学生教育について

 9.学生教育について
教育について
尾 辻 豊
産業医大の大きな目的は「産業医学振興(産業医の育成)
」ですので、それに
は学生教育を充実させて医師国家試験合格率を上げることが根幹となります。国
試浪人や留年学生、ひいては退学学生を見たり噂を聞いたりすると、「医学部に入って医師になれない
人は本当に大変だ」と思います。このような人を少しでも少なくして、産業医大に入学する学生が幸せ
になれるよう教育を頑張らねばならないと思っています。例年通り行っていますが、少しずつ変化があ
ります。
学生講義:1 年生への「臨床医学入門(1 回)
」
、
「医療検査技術(1 回)
」
、2 年生の「生理学(心拍出量
と血圧:1 回)」、3 年生への「循環器 I(10 回)」、「腎 I(6 回)」、4 年生への「循環器 II(24 回、うち 7
回は心臓血管外科)」、「腎 II(11 回)」と「遺伝子診断・治療学(1 回)
」
、6 年生への「統合講義(4 回、
うち 1 回は心臓血管外科)」と「職業関連疾患(1 回)」を行いました。学外からは昨年に引き続き、筬
島明彦先生・田中弘先生・太﨑博美先生・落合由恵先生(九州厚生年金病院心臓血管外科部長)・富永
隆治先生(九州大学心臓血管外科教授)・森田茂樹先生(佐賀大学心臓外科教授)に支援をいただきま
した。全部で 60 コマですが、第 2 内科学が担当する 53 コマの講義のうち私自身は 13 コマ担当してい
ます。
産業保健学部の看護科では「内科系病態治療学」を第 2 内科学が中心となって行っています。29 回
の講義の取りまとめを私が行い、実際の講義は複数の内科で分担してもらっています。第 2 内科学で直
接行う講義は、循環器が 7 回、腎臓が 3 回です。国家試験対策の講義も一コマあります。また環境マネー
ジメント科の「生体防御学」で 2 コマ、「生体反応学」で 2 コマ講義を始めました。全部で 15 コマです
が、私は 7 コマ行っており、かなり忙しいです。
ポリクリ:ポリクリはいつもと変わりません。2 週間毎のローテートで、
各グループ 5 ~ 6 名です。実習・
見学・担当患者さんの診察等学生は忙しく勉強しています。胸部レントゲン判読・心エコー実習・心電
図判読・心臓カテーテル見学・心 RI 判読・心エコー判読・不整脈判読・腹膜透析講義・心臓外科講義・
心臓外科手術見学・腎生検判読・血液透析の見学や講義等、実際の臨床やそれに近い形での刺激を学生
に与えるようにしています。平成 24 年度は若松病院でのポリクリが始まりました。2 週間のうちの 1
日、若松病院に行っていただき、
「頸動脈エコーのレクチャーと実習」
、
「検尿異常のレクチャー」と「総
括」をしていただいています。私としては 2 週間のポリクリの中で「外来ポリクリ」が 2 回、
「心エコー
レクチャー」が 1 回、
「総括」が 2 回、それぞれ 90 ~ 120 分の教育がありましたが、
「総括」1 回分が減っ
て、金曜日の出張などに助かっています。平成 24 年度も引き続き、韓国 Wonkwang 大学および Kosin
大学との教育交流を行いました。Wonkwang 大学からは 4 名の学生が 2 週間、Kosin 大学からは 6 名
− 25 −
の学生が 4 週間、産業医大のポリクリに参加しました。今年は受入れ学生も総勢 10 名で、受入れ期間
も昨年より長かったために殆んどの診療科のポリクリで交換教育を行い、殆んどの学生が交換教育を体
験することができました。今年も韓国学生と産業医大の学生がそれぞれ友情を育み、仲良く勉強したの
が何よりでした。学生にも非常に評判が良いです。課題としては英語での教育となり、理解してもらう
のに時間がかかるのですが、これはいかんともしがたく、やはり教育する量を減らすしかないと考えて
います。
Clinical Clerkship(クリニカルクラークシップ)
:今年度も 4 名・4 週間受入れ、循環器 I、循環器 II、
腎臓と 3 つのコースを作り、マンツーマンで、患者さんをじっくり診てもらいました。学内実習に加え
て毎週金曜日に市立八幡病院で当直実習をさせていただきましたが例年通り大好評でした。平成 24 年
度はこのクリクラ 4 週間の中の 2 週間を使って学生を Wonkwang 大学と Kosin 大学に派遣しました。
平成 23 年度に 5 年生で韓国学生を受け入れた学生が 6 年生になり、韓国大学に行き、再び同じ韓国学
生といっしょに勉強するという流れです。今年度、私はプサンの Kosin 大学に引率として行ってきまし
た。大きな大きな大学で、キリスト教関連団体の支援で成り立っています。学長は神父さんです。1951
年、朝鮮戦争の時のあふれる患者さんを故 Chang Ki Ryoh 博士が無料診療所で診療したのが Kosin 大
学の始まりです。この創設者は、医師としての能力もさることながら非情な人格者だったようで、蓄財
ということを一切せず、北朝鮮に離れ離れになった奥さんとの面会を特別に許可された時にも「特別待
遇は不公平である」と言って断り、生きているうちには奥さんと会えなかったという悲劇の人でもあり
ます。学内のみならず韓国中で広く尊敬されており、
学内のいろいろなところにその業績を讃えるモニュ
メントや歴史を伝える資料室がありました。Kosin 大学の先生達も親切で、産業医大に前年に来た学生
も人懐こく挨拶にたくさん来てくれました。宿舎が大きな留学生会館で常時 100 名以上の外国からの学
生や訪問者が宿泊しているということでした。山の斜面に建っており、対馬方面を一望できる景勝地で
した。韓国との交換教育は、もともと交流のあった Jin-Won Jeong 先生が 2010 年に Wonkwang 大学医
学部長となり年賀状の中で交換教育を依頼された御縁で私がまとめ役になり始めましたが、5 年生を受
入れ 6 年生を派遣するという一定の形ができてきました。3 年間担当いたしましたが無事にお役御免と
なり、今後はポリクリ・クリクラ担当の先生(今は第 1 外科学の山口幸二先生)が担当されます。気を
使う仕事でしたが、学生も大喜びで、楽しい仕事でした。
総合試験小委員会委員長:平成 24 年度の総合試験小委員会委員長となり、総合試験Ⅰ・Ⅱ、合計 1000
問作成のマネージメントをいたしました。年間 250 日、毎日 12 時間働いて、年間 3000 時間ですが、お
そらく 400 時間ぐらい働いたような気がします。1 年間無我夢中でやって、何とかできました。2 年目
は仕事の全体像が見えながら試験を作れるだろうと思っていましたが、思いがけず教務部長という重責
を担うことになってしまい、総合試験小委員会委員長を他の先生にお願いいたしました。誰もが嫌がる
仕事ですが、皮膚科の中村元信教授に快く引き受けていただき大変感謝しています。平成 25 年度は教
務部長として既に仕事を始めていますが、大変そうだということが日に日に実感できています。健康に
気をつけて頑張ります。
以上、医局で取り組んでいる教育の概要を書きました。今年の卒業生は国家試験で 100 名受験、98
名合格(98%合格、全国平均 89.8%)であり、全国 80 大学中 5 位でした。来年も良い成績を維持でき
るよう努力を続けて行きます。
−26 −
韓国 Wonkwang 大学と Kosin 大学学生の歓迎パーティ(産業医大学食)でブレークダンスを披露す
る 5 年生西江龍太郎さん。一気に盛り上がりました。帽子ではなくサンバイザーをかぶっていました。
若くて禿げる心配をしていないのだと思いますが、長期予後も良好であるよう祈っています。
−27 −