流体力学(演習問題)

流体力学(演習問題)
解答とヒント
問題 1 質点の運動方程式,オイラーの運動方程式,ナビエ・ストークス方程式を示し,その物理的な意味を述べよ.オイ
ラーの運動方程式,ナビエ・ストークス方程式を導くにあたり,物理的にどのような概念を導入したかについて述べよ. ナビ
エ・ストークス方程式については各項の意味も説明せよ.
・式については省略(ノートを参照せよ)
・質点の運動方程式は質量のみで大きさを持たない仮想的な点に対する運動を記述する方程式であり,ニュートンの第 2 法則
を基礎とし,質点に作用する加速度は与えた力に比例し,質量に反比例する.ラグラジアンで記述することが一般的である.
・オイラーの運動方程式は,質点の運動方程式を連続体に拡張するため,連続体の面に垂直に作用する圧力による力をニュー
トンの第 2 法則に拡張したものである.流体の仮想粒子を追跡することは一般には困難であるため,オイラー系で記述する
ことが普通である.このため,加速度項に移流項を加えた実質微分を用いる.
・ナビエ・ストークスの方程式は,オイラーの運動方程式に加え,流体の粘性力に伴うせん断応力を考慮したものである.検
査体積の表面に作用する圧力,せん断応力,圧縮膨張に伴う応力を考慮した応力テンソルを求め,質点系の運動方程式を拡
張したものである.
オイラー系で記述することが一般的であり,オイラーの運動方程式と同様に加速度項は実質微分で記述する.
Du
1
1
= F − grad p + νdivu + ν∇2 u
Dt
ρ
3
(1)
・左から流体の加速運動により検査体積に作用する力(慣性項)
,外力により作用する力(外力項)
,圧力勾配による力(圧
力項),検査体積の圧縮により作用する力(膨張・圧縮項),粘性によるせん断応力に起因する力 (粘性応力項)
問題 2 レイノルズ数の物理的な意味を述べよ.また,ニュートンの運動方程式,流体のせん断応力に関するニュートンの
経験則を用いて,レイノルズ数を導け.
レイノルズ数は流体に作用する慣性項と粘性項の比を表し,流体運動が慣性力に支配されているか,粘性力に支配されて
いるかを表す指標である
レイノルズ数はナビエ・ストークス方程式の左辺の慣性力項と右辺の粘性応力項の比を表すため,レイノルズ数の大きな流
れの場合,慣性力に比べて,粘性力が小さくなるので,流れはさらさらした流れとなる.これは完全流体の流れを表してい
る.この場合は,慣性力と圧力で流体の力関係を決定することができる.
一方,レイノルズ数が小さい流れ(おそい流れや粘性的な流れ)では,粘性力が支配的となり,粘性力と圧力のみで流体の
力関係を決定することができる
一般にレイノルズ数の小さな流れは,流れが層状に流れる層流であり,レイノルズ数が大きくなると乱流となる.層流と乱
流では流れ場に作用する力や混合作用が大きく異なるため,レイノルズ数は流体の運動を考える上での重要な指標である.
ナビエ・ストークス方程式より慣性項は U/(L/U) に比例し,粘性応力項は νU/L2 に比例するから,その比を取ると
慣性項
U∂U/∂L
U 2 /L
UL
= 2
=
=
ν
粘性項
ν∂ U/∂L2 νU/L2
(2)
が得られる.
問題 3 粘性流体におけるニュートンの法則を示し,応力テンソルについて説明せよ. ニュートン流体では粘性応力は速
度勾配に比例し,その比例定を粘性係数と定義する
τ=µ
∂u
∂y
(3)
せん断応力,圧力,圧縮によるひずみ応力を考慮して,検査体積の表面に作用する応力をテンソル表記したものが応力テ
ンソルであり,流体の場合,以下のように表すことができる.

 σ xx

 τ xy
τ xz
τyx
σyy
τyz
τzx
τzy
σzz
  p − 2 µdivu + 2µ ∂u
 
3
∂x
 
∂v
µ ∂u
+ ∂x
 = 
∂y

∂u
µ ∂w
∂x + ∂z
∂v
µ ∂u
+
∂y
∂x
∂v
−p − 32 µdivu + 2µ ∂y
∂v
µ ∂w
∂y + ∂z
∂u
µ ∂w
+
∂x ∂z ∂v
µ ∂w
∂y + ∂z
−p − 23 µdivu + 2µ ∂w
∂z





(4)
ここで,主応力成分 σ xx , σyy , σzz の各項は,圧力,圧縮性によひずみる応力,垂直応力を示す.また,応力テンソルは対角テ
ンソルで表されることから,τ xy = τyx , τ xz = τzx , τzy = τyz が成立する.
問題 4 無次元化したナビエストークス方程式ではレイノルズ数が支配パラメータであることを示せ.
代表速度を U, 代表寸法を L とする.このとき特性時間(代表時間) は L/U で表すことができる.また,圧力については動
圧を用いて ρU 2 で無次元化できるとすると,無次元化された速度,距離,圧力,時間を以下のようにあらわすことができる
u∗ =
u ∗
v
w
x
y
z
p
t
,v = ,w∗ = x∗ = ,y∗ = ,z∗ = p∗ =
,t∗ =
U
U
U
L
L
L
ρL/U
ρU 2
上記の関係を用いると,たとえば,
(5)
∂u
U∂u∗
U 2 ∂u∗
は
=
と表すことができる.これらをナビエ・ストークス方程式の
∗
∂t
L/U∂t
L ∂t∗
各項に適用して,整理すると
Du∗
LF
1 2 ∗
= 2 − grad p∗ +
∇u
Dt∗
Re
U
(6)
が得られる.このようにレイノルズ数はナビエ・ストークス方程式のコントロールパラメータとなっていることがわかる.
問題 5 下図に示すように,平行平板の一方が静止し他方が速度 Uo で運動している場合の定常な流れ場について考える.
以下の質問に答えよ.
(1) 題意に基づき,ナビエ・ストークス方程式を簡略化せよ.簡略化の課程についても示すこと.
∂u ∂v ∂w
∂u
座標系を流れ方向に x 、これと直角方向に y, z とすると、v = 0, w = 0,
+
+
= 0 より、 = 0,u = u(y, z, t) が得ら
∂x ∂y ∂z
∂x
∂p
∂p
れる.また,これらの関係を y 軸方向,z 軸方向の運動方程式に適用すると
= 0,
= 0 が得られる.
∂y
∂z
題意より外力項及び非定常項が無視できること,z 軸方向の流れ場の変化がないことから,ナビエ・ストークス方程式は
dp
∂2 u
=µ 2
dx
∂y
と表すことができる.
(2) 境界条件を示せ.
y = 0 : u = 0, y = h : u = U
(3) 上式を解くと,平行平板間の流れとして
y h2 d p y y
u(y) = Uo −
1−
h 2µ dx h
h
が得られることを示せ.
省略:変数分離形の微分方程式を解き,境界条件を適用することで計算できる.
(4) 無次元圧力を
h2
dp
P=
−
2µUo
dx
!
と定義する.P = −3,0,2 の時の速度分布の概略図を図中に示せ.
省略.配布プリント参照
問題 6 無限に長い真直ぐな円管内において,圧力勾配が下図のような状態のときの定常な流れは
(7)
Vz = −
1 dp 2
a − r2
4µ dz
と表すことができる(Hagen-Poiseuille 流れ)ただし,a は円管の半径である.以下の質問に答えよ.
(1) z 軸方向の円筒座標系におけるナビエ・ストークス方程式を用いて軸方向流れの方程式を題意に基づき簡略化せよ.簡
略化の課程についても示すこと.
ρ
!
!
∂vz
∂p
∂2 vz 1 ∂vz
1 ∂2 vz ∂2 vz
∂vz vθ ∂vz
∂vz
+
+
+ vr
+
+ vz
= Fz −
+µ
+
∂t
∂r
r ∂θ
∂z
∂z
r ∂r r2 ∂θ2
∂r2
∂z2
題意より vr = 0, vθ = 0,
∂
∂
∂
= 0,
= 0,
= 0 が得られる.これを円筒座標系のナビエ・ストークス方程式に適用すると
∂t
∂z
∂θ
!
dp
∂2 vz 1 ∂vz
+µ
(8)
+
dz
r ∂r
∂r2
(2) 境界条件を示せ.
r = 0 : vz = 0, r = a : vz = Umax
(3) 上式を解いて Hagen-Poiseuille 流れを求めよ.
省略
問題 7 遅い流れを仮定して,ナビエ・ストークスの式を線形近似せよ.また線形近似した式を渦度を用いて表し,渦度が
拡散することを示せ.
遅い流れでは移流項 u
∂u
∂u
∂u
+v +w
= 0 とみなすことができるから,ナビエ・ストークス方程式は
∂x
∂y
∂z
∂u
1
= − grad p + ν∇2 u
∂t
ρ
(9)
この式の回転 (rot)
i
∂
∇ × u = ∂x
u
j
∂
∂y
v
k ∂ ∂z w (10)
を取ると,
∂
1
(rotu) = − rot (grad p) + ν∇2 (rotu)
∂t
ρ
(11)
び渦度を ω = rotu と定義し,また rot(grad p) = 0 より
∂ω
= ν∇2 ω
∂t
が得られる.この方程式は拡散方程式の形式をしていることから,渦度は粘性によって拡散することがわかる.
(12)