すると、プークは自分が見たものに驚いて前足を挙げたまま凍り付いた。 ベンとルーシーが泣いていて、お父さんが二人を怒鳴りつけていた。プークはどうしてお 父さんが怒鳴っているのかわからなかったけど、お父さんの怒鳴り声はプークを震え上が らせた。ベンとルーシーのお父さんはすごく怒っているようだったし、テーブルをこぶし でどんどんと叩いていた。プークはそんなお父さんをみたことがなかったからすっかり怖 くなって、自分の寝床に急いで帰って、やわらかいおがくずの下に頭をつっこんだ。その 日の遅くになってから、ベンとルーシーがプークのところにやってきた。プークはあんな おそろしい大きな物音をもう聞きたくなかったから出て行って二人に会うのが怖かった。 プークが出て行って二人の顔を見ると、二人の顔には泣いた跡が残っていた。二人とも本 当に悲しそうだった。 「ねえ、プーク」二人は言った。 「プークのことほんとに大好きだよ。でも、お父さんは もうぼくたちのことを好きじゃないんだ。ぼくたちが何か聞くとすぐ怒鳴ってあっちに行 けっていうんだ。前は怒らずになんでも教えてくれたのに。 」 すぐに、ベンとルーシーのお母さんがやってきた。 「ふたりとも」お母さんはふたりに話 しかけた。 「お母さんはふたりがお父さんのことを怖がってるのはわかってるの。でも、お 父さんは、ふたりの質問に答えられなくてあわてちゃっただけなの。お父さんは頭にけが をして病院にずっといたのよ。お父さんのせいじゃないの。お父さんは、質問の答えを知 っているはずの部分の脳がうまく働かなくなっちゃったの。だから、ふたりの質問に答え られなくて、ふたりのために何もできなくて、ものすごくあわててしまったの。お父さん はあわててしまったことがいやで、それで怒鳴ってし まったの。 」 「お父さん、かわいそう」ルーシーは言った。 「でも、どうしてお父さんはぼくたちに怒鳴らなき ゃいけないの?」とベンは言った。 「なんで、怒鳴らず にわからないって言えないの?。 」 お母さんはベンとルーシーにキスして言った。「今のお父さんには、怒鳴らないでいるこ とは本当に難しいの。ふたりとも、小さいときは、何かできないことがあったりほしいも のがあったりしたらすぐに泣いたり怒鳴ったりしてたでしょ。ふたりとも大きくなってい ろんなことがわかるようになってきたけど、今のお父さんはいやなことが我慢できないの。 だから怒鳴っちゃうのよ。 お父さんは前はなんでも出来た。でも今は何もかも大変になってしまった。だから悲し いの。悲しくなると怒鳴ってしまうこともあるの。だから、お父さんが悲しくならないよ うに助けてあげようね。 」 プークはチーズのことを忘れてしまう (記憶) ベンとルーシーはプークのことをすごく心配していた。今日二人がプークの様子を見に 来ると、プークはケージの中を走り回っていた。こっちかと思えばまたあっち、汗に濡れ たひげをぴくぴくさせ、鼻にギュッとしわをよせ、ケージ中をふんふんとかいでまわって いた。それから、突然大慌てで回し車に飛んでいき、大きくジャンプして飛び乗った。プ ークは、世界が色とりどりの万華鏡みたいにぼんやりしてくるまで、息が切れてふらふら になって回しぐるまからころがりおちそうになるまで、走って走って走りまくった。プー クは今日はすっかり興奮状態だった。 「もう、プーク」とルーシーは言った。 「どうしたのよ?」 「ああ、ルーシー」プークは思った。「ルーシーが昨日くれた僕の大好きなチーズが見当 たらないんだ。一晩中おいしいチーズを食べる夢を見てたのに。だからすごくあせってる んだよ。どう考えてもどこにあるか思い出せないんだ。チーズ食べるのものすごく楽しみ にしてたのに。 」 「ねえプーク、ここに昨日あげたチーズがあるよ。お がくずの下。どうして食べないの?プークおかしいよ。 どこにあるかわからないの?きっとすごく慌ててるんだ ね。あげるときは、どこにあるかすぐわかるように小さ な青いお皿におくようにするね。必ずそこがチーズの場所だってわかるようにするね。プ ークがあわてないように決まったところに置くようにするからね。私たちが、最近お父さ んにしてるみたいにするね。お父さんは覚えることがうまくできないの。お父さんはもの をどこに置いたかよく忘れちゃうの。お母さんとベンとわたしは、お父さんが思い出すの を手伝ってるの。お父さんは何かを忘れちゃうとすごく焦って、大声を出しちゃうの。だ から、お母さんと、ベンとわたしは、いつもお父さんがわかりやすいようにって、何でも いつも決まった場所に置くようにしてる。わたしたち、いつも壁の大きなカレンダーに、 お父さんが読めるようにお父さんのやったことを書き込んでおくの。それからやらなきゃ いけないこともリストにしてみんな書き出しておくのよ」 プークは、ルーシーがいつも小さな青いお皿にのせてチーズをくれるつもりでいること がわかってうれしかった。そして、今では、毎朝プークは起きるとまっすぐに小さな青い お皿のところに走っていく。ごちそうのチーズがあるってわかっているところに。チーズ をむしゃむしゃと食べてとっても幸せな気持ちなって、それからプークは回しぐるまをく るくる回しに行った。 お父さんは何を言っているの? (言葉と理解) プークが自分の寝床に静かに座っていると、お母さんがプークにご飯をあげにやってき た。 「Bonjour ma petite、 tres jolie」 お母さんは何を言ってるんだろう、とプークは思った。ぼくにはちんぷんかんぷんだ。 お母さんはそれから歌い始めた。 「Sur le pont d’avingnon、 on y danse、 on y danse tra la la la la。 」 耳がおかしくなっちゃったのかなとプークは思った。だって、今日はお母さんの言って ることちっともわからないんだから。へんだなあ。 すぐにベンがプークのところにやってきた。 「プーク、おはよう、元気?お母さんは今フ ランス語を習っているんだ。それでああやって一日中 練習してるんだよ。ルーシーとぼくには何を言ってる のか全然わからないんだよね。さっきプークのとこに きたときも、フランス語をしゃべってたんだよ。お母 さんが何言ってるのかわかんないのと、お父さんが何 を言ってるのかわかんないのは同じよって お母さんは言うんだ。お父さんは、頭を怪 我してからときどきすごくへんなことを言 うんだよ。ルーシーと僕にはちっともわか らないし、おかしく聞こえるんだ。たまに 僕たちはお父さんのこと笑っちゃう。そう すると、お父さんはすごく嫌がってぼくたちに怒鳴りだすか、そうじゃなかったら泣いち ゃったり、怒り狂って部屋を飛び出しっていっちゃったりするんだよ。だから、ぼくたち はもうお父さんのこと笑わないようにしてる。でもちょっとこわいなって思っちゃう。お 母さんはいつもぼくたちに何を言ってるか教えてくれるけど、お父さんはそうはできない んだ。お父さんは自分の言いたいことがうまく言えないと、悲しくなって隠れちゃうか、 そうじゃなかったらぼくらに怒鳴りだしちゃうんだ。ぼくらの話が分からなくて、どうし たらいいか全然わからなくなっちゃうこともある。 」 こういうことがあるとお父さんはいつも悲しくなる。だからベンとルーシーはお父さん のためになんでもわかりやすくしようとしている。 プークは自分の耳がおかしくなったんじゃないことがわかってほっとした。だから嬉し くなって、回しぐるまに飛び乗って一生懸命走り始めた。 お父さんは変わったことをする (社会的行動障害) 「プーク、プーク、早く起きて!みてみて!早く早く!」ベンとルーシーはプークのケ ージをたたいてがたがたさせながら言った。 どういうこと?この大きな音は、この騒ぎは何?とプークは思った。 プークは昼寝の最中で、回しぐるまの中で走り続ける夢を見ながらぐっすりと眠ってい たところだった。プークはとっても居心地よく暖かくしていて、寝床にしている黄色いお がくずの上で丸くなっていた。だからプークはまだ起きたくなかった。でも、ベンとルー シーは、そんなプークの様子には構わず叫 び続けた。 ああもう、何が起こってるかわからない けど、起きて、ベンとルーシーがなんでそ んなに興奮してるのか見たほうがいいな あ、と、プークは思った。そこで、プーク はゆっくり大きな丸い目を開けて、光に向かって目をぱちくりさせた。それから、後ろ足 をまっすぐになるまで伸ばして、毛づくろいをするところがあるかどうか確認しながら体 中をなめまわした。そのあとで、ふかふかしたおなかが薄明かりにひかってみるようにな るまで小さな前足でとかしつけた。プークは本当にかっこつけたがりで、どこに行くにも 一番いい格好でいたかった。だから、プークは時間をかけて自分の様子をチェックした。 なめたりとかしつけたりしたところが、毛一本でもおかしいことろはなくて、毛皮がつや つやと輝いていることに満足してから、ケージの中の明るいところに走り出ていった。 ベンとルーシーはきゃあきゃあ言いながらくすくす笑っていた。 「プーク、お父さんを見 て!すっごく変なの。お父さんが何を着てるかみてよ。 」とルーシーは言った。 プークは急いでケージのはしまで行くと、ケージの柵に前足でつかまってバランスをと って後ろ足で立ち上がった。プークがケージから外を見ると、お父さんが見えた。プーク はそのお父さんの様子に驚いて後ろ向きにひっくり返りそうになった。 ベンとルーシーのお父さんは、服は着てい たけど、本当にすごく変な格好だった。シャ ツは着ているんだけどボタンはかけちがって いた。それにズボンははいていたけどうしろ まえになっていて、ズボンのチャックがおし り側になっていた。シャツのすそはズボンか らはみ出しちゃっていた。お父さんは色のちがうくつしたをはいていたし、右足と左足で 違うくつをはいていた。一番変だったのは、お父さんが電気スタンドの笠をぼうしみたい に頭にかぶっていたことだった! お父さんは本当にすごく変だった。そして、お父さんもくすくす笑っていた。プークは お父さんが前はすっごくかっこよくて、おしゃれだったことを覚えていた。ベンとルーシ ーがお父さんに、ねえそれって新しいはやり?と聞くと、お父さんはもっとくすくす笑っ て自分の頭をパタパタ叩いた。そのとき玄関のドアをノックする音が聞こえた。 お母さんは2階にいたから、ノックの音に答えて、今行きますって大声で言った。でも お母さんが下に降りる前に、お父さんが玄関に出て行ってしまった。玄関の外には、青い つなぎを着た若いお兄さんが立っていた。 「こんにちわ、グリーンさん、メーターを点検しに電力会社から来たんですけど」とそ のお兄さんは言った。 「お願いします」お父さんは言って、お兄さんにあいさつした。でも、お父さんはお兄 さんの前に立ったまま全然動かず、お兄さんをうちの中のメーターのところに案内しよう とはしなかった。 「メーターの点検に来たんです。入れていただけませんか?グリーンさん」とお兄さん は言った。 それでもお父さんはお兄さんの前につったままクスクス笑っていた。ちょうどそのとき お母さんが玄関に出てきて「すみません」と言った。 「事前にグリーンさんの様子をお電話で伺っていてよかったです」と電力会社のお兄さ んは言った。 「もしかしたらグリーンさんが何かおかしなことをされるかもと思っていまし たから」 「そうなんです、前もって主人がたまにおかしなことをするかもしれないとわかっても らうことが大事なんです」とお母さんは言った。お母さんはベンとルーシーのほうを向い て言った。 「ふたりとも、お父さんはたまに今何を着たらいいかわからなくなっちゃうの。 普段何を言ったらいいか何をしたらいいか考えていたお父さんの脳の部分が今はもう働か なくなっちゃっててるからなのよ。お父さんはときどき、まわりのひとが気まずくなるよ うなおかしなことを言ったりしたりするでしょ。今日みたいに知らない人の前にずーっと 立ってたりして。だから、お母さんたちのできることは、周りの人にうちのお父さんはこ ういうことが難しくなってることをわかってもらうことなの。そうしたら、お父さんがこ うやってすごくへんなことをしてもほかの人を驚かせたりしないでしょ」 お母さんはそれからお父さんの着替えを手伝った。もう今は、すっかり静かになったの で、プークはまた自分の長いふさふさした毛皮のけづくろいを始めた。身ぎれいにしてお くことはとっても大事だからねとプークは思った。お父さんはめんどくさがりやになっち ゃったんじゃないかなって思ってたけど、たまにおかしく見えるのはお父さんが悪いんじ ゃないってわかったよ。みんな、お父さんのめんどうをみてるお母さんの力にならないと いけないよね。 興奮した後だったから、プークはとても疲れてしまっていた。もうちょっと寝たほうが いいかなとプークは思った。それからプークは自分の寝床に帰るとおかくずのベッドの中 にもう一度もぐりこんだ。 プークとお父さんのやる気のない一日 (意欲/アパシー(無関心) ) プークはいつもと同じようにお昼寝をしていた。しばらくうとうとしたあと、プーク は起きることにした。プークはあくびをして、小さなピンクの鼻にしわをよせ、片方ずつ 丸い目をゆっくりあけた。プークは明るさに目をパチパチさせた。プークは自分のおがく ずの中で暖かくていい気持で寝ていたから、頭がぼんやりして重たい感じだった。はあ、 もうっちょっとうとうとするのっていい考えじゃないかなあ、とプークは思った。そこで、 プークはまた目を閉じることにした。やわらかいふわふわしたおがくずの下に頭をもぐり こませると、すぐにまたプークは眠り始めた。でも今度はそんなには長くは眠れなかった。 ベンとルーシーがプークのところにやってきた。二人はプークに声をかけた。「プーク! プーク!ねえ、出てこないの?」ルーシーは言った。ベンとルーシーはプークに小さな種 を食べさせたり、プークをやさしくなでたりするのが好きだった。プークは、ベンとルー シーが自分に声をかけているのが聞こえていたのだけど、あたたかいおがくずのベッドの 中で気持ちよくうとうとしていたから動きたくなかった。 しばらくして、ベンとルーシーはプークに声をかけるのが疲れて嫌になってきた。ルー シーはプークと遊ぶのを一日中楽しみにしていたから、ひどくがっかりして泣き始めてし まった。ベンもすごく心配になってきた。「プーク、お父さんみたいだよ、もう、何もした くないんだね。そんなプークは嫌だよ。もうご飯あげないからね」とベンは言った。 ベンとルーシーは、プークにやる気がないみたいとお母さんに言いに行った。ベンは、 プークはお父さんみたいにやる気がないんだよとお母さんに話した。お父さんは病院から 帰ってからずっとやる気が出なくてだらだらしてるよねとベンは言った。ベンは、お父さ んがもう誰ともゲームをしようとしないし、しても途中ですぐやめちゃうから、すごく心 配だった。ゲームをしてても、お父さんは楽しそうには見えなかった。 「ふたりとも、いい子ね。プークはときどき やる気のないハムスターになるわよね、ほんと に。でも、お父さんはプークとは違うの。お父 さんには今は何をするのも大変なの。お父さん には生活全てが難しい仕事みたいなものなの。 それに、お父さんは前は楽しかったとでも今は楽しむことは難しいの。だからお父さんが 何もしないからといって、あなたたちのことをもうかわいがっていないということではな いのよ。お父さんは頭を怪我をした時に、脳の中のやる気を作り出して部分が壊れて、い ろんなことを楽しめなくなってしまったの。お父さんは何かをするとすぐに疲れちゃうで しょ。だから、お父さんと何かするときはできるだけ短い時間にしてね。二人とも後でい つでもゲームすることはできるでしょ。 」とお母さんは二人に言った。 ベンとルーシーは、お母さんが話してくれたから元気が出てきた。二人とも一度にちょ っとずつって思っていればお父さんと遊べるんだ。 ベンはそれから、プークが起きてるかどうか見に行った。プークはまだおがくずの下で ぐっすり眠っていた。プークには本当にのんびりした一日だった。 お父さんは、洗濯物と買い物にピクルスを入れてしまった。 (問題解決能力と判断力の欠如) 今日は雨。どんよりした雲に、暗い空、そしてものすごく寒い。 冬が来たという証拠だった。プークは冬に備えて、食べ物をを集めて、おがくずで巣 を作らないとと思った。あんまり外には出ないぞ。夏がまた来るまで長い冬の間ずっと眠 ってよう。冬の間にひもじくな らないように、太っておかなき ゃ。だから食べ物をたくさんた めこまなきゃ。 ベンとルーシーは毎日おい しい食べ物や寝床用のおがくずをもって来てくれるけど、プークの本能はこれから来る冬 に備えなくちゃいけないと告げていた。プークは、冬の備えにどれくらい必要で、たくわ えをどうやって集めて、どこにしまっておくか考えなければいけなかった。小さいハムス ターには考えることが多すぎた。 プークは結局考えるのはやめて、自分の住んでいるケージの中を十分に調べたあと、昼 寝のためにおがくずのベッドにかけ戻った。ちょうどそのとき、お父さんがやってきた。 プークは、ドスンバタン、ガチャガチャいう音がうるさくて眠れなかった。起き上がっ て台所で何が起こっているのか見に行った。 お父さんは買い物に行っていたみたいだった。「何を買ったの?」とルーシーが聞いてい た。お父さんは「お母さんが果物を買ってきてくれって。リンゴとオレンジと。でも、買 い物に行ったら、バナナがすごく安かったんだ。ほんとに大安売りだったから 20 キロ買っ てきたよ」と答えた。 お父さんはバナナの入った袋をいくつもいくつ も持って帰ってきていた。バナナを果物かごにい れようとしていたけど、あんまりにもたくさんバ ナナがありすぎて、果物かごに収まりきらず、床 にどんどん転がり落ちてしまっていた。 それからお父さんはアイロンがけをしようとした。ワイシャツにアイロンをかけ始めた けど、ズボンにもアイロン掛けしなきゃいけないことを思い出して、半分だけアイロンを かけたワイシャツ床に放り出して、ズボンにアイロンを掛け始めた。でも、お父さんはズ ボンにアイロンをかけ始めたと思ったら、今度は洗濯籠に入っていた T シャツに気が付い た。そこでお父さんはワイシャツのそばにズボンを放り投げて、今度は T シャツにアイロ ンがけを始めた。お母さんがやってきたときには、アイロンがけが途中までの服が床に山 となっていて、その隣には、台所の床中に果物かごからこぼれ落ちたバナナが転がってい た。 「なんなの!」お母さんは台所に入ってくると大声を上げた。ぐちゃっ!お母さんはバ ナナを踏んでしまった。 「なんでこんなに散らかってるの?」 「買い物をしたんだ。それから、お母さんのためにアイロンをかけたんだよ」とお父さ んは言った。かわいそうに、お母さんは、散らかった台所をみてがっくりきているみたい だった。お父さんは手伝ってくれようとしただけだったんだけれど、お母さんにとっては ただ仕事を増やしただけだった。プークはその様子を見ていて、なんでお母さんはお父さ んに怒らないんだろうと思った。怒る代わりに、お母さんは、手伝ってくれようとしてく れてありがとう、でも次の時は私がうちに帰ってくるまで待っていてほしいわとお父さん に言った。プークはお母さんの言葉にびっくりした。もしお父さんが自分のケージの中を 散らかしちゃったら僕はほんとうに怒るだろうな、とプークは思った。プークはどうして かよくわからなかったので、考えるのをやめて回し車を回すことにした。 その日の遅くになって、ルーシーはプークにエサをやりに来た。ルーシーはプークにバ ナナをいくつか持ってきた。おいしそう、とプークは思った。これは本当にごちそうだ。 ぼくは甘いバナナが大好きだから、お父さんがいっぱい買ってきたよかったなと思った。 「わたしもバナナは大好き」ルーシーはプークに自分の手からバナナをかじらせながら 言った。 「お父さんが今日たくさんバナナを買ってきちゃったのってお母さんが言ってたよ。 お父さんは、頭を怪我してから何かを判断したり計画したりすることが難しいんだって。 お父さんはお母さんを喜ばせようと思って、お手伝いをしようとしたんだよ。うまくでき なかったけど、お父さんは一生懸命アイロンをかけようとしたし、お父さんは頑張ったん だよ。 」 ふーん、プークは思った。まあ、今日台所は すっごく散らかってるけど、少なくとも僕はお いしいバナナをもらえたしね。プークは、ルー シーがくれたバナナを全部むしゃむしゃ食べてしまった。プークの小さなおなかはポンポ ンになってしまったから、プークは回し車を回すことができなくなった。かわいそうに、 プークは小さなハムスターはどれくらい食べられるものか考えることができなかったん だ!もうこれ以上食べ物はとっておく必要ないな、プークは、ルーシーがすごくたくさん のバナナをこれからも毎日もって来てくれるものと思った。だから、プークは食後の一眠 りをしようとおがくずの中で丸くなった。 礼節が人を作る、そして、ハムスターはごちそうをおすそ分けしてもらう (脱抑制/衝動性) 今日はルーシーの誕生日。ルーシーはお祝いの誕生日のパーティにお友達を呼んでいた からとてもそわそわしていた。お母さんはルーシーのために、素敵な誕生日のごちそうを 用意していた。クリームチーズ、卵、マヨネーズと、しゃきしゃきしたレタスに真っ赤な トマトを挟んだサンドイッチが山盛りになったお皿が用意されていた。お母さんは、おい しいチョコレートクリスピーケーキと生クリームの詰まったメレンゲのお菓子も作ってい た。中でも一番なのは、7 本のろうそくがのっていて、砂糖で作った銀色のバレリーナが真 ん中にのっている大きなお誕生日のケーキがある こと。ルーシーは、お友達と遊ぶのも、ケーキのろ うそくを吹き消すのもとっても楽しみにしていた。 ちょうど 2 時過ぎに、玄関のチャイムが鳴った。 ジャッキーが最初に来たお友達だった。すぐに、うち中がルーシーの友達でいっぱいにな った。子どもたちはゲームで遊んで楽しんだ。みんなが遊び疲れたころ、お母さんが誕生 日のごちそうにしましょうと声をかけた。お父さんとベンがルーシーの隣に座って、みん なと一緒にテーブルを囲んだ。 プークは自分のケージの中で回し車を回すのに忙しかった。プークは疲れて息が切れて いたので、回し車から降りて、ルーシーとルーシーのお友達が台所に来て何が始まったの か見に行った。 台所のテーブルは誕生日パーティの食べ物でいっ ぱいだった。プークは、なんて素敵なテーブルなんだ ろうと思った。プークは食い意地のはった小さなハム スターだったから、おいしそうなサンドイッチを全部 食べられたらなあと思った。でもプークは育ちのいいハムスターでもあったから、みんな が食べる前に全部食べてしまうのはお行儀が悪いことだってわかっていた。でも、お父さ んを見て。 プークはみんなが食べていないのにお父さんが食べ始めたのを見て驚いた。お父さんは、 自分のお皿にほとんど全部のサンドイッチを山積みにしてしまった。だから、ルーシーと お友達にはほんのちょっとしか残っていなかった。ルーシーはお母さんに、お友達のため にもうちょっとサンドイッチを作ってもらわなければいけなかった。 お誕生日のケーキを食べる時間になった。お母さんがケーキの上のろうそくに火をつけ た。みんな、ルーシーが願い事をしてろうそくを吹き消すのを待っていた。ルーシーは息 を深く吸い込んだ。ふーーーーっ!すべてのろうそくが消えた。けれども、吹き消したの はルーシーじゃなかった。吹き消したのはお父さんだった。ルーシーはわっと泣き出した。 「お父さんは私の誕生日をめちゃめちゃにした」とルーシーは泣き叫んだ。 「お父さんは もう私のお父さんじゃなくていい。どっかいっちゃってよ。 」ルーシーは泣きながら走って 出ていった。 プークは、お父さんは本当に自分勝手だなあと思った。お母さんは、泣いているルーシ ーを部屋で見つけた。 「ルーシー」お母さんは言った。 「お父さんはわざと意地悪したんじゃないの。お父さん も嬉しかったのよ。お父さんがサンドイッチを全部取ってしまったのも、ケーキのろうそ くを吹き消してしまったのも悪気はなかったの。お父さんは頭を怪我してから、興奮した り、やりたいことがあったりしたときに、自分を抑えたり、我慢したりすることが難しい の。お父さんが悪いんじゃないし、お父さんは意地悪してあなたを傷つけようとしたわけ でもない。お父さんは自分のしたことがルーシーを傷つけるってわからないの。 」ルーシー は泣き止んだ。お父さんはルーシーのためのお誕生日のプレゼントを持って部屋に入って きた。 「お誕生日おめでとう、ルーシー」お父さんは言った。 「誕生日なのにどうして泣いてる んだい?大好きだよ、このプレゼントが気にいるといいな。 」お父さんは、ルーシーにキス をしてぎゅっと抱きしめてから戻っていった。ルーシーはそれからわくわくしてプレゼン トを開けた。中には、かわいらしいお人形と、その人形のための着せ替えのお洋服が入っ ていた。 「本当にありがとう、お父さん」ルーシーは言 った。 「新しいお人形、すっごく好き。このお人形 で友達と遊べるね」 ルーシーのお友達がみんなお家に帰った後で、うちはまた静かになった。ルーシーはプ ークのところにやってきた。ルーシーは、プークが食べられるように誕生日のケーキを少 し持ってきてくれた。ルーシーがケージのドアを開けてくれたので、プークはルーシーの 手のひらの上に走り出た。プークは手のひらに座って、後ろ足でバランスを取って甘いケ ーキにかじりついている間、ルーシーはプークのやわらかい毛並みを撫でてくれていた。 全部食べ終わると、プークは小さな前足で顔をこすって、自分のひげにケーキのかけらが ついていないか確かめた。プークは全部ケーキを食べ終わって、すっかりおなか一杯にな って、満足した。ルーシーにとってもプークにとっても、とってもいい誕生日だったこと は間違いなかった。 お父さんは悲しい (抑うつ/怒り) ベンは今日とっても嬉しいことがあった。学校のサッカーチームの選手に選ばれたんだ。 ベンはサッカーが大好きで、サッカーが一番お気に入りだった。ベンは休みになるとお父 さんと一緒にサッカーの練習をよくしていた。毎週土曜日の午後、お父さんとベンは裏庭 でサッカーをした。ベンはサッカーが上手だった。ベンがゴールを決めると、お父さんは 大喜びして、 「すごい、ベンは今にイギリス代表でプレーすることになるぞ」と叫んだもの だった。お父さんは、ベンのことを本当に自慢に思っていて、ベンがゴールを決めると本 当にうれしそうだった。ベンは、ベンが選手に選ばれたって知ったらお父さんは大喜びす るだろうと思った。だから、ベンはお父さんにそのいいしらせを話すために、急いでうち に帰った。 ベンは台所に駆け込んだ。 「お父さん!お父さん!」ベンは大声で叫んだ。 「なんだと思 う?すごく大事な話があるんだ。 」 お父さんは台所のテーブルでお茶を飲んでいた。午後の 4 時だったのに、お父さんはま だパジャマ姿だった。 「どうしたの?具合悪いの?」とベンは聞いた。 「いや、大丈夫だよ」とお父さんは答えて、お茶を飲み続けた・ 「ねえ、僕の話聞きたい?」とベンは言った。 「ああ、聞きたいよ」お父さんは言った。「なんだい、話って?」 ベンはすごく興奮していたので、飛んだり跳ねたりしながら、お父さんに学校のサッカ ーチームの選手に選ばれたことを話した。お父さんはにこりともしなかったし、手もたた かなかったし、ベンをほめてもくれなかった。 「わかったよ」お父さんは言った。それから立ち上がって言った。「ベン、疲れたよ。だ から、寝ることにするよ。悪いけど話しかけないでくれ。誰とも話したくないんだ。 」それ からお父さんは階段を上って自分の寝室に入ってドアを閉めた。お父さんはその午後はず っと部屋にこもっていた。夕食にも降りてこなかった。ベンは、お父さんがベンが選手に 選ばれたといっても話をろくに聞いてもくれなかったし、喜んでもくれなかったので、悲 しくなった。 ベンはかわりにプークと遊ぶことにした。ベンは腕や耳の後ろに駆け昇らせてくれたの で、プークはベンと遊ぶのが楽しかった。でも今日はベンは泣いていた。ベンはプークに、 お父さんがひどいことをしたから、ベンはとっても悲しくなったと話した。 お母さんはベンがプークに話してい ることを聞いていた。お母さんは、お 父さんは気分がよくないのよとベンに いった。お父さんは頭に怪我をしてか ら、ときどきすごく悲しくなって、誰 とも会ったり遊んだりしたくない気持 ちになるのといった。お父さんはできないことがあるってわかると、ただ一人になりたく なるの。お母さんは、わたしたちみんな、お父さんにやさしくしてあげないといけないわ。 そして、みんなお父さんのことを大好きだって教えてあげないといけない。ベンはまだ悲 しかった。でも、もうこれ以上プークと遊びたくはなかったので、プークをケージに戻し た。プークはもっとベンと遊びたかったので悲しくなった。 お母さんはベンに言った。 「ベン、つらいのはわかるわ。悲しいのも。でもお父さんは、 あなたを悲しませるかもしれないけどそれでもベンが大好きなのよ。あなたがプークをケ ージに戻してしまっても、プークはいつもベンと遊びたいと思っているようにね。 」 ベンはケージをあけると、プークは走り出てきた。プークはベンの腕にまっすぐにとび のって、てっぺんまでかけのぼり、そしてベンの顔に鼻をこすり付け、ベンの耳の後ろを 愛情をこめてなめ始めた。自分が悲しい気分になってしまっていると、人は誰かのことを 大事に思っていても、悲しませてしまうこととがあると、ベンは今はわかっていた。悲し くなってもプークがベンのことを大事に思っていて、悲しませてもベンがプークを大好き なように。 エピローグ プークは考えながら、回し車の中を走っていた。プークは、お父さんが病院から戻って きてからの 6 か月は、お母さんとベンとルーシーにとって長くて大変な 6 か月だったなあ と考えていた。グリーン家にとって、いろんなことが確かに変わってしまった。今は、お 母さんは働きにいっていて、お父さんはうちにいる。ベンとルーシーはうちでは友達とあ まり遊ばなくなった。でもそのかわりに、お友達のうちに遊びに行くようになった。 プークは寂しかった。小さなハムスターは回し車の中を 走りに走っていた。プークはベンとルーシーと遊べなくて さみしかった。 「プーク、元気?」と低い声がした。プー クは走るのをやめて、お父さんがプークをじっと見つめて いるのを見上げた。お父さんはケージのドアを開けた。お父さんは、種をいくつか手のひ らにのせていた。プークは、お父さんの広げた手の中に走り出て、種をかじり始めた。お 父さんは、プークのやわらかい金茶色の毛並みを指先に感じながら、プークをやさしくな でてくれた。 「我が家はみんなすごく変わってしまったよ、プーク」とお父さんは言った。「小さなハ ムスターのお前でも変わったと思うだろ」 プークはお父さんの手をなめた。変化こそが人生なんだとプークは思った。プークはお 父さんの腕を駆け上って、あごの下に鼻をこすり付けた。このままでいいよ、お父さんも、 とプークは思った。お父さんは変わった。でもみんなお父さんを愛してる。そして、お父 さんはプークをもう少し撫でてくれ、プークはお父さんを愛情をこめてなめてあげた。
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