第 5 章 位相の定義

第 II 部 位 相
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第 5 章 位相の定義
位相というのは, 収束と極限の概念や連続の概念のような位相的
性質を研究するための概念である. 位相の定義された集合を位相空
間であるという. 集合 X が位相空間であるというときには, 数学的
には, X は公理論的集合論において定義された集合であると考えて
いる. 位相空間の考え方の要点は, 収束と極限や連続性のような位
相的性質を研究するための位相の概念を, 集合と集合の演算を用い
て特徴付けるところにある.
位相空間 X においては, X の開集合と閉集合である部分集合が存
在し, 任意の部分集合の閉包が定義されている. さらに, X の各点 a
に a の基本近傍系が定義されている. このことによって, 位相空間
X において位相に関する様々な数理現象について考察することがで
きる. 特に, 点列の収束と極限, 有向点列の収束と極限, フィルター
の収束と極限などの収束概念について考察することができる. また,
連続関数や連続写像の概念について考察できるようになる.
具体的な位相空間 X を定義するためには, 与えられた集合 X に
おいて, 開集合, 閉集合, 閉包と近傍の概念を具体的に定義すること
が要点である.
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5.1 位相の概念
5.1.1 位相空間
本項においては, 一つの集合において位相の定義を与えることは
何を意味するかということについて考察する.
一つの集合 X において位相が定義されているとき, 集合 X は位
相空間であるという. 以下において, 与えられたひとつの集合 X に
おいて位相が定義されているということは, 次の位相の公理系が成
り立つことであると定義する.
位相の公理系には次の四つの型の公理系がある.
(I) 開集合の公理系.
(II) 閉集合の公理系.
(III) 閉包の公理系.
(IV) 近傍の公理系.
これらの四つの公理系 (I)∼(IV) の定義は後程述べることにする
が, これらの四つの公理系 (I)∼(IV) は互いに同値であることが証明
される. それ故に次の定義を与える.
定義 5.1.1 集合 X が位相空間であるということは, X において
これらの四つの同値な公理系 (I)∼(IV) のいずれか一つが成り立っ
ていることであると定義する.
このとき, 四つの公理系は同値であるから, 上の位相空間 X にお
いては一つの公理系が成り立っていることによって他の三つの公理
系も同時に成り立っていることがわかる.
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以下において位相の公理系を与える.
まず, 開集合の公理系を与える.
(I) 開集合の公理系 集合 X において開集合全体の族 O が定
められていて, 次の条件 (O1 )∼ (O4 ) が成り立つ:
(O1 ) 任意の開集合族の和集合は開集合である.
(O2 ) 有限個の開集合の積集合は開集合である.
(O3 ) 空集合は開集合である.
(O4 ) 全空間は開集合である.
定義 5.1.2 集合 X の部分集合の族 O が開集合の族であるとい
うことは, 集合族 O において開集合の公理系 (I) が成り立つことで
あると定義する.
定義 5.1.3 集合 X の部分集合 A が開集合であるということは
A ∈ O であることであると定義する.
次に, 閉集合の公理系を与える.
(II) 閉集合の公理系 集合 X において, 閉集合全体の族 C が定
められていて, 次の条件 (F1 )∼ (F4 ) が成り立つ:
(F1 ) 任意の閉集合族の積集合は閉集合である.
(F2 ) 有限個の閉集合の和集合は閉集合である.
(F3 ) 全空間は閉集合である.
(F4 ) 空集合は閉集合である.
4
定義 5.1.4 集合 X の部分集合の族 C が閉集合の族であるとい
うことは, 集合族 C において閉集合の公理系 (II) が成り立つことで
あると定義する.
定義 5.1.5 集合 X の部分集合 A が閉集合であるということは
A ∈ C であることであると定義する.
次に, 閉包の公理系を与える.
(III) 閉包の公理系 集合 X の部分集合 A に対し, A の閉包 A
が定義されていて, 次の公理 (C1 )∼(C4 ) が成り立つ:
(C1 ) ∅ = ∅ が成り立つ. ただし, ∅ は空集合を表す.
(C2 ) A ⊂ A が成り立つ.
(C3 ) A ∪ B = A ∪ B が成り立つ.
=
(C4 ) A = A が成り立つ.
定義 5.1.6 集合 X の部分集合 A に対し, 閉包の公理系 (III) を
満たすように定義された部分集合 A を A の閉包であるという. A の
閉包 A の点は A の触点であるといい, A の触点の集合として A を
A の触集合であるということがある.
系 5.1.1 集合 X の部分集合の閉包に関して, 次の性質 (1)∼(4)
が成り立つ:
(1) A ∩ B ⊂ A ∩ B が成り立つ.
(2) A − B ⊂ A − B が成り立つ.
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(3) 添数集合 Λ に対し,
∩
Aλ ⊂
λ
∩
Aλ
λ
が成り立つ.
(4) 添数集合 Λ に対し,
∪
Aλ ⊂
λ
∪
Aλ
λ
が成り立つ.
最後に, 近傍の公理系を与える.
(IV) 近傍の公理系 集合 X の各点 a に対し, 点 a の基本近傍
系 U(a) が定義されていて, 次の公理 (N1 )∼(N4 ) が成り立つ:
(N1 ) V ∈ U(a) ならば, a ∈ V が成り立つ.
(N2 ) U ∈ U(a), U ⊂ V ならば, V ∈ U(a) が成り立つ.
(N3 ) U, V ∈ U (a) ならば, U ∩ V ∈ U(a) が成り立つ.
(N4 ) U ∈ U(a) ならば, V ⊂ U となるある V が存在して, b ∈ V
に対して, U ∈ U(b) となる.
定義 5.1.7 集合 X の各点 a に対し, 近傍の公理系 (IV) を満た
すように定義された基本近傍系 U(a) の元 V を点 a の近傍であると
いう.
定理 5.1.1 位相空間 X において公理系 (I)∼(IV) は同値である.
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証明 (1) (I) と (II) が同値であることの証明を行う.
まず, 開集合の公理系 (I) が成り立っていると仮定する. このとき,
位相空間 X においては開集合全体のつくる集合族 O が定められて
いる. したがって, X の集合 F が閉集合であるということは補集合
F c が開集合であることと定義する. このとき, X の閉集合全体のつ
くる集合族 C は集合の演算の双対性によって閉集合の公理系 (II) を
満たす.
逆に, X の閉集合の全体のつくる集合族 C が定義されて閉集合の
公理系 (II) が成り立っていると仮定して, 開集合の公理系が成り立
つことを証明する.
X の集合 O が開集合であるということは補集合 Oc が閉集合であ
ることと定義すれば, 集合の演算の双対性によって X の開集合全体
のつくる集合族 O が開集合の公理系 (I) を満たすことがわかる.
ゆえに, 開集合の公理系 (I) と閉集合の公理系 (II) が同値である
ことが証明された.
(2) 閉集合の公理系 (II) と閉包の公理系 (III) の同値性を証明
する.
いま, 位相空間 X において, 閉集合の公理系 (II) が成り立ってい
るとする. このとき, X の集合 A の閉包 A を次のように定義する.
A を含む閉集合全体のつくる集合族を F(A) と表すとき, F(A) の
共通部分を A であると定義する. すなわち,
∩
F(A) = A
であると定義する. これによって, X の集合 A にその閉包 A を定義
するとき, これは閉包の公理系 (III) を満たすことが証明できる.
逆に, 位相空間 X において閉包の公理系 (III) が成り立っている
と仮定して, 閉集合の公理系 (II) が成り立つことを証明する.
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いま, X の集合 A が閉集合であるということは条件
A=A
が成り立つことであると定義する.
このとき, X の閉集合全体のつくる集合族 C が閉集合の公理系
(II) を満たすことが証明できる.
したがって, 閉集合の公理系 (II) と閉包の公理系 (III) の同値性が
証明された.
(3) 開集合の公理系 (I) と近傍の公理系 (IV) の同値性を証明する.
いま, 位相空間 X において開集合の公理系 (I) が成り立っている
と仮定する. このとき, X において近傍の公理系 (IV) が成り立つこ
とを証明する.
いま, 近傍の概念を次のように定義する.
X の部分集合 A に対し, X の集合 U が A の近傍であるというこ
とは, X のある開集合 O が存在して, A ⊂ O ⊂ U が成り立つこと
であると定義する. 特に, X の集合 U が X の 1 点 a の近傍である
とは, X の開集合 O が存在して, a ∈ O ⊂ U が成り立つことである
と定義する.
いま, X の 1 点 x の近傍全体のつくる集合族を U(x) と表して,
これを x の基本近傍系であると定義する. このとき, 集合族の系
U(x), (x ∈ X) は近傍の公理系 (IV) を満たす.
逆に, 位相空間 X において, 近傍の公理系 (IV) が成り立っている
と仮定する. このとき, X において開集合の公理系 (I) が成り立つ
ことを証明する.
いま, X の集合 O が開集合であるとは, O が O の各点 x の近傍で
あることと定義する. このとき, X の開集合全体のつくる集合族 O
が開集合の公理系 (I) を満たすことが証明できる.
したがって, 開集合の公理系 (I) と近傍の公理系 (IV) の同値性が
証明された.
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以上によって, 公理系 (I)∼(IV) が同値であることが証明された.//
ここで, 近傍系の基の定義を与える. 近傍の公理 (N2 ) から, 集合
X において, 点 a ∈ X の基本近傍系 U(a) を考えるかわりに, U(a)
の部分集合族 V(a) で, 近傍系の基といわれるものだけを考えても位
相を定義できることがわかる.
定義 5.1.8 点 a ∈ X の基本近傍系 U(a) の部分集合族 V(a) が
点 a の近傍系の基であるということは, V(a) の要素である集合を含
む集合全体のつくる集合族が U(a) と一致することと定義する.
X の点 x の近傍系の基は一通りに定まるとは限らない. 特に, X
の点 x の二つの近傍系の基 U, V が同等であることは, U, V がとも
に x の基本近傍系を生成することであると定義する.
系 5.1.2 位相空間 X の点 x の二つの近傍系の基 U と V が同等
であるための必要十分条件は, U の任意の近傍 U に対して V のある
近傍 V が存在し, x ∈ V ⊂ U が成り立ち, 同時に V の任意の近傍 V
に対して U のある近傍 U が存在し, x ∈ U ⊂ V が成り立つことで
ある.
系 5.1.3 二つの近傍系の基 U(x), (x ∈ X) と V(x), (x ∈ X) が
同等であることと, これらの二つの近傍系の基が X の各部分集合 A
の同じ閉包 A を定義することは同値である.
例 5.1.1 位相空間 X において, X の 1 点 x を含む開集合全体
のつくる集合族は x の近傍系の基である.
集合 X において定義された二つの位相の比較を考える.
集合 X の二つの位相がそれぞれ X の二つ開集合の族 O1 と O2
によって定義されているとする. このとき, 開集合の族 O1 によって
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定義された位相空間を X1 とし, 開集合の族 O2 によって定義された
位相空間を X2 とする.
ここでは, X1 と X2 は集合としては X と同じであるが, それぞれ
の位相が異なっていると考えている.
このとき, X1 の位相が X2 の位相より細かいといい, あるいは X2
の位相が X1 の位相より粗いということは, 集合族として条件
O2 ⊂ O 1
が成り立っていることと定義する.
このことは閉集合の族を用いて考えると次のように表される.
位相空間 X1 の閉集合の族を C1 であるとし, 位相空間 X2 の閉集
合の族を C2 であるとすると, X1 の位相が X2 の位相より細かいと
いうことは, 集合族として条件
C2 ⊂ C 1
が成り立つことと同値である.
また, 位相空間 X1 と X2 の位相が閉包の公理系 (III) によって定
義されているとすると, 集合 X の部分集合 A の位相空間 X1 におけ
(1)
る閉包を A
(2)
であるとし, 位相空間 X2 における閉包を A
である
とする. このとき, X1 の位相が X2 の位相より細かいことと, 条件
(1)
A
⊂A
(2)
が成り立つことは同値である.
位相空間 X1 と X2 の位相が近傍系の基によって定義されている
とするとき, X1 の位相が X2 の位相より細かいことは, 集合 X の各
点 x の X2 における近傍 U2 に対して, X1 における x の近傍 U1 が
存在して, x ∈ U1 ⊂ U2 が成り立つことと同値である.
集合 X の位相が離散位相であるというのは, X のすべての部分集
合が閉集合であるような位相のことと定義する.
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この離散位相は集合 X において定義される位相の中で最も細か
い位相である.
それに対し, 集合 X において閉集合が空集合 ∅ と全空間 X だけ
であるとして定義された位相は X において定義される位相の中で
最も粗い位相である.
次に集合 X のある集合の族 O に対して, O の各集合が開集合で
あるような X の位相の中で最も粗い位相は何であろうかという問
題を考える.
O の有限個の集合の積集合全体のつくる集合族を O′ とする. こ
のとき, O ⊂ O ′ である. 次に, O′ の必ずしも可算個とは限らない任
意個数の集合からつくられた和集合全体のつくる集合族を O′′ とす
る. O′′ が全空間 X と空集合 ∅ を含んでいないときには , O′′ に X
と ∅ を付け加えて得られる集合族を O と表す. このとき O ⊂ O で
あって, O は開集合の公理系 (I) を満たす.
ゆえに, O を開集合の族として, 集合 X に位相を定義すると, こ
の位相が求めるものである. すなわち, この位相においては集合族
O の各集合は開集合であって, さらに, この位相はこのような条件
を満たす位相の中で最も粗いものであることがわかる.
5.1.2 部分空間
次に部分空間の定義を与え, その基本性質について考察する.
X は位相空間であるとし, Y は X の部分集合であるとする. こ
のとき, X の位相から自然に定義される Y の位相を次のように定義
する.
ここで, Y において, X の位相から導かれる開集合の公理系 (I),
閉集合の公理系 (II), 閉包の公理系 (III) と近傍の公理系 (IV) の四
つの公理系のいずれか一つを用いて Y の位相の定義を与える. この
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ようにして Y を位相空間であると定義したとき, Y は X の部分位
相空間であるという. これを簡単に Y は X の部分空間であるとい
う. 部分空間 Y において, 位相空間について考えられる諸概念や諸
定理はそのまま有効である.
次の (1)∼(4) において, 部分空間 Y の位相の定義を与える.
(1) 開集合の公理系 (I) を用いて Y に位相を定義する.
O は X の開集合全体のつくる集合族であるとするとき, Y の開集
合全体のつくる集合族 OY を関係式
OY = {Y ∩ O; O ∈ O}
によって定義する. これは開集合の公理系 (I) を満たす. これによっ
て, Y に部分空間の位相を定義できる.
(2) 閉集合の公理系 (II) を用いて Y に位相を定義する.
X の閉集合全体の族 F を考えるとき, Y の閉集合全体の族 FY を
FY = {Y ∩ F ; F ∈ F}
によって定義する. これは閉集合の公理系 (II) を満たす. これによっ
て, Y に部分空間の位相を定義できる.
(3) 閉包の公理系 (III) を用いて Y に位相を定義する.
Y の部分集合 A は X の部分集合であるから, X における A の閉
(Y )
包 A が定義されている. このとき, Y における A の閉包 A
を関
係式
(Y )
A
=Y ∩A
によって定義する. これは閉包の公理系 (III) を満たす. これによっ
て Y に位相を定義できる.
(4) 近傍の公理系 (IV) を用いて Y に位相を定義する.
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Y の各点 a の基本近傍系の定義を与える. このとき, a ∈ X であ
るから, a の X における基本近傍系 U (a) が定義されている. このと
き, a の Y における基本近傍系 UY (a) を関係式
UY (a) = {Y ∩ U ; U ∈ U (a)}
によって定義する. これは近傍の公理系 (IV) を満たす. これによっ
て Y に位相が定義できる.
5.1.3 直積空間
Λ は任意の空でない添数集合であるとし, 各 α ∈ Λ に位相空間 Xα
が対応しているとする. 各 Xα は空集合ではないとする. このとき,
集合としての直積集合
∏
X=
Xα
α∈Λ
が定義される.
いま, X に自然な位相を定義して, X を位相空間にすることを考
える. このように, 各 Xα の位相から導かれた自然な位相を X に定
義して, X が位相空間になったとき, ∏
X=
Xα
α∈Λ
を直積空間であるといい, 各 Xα を因子空間であるという.
まず, 有限個の位相空間 X1 , X2 , · · · , Xn の直積集合
X=
n
∏
i=1
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Xi
において, 各 Xi , (1 ≤ i ≤ n) の位相から導かれる自然な位相を X
に定義する. ここでは, 基本近傍系 U(x) を定義することによって,
X の位相を定義する.
各 Xi , (1 ≤ i ≤ n) の各点 xi , (1 ≤ i ≤ n) において基本近傍
系 Ui (xi ), (1 ≤ i ≤ n) が定義されているする. このとき, X の点
x = (x1 , x2 , · · · , xn ) の近傍 V (x) を関係式
V (x) =
n
∏
Vi (xi ), Vi (xi ) ∈ Ui (xi ), (1 ≤ i ≤ n)
i=1
によって定義する. このとき, X の点 x = (x1 , x2 , · · · , xn ) の基本近
傍系 U(x) を関係式
U(x) = {V (x) =
n
∏
Vi (xi ); Vi (xi ) ∈ Ui (xi ), (i = 1, 2, · · · , n)}
i=1
によって定義する. このとき, U(x) は近傍系の公理 (IV) を満たすこ
とがわかる. これによって, 直積集合
X=
n
∏
Xi
i=1
に位相を定義できる. このとき, 位相空間 X は直積空間になる.
一般に, Λ が任意の空でない添数集合であるとき, 位相空間 Xα , (α ∈
Λ) の直積集合
X=
∏
Xα
α∈Λ
の位相を近傍系の公理 (IV) を用いて定義することを考える. 各
Xα , (α ∈ Λ) において基本近傍系 Uα (xα ), (α ∈ Λ) が定義されてい
るとする. X の点 x = (xα ) における基本近傍系 U (x) を次のように
定義したい. X の点 x = (xα ) の近傍 V (x) は, Λ の任意の有限部分
集合 {α1 , α2 , · · · , αn } に対し,
∏∗
V ∗ (xα ).
V (x) =
α∈Λ
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であるとする. ただし,
V ∗ (xαi ) = V (xαi ) ∈ Uαi (xαi ), (i = 1, 2, · · · , n),
V ∗ (xα ) = Xα , (α ∈ Λ\{α1 , α2 , · · · , αn })
であるとする. Λ の任意の有限部分集合 Λ′ の選び方と, V (xα ) ∈
U(xα ), (α ∈ Λ′ ) の選び方全体に対してつくられた V (x) 全体の集
合族を U(x) であると定義する.
このとき, この U(x), (x ∈ X) は近傍系の公理 (IV) を満たす. こ
れによって直積集合 X に位相を定義したとき, X を直積空間である
という. このようにして定義された直積空間 X の位相を弱位相であ
るという. このとき, 各因子空間 Xα , (α ∈ Λ) の位相は有限直積空
間の因子空間の位相と同様の性質をもっている.
直積空間
∏
X=
Xα
α∈Λ
から Xα の上への写像 Pα は X から Xα への射影であるといい, xα
を x の Pα による Xα への射影であるという.
定理 5.1.2 上の記号を用いる. このとき, 射影 Pα は弱位相に関
して連続である.
ここで, 直積空間の位相として, 上に定義した弱位相は本質的で,
自然なものであることを示す.
直積空間は因子空間から定義されているから, 問題は直積空間の
位相が因子空間の位相から自然に導かれたものであると考えられる
かどうかということである. すなわち, この問題の解は次のように
して与えられる. 直積空間
X=
∏
α∈Λ
15
Xα
と各因子空間 Xα , (α ∈ Λ) の最も自然な対応は, 射影 Pα : X →
∏
Xα , (α ∈ Λ) である. このとき, 各 α に対し, Pα : X = Xα → Xα
が連続になるような最も粗い位相を X に定義したとき, この X の
位相は先に定義した X の弱位相と一致することを証明する.
いま, 各 α に対し, Pα : X → Xα が連続であるとすると, Xα の開
集合全体のつくる族 Oα の Pα による原像 Pα−1 (Oα ) からなる集合族
{Pα−1 (Uα ); Uα ∈ Oα }
は X の開集合の族である. ただし,
Pα−1 (Uα ) =
∏
Uα∗ ,
α∈Λ
Uα∗ = Uα ,
Uα∗′ = Xα′ , (α′ ∈ Λ\{α})
と表している.
したがって, あらかじめ連続とは仮定されていない各射影 Pα :
X → Xα , (α ∈ Λ) に対し, 集合族 Pα−1 (Oα ) の元がすべて開集合と
なるような最小の集合族 O を X の開集合の族であると定義する.
このとき, Pα−1 (Uα ) の形の有限個の共通部分は, Λ の任意の有限
部分集合 {α1 , α2 , · · · , αn } に対し,
∏∗
U (x) =
U ∗ (xα ),
α∈Λ
と表される. ただし,
U ∗ (xαi ) = Uαi ∈ Oαi , (i = 1, 2, · · · , n)
U ∗ (xα ) = Xα , (α ∈ Λ\{α1 , α2 , · · · , αn })
と表している.
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このような形の集合全体のつくる集合族 O は開集合の公理系 (I)
を満たしている. すなわち, これは直積空間 X の開集合の族である.
X →
Xα , (α ∈ Λ) は連続であることは明らかである. すなわち, このよ
うにして定義された X の位相は弱位相と一致している.
次に, 直積空間における部分集合の閉包に関して考察する. すな
わち, 因子空間と直積空間における閉包の関係について考察する.
これに関して, 次の定理が成り立つ.
このようにして X に位相を定義したとき, 各射影 Pα :
定理 5.1.3 因子空間 Xα .(α ∈ A) の部分集合 Mα の閉包 Mα の
∏
∏
直積集合は, 直積空間 X = α Xα において, 直積集合 α Mα の閉
包に等しい. すなわち, 等式
∏
Mα =
∏
α
Mα
α
が成り立つ.
証明 直積空間を
X=
∏
Xα
α∈Λ
であるとし, Pα : X → Xα , (α ∈ Λ) を射影であるとする. 各 α ∈ Λ
に対し, Mα ⊂ Xα であるとする. このとき, Pα は連続写像であって,
∏
Pα ( Mα ) = Mα , (α ∈ Λ)
α
が成り立っているから,
∏
∏
Pα ( Mα ) ⊂ Pα ( Mα ) = Mα
α
α
が成り立つ. ゆえに,
∏
Mα ⊂
α
∏
α
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Mα
が成り立つ.
また, 点
x = (xα ) ∈
∏
Mα
α
を考え, x = (xα ) の任意の近傍を V =
∏
Vα であるとすると, 各
α
α ∈ Λ に対して,
Vα ∩ Mα ̸= ∅
が成り立つから,
x = (xα ) ∈
となる. ゆえに,
∏
Mα ⊂
α
∏
∏
Mα
Mα
α
が成り立つ. したがって,
∏
Mα =
∏
Mα
α
が成り立つ. //
5.2 部分集合と位相
5.2.1 内点, 外点と境界点
X は位相空間であるとし, X の部分集合を A とする. ここで, 部
分集合 A の内点, 外点と境界点の概念について考察する.
このとき, X の点 a が A の内点であるということは, a のある近傍
V が存在して, 条件 a ∈ V ⊂ A が成り立つことであると定義する.
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A の内点全体のつくる集合を A の内包であるといい, これを Int(A)
と表す. Int(A) は A に含まれる最大の開集合である. A が開集合で
あることと, A = Int(A) が成り立つことは同値である.
X の点 a が A の外点であるということは, 点 a が A の補集合 Ac
の内点であることと定義する.
集合 B = B(A) が A の境界であるとは, A の内点と外点の全体の
つくる集合の補集合のことであると定義する.
A の境界点とは A の境界 B(A) に含まれる点のことであると定義
する
このとき, 次の定理が成り立つ.
定理 5.2.1 上の記号を用いる. このとき, 次の等式 (1)∼(5) が
成り立つ:
(1) Int(A) = (Ac )c .
(2) A の外点の集合 = (A)c .
∩
(3) B(A) = X − (Ac )c − (A)c = A (Ac ),
(4) X = (Ac )c + (A)c + B(A).
(5) A = Int(A) + B(M ), Int(A)
∩
B(M ) = ∅.
定理 5.2.1 より, 次のことがわかる. 境界 B(A) は閉集合である.
一般に, A は A を含む最小の閉集合である.
5.2.2 集積点と孤立点
X は位相空間であるとし, A は X の部分集合であるとする. ここ
で, 部分集合 A の集積点と孤立点について考察する.
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このとき, X の点 a が A の集積点であるということは, 条件
a ∈ A − {a}
が成り立つことであると定義する. A の集積点全体のつくる集合を
A の導集合であるといい, これを D(A) と表す.
a ∈ X が A の孤立点であるということは, 条件
a ∈ A − D(A) = A − D(A)
が成り立つことであると定義する. A の孤立点全体のつくる集合を
Is(A) と表す. このとき, 次の定理が成り立つ.
定理 5.2.2 上の記号を用いる. このとき, 次の (1)∼(5) が成り
立つ:
(1) D(A) ⊂ A.
(2) a が A の孤立点であることは, a のある近傍 V が存在し, V
は a 以外の A の点を含まないことと同値である.
(3) 点 a が A の集積点であるための必要十分条件は, a の任意の
近傍 V に対し,
∩
V (A − {a}) ̸= ∅
が成り立つことである.
(4) 等式
A = D(A) + Is(A), D(A)
∩
Is(A) = ∅
が成り立つ.
(5) A が閉集合であるための必要十分条件は,
D(A) ⊂ A
が成り立つことである.
20
集合 A が完全集合であるということは, 条件
D(A) = A
が成り立つことであると定義する.
5.2.3 稠密と疎 (まばら)
X は位相空間であるとし, A は X の部分集合であるとする. ここ
で, 部分集合 A が稠密であるということと疎であるという概念につ
いて考察する.
集合 A が自己稠密であるということは, 条件
A ⊂ D(A)
が成り立つことであると定義する. このように, 自己稠密の概念は
導集合の概念を用いて定義されている.
特に, 自己稠密な集合は孤立点を含まない. また, 開集合は自己稠
密である.
集合 A が X において到る所稠密であるということは, 条件
A=X
が成り立つことであると定義する.
このように, 稠密の概念は閉包の概念を用いて定義されている.
実数全体のつくる集合 R において, 有理数全体のつくる集合 Q は
到る所稠密である.
いま, X は位相空間であるとし Y は X の部分集合であるとする.
このとき, Y は X の部分空間であると考える.
21
A は X の部分集合とする. A が Y において稠密であるというこ
とは, Y ⊂ Y ∩ A が成り立つことであると定義する.
A が Y において稠密, Y が Z において稠密で, Y ⊂ Z であるな
らば, A は Z において稠密である.
A が Y において稠密, A は Y において稠密である.
X は位相空間であるとし, Y は X の部分空間であるとする. Y が
自己稠密であると仮定する. このとき, X の部分集合 A が Y におい
て稠密であることと, Y ⊂ D(Y ∩ A) であることは同値である.
これによって, 稠密の概念を導集合を用いて特徴付けできる.
X は位相空間であるとする. X の部分集合 A が X において疎 (ま
ばら) であるということは, (A)c が到る所稠密であることと定義す
る. すなわち, この条件は (A)c = X が成り立つことと同値である.
X の部分集合が到る所稠密であり, かつ疎であるということは起
こり得ない.
X の開集合と閉集合の境界は疎な集合である.
Y は X の部分空間であるとする. このとき X の部分集合 A が Y
において疎であるという定義も, 稠密の場合と同様に与えられる.
X の部分集合 A が縁集合であるということは, Int(A) = ∅ である
ことと定義する. このことは, A ⊂ Ac であることと同値である.
集合の境界は必ずしも縁集合とは限らない. 例えば, 実数全体の
集合 R において, 有理数全体の集合 Q は縁集合であるが, Q の境界
は R 全体である.
Int(Ac ) = ∅ ならば, A は X において到る所稠密である. なぜな
らば, 仮定によって, Ac ⊂ A. したがって, A = X = A ∪ Ac が成り
立つ.
Int(A) = ∅ ならば, A は疎な集合である.
Int(A) ̸= ∅ であることと A が開集合を含むことは同値である.
集合 A が第一類の集合であるとは, 集合 A が可算個の疎な集合の
和集合に等しいことであると定義する. 集合 A が第二類の集合であ
22
るとは, A が第一類の集合でないことであると定義する.
5.3 連結性
本節においては, 位相空間の連結性について考察する.
位相空間 X が連結であるということは, X が二つの互いに素な閉
集合の和として表されないことと定義する.
このことは, X が二つの互いに素な開集合の和として表されない
ことと同値である.
X の部分集合 A が連結であるということは, A を部分空間と考
えて連結であることと定義する. このとき, A は連結集合であると
いう.
定理 5.3.1 X1 = {0, 1} は離散位相空間であるとする. このと
き, 位相空間 X が連結であることは, X から X1 の上への連続写像
f が存在しないことと同値である.
例 5.3.1 X = [0, 1] = {x ∈ R; 0 ≤ x ≤ 1} は連結集合である.
定理 5.3.2 位相空間 X の二つの部分集合 A, B が離れていない
とする. すなわち, 条件
A ∩ B ̸= ∅, または A ∩ B ̸= ∅
が成り立っているとする. このとき, A ∪ B は連結集合である.
定理 5.3.3 連結集合の任意の族 F があって, F のどの二つの集
合 A, B も離れていないとする. このとき, 合併集合 ∪F は連結で
ある.
23
位相空間 X の 1 点 a を含む最大の連結集合が存在する. これを
C(a) と表すと, C(a) は閉集合である. この C(a) を a の連結成分で
あるという.
いま, X は位相空間であるとする. x, y は X の任意の 2 点である
とする. [0, 1] から X への連続写像 f が条件 f (0) = x, f (1) = y を
満たすとき, f による [0, 1] の像 f ([0, 1]) は 2 点 x と y を結ぶ道であ
るという.
位相空間 X において, X の任意の 2 点 x と y に対し, x と y を結
ぶ道が存在するとき, X は弧状連結であるという.
一般に, 位相空間 X が弧状連結であるならば, X は連結である.
しかし, この逆は一般には成り立たない. すなわち, X が連結であ
るからといって, X が弧状連結であるとは限らない. これに関して,
次の例がある.
例 5.3.2 Rn , Rn の区間, 円などは連結である. ただし, n ≥ 1
とする.
定理 5.3.4 Λ は任意の空でない添数集合とする. このとき, 直
積空間
X=
∏
Xα
α∈Λ
が連結であるための必要十分条件は各 Xα , (α ∈ Λ) が連結である
ことである.
定理 5.3.5 Λ は任意の空でない添数集合であるとする. このと
き, 直積空間
X=
∏
Xα
α∈Λ
の 1 点を x = (xα ) とする. このとき, 各 Xα における xα の連結成
分を Cα (xα ) とするとき, x の連結成分 C(x) は {Cα (xα )} の直積集
24
合に等しい. すなわち, 等式
C(x) =
∏
Cα (xα )
α∈Λ
が成り立つ.
5.4 分離公理
本節においては, 位相空間の大域的な特徴付けを与える条件とし
ての分離公理について考察する.
特に, 一般の位相空間を T 空間ということがある.
5.4.1 T0 , T1 , T2 , T3 空間
本項においては, 分離公理 T0 , T1 , T2 , T3 を満たす空間について考
察する.
(1) T0 空間 位相空間 X が T0 空間であるということは, 次の分
離公理 (T0 ) を満たす位相空間のことであると定義する:
(T0 ) T 空間 X の任意の相異なる 2 点 a, b に対し, a の近傍 V (a)
で b を含まないものか, b の近傍 V (b) で a を含まないものかいずれ
か一方が存在する.
分離の公理 (T0 ) において, 1 点 a の近傍 V (a) の代わりに近傍系
の基 V(a) をとっても同じことがいえる. 特に, 点 a の開近傍を考え
ても同じことがいえる.
25
以下において, 分離公理 (T1 ), (T2 ), (T3 ), (T4 ) を考えるときにも同
様の注意が当てはまるが, 後でこのことは繰り返さない.
分離公理 (T0 ) は, 閉包を用いて考えると, a ̸= b のとき, a ̸= b で
あるという条件と同じである.
定理 5.4.1 T0 空間の部分空間は T0 空間である.
定理 5.4.2 Λ は空でない添数集合であるとする. 各 Xα , (α ∈ Λ)
が T0 空間であるならば, 直積空間
X=
∏
Xα
α∈Λ
も T0 空間である.
定理 5.4.3 X は T 空間であるとし, X の 2 点 a, b に対し, a ̸= b
であるとする. このとき, 次の (1)∼(5) は同値である:
(1) X は T0 空間である.
(2) ある少なくとも一つの A ⊂ X が存在して, a ∈ A, b ̸∈ A あ
るい b ∈ A, a ̸∈ A が成り立つ.
(3) a の近傍 V (a) で, b の近傍でないものか, b の近傍 V (b) で, a
の近傍でないものか, 少なくとも一つが存在する.
(4) 少なくとも一つの開集合 O ⊂ X で, a ∈ O, b ̸∈ O であるか,
b ∈ O, a ̸∈ O のいずれかが成り立つ.
(5) a ̸= b (2) T1 空間 位相空間 X が T1 空間であるということは, 次の分
離公理 (T1 ) を満たす位相空間のことであると定義する:
26
(T1 ) T 空間 X の任意の相異なる 2 点 a, b に対し, a の近傍 V (a)
で b を含まないものと, b の近傍 V (b) で a を含まないものがともに
存在する.
分離公理 (T1 ) から, ただちに, T1 空間は T0 空間であることがわ
かる.
分離公理 (T1 ) は, T 空間 X の任意の点 a に対し, 条件 a = a が成
り立つことと同値である. したがって, T1 空間 X においては X の
各点が閉集合である.
例 5.4.1 n 次元ユークリッド空間 Rn は T1 空間である.
定理 5.4.4 X は T 空間であるとし, X の 2 点 a, b に対し, a ̸= b
であるとする. このとき, 次の (1)∼(5) は同値である:
(1) X は T1 空間である.
(2) X のある二つの部分集合 A1 , A2 が存在して, a ∈ A1 , b ̸∈ A1
と a ̸∈ A2 , b ∈ A2 が成り立つ.
(3) X のある二つの開集合 O1 , O2 が存在して, a ∈ O1 , b ̸∈ O1
と a ̸∈ O2 , b ∈ O2 が成り立つ. (4) a の基本近傍系 U(a) に対し, U(a) の共通部分に対して,
∩
U(a) = {a}
が成り立つ. (5) a = a が成り立つ.
27
T1 空間 X に対し, 集積点について考察する. X の部分集合を A
とし, A の導集合を D(A) とする. a ∈ D(A) であれば, a の任意の
近傍 U は A の点を無限に多く含んでいることがわかる.
定理 5.4.5 Λ は空でない添数集合であるとするとき, 各 Xα , (α ∈
Λ) が T1 空間であるならば, 直積空間
∏
X=
Xα
α∈Λ
も T1 空間である.
T1 空間においては, 収束する点列の極限は必ずしも一意的には定
まらない. これは, T1 空間において, 異なる 2 点は分離されている
が, 2 点の近傍が必ずしも分離されていないためである.
(3) T2 空間 位相空間 X が T2 空間であるということは, 次の分
離公理 (T2 ) を満たす位相空間のことであると定義する: (T2 ) T 空間 X の任意の相異なる 2 点 a, b に対し, a の近傍 U (a)
と b の近傍 V (b) が存在して, 条件
U (a) ∩ V (b) = ∅
が成り立つ.
T2 空間は, T1 空間でもあり, T0 空間でもある. T2 空間はハウス
ドルフ空間であるということもある. T2 空間においては, 異なる 2
点が分離されているだけではなく, 2 点の近傍も分離できる.
数学で扱う多くの T 空間はほとんど T2 空間である. T2 空間を分
離空間ということもある.
T2 空間においては有向点列 {xα } が 1 点に収束するということは
意味をもつ. しかし, すべての収束する有向点列 {xα } の極限集合が
1 点のみからなると決まっているわけではない.
28
定理 5.4.6 X は T 空間であるとし, X の 2 点 a, b に対し, a ̸= b
であるとする. このとき, 次の (1)∼(5) は同値である:
(1) X は T2 空間である.
(2) X のある二つの部分集合 A1 と A2 が存在して, X = A1 ∪ A2
であって, a ∈ A1 , b ̸∈ A1 と a ̸∈ A2 , b ∈ A2 が成り立つ.
(3) X のある二つの開集合 O1 , O2 が存在して, O1 ∩ O2 = ∅ で
あって, a ∈ O1 , b ̸∈ O2 と a ̸∈ O2 , b ∈ O2 となる.
(4) X の任意の点 a に対し, a の基本近傍の系 U(a) をとると,
U(a) の元の閉包の共通部分に対し,
∩
U (a) = {a}
U (a)∈U (a)
が成り立つ.
(5) 直積集合 X × X の対角線集合 ∆ は閉集合である.
定理 5.4.7 X が T2 空間, Y が X の部分空間であれば, Y も T2
空間である.
定理 5.4.8 Λ は空でない添数集合であるとするとき, 各 Xα , (α ∈
Λ) が T2 空間であれば, 直積空間
X=
∏
Xα
α∈Λ
も T2 空間である.
(4) T3 空間 位相空間 X が T3 空間であるということは, 次の分
離公理 (T3 ) を満たす位相空間のことであると定義する: 29
(T3 ) T 空間 X の閉集合 F と, F に含まれない 1 点 a に対し, ある
F の近傍 V (F ) と, ある a の近傍 V (a) が存在して, V (F ) ∩ V (a) = ∅
が成り立つ.
定理 5.4.9 分離公理 (T3 ) と次の分離公理 (T3 )′ は同値である:
(T3 )′ T 空間 X の各点 a の任意の近傍 U に対して, ある a の近
傍 V が存在して,
a∈V ⊂U
が成り立つ.
T3 空間であって, T0 空間でない例がある. また, T3 空間であって,
T1 空間でない例, あるいは T3 空間であって T2 空間でない例が存在
する.
分離公理 (T3 )′ は各点の基本近傍系がそれと同等な閉近傍系の基
をもっていることを表している.
T 空間 X が正則空間であるということは, 分離公理 (T0 ) と (T3 )
を満たす位相空間のことであると定義する.
定理 5.4.10 正則空間 X においては分離公理 (T2 ) が成り立っ
ている. 正則空間 X においては分離公理 (T0 ) ∼ (T3 ) がすべて成り
立っている.
定理 5.4.11 正則空間 X の部分空間は正則空間である.
定理 5.4.12 Λ は空でない添数集合であるとするとき, 各 Xα , (α ∈
Λ) が正則空間であれば, 直積空間
∏
X=
Xα
α∈Λ
も正則空間である.
30
5.4.2 正規空間
(5) 正規空間 T 空間 X が正規空間であるということは, T2 空
間であって, 次の分離公理 (T4 ) を満たす位相空間のことであると定
義する:
(T4 ) T 空間の二つの閉集合 F1 , F2 に対し, F1 ∩ F2 = ∅ であれ
ば, F1 と F2 のある近傍 U (F1 ), U (F2 ) が存在して U (F1 ) ∩ (F2 ) = ∅
が成り立つ.
定理 5.4.13 T 空間 X が正規空間であることと, X において分
離公理 (T1 ) と (T4 ) が成り立つことは同値である.
(T4 ) は閉集合の分離を規定するもので, (T2 ) よりもずっと強い条
件で, 大域的なものになっている.
定理 5.4.14 分離公理 (T4 ) と次の分離公理 (T4 )′ は同値である:
(T4 )′ T 空間 X の閉集合 F の任意の近傍 U (F ) に対し, F のあ
る近傍 V (F ) が存在して, 条件
F ⊂ V (F ) ⊂ U (F )
が成り立つ.
分離公理 (T4 )′ は任意の閉集合が閉近傍の系を近傍系の基として
もっていることを表している. 正規空間は正則空間であるが, この
逆は必ずしも成り立たない.
正規空間であるという性質は, 一般には部分空間に対しても直積
空間に対しても成り立つとは限らない.
ただし, 正規空間 X の閉部分空間 Y は正規空間になる.
31
正規性と部分空間の関係に注目して, 次の分離公理 (T5 ) を考える.
(6) 全正規空間 T 空間が全正規空間であるということは, T2
空間であって, 次の分離公理 (T5 ) を満たす位相空間であると定義
する:
(T5 ) T 空間の任意の部分空間が分離公理 (T4 ) を満たす.
これは一般の正規空間より強い正規空間である.
定理 5.4.15(ウリゾーンの定理) 正規空間 X の離れた閉集合
F1 , F2 に対し, X の実数値連続関数 f で, F1 において 0 となり, F2
において 1 となるものが存在する.
一般の位相空間において, 定数ではない実数値連続関数が存在す
るかどうかはわからない. 現実に, ある位相空間上定義された実数
値連続関数は定数に限るというような位相空間の例が知られている.
ウリゾーンの定理の意味は, 正規空間 X においては定数とは限ら
ない実数値連続関数の存在が証明されているということである.
定理 5.4.15 より次の定理が従う.
定理 5.4.16 T2 空間 X が正規空間であることと, X の離れた
任意の二つの閉集合 F1 , F2 に対し, X 上の実数値連続関数 f が存在
して, F1 上で 0 となり, F2 上で 1 となるようにできることは同値で
ある.
定理 5.4.16 は結果的には二つの閉集合の分離を実数値連続関数を
用いて特徴付けるものである. この特徴を用いてチコノフの定義し
た位相空間がある. これは全正則空間というものである.
T 空間 X が全正則空間であるということは, T0 空間であって, 空
間の一つ一つの点と a の任意の開近傍 V (a) に対し, X 上のある実
32
数値連続関数 f が存在して, f (a) = 0 であって, V (a) の外で 1 にな
るようにできることと定義する:
全正則空間は正則空間と正規空間の中間にある空間であるが, 正
則空間とも正規空間とも必ずしも一致するとは限らない.
定理 5.4.17 次の (1), (2) が成り立つ:
(1) 全正則空間の部分空間は全正則である.
(2) Λ は空でない添数集合であるとするとき, 各 Xα , (α ∈ Λ) が
全正則空間であるならば, 直積空間
∏
X=
Xα
α∈Λ
も全正則である.
ウリゾーンはウリゾーンの定理を用いて, 実数値連続関数の拡大
問題に関して正規空間の果たす決定的な役割を明らかにした.
定理 5.4.18 正規空間 X の閉集合 F において定義された実数値
連続関数 φ(x), (x ∈ F ) を X 全体に拡大することができる. すなわ
ち, X において定義された実数値連続関数 f (x) が存在して, 条件
f (x) = φ(x), (x ∈ F )
が成り立つようにできる.
系 5.4.1 定理 5.4.18 の記号を用いる. いま, 条件
|φ(x)| ≤ 1, (x ∈ F )
が成り立っているならば, X 上に拡大した関数 f (x) は条件
|f (x)| ≤ 1, (x ∈ X)
33
を満たすように定めることができる.
系 5.4.2 T2 空間 X の閉集合 F において定義された実数値連続
関数を X 全体に連続拡大できるならば, X は正規空間である.
上の定理 5.4.18 より, 正規空間においては, 局所から大域へ移行
する可能性があることがわかる.
このように, 正規空間は大域的性質をもっているが, T1 空間では
まだ空間全体に関連する性質ははっきりとは示されていない.
このような局所的性質から大域的性質への移行について正面から
議論するためには被覆という概念が必要になる. 詳細に関しては第
7 章で考察する.
34