第11章 リンパ系

第11章
リンパ系
リンパ系 lymphoid system には、リンパを運ぶリンパ管と、異物や微生物などの関所として働くリンパ節
とがあります。
さらに、血液の貯蔵や赤血球の破壊、免疫系などに関与する脾臓や、T細胞の形成に関与する胸腺などにつ
いても学習します。
第1節
リンパ管系
動脈によって全身に運ばれた血液の液体成分の一部は、
これらの細胞が微生物を攻撃し消化したり、異物を取込
も
毛細血管から漏れて組織の細胞間質に入り、組織の代謝
み止めておきます。
産物と混ざり、間質液(組織液)を形成します。間質液は
リンパ節は米粒大ないし指頭大の大きさです。
再び毛細血管に吸収されて静脈に送られるだけでなく、
リンパ節の表面がやや凹んだ部位を門と呼び、ここか
一部は毛細血管よりも浸透しやすい毛細リンパ管の壁を
らリンパ節を養う血管が出入りし、輸出リンパ管が出ま
通り、リンパ lymph(液)となり、リンパ管と呼ぶ別の
す。一方、リンパ節の凸面側には数本の輸入リンパ管が
経路によっても運び去られます。
入り込みます。
けつしよう
リンパは、無色透明で、血液の血 漿 と似ていますが、
リンパ節の外表面は密な線維性結合組織の被膜に包ま
いくつかの成分の濃度が異なります。リンパ管を通り、
れ、内部にはリンパ組織、すなわち細網線維で形成され
血液に戻る間質液は、通常、一日に約3㍑もあります。
た網目構造のなかに多数のリンパ球を入れた細網組織か
リンパ管は、組織の中の毛細リンパ管から始まり、次
ら構成されます。細網組織を構成する細胞には、細網細
第に集まって太いリンパ管となり、リンパ本幹に合流し
胞や樹状細胞、大食細胞、濾胞(小節)樹状細胞などがあ
た後に、太い静脈に注ぎます。リンパ管の経路の途中に
ります。
ろ ほう
りようちゆう
被膜が内部に伸びたものは、 梁 柱 と呼ばれ、内部を
は、多数のリンパ節が存在します。
いくつかの区画に仕切っています。
機能的には、表層に存在する皮質と、深部にある髄質
1.リンパ管
とに区分することができます。
皮質にある球状のリンパ小節では、分裂している B
リンパ管 lymphatic duct は、血管にくらべて壁が薄
細胞が集まっています。リンパ小節の中心部の明るく見
く、逆流を防ぐ多数のリンパ管弁を備えています。
はいちゆうしん
リンパ管の内面は内皮細胞で被われていますが、平滑
える部位を胚 中 心といいます。
リンパ節の中では、B 細胞は表在の皮質に、T 細胞は
筋層の発達が悪く、能動的にリンパを運ぶ力は弱い。
リンパ管は、血管がない部位には存在せず、また神経
系にも存在しません。通常、リンパ管は、静脈と同じ経
髄質と表在の皮質との間のより深層の深部皮質(傍皮質、
胸腺依存帯)に多く集まっています。
抗原刺激が加わるとリンパ球の一部はリンパ芽球とい
路をたどります。
う大型細胞に変わり、分裂増殖します。胚中心はリンパ
芽球が多く集まる部位です。活性化された T 細胞と B
2.リンパ節
細胞は、リンパ節で増殖します。抗原刺激で B 細胞は
ヒトの体には、リンパ管に沿いながら約600個のリンパ
節 lymph node が全身に存在します。リンパ節の大きな
えき か
そ けい ぶ
形質細胞に変わります。形質細胞が産生した抗体は、リ
ンパ節を出るリンパや、リンパ節に流れる血液のなかに
入ります。
集団は、乳腺や腋窩、鼡径部に見られます。
どんしよくせい
リンパ節には貪 食 性の細網内皮系の細胞が多数存在し、
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リンパ節を流れるリンパは一方向性で、輸入リンパ管
からリンパ節に入り、つぎに被膜の深層に存在する辺縁
体の深部から始まるリンパ管は、主として血管に沿っ
りようちゆう
洞に流れ、 梁 柱 に沿って皮質を通過する小節間洞に向
てつながります。たとえば、肺から始まるリンパ管はま
ずいどう
かい、髄質にある髄洞に注ぎます。髄洞からのリンパは、
ず気管支の周りや肺門部の気管支肺リンパ節に、小腸か
1本あるいは2本の輸出リンパ管に流れ、リンパ節を出
らのリンパ管は上腸間膜動脈リンパ節に注ぎます。
ます。
全身の浅リンパ管および深リンパ管は左右の本管に合
流し、いずれも内頚静脈と鎖骨下静脈の合流点付近で静
脈に注ぎます。
3.リンパ管系の分布
きょうかん
そう
左側の本管は胸 管と呼び、乳ビ槽から始まって、下行
皮膚から始まるリンパ管は、浅リンパ管と呼ばれ、主
大動脈に沿って上行する間に、左の胸壁や肺からのリン
パ管を集め、静脈に注ぐ直前に左上肢からの左鎖骨下リ
として皮静脈に沿って走行します。
頭部と頚部から始まる浅リンパ管は、外頚静脈の周囲
ンパ本幹と、左頚部および左頭部からの左頚リンパ本幹
の浅頚リンパ節に流れます。浅頚リンパ節からのリンパ
が合流し、内頚静脈と鎖骨下静脈とが合流する付近の静
は、内頚静脈に沿う深頚リンパ節に流れます。
脈につながります。
上肢および体幹の肩から臍までの間の皮膚から始まる
乳ビ槽には、消化管から始まる腸リンパ本幹や、骨盤
リンパは、腋窩リンパ節に注ぎます。また、乳房のリン
と下肢からのリンパ管を集める左右の腰リンパ本幹が合
パは、乳頭よりも外側領域からのものは腋窩リンパ節に
流します。
小腸で吸収された脂肪酸などは、腸の毛細リンパ管や
流れ、内側領域からのものは胸腔に存在する胸骨傍リン
腸リンパ本幹を通過し、乳ビ槽や胸管を経由した後に、
パ節に流れます。
下肢および体幹の臍より下の皮膚から始まるリンパは、
静脈に運ばれます。
せんそけい
浅鼡径リンパ節に流れ、つづいて深部の深鼡径リンパ節
右リンパ本管(幹)には、右鎖骨下リンパ本幹や右頚リ
に向かいます。性病によって最初に腫れるリンパ節は、
ンパ本幹、胸腔の右側のリンパを集める右気管支縦隔リ
浅鼡径リンパ節です。
ンパ本幹などが合流します。
第2節
脾臓
ひぞう
脾臓 spleen は、体内で一番大きなリンパ組織で、長
上腹部に痛みが起こることがあります。
さが約12cm で、腹腔の左上部に存在し、第九肋骨や第
脾柱の間に存在する実質を脾髄といいます。脾髄のな
はくひずい
十肋骨、第十一肋骨で保護されています。また、脾臓は、
かで脾リンパ小節を含む密なリンパ組織を白脾髄、それ
胃の後方で、横隔膜の直下、左腎臓の上方に位置します。
以外の部分を赤脾髄といいます。
ひもん
腹腔に向いた脾臓の中央部にある脾門から血管などが
◆脾臓の働き
出入りします。腹腔動脈から分枝した脾動脈が脾臓に向
赤脾髄に存在する脾洞のなかに血液を貯え、循環血液
かいます。また、脾臓からの静脈血は、脾門から出る脾
量を調節し、また古くなった赤血球および血中の異物な
ひちゆう
静脈や門脈を経由し肝臓に運ばれます。脾柱に沿うリン
どの処理をおこないます。破壊された赤血球のヘモグロ
パ管は、脾門から出て、脾動脈・静脈に伴行し、腹腔リ
ビンからは非抱合型ビリルビンと鉄がつくられ、ともに
ンパ節に向かいます。
脾静脈と門脈によって肝臓に運ばれます。
どんしよく
脾臓の外表面には、密な線維性結合組織から構成され
赤脾髄では、1)傷害された赤血球や血小板を貪 食 によ
ひまく
る被膜があります。被膜から内部に続く結合組織は脾柱
って取り除き、2)体に供給された血小板の約三分の一近
と呼ばれます。被膜と脾柱には平滑筋様細胞が存在しま
くを貯蔵し、3)胎生期には血球を産生(造血機能)します。
す。平滑筋様細胞の収縮で脾臓に貯蔵されている血液が
白脾髄では、脾リンパ小節に主に B 細胞が、それ以
押し出され、循環する血液量を増やします。その時に左
外の部位には主に T 細胞が分布し、一般のリンパ組織
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と同じく、免疫応答の発現にかかわっています。
神経などの分枝から構成します。脾臓に分布する神経は、
脾動脈によって脾臓に運ばれてきた血液は、白脾髄の
主に交感神経で、血管や被膜・脾柱の平滑筋様細胞などに
中心動脈に向かい、T 細胞や B 細胞による免疫応答が
終わり、脾臓を流れる血流の調節に関与しています。
起こり、大食細胞が病原性の異物を貪食によって破壊し
【脾腫】
ます。
体のいろいろな病気によって脾臓が肥大することがあり
◆脾臓に分布する神経
ます(脾腫)。脾腫によって血球の破壊が亢進し、貧血や
ひ しゆ
脾臓には、脾神経叢からの神経が分布します。脾神経
叢は、腹腔神経叢や左腹腔神経節、脾動脈に沿う右迷走
第3節
白血球減少症、血小板減少症などが起こることがありま
す。
胸腺
きょうせん
胸 腺 thymus は、心臓の上方かつ前方で、胸骨のす
的に生き残ることができます。
ぜんじゆうかく
胸腺中のリンパ球は、抗原刺激にさらされないメカニ
ぐ後ろ(前 縦 隔)に、2個(右葉、左葉)存在します。
胸腺は、小児期には重さ70㌘にも増えますが、青春期
ズムがあり、この機構を血液胸腺関門といいます。
胸腺とその他のリンパ組織における T 細胞の成熟は、
以後には徐々に小さくなり、脂肪組織が増加し、高齢者
サイモシン thymosin (胸腺の上皮細胞から分泌される)
ではわずか3㌘ぐらいになります。
ぜんめい
乳児で大きくなりすぎた胸腺が、気管を圧迫し喘鳴を
により促進されます。加齢に伴って、抗原に対する T
細胞の応答の有効性が低下していきます。
引き起こし、ひどいときには呼吸困難になります。
胸腺には、多数のT細胞(胸腺細胞)と、散在する樹状
◆胸腺に分布する血管・神経
細胞、上皮性細網細胞、大食細胞などが存在します。
胸腺には、内胸動脈や下甲状腺動脈からの分枝が分布
胸腺を包む被膜からの結合組織が内部に伸び、皮質中
隔を形成し、胸腺の内部を小葉に分けます。各小葉は、
します。また、胸腺からの静脈は、左腕頭静脈や内胸静
脈、下甲状腺静脈などに合流します。
表層にある胸腺皮質と、深部にある胸腺髄質とに区分さ
れます。
胸腺からのリンパ管は、腕頭リンパ節や気管気管支リ
ンパ節、胸骨傍リンパ節などに向かいます。
胸腺髄質には、細網細胞が塊状に集まって形成された
胸腺(ハッサル)小体が観察されます。
胸腺には、頚胸神経節・鎖骨下ワナからの交感神経と、
迷走神経の分枝とが分布します。さらに、横隔神経や頚
胸腺皮質では、上皮性細網細胞は長い突起を持ち、網
神経からの分枝が被膜に分布します。
目構造を形成し、その網目に発育中の T 細胞が密に分
布します。
胎生期に、赤色骨髄から胸腺に運ばれた未熟な T 細
胞は、皮質の表層で盛んに分裂増殖します。増殖したも
のは皮質の深層に移動し、小型リンパ球の集積を形成し
ます。その後、さらに髄質に移動して成熟します。これ
らの過程で T 細胞としての性質を獲得します。
多機能血球幹細胞
↓
前駆細胞(T細胞とB細胞の)
í
î
胸腺で
骨髄で
↓
↓
T細胞
B細胞
↓
↓
リンパ節や脾臓等で増殖
リンパ節や脾臓等で増殖
しかし、大部分の未熟な細胞はすぐに死滅します。
図11-1
一部の T 細胞は胸腺から出て、全身のリンパ組織に
配布されます。この現象は胎生期の3カ月頃から始まり
ます。
T 細胞の教育では、2段階の過程を経て、T 細胞は、
異物の抗原を自己 MHC 分子を介して認識することを学
びます。そのために、胸腺の T 細胞の5%以下が選択
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T細胞とB細胞の成長の相違を示す
第4節
体の防御機構
私たちが健康に生活するためには、体の中に侵入した
補体の成分には、C1 から C9 のものがあります。
びせいぶつ
病原性微生物(細菌やウイルスなど)や異物、さらに体の
補体は、抗原抗体複合体で活性化され、貪食作用をも
しゅよう
中で発生した腫瘍細胞、老廃物、傷害を受けた細胞、寿
つ細胞の働きなどを強めます。
つ
補体成分のうち C1 や C2、C3、C4 は、酵素の前駆体
命が尽きた老化細胞などを排除する必要があります。
で、加水分解されることで、タンパク質分解酵素として
自己と非自己とを識別し、自分の体を守る仕組みを
めんえき
の働きが生じます。活性化されたものは、他の補体成分
「免疫」(免疫機構)と呼びます。
免疫のシステムには、出生時から存在し、感染とは無
を分解・活性化し、連続的な酵素反応が進行します。
関係な非特異的で免疫記憶をもたない自然免疫(先天性免
補体の活性化経路には3種類あります。
疫)と、リンパ球が中心的な役割を果たし、外来物質に対
古典的経路と呼ばれるものは、C1 が抗体の Fc 領域
する特異的で免疫記憶を保持する獲得免疫(適応免疫)と
に結合することで活性化が進行します。
第二経路と呼ばれるものは、C3 が血液中で自然に加
があります。
獲得免疫の形成には7日から10日もかかります。獲得
水分解され、いつも少し活性化されています。
レクチン経路と呼ばれるものは、血漿中のマンノース
免疫には、体液性免疫と細胞性免疫とが存在します。
とうさ
結合レクチンが細菌の表面の糖鎖に結合することで、補
体系を活性化します。
第二経路とレクチン経路は、活性化に抗体が不必要で、
獲得免疫が発揮する前の感染初期に働きます。
一連の連続的な反応の中心的な役割を果たすのは C3b
うなが
です。C3b は、下流の補体成分の産生を 促 すとともに、
第二経路を誘導することで古典的経路の効果を増幅させ
ます。
図11-2 自然免疫と獲得免疫との関係を模式的に示す
補体の働きには、貪食機能を持った細胞の働きを強め
るオプソニン作用 opsonization や、細菌の細胞膜に穴
をあける溶菌作用、体液性免疫応答の強化、免疫複合体
1.自然免疫
の可溶化と除去、白血球の活性化と遊走の誘導とで局所
自然免疫は、特定の異物を認識する特異的な機構が無
く、すべての異物に同じ機構で非特異的に対処します。
にアナフィラキシー様症状を引き起こす作用などがあり
ます。
そのために、自然免疫は、発現が迅速で即応性に優れて
いますが、作用が画一的で持続性も長くなく、異物を排
2.獲得免疫
除する効果は必ずしも良くありません。
自然免疫には、体内における NK 細胞や大食細胞、
感染症をはじめ、異物に対する免疫は、初期に自然免
ほ たい
好中球、インターフェロン interferon や補体系の抗微
疫が対応し、後期に獲得免疫が重要な役割を果たします。
生物的なタンパク質などが働きます。これらの細胞と生
獲得免疫反応は、T細胞やB細胞などのリンパ球が担
理活性物質とは、抗原に対する非特異的な生体防御反応
います。異物が生体に侵入すると、自然免疫系の抗原提
えんしよう
とうつう
はつせき
しゆちよう
に関与し、炎 症 の際には、疼痛や発赤、発熱、腫 脹 を
示細胞が抗原を処理し、それを獲得免疫系のT細胞に伝
特徴とする炎症状態をつくりだします。
えます(抗原提示)。T細胞はその情報をB細胞に伝えま
◆補体
す。抗原で活性化されたT細胞とB細胞は、増殖し、仲
補体 complement は、肝臓で産生された30種類を超
えるタンパク質で、血漿タンパク質の一群を形成します。
間を増やして、抗原特異反応をおこない、異物の排除に
努めます。獲得免疫の最大の特徴は、免疫学的記憶をも
- 150 -
かんせん
つことです。
新しい病原体に初めて感染した場合には、免疫機構が
獲得免疫には、抗体を産生し反応する液性免疫と、細
有効に作用を開始するまでに1週間から3週間かかりま
せんぷく き
胞自身が働く細胞性免疫とがあります。
す。これを免疫学的潜伏期といいます。しかし、2回目
1)体液性免疫
に感染すると、以前の反応を記憶している記憶B細胞や
ヒトの体は、病原性微生物(細菌やウイルスなど)や毒
記憶T細胞などの働きで、抗体を産生し始める期間が短
素などの抗原が体内に侵入すると、抗原を排除するため
くなり、抗体を産生する量も増えます。
に、体液性の成分である抗体 antibody を産生する必要
2)細胞性免疫
があります。この系を体液性免疫といいます。
細胞性免疫は、免疫システムのうち、抗原と戦う細胞
抗体は、つぎのような方法で形成されます。
の作用をいいます。
ヘルパーT細胞(CD4 陽性 T 細胞)からの作用を受け、
①まず、免疫システムの番人である大食細胞(抗原提示細
胞)が、微生物などを抗原と判断し、その情報を体液免疫
抗原と戦う細胞は、細胞障害性T細胞(キラー T 細胞)
の主役であるB細胞(血液のリンパ球の一種類)に伝える
や NK 細胞、大食細胞、好中球などです。 ただし、普
とともに、免疫システムの司令官であるヘルパーT細胞
通の状態の大食細胞では、細菌を取り込んでも、細菌は
(CD4陽性 T 細胞)にも伝えます。
細胞のなかで生き続け、分裂増殖します。そのために大
②B細胞は、ヘルパーT細胞からのサイトカイン(B 細
食細胞は、T細胞からの命令を受けて、殺菌力をもつよ
胞刺激因子)の作用を受け、細胞分裂を起こし、仲間を増
うに変わる必要があります。
やしていきます。
細胞性免疫応答がおこるときには、体液性免疫応答も
③つぎに、B細胞は抗体を実際に産生する細胞(抗体産生
協力します。抗原となった細菌や非自己細胞などの表面
細胞、形質細胞)に変化し、抗体を合成し、細胞の外に抗
に抗体が結合し、その抗体にさらに補体と呼ばれるタン
体を分泌します。
パク質が結びつき、大食細胞や T 細胞による攻撃を受
◆抗体の種類と働き
けやすくします。
抗体はタンパク質のグロブリン globulin に属するも
ので、免疫グロブリン(Ig)と呼ばれます。免疫グロブリ
抗原と結合し、大食細胞や好中球の食作用を受けやす
くする抗体や補体の成分をオプソニンといいます。
ンには、分子の構造の違いに基づき、IgG や IgA、IgM、
IgD、IgE などが存在します。
3.脳と免疫機能
・IgG は、免疫グロブリンの70~75%を占め、半減期が
20日以上と長く、胎盤を通過できる唯一の抗体で、二次
脳や他の神経系が免疫機能に影響をおよぼす根拠には、
免疫応答の主役としてウイルスや毒素の中和、細菌のオ
つぎのような事実があります。
プソニン化などに働きます。
・様々な社会心理的ストレスで免疫機能が影響される。
・IgM は、免疫グロブリンの約10%を占め、他の抗体
・脳の特定部位の刺激や破壊で免疫機能が変化する。
に比べて補体結合能が強く、感染初期の防御に働きます。
・免疫反応が条件づけられる。
・IgA は、単量体として血液中にあり、二量体として外
・神経系と免疫系とが共通の情報伝達物質や受容体機
分泌液(唾液、粘液)のなかに存在し、一日産生量として
は一番多いものです。分泌型 IgA は、形質細胞で産生
構をもつ。
・免疫系組織はホルモンの影響や自律神経系の調節を
された IgA が粘膜の上皮細胞に取り込まれ、他の分泌
うける。
物と IgA とが結合した状態で管腔内に分泌され、粘膜
の内表面を被い、抗原の侵入を防ぎます。分泌型 IgA
4.サイトカイン
は、腸や気道の粘液、母乳、涙、唾液などに存在します。
・IgE は、アレルギー反応や寄生虫に関係する抗体で、
サイトカイン cytokine は、元来、血球の細胞が分泌
気道や消化管の粘膜下リンパ小節で産生されます。
する生理活性を持った(糖)タンパク質を指し、免疫系や
◆免疫応答
細胞の増殖や分化の調節、炎症反応の発現などに関連し
- 151 -
たものです。
こされる病気です。
サイトカインには、白血球の増殖・分化などを調節す
b)Ⅱ型アレルギー
細胞や組織に IgG や IgM の抗体が結合し、アレルギ
るインターロイキン1(IL)、抗ウイルス作用を持つイ
ンターフェロン(IFN)、抗腫瘍作用のある腫瘍壊死因子
ーが起こるものです。これは、抗体が標的細胞の膜抗原
(TNF)、増殖因子の上皮増殖因子(EGF)など、30種類
に結合することで、膜を破壊し、最終的には細胞を壊し
を越えるものがあります。
ます。
この病気には、自己免疫性溶血性貧血や、抗血小板抗
し はんしよう
5.アレルギー
体による血小板減少性紫斑 症 などがあります。
c)Ⅲ型アレルギー
ヒトの体内において、過剰なあるいは不適切な免疫反
個々の抗体分子には抗原と結合できる部位が複数存在
応がおこり、そのために組織が傷害されることがありま
し、抗原にも複数の抗原決定基があるために、複数の抗
す。これをアレルギー allergy と呼んでいます。アレル
原分子と複数の抗体分子とが集まり結合した物質(抗原抗
ギーを引き起こす物質をアレルギン allergen といいま
体複合体あるいは免疫複合体)が形成されます。この複合
す。アレルギーは、引き起こす機構の相違によって、い
体によって、細胞や組織が傷害されるものです。
くつかに分類されています。
この病気には、糸球体腎炎や関節リウマチなどがあり
a)I型アレルギー(即時型アレルギー)
ます。
繰り返し体内に入る外来の抗原に対して過剰な IgE
d)Ⅳ型アレルギー(遅延型アレルギー)
抗体が産生されて起こるもので、花粉やハウスダスト、
穀物、卵など、通常、無害なものがアレルギンです。
細胞性免疫の過剰反応で、抗体は関与せず、抗原が侵
入した2日から3日後に反応がピークになるものです。
ひ まん
これは、IgE が肥満細胞に結合することで、ヒスタミ
ン histamine などが放出されることでおこります。
この反応によって活性化された大食細胞が、貪食を開始
するとともに、活性酸素を放出して組織を傷害させます。
この病気には、気管支喘息や、アレルギー性鼻炎、ア
この例としては、結核菌に対するツベリクリン反応や
じんましん
トピー性皮膚炎、蕁麻疹、食物アレルギーなどがありま
関節リウマチ、接触皮膚炎などがあります。
す。
アトピー性皮膚炎は、皮膚の中に抗原が入って引き起
第5節
食物アレルギー
食物アレルギーは、さらに IgE 抗体依存性反応と、
食物アレルギーは、食べ物を食べることによってヒト
IgE 抗体非依存性反応とに区別されます。
の体に有害な免疫反応が発生することです。
じん ま しん
かゆ
IgE 抗体依存性の食物アレルギーでは、蕁麻疹や、痒
食べ物による有害な反応には、大別して、食べ物に含
おう と
げ り
まれている毒性物質によるものと、非毒性物質によるも
みなどの皮膚や粘膜などの症状が一番多く、嘔吐や下痢、
のとがあります。
腹痛などの消化器の症状が続き、咳や喘鳴、呼吸困難な
せき
毒性物質によるものとしては、細菌の毒素(黄色ブドウ
どの呼吸器の症状も起こります。
球菌、腸炎ビブリオなど)や自然毒(毒キノコ、フグ毒、
ジャガイモの芽など)による食中毒があります。
ぜいめい
食物アレルギーで消化器や呼吸器の症状に加えて、血
圧低下や意識障害を伴う症状をアナフラィラキシーショ
か びん
食物アレルギーは、食べ物の非毒性物質による過敏反
ックといい、この場合には死亡することもあります。
応(食物過敏症)の一つの病型です。そして、食物過敏症
非アレルギー性食物過敏症は、免疫反応に因らないも
は、免疫機構を介して発症する食物アレルギーと、免疫
ので、一部の過敏なヒトにのみ発症するものです。血管
機構を介さない非アレルギー性食物過敏症に分けられま
拡張性アミンや化学物質に対する過敏反応、代謝異常、
す。
酵素欠損症などによるものがあります。
- 152 -
図11-3
食物による体に有害な例を示す
表11-1 食物過敏症のカテゴリー
食 品 名 など
食物アレルギー
卵アレルギー
鶏卵、ウズラ卵、ケーキ、クッキーなど
牛乳アレルギー
牛乳、ケーキ、ヨーグルトなど
小麦・米・そばアレルギー
小麦粉、米、そば粉、パン、クッキー、うどん、そばなど
大豆・ナッツ類アレルギー
豆腐、味噌、納豆、ナッツなど
果物・野菜・種実・ラテックスアレルギー
非アレルギー性食物過敏症
血管拡張性アミンへの過敏反応
ヒスタミン(ほうれん草、トマト、ナスなど)、セロトニン(バナナ、
キウイ、パイナップル)、コリン(タケノコ)
化学物質への過敏反応
亜硝酸塩、亜硫酸塩、グルタミン酸ナトリウム、タートラジン(黄色
色素)、抗生物質など
代謝異常症
亜硝酸ナトリウム(ホットドッグ頭痛)
酵素欠損症
ラクトース(乳糖不耐症)、フェニルアラニン(フェニルケトン尿症)
など
【この章の参考図書】
・斎藤博久著、「アレルギーはなぜ起こるか」、講談社、2008年
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