公開特許公報 特開2015

〔実 7 頁〕
公開特許公報(A)
(19)日本国特許庁(JP)
(12)
(11)特許出願公開番号
特開2015-146749
(P2015−146749A)
(43)公開日 平成27年8月20日(2015.8.20)
(51)Int.Cl.
A23K
FI
テーマコード(参考)
1/18
(2006.01)
A23K
1/18
102B
2B005
A01K 61/00
(2006.01)
A01K
61/00
E
2B104
A23K
(2006.01)
A23K
1/16
304A
2B150
1/16
A23K
1/16
305 A23K
1/16
301J
審査請求 未請求
(21)出願番号
特願2014-20161(P2014-20161)
(22)出願日
平成26年2月5日(2014.2.5)
請求項の数6 OL (全11頁)
(71)出願人 000214191
長崎県
長崎県長崎市江戸町2番13号
(71)出願人 504196300
国立大学法人東京海洋大学
東京都港区港南4丁目5番7号
(71)出願人 514031891
株式会社二枚貝養殖研究所
長崎県佐世保市ハウステンボス町11番地
13
(74)代理人 100090088
弁理士
(72)発明者 大橋
原崎 正
智志
長崎県大村市上諏訪町949−1
最終頁に続く
(54)【発明の名称】二枚貝浮遊幼生飼料ならびに二枚貝浮遊幼生飼料としてのツェイン包埋タウリン微細粉砕物の作成
方法および飼育方法
(57)【要約】
【課題】生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生や、ほとん
ど生産が不可能なタイラギ浮遊幼生の孵化から着底期ま
での浮遊幼生の正常な成長を補完し、大量斃死や成長停
滞を軽減することで種苗生産数の向上を実現させること
にある。
【解決手段】水溶性機能成分を難水溶性タンパク質で包
埋したことを特徴とする二枚貝浮遊幼生飼料である。ま
た、水溶性機能成分がタウリンであり、難水溶性タンパ
ク質がツェインであり、さらに、水溶性機能成分がタウ
リンであり、かつ難水溶性タンパク質がツェインである
ことを特徴とする。
【選択図】
図1
( 2 )
JP
1
2015-146749
A
2015.8.20
2
【特許請求の範囲】
7例、日本国内でも6例に留まり(非特許文献3-5)、生
【請求項1】
産困難あるいは不可能な種類とされている(非特許文献
水溶性機能成分を難水溶性タンパク質で包埋したことを
6-16)。タイラギ浮遊幼生に発生する生産不良の現象は
特徴とする二枚貝浮遊幼生飼料。
、他の貝種において発生する現象と類似する。すなわち
【請求項2】
成長が停滞して減耗し、最終的に全数が斃死して稚貝へ
水溶性機能成分がタウリンであることを特徴とする請求
の変態期に至らない。他の貝種における生産不良も同様
項1記載の二枚貝浮遊幼生飼料。
の現象を呈するが、一部は生残して稚貝への変態期に至
【請求項3】
る点が異なる。従って、ほとんど生産が不可能なタイラ
難水溶性タンパク質がツェインであることを特徴とする
請求項1記載の二枚貝浮遊幼生飼料。
ギ浮遊幼生の生産不良現象を改善する技術は、他の貝種
10
(マガキ、シカメガキ、イワガキ、アコヤガイ、クロチ
【請求項4】
ョウガイ、シロチョウガイ、マベ、イガイ、ムラサキイ
水溶性機能成分がタウリンであり、かつ難水溶性タンパ
ガイ、アカガイ、ホタテガイ、イタヤガイ、クマサルボ
ク質がツェインであることを特徴とする請求項1記載の
ウガイ、バカガイ、トリガイ、ハマグリ、アサリ等)に
二枚貝浮遊幼生飼料。
おいても生産不良を改善する新たな有効手段となるため
【請求項5】
、本発明では、ほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊幼
請求項1乃至請求項4に記載した飼料の作成方法。
生においても効果を奏する稚貝への変態期に導く飼育技
【請求項6】
術を課題とした。
請求項1乃至請求項4に記載した飼料を用いた二枚貝浮
【先行技術文献】
遊幼生の飼育方法。
【特許文献】
【発明の詳細な説明】
20
【0003】
【技術分野】
【特許文献1】特許第4963295号
【0001】
【特許文献2】特許第4734989号
本発明は、二枚貝浮遊幼生の飼育において有効な二枚貝
【特許文献3】特許第4734990号
浮遊幼生飼料ならびに、二枚貝浮遊幼生の飼育において
【非特許文献】
成長・生残に有効なアミノ酸であるタウリンを二枚貝餌
【0004】
料として利用するための二枚貝浮遊幼生飼料としてのツ
【非特許文献1】吉田裕(1964)貝類種苗学.北隆館,
ェイン包埋タウリン微細粉砕物の作成方法および飼育方
東京,p128-132.
法に関する。
【非特許文献2】明楽晴子(1998) タイラギの種苗生産
【背景技術】
の技術開発について.うみうし通信,18,8-9.
【0002】
30
【非特許文献3】川原逸郎・山口忠則・大隈斉・伊藤史
二枚貝浮遊幼生飼育は二枚貝種苗を生産する上で必ず実
郎(2004)タイラギ浮遊幼生の飼育と着底・変態.佐有
施しなければならない工程であり、これまでの技術開発
水研報22,41-46
によって多くの食用有用貝類(マガキ、シカメガキ、イ
【非特許文献4】大橋智志・藤井明彦・鬼木浩・大迫一
ワガキ、アコヤガイ、クロチョウガイ、シロチョウガイ
史・前野幸男・吉越一馬(2008)タイラギ浮遊幼生および
、マベ、イガイ、ムラサキイガイ、アカガイ、ホタテガ
着底稚貝の飼育(予報).水産増殖,56(2),181-191
イ、イタヤガイ、クマサルボウガイ、バカガイ、トリガ
【非特許文献5】平成26年1月28日 水産庁プレスリリ
イ、ハマグリ、アサリ等)の種苗生産技術が開発されて
ース「タイラギ稚貝を活用した養殖実証試験の実施につ
いる。世界的に食料自給の面から、種苗生産技術の開発
いて」
が急務になっている。
【非特許文献6】穐山展志・前川兼佑(1963)タイラギ
しかし、従来の方法による浮遊幼生飼育では成長停滞や 40
Atrina pectinata japonica (REEVE) その他二枚貝の人
大量斃死の発生を回避できない事例が種によって、ある
工採苗に関する予察的研究.山口内海水試調研業績,13
いは飼育時期や場所の差によって存在し、普遍的で安定
(1),81-91.
的した種苗生産が可能にはなっていない。特にタイラギ
【非特許文献7】濱本俊策・大林萬鋪(1984)タイラギ
浮遊幼生は、これまでに開発された飼育技術では安定し
の人工採卵と幼生飼育に関する問題点.栽培技研,13(2)
て稚貝に変態するまでの飼育を維持することが困難な種
,13-27.
類である。
【非特許文献8】伊東義信・野田進治・伊藤史郎(1986
タイラギの種苗生産研究が始まってから(非特許文献1
)タイラギ種苗生産試験.昭和55∼58年度佐賀県栽培セ
)34年をかけて最初の人工生産稚貝の飼育事例が報告さ
ンター事業報告,28-41.
れている(非特許文献2)。しかも、その後15年間に着
【非特許文献9】松田正彦・藤井明彦・森
底稚貝までの飼育に成功した事例はわずかで、世界的に 50
隆哉(1998)
洋治・桐山
介類種苗生産技術開発事業,平成9年度長
( 3 )
JP
3
A
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4
崎県総合水試事業報告書,53-57
浮遊幼生の卵黄栄養の直接補給(特許文献3,4、非特許
【非特許文献10】9.松田正彦・藤井明彦・森
桐山隆哉(1999)
2015-146749
洋治・
文献19)などがある。
介類種苗生産技術開発事業,平成10年
しかし、これらの改良を行なっても十分な効果を得られ
度長崎県総合水試事業報告書,51-53
ない事例や、ほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊幼生
【非特許文献11】中川彩子・木藪仁和(2002)浅海増
の事例では、現存の栄養強化技術の効果は限界があると
養殖に関する研究,(4)タイラギ種苗生産研究.平成13
考えられた。さらに、魚類飼育技術の応用として、ビタ
年度大分県海洋水産研究センター浅海研究所事業報告書
ミン類(ビタミンC、B1,B6、B12等)の補給などが考え
,11-12.
られた。これらの機能成分は水溶性であるため飼育水に
【非特許文献12】中川彩子・平川千修(2003)浅海増
溶解する。タイラギ浮遊幼生を用いて直接投与を検討し
養殖に関する研究,(3)タイラギ種苗生産研究.平成14 10
たが効果を得られなかった(実施例4)。
年度大分県海洋水産研究センター浅海研究所事業報告書
【0006】
,11-12.
この発明は、上記のような課題に鑑み、その課題を解決
【非特許文献13】中川彩子・平川千修(2004)浅海増
すべく創案されたものであって、その目的とするところ
養殖に関する研究,(4)タイラギ種苗生産研究.平成15
は、生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生や、ほとんど生
年度大分県海洋水産研究センター事業報告書,205-207
産が不可能なタイラギ浮遊幼生の孵化から着底期までの
.
浮遊幼生の正常な成長を補完し、大量斃死や成長停滞を
【非特許文献14】小川浩・井本有治(1995)タイラギ
軽減することで種苗生産数の向上を実現させる二枚貝浮
種苗生産試験.平成6年度大分県浅海漁業試験場事業報告
遊幼生飼料ならびに飼料の作成方向および飼料を用いた
書,1-2.
二枚貝浮遊幼生の飼育方法を提供することにある。
【非特許文献15】小川浩・井本有治(1996)タイラギ 20
【課題を解決するための手段】
種苗生産試験.平成7年度大分県浅海漁業試験場事業報
【0007】
告書,1-2.
以上の課題を達成するために、請求項1の発明に係る二
【非特許文献16】山賀賢一(2000)タイラギ種苗生産
枚貝浮遊幼生飼料は、水溶性機能成分を難水溶性タンパ
試験.平成11年度香川県水産試験場事業報告,61-62
ク質で包埋したことを特徴とする。
【非特許文献17】1.押尾明夫,關
【0008】
哲夫,谷口和也(
1995) 二枚貝の餌料となる微小藻類の培養ハンドブッ
請求項2の発明に係る二枚貝浮遊幼生飼料は、請求項1
ク, 水産庁東北水研藻類増殖研資料, 3-8.
の好ましい態様として、水溶性機能成分がタウリンであ
【非特許文献18】2.岡内正典(2005)植物プランクト
ることを特徴とする。
ンの増殖力と栄養価の評価について,月刊養殖8,82-85.
【0009】
【非特許文献19】大橋智志・岩永俊介・大迫一史・吉 30
請求項3の発明に係る二枚貝浮遊幼生飼料は、請求項1
越一馬 (2007) クマサルボウガイ浮遊幼生の成長、生残
の好ましい態様として、難水溶性タンパク質がツェイン
に対するマガキ卵磨砕物の添加効果.水産増殖,55: 56
であることを特徴とする。
3-570.
【0010】
【非特許文献20】陳
田
努,小磯雅彦,桑田
昭能,竹内俊郎,高橋隆行,友
請求項4の発明に係る二枚貝浮遊幼生飼料は、請求項1
博(2004) マダイ仔魚の成長
の好ましい態様として、水溶性機能成分がタウリンであ
および飢餓耐性に及ぼすタウリン強化ワムシの効果.日
り、かつ難水溶性タンパク質がツェインであることを特
水誌, 70, 542-547.
徴とする。
【非特許文献21】陳
田
努,小磯雅彦,桑田
昭能,竹内俊郎,高橋隆行,友
【0011】
博(2005) ヒラメ仔魚の成長
請求項5の発明に係る二枚貝浮遊幼生飼料の作成方法は
に及ぼすタウリン強化ワムシの効果.日水誌, 71, 342- 40
、請求項1乃至請求項4に記載した飼料を作成する方法
347.
である。
【発明の概要】
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
請求項6の発明に係る二枚貝浮遊幼生飼料を用いた二枚
【0005】
貝浮遊幼生の飼育方法は、請求項1乃至請求項4に記載
生産不良への対策は、飼料からの解決方法として栄養の
した飼料を用いて二枚貝浮遊幼生を飼育する方法である
強化や有効成分の補給を行なう方法がある。これまでに
。
検討されているのは、餌料となる微細藻類の含有有効成
【発明の効果】
分(不飽和高度脂肪酸、アミノ酸構成)の分析結果に基
【0013】
づく餌料藻類種の検討、あるいは餌料藻類の生産方法に
請求項1の発明に係る二枚貝浮遊幼生飼料によれば、実
よる有効成分の強化(非特許文献17,18)、および初期
50
施例1∼実施例3及び実施例4の実験結果から分かるよ
( 4 )
JP
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5
6
うに、単独では有効に働かない水溶性機能成分を難水溶
生産が不可能なタイラギ浮遊幼生に、二枚貝類浮遊幼生
性タンパク質で包埋することが、如何に必要不可欠であ
飼料として水溶性の機能成分を難水溶性タンパク質であ
るかを明らかにでき、水溶性機能成分を難水溶性タンパ
る例えばツェインに包埋したことにある。
ク質で包埋したことを特徴とする本願発明が、二枚貝浮
次に、水溶性機能成分の検討を行ない、ほとんど生産が
遊幼生飼料として有効であることを明白にすることがで
不可能なタイラギの産卵期中の受精卵の機能成分のうち
きた。これにより、生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生
、アミノ酸の動向を検討した。その結果遊離アミノ酸の
や、ほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊幼生の孵化か
ひとつである例えばタウリンが産卵盛期に増加すること
ら着底期までの浮遊幼生の正常な成長を補完し、大量斃
を見出した(図1)。この特性に着目し、水溶性機能成
死や成長停滞を軽減することで種苗生産数の向上を実現
させることができる。
分として例えばタウリンを、効果的に生産不良を呈する
10
二枚貝類浮遊幼生やほとんど生産が不可能なタイラギ浮
また、請求項2∼請求項4の発明に係る二枚貝浮遊幼生
遊幼生に供給することを選択した。
飼料によれば、水溶性機能成分がタウリンであるとき、
本発明は、生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生や、ほと
難水溶性タンパク質がツェインであるとき、また、水溶
んど生産が不可能なタイラギ浮遊幼生に、二枚貝類浮遊
性機能成分がタウリンであり、かつ難水溶性タンパク質
幼生飼料として水溶性機能成分が例えばタウリンであり
がツェインであるには、実施例1∼実施例3から、二枚
、かつ難水溶性タンパク質である例えばツェインに包埋
貝浮遊幼生飼料として有効であることを明らかにできた
したものである。
。
なお、水溶性機能成分としてタウリン以外についても適
【0014】
用を妨げるものではない。同様に、難水溶性タンパク質
請求項5の発明に係る二枚貝浮遊幼生飼料の作成方法に
としてツェイン以外についても適用を妨げるものではな
よれば、生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生やほとんど 20
い。
生産が不可能なタイラギ浮遊幼生が、摂餌および消化管
【0018】
上皮細胞による飲細胞作用が期待できる大きさに微粉末
水溶性機能成分が例えばタウリンを効果的に経口で摂取
化することができる。
させる目的を達成するために、発明者は貝類浮遊幼生の
【0015】
消化管上皮細胞による飲細胞作用に期待した餌料に効果
請求項6の発明に係る二枚貝浮遊幼生飼料を用いた二枚
があることが確認されていることに着目し(非特許文献
貝浮遊幼生の飼育方法によれば、生産不良を呈する二枚
20,21)、二枚貝類浮遊幼生飼料として水溶性機能
貝類浮遊幼生や、ほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊
成分が例えばタウリンであり、かつ難水溶性タンパク質
幼生の稚貝への変態率の向上を実現させることができる
である例えばツェインに包埋した二枚貝浮遊幼生飼料を
。
、生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生や、ほとんど生産
【図面の簡単な説明】
30
が不可能なタイラギ浮遊幼生が摂餌および消化管上皮細
【0016】
胞による飲細胞作用が期待できる大きさに微粉末化して
【図1】この発明を実施するための形態を示すタイラギ
飼育試験を行った。この結果、種苗生産成功率を向上さ
受精卵中の遊離アミノ酸組成の推移図である。
せる効果の内容を見出すに至った。
【発明を実施するための形態】
そこで、二枚貝浮遊幼生飼料の作成方法においては、水
【0017】
溶性機能成分が例えばタウリンを難水溶性タンパク質の
以下本発明を実施するための形態を説明する。
例えばツェインに包埋し、なおかつ経口摂取可能な形状
本発明に係る二枚貝浮遊幼生飼料は、水溶性機能成分を
に加工したのである。
難水溶性タンパク質で包埋したものからなる。
本発明の二枚貝浮遊幼生飼料の作成方法の一例であるツ
水溶性機能成分を効果的に経口で摂取させる目的を達成
ェイン包埋タウリン微細粉砕物は難水溶性の植物たんぱ
するために、二枚貝類浮遊幼生の健康に影響を及ぼさな 40
く質であるツェインが含水エチルアルコールに溶解する
い難水溶性の材質に包埋する方法を検討した。包埋基質
特徴を利用し、含水エチルアルコールータウリン溶液を
については二枚貝浮遊幼生の健康に影響を及ぼさない難
用いた。
水溶性タンパク質を用いて水溶性機能成分を包埋する方
本発明の作成方法の一例であるツェイン包埋タウリン微
法を発案した。本発明は生産不良を呈する二枚貝類浮遊
細粉砕物は難水溶性の植物たんぱく質であるツェインが
幼生や、特に、ほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊幼
含水エチルアルコールに溶解することを利用し、含水エ
生に、二枚貝類浮遊幼生飼料として水溶性の機能成分を
チルアルコールータウリン溶液にツェインを溶解するこ
難水溶性タンパク質に包埋したものである。
とで、ツェインとタウリンを混合したものである。
また、難水溶性タンパク質としては、例えばトウモロコ
本発明の作成方法の一例であるツェイン包埋タウリン微
シ由来の植物タンパク質であるツェインを選択した。本
細粉砕物は含水エチルアルコールータウリン溶液にツェ
発明は生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生や、ほとんど 50
インを溶解してツェインとタウリンを混合した含水エチ
( 5 )
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ルアルコールにツェイン-タウリン混合物の溶媒を蒸発
容易に適用可能なためである。
させることで、ツェインを固化させその内部にタウリン
これに対して、実施例4では、本願発明の二枚貝浮遊幼
を包埋することもできる。
生飼料として、水溶性機能成分を難水溶性タンパク質で
本発明の作成方法の一例であるツェイン包埋タウリン微
包埋することが必要不可欠であることを裏付けるための
細粉砕物は含水エチルアルコールに溶解したツェイン-
実験である。
タウリン混合物の溶媒を蒸発させることで得られるタウ
即ち、実施例4の実験では水溶性機能成分として効能が
リンを包埋させたツェイン固化物を、粉砕機、スプレー
高いと考えられるタウリンを使用し、その一方でこのタ
ドライあるいは湿式微粒化装置等を用いて、生産不良を
ウリンを難水溶性タンパク質で包埋しない場合である。
呈する二枚貝類浮遊幼生や、ほとんど生産が不可能なタ
また実験にはタイラギ浮遊幼生に比べて遙かに生産(飼
イラギ浮遊幼生が摂餌可能なサイズに粉砕して与えるこ 10
育)が容易なマガキ浮遊幼生を用いた。
とも可能である。
実施例4の実験結果から明白なように、遙かに生産(飼
本発明の二枚貝浮遊幼生飼料の作成方法をさらに具体的
育)が容易なマガキ浮遊幼生であっても、水溶性機能成
に説明すると次のような方法である。
分の中では効能が高いと考えられるタウリンを使用して
即ち、本発明を利用するためには純水に結晶タウリンを
も難水溶性タンパク質で包埋しない場合には、目立った
最大で2%混合撹拌して溶解させた後、エチルアルコール
効果が生じていない。
を加えて含水エタノール溶液に調整する。これにツェイ
これに対して、マガキ浮遊幼生をはじめ他の二枚貝浮遊
ン粉末をタウリン粉末と同量混合し撹拌して溶解させる
幼生に比べて遙かに生産(飼育)が困難なタイラギ浮遊
。調整したタウリン-ツェイン含水エチルアルコール溶
幼生であっても、実施例1∼実施例3及び実施例4の実
液を、乾留装置あるいは加温して溶媒を蒸発させること
験結果から分かるように、単独では有効に働かない水溶
で固化させた後に粉砕機で粉砕するか、スプレードライ 20
性機能成分を難水溶性タンパク質で包埋することが、如
装置で固化させるか、あるいは粗粒子に粉砕した後に湿
何に必要不可欠であるかを明らかにでき、本願発明が二
式微粒化装置を用いて粉砕するかのいずれかの方法を使
枚貝浮遊幼生飼料として有効であることが立証された。
い10ミクロン以下のサイズに微細化する。保存は冷蔵(
また、生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生や、ほとんど
4℃以下)が望ましい。
生産が不可能なタイラギ浮遊幼生の飼育において本願発
【0019】
明の一例であるツェイン包埋タウリン微細粉砕物の添加
本発明の二枚貝浮遊幼生飼料を用いた二枚貝浮遊幼生の
は有効であると考えられる。
飼育方法においては、水溶性機能成分が例えばタウリン
以下に、実施例1∼実施例4について、さらに具体的に
を包埋させた難水溶性タンパク質である例えばツェイン
説明するが、本発明は下記の実施例に限定したものでは
固化物を、粉砕機、スプレードライあるいは湿式微粒化
ない。
装置等を用いて貝類浮遊幼生が摂餌可能なサイズに粉砕 30
【0021】
した後、粉砕後の例えばツェイン包埋タウリン微細粉砕
〔実施例1〕
物を、二枚貝浮遊幼生飼育水中に餌料として適量添加す
二枚貝浮遊幼生の中では最も生産(飼育)が困難とされ
る。また、二枚貝浮遊幼生飼育水中に孵化から着底期ま
るタイラギ浮遊幼生の種苗生産数の向上を目的として、
で添加する。
本願発明の一例としてのツェイン包埋タウリン微細粉砕
即ち、得られた微細化した例えばツェイン包埋タウリン
物の飼育初期における添加効果を調べた。
微細粉砕物は必要量を計量して、二枚貝類浮遊幼生に他
実験は2013年7月29日から8月27日の29日間行った。実験
の生物餌料とともに給餌する。他の餌料藻類の給餌は一
開始時の飼育密度は2.7∼7.7個体/mlとし、実験区、対
般的な飼育方法に準じて良い。
照区ともに飼育水槽は500リットル円形水槽2槽を用いた
本発明の飼育方法の一例であるツェイン包埋タウリン微
。餌料藻はC. calcitrans,P. lutheriを用いた。また
細粉砕物の添加による二枚貝浮遊幼生飼育技術は生産不 40
補助餌料としてマガキ卵磨砕物(乾燥重量で10mg/ml)
良を呈する二枚貝類浮遊幼生や、ほとんど生産が不可能
を用いた。実験区1,2はツェイン包埋タウリン微細粉
なタイラギ浮遊幼生の稚貝への変態率の向上を実現させ
砕物を日齢1から14までの間飼育水に対して10mg/t(タ
る(表1,2,3)。
ウリン含有量で5mg/t)添加した。対照区1,2はツェ
【実施例】
イン包埋タウリン微細粉砕物を除く餌料条件を同一とし
【0020】
た。給餌量はC. calcitransは20,000細胞/ml・日、P. l
実施例1∼実施例3では、二枚貝浮遊幼生の中では前述
utheriは2,000∼8,000細胞/ml・日を給餌し、補助餌料
したように最も生産(飼育)が困難とされるタイラギ浮
の卵磨砕物は乾燥重量で10-20mg/ml・日を給餌した。水
遊幼生について調べた。タイラギ浮遊幼生で実験したの
温はウォーターバスで25.8∼31.4℃とした。換水は20%
は、最も生産(飼育)が困難とされるタイラギ浮遊幼生
量を毎日サイホンで交換し、全量換水を3-4日毎に実施
で生産(飼育)できる場合には、他の二枚貝浮遊幼生に 50
した。着底は日齢29から始まり日齢37まで継続した。
( 6 )
JP
9
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10
実験区1,2では2槽ともに着底稚貝が得られたが、対
細粉砕物を用いた種苗生産試験では6回中4回で着底稚貝
照区では対照区2の1槽であった(表1)。また着底数
が得られた。なお、国内では50年以上タイラギ種苗生
は、実験区346個に対して対照区は57個で、孵化幼生か
産の技術開発が行われているが、これまでの着底稚貝が
らの生残率比でも実験区は対照区の8.8倍の稚貝が得ら
得られた事例の総数は、50年以上の間で本事例を含め
れた。
てわずか12例であり、さらに着底稚貝が孵化から30
【0022】
日以内で得られた事例は本願発明の一例としてのツェイ
【表1】
ン包埋タウリン微細粉砕物を用いた種苗生産試験の4回
を含めた発明者の実施した事例7例のみで、他の成功事
例では50日以上の飼育を要している。
10
【0026】
【表3】
【0023】
〔実施例2〕
二枚貝浮遊幼生の中では最も生産(飼育)が困難とされ
るタイラギ浮遊幼生の種苗生産数の向上を目的として、
本願発明の一例としてのツェイン包埋タウリン微細粉砕
【0027】
物の飼育初期における添加効果を調べた。
〔実施例4〕
実験は2013年8月15日から9月13日の29日間行った。実験
水溶性機能成分の一例としてのタウリンを飼育水に水溶
開始時の飼育密度は3∼10.1個体/mlとし、実験区、対照 20
させて供給する方法の効果を、タイラギ浮遊幼生に比べ
区ともに飼育水槽は500リットル円形水槽2槽を用いた。
て遙かに生産(飼育)が容易なマガキ初期浮遊幼生を用
餌料藻はC.calcitrans,P. lutheriを用いた。また補助
いて調べた。実験は2013年4月16日から4月22日の7日間
餌料としてマガキ卵磨砕物(乾燥重量で10mg/ml)を用
行った。実験開始時の飼育密度は4個体/mlとし、実験区
いた。実験区ではツェイン包埋タウリン微細粉砕物を日
、対照区ともに飼育水槽は500リットル円形水槽を用い
齢19から日齢29までの10日間飼育水に対して10mg/t(タ
た。餌料藻はC. calcitrans,P. lutheriを用いた。ま
ウリン含有量で5mg/t)を添加する実験区を設定した。
た補助餌料としてマガキ卵磨砕物(乾燥重量で10mg/ml
対照区はツェイン包埋タウリン微細粉砕物を除く餌料条
)を用いた。実験区はタウリンを日齢1から7までの間
件は同一とした。給餌量はC. calcitransは5,000∼20,0
、飼育水に対して2,000mg/t(2ppm)の濃度となるよう
00細胞/ml・日、P. lutheriは2,000∼8,000細胞/ml・日
に水溶させて添加した。対照区はタウリン添加を除いて
を給餌し、補助餌料の卵磨砕物は乾燥重量で10-20mg/ml 30
餌料条件を同一とした。給餌量はC. calcitransは20,00
・日を給餌した。水温はウォーターバスで25.8∼31.4℃
0細胞/ml・日、P. lutheriは2,000∼8,000細胞/ml・日
とした。換水は20%量を毎日サイホンで交換し、全量換
を給餌し、補助餌料の卵磨砕物は乾燥重量で10-20mg/ml
水を3-6日毎に実施した。着底は日齢から始まり日齢40
・日を給餌した。水温はウォーターバスで20∼21℃とし
まで継続した。
た。換水は100%量を毎日サイホンで交換した。
実験区では2槽ともに着底稚貝が得られたが、対照区で
実験終了時の生残率は対照区が100%であったのに対して
は着底稚貝は得られなかった(表2)。
実験区では10%と低かった。殻長は対照区では平均87.5
【0024】
μm、最大殻長100μmであったのに対して実験区は平均
【表2】
殻長81.2μm、最大殻長85μmと低く、成長が阻害され
ている可能性が示唆された(表4)。
40
【0028】
【表4】
【0025】
〔実施例3〕
これまでの過去の飼育試験結果との比較を表3に示す。
2006年から2013年までにのべ53回の種苗生産試験を実施
【産業上の利用可能性】
したが、本願発明の二枚貝浮遊幼生飼料の添加を行わず
【0029】
に着底稚貝を得られたのは5回で成功率は9.4%であっ
本発明は、他の食用二枚貝種(マガキ、シカメガキ、イ
たが、本願発明の一例としてのツェイン包埋タウリン微 50
ワガキ、アコヤガイ、クロチョウガイ、シロチョウガイ
( 7 )
JP
11
2015-146749
A
2015.8.20
12
、マベ、イガイ、ムラサキイガイ、アカガイ、ホタテガ
にも応用可能で、これらの安定生産を可能とし、特に、
イ、イタヤガイ、クマサルボウガイ、バカガイ、トリガ
水産業における増養殖分野(養殖業および栽培漁業)に
イ、ハマグリ、アサリ等)の生産不良を呈する浮遊幼生
おいて貢献度が高い。
【図1】
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フロントページの続き
(72)発明者
岩永
俊介
長崎県長崎市多以良町1551−4
(72)発明者
大迫
東京都港区港南4−5−7
(72)発明者
中川
鬼木
国立大学法人東京海洋大学内
樹里
東京都港区港南4−5−7
(72)発明者
長崎県総合水産試験場内
一史
国立大学法人東京海洋大学内
浩
長崎県佐世保市ハウステンボス町11番地13
Fターム(参考) 2B005 GA07
GA08
LA07
2B104 AA22
BA06
DA03
2B150 AA07
AB02
AB10
DJ11
LB01
MA02
AB20
AE02
DA13
株式会社二枚貝養殖研究所内
DA20
DA41
DD01
DJ02