人間科学研究 Vol. 28, Supplement(2015) 修士論文要旨 授業実践と現職教育を併行的に実現する学校システム School System for Implementation of Teaching Practices and Teacher Training 石原 英理子(Eriko Ishihara) 指導:野嶋 栄一郎 問題と目的 方法 現代の学校教育においては、グローバル化や高度情報化、 1.対象:北条小学校の学年室で行われた1学年の学年会 少子高齢化といった急速な変化に付随する課題や困難に対 応できる力を持った児童・生徒を育成することが求められ (計5回分)を対象とする。 2.調査方法:2013年11月8,15, 22日と2014年1月6,10 ている。したがって教員には、教科に関する専門的知識や、 日に学年会の観察及び撮影を実施した。 時代に適応した新しい教育実践を展開できる指導力が必要 3.分析方法:学年会については、記録された映像とICレ である。このような力を身につけるために、理論と実践の コーダーをもとに、聞き取り可能な全発話を文字化し、発 往還による教員養成の高度化が重要な課題となっている 話に伴った付随的な行動を付記したトランスクリプトを作 (中央教育審議会, 2012) 。 成した。反訳過程において、発話単位は話者の交代等を基 これまで行われてきた教員の力量形成に関する研究では、 準とした。次に、トランスクリプトをもとに、話し合いの 従 来 の 学 校 経 営 研 究 に お い て「 専 門 職 の 学 習 共 同 体 内容に基づいて場面分けを行った。そして各回の学年会の (Professional learning community) 」 が教師集団の学習 トランスクリプトを分析し、 Hord & Hirsh(2008)の「専 を促進し、その状態を維持するだけでなく、それが学校の 門職の学習共同体」の中核を為す活動「集合的な学習とそ 変革にまで寄与すると考えられてきた (Louise et al. 1995; の応用」と対応する部分について検討した。 Bolam et al. 2005; Louise & Stoll, 2007) 。しかしこのよ 結果と考察 うな理論的研究が進んでいる一方、それを実証するための 学年会は主に「教科」「統合学習」「生徒指導」「その他」 具体的な事例に基づくデータによる科学的な検討はほとん に関わる話し合いの4場面から成り立っていた。そのうち ど行われず、その方法論の開発については課題とされてき 「教科」「統合学習」の場面を、話し合われていた内容に基 た(坂本,2007) 。 づいて分析する。 そこで本研究では、この方法論の開発に示唆を与えるモ 各教科・統合学習ともにすべての日程に行われた学年会 デルとして、千葉県館山市立北条小学校(以下、 「北条小学 で、専門職の学習共同体における活動の順序を踏んだ会議 校」 ) における教員の能力を高める機能として大きな役割を が行われていた。まず話し合いの冒頭には常に各クラスの 果たしていると考えられる具体例として「学年会」に着目 授業進捗状況を確認する場面があり、事前の学年会で話し する。 この学校は、 第二次世界大戦後におけるコアカリキュ 合われた計画通りに授業が進んでいるかを確認していた。 ラムの研究で注目され、その後も北条プランの開発、オー その評価をもとに今後の予定を全員で確認しながら再度調 プンスペースを活用した学習、統合学習の実践、カリキュ 整をはかっていた。その後、各クラスで行われた授業と生 ラム管理室の設置など、時勢にかなった革新を続けてきた 徒の様子について個人の実践内容を共有し、生徒のニーズ (千葉県館山市立北条小学校, 2000;野嶋,2012) 。そして、 と各単元で達成するべき目標に立ち戻りながら優先事項を このような取り組みや日常的な教育実践を支える機能とし 具体化していた。そこでは各教員が実際の指導で直面した て「学年会」と呼ばれる会議が毎週1回、年間を通じて運 悩みや葛藤、または指導の成功した点が共有され、そういっ 営されている。 た発言に慰労や称賛の言葉を投げかけあう同僚同士の支援 本研究では「専門職の学習共同体」という理論に照らし 的な関係性が構築される。そのうえで構成員が把握した問 たとき、北条小学校における授業実践と教員の力量形成を 題の解決策や新しい実践に向けて、熟練教師の経験や教科 同時的に遂行するという独特な仕組み及び成果をその具体 担当が他校の公開授業で得た知識の共有をはかり、日常の 的な実現例と捉え、特に「学年会」という会議体を分析事 授業実践とカリキュラム開発に繋げていた。以上から、学 例として実証的に論証することを目的とする。 年会は教員同士の協働的な学習を促進し、カリキュラム内 容の実践検証の場になっていると言える。 - 111 -
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