算数科教育研究部

算数科教育研究部
【平成28年1月現在】
主任 永原 信哉 部員 工藤佳世子,齋藤 敏一,浅田 鶴予
研究主題
有用な知識・方法を基に新しい価値を創造する算数授業の構築
目指す児童の姿
研究目標 研究仮説
協働的に課題解決に向かうことで,有用な知識・方法を基に新しい価値を創造することができ
る児童
有用な知識・方法を基に新しい価値を創造する児童を育てるために,自分の立場を明らか
にすること,自分の考えと友達の考えを比較・検討することを重視した授業を構築し積み重ね
ることが,有効であることを実践的に明らかにする。
自分の立場を明らかにすること,自分の考えと友達の考えを比較・検討することを重視した
授業を構築し積み重ねることにより,児童は,有用な知識・方法を基に新しい価値を創造する
ことができるようになるであろう。
Ⅰ
主題及び目指す児童の姿設定の理由
本研究部では,研究主題と目指す児童の姿を上記のように設定する。これは,本校全体での研
究主題と目指す児童の姿,昨年度までの取組の反省,算数科の特性に鑑みたものである。
1
算数科教育の価値
一般的に児童は,算数の授業において計算の仕方や作図の方法を覚え,問題に対する正しい
答えを出すことができればよいと考えがちである。しかし,小学校において算数の授業を行う
目的はそれだけではない。杉山吉茂は数学教育について,次のように述べている。「数学教育
は,数学を子どもに伝えるだけではなく,ものの見方や考える力を与え,数学を通して世界が
違って見えてきて,新しい世界が開かれることを経験させることにある。頭の中に数学的知識
が羅列され蓄積されるのではなく,世界がいろいろに見える力,新しいものを作り出す力・考
え方を身につけさせることにある*1」。さらに杉山は,数学教育の価値として,
「実用的価値」
「陶
冶的価値」「文化的価値」の3つをあげている。実用的価値とは,数学が生活の問題や現象世
界の問題の解決に役立てられるということである。陶冶的価値とは,数学がもっている論理性,
形式性といった性格から考えられることで,数学の学習を通して論理的思考力をはじめ,注意
深く考える習慣等を育てられるということである。文化的価値とは,数学がもっている論理的
厳密さや完全性の美しさを理解するようにすることで,人間のすばらしさ,文化のすばらしさ
を味わわせることができるということである。
以上の先行研究から,小学校における算数科授業においては,中教審による「論点整理」
(2015.8)の「三つの柱」に示されているように,知識・技能の定着の他,思考力・判断力・表
現力や学びに向かう力,人間性等を育成することを目指す必要があると考える。
2
これまでの取組
本研究部では昨年度まで,
「関係付けながら思考する力を高める算数授業の創造」を主題に,
研究を推進してきた。具体的な取組としては,有用な知識・方法を基に関係付けて考える児童
を育成するために,考えを表現させる場において,言葉の他,数,式,図,表,グラフなどの
手段を用いて思考したことの根拠を明らかにさせる授業を構築し積み重ねてきた。ここで言う
「有用な知識・方法」は,課題解決のために有用にはたらく知識や方法のことであり,有用な
「知識」とは,例えば,600÷2の600を百の束で6と見て6÷2で 300 と考える「単位
の見方」などの,既習事項の中でも繰り返し課題解決に用いることができる知識のことである。
また,有用な「方法」とは,例えば,問題場面を数直線に置き換えて見ることで問題の構造を
明らかにするなどの算数ならではの認識・表現のための方法のことである。これまで本研究部
では有用な知識・方法を,「有用な知識」という言葉で表し,「既習事項の中でも繰り返し課題
解決に用いることができる知識。内容だけではなく,方法も含む」と定義してきた。つまり,
知識の中に方法を包括する表現を用いてきた。しかし,この「方法」も知識同様,課題解決の
ためには重要なものである。そのため,今年度はその点を強調し,有用な知識を「有用な知識
・方法」と言い換えることとする。
*1 杉山吉茂「確かな算数・数学教育をもとめて」東洋館出版社,2013,p387
上記のような取組を通して,教師が,児童の思考したことの根拠(言葉の他,数,式,図,
表,グラフなどの手段)について,共通点や相違点を児童に繰り返し問うことで,解決の根底
にある有用な知識・方法の活用を顕在化することができた。さらに,学習感想で一時間の自分
の学びを振り返らせたり参考になった友達の考えを書かせたりすることでも,有用な知識・方
法の活用の顕在化が図られた。また,前時の学習感想を次時の導入で意図的に扱うことが,有
用な知識・方法を用いた課題解決につながった。
しかし一方で,児童の観察から,次のような指導上の課題も見出された。1点目は,考えを
洗練させるということ,新しい価値を創造するということへの配慮が十分ではなかったという
ことである。2点目は「ねらい」に関わったものであり,思考力,判断力,表現力に関したね
らいが明確ではなかったということと,「学びに向かう力,人間性」の育成について十分配慮
されていなかったということである。よって,今後は,昨年度までの言語活動の研究で得た成
果を生かしつつ,これらの課題が解決されるような研究を推進していく必要があると考えた。
以上1,2より,研究主題を「有用な知識・方法を基に新しい価値を創造する算数授業の構
築」,目指す児童像を「協働的に課題解決に向かうことで,有用な知識・方法を基に新しい価値
を創造することができる児童」と設定した。
Ⅱ
目指す児童の姿の具現化に向けて
「新しい価値を創造する」とは,自分の考えと友達から得た考えを適切に組み合わせて課題を
解決したり,解決を洗練させたり,新たな課題を見出したりすることである。この姿の具現化を
目指し,協働的な課題解決の核となる意見交流の場面に焦点を当てる。1単位時間の協働的な学
びには多くの意見交流場面があるが,その中でも特に考えを比較・検討させる場面を重要視する。
まずは自分の立場を明らかにさせる。これは,問題解決について,自分はこのように考えている
と示すことである。たとえ解決できなかった場合でも,「ここまではこのように考えたが,ここ
からはこの点がはっきりしないので分からない」などと立場を明らかにさせる。自分の立場を明
らかにさせた後に,出された複数の考えを比較・検討する場面を設定する。ここでは,学級で共
有している既習事項を基に相手が納得するまで説明することや,分からないことを交流し共に考
えることなどに取り組ませる。その交流を通して,課題解決に向かわせるが,その際,既習との
関連に気付かせたり,解決に用いられている有用な知識・方法を浮かび上がらせていく。このよ
うに協働的に課題解決に向かわせることで,算数科の授業で目指す「有用な知識・方法を基に新
しい価値を創造する」という姿の具現化を図ることができると考える。
さらに,上記のような協働的な学びは,「三つの柱」で述べられている育成したい力や態度の
育成にも貢献すると考える。協働的に課題解決に取り組ませることで,算数科の授業で扱う知識
・技能などに関する内容の理解と,思考力・判断力・表現力の向上,学びに向かう力や人間性の
向上が,互恵的になされると考える。
1年次は,目指す児童の姿の具現化に向け,どのような協働的な課題解決が適切なのかを吟味
する。具体的な手立ての1点目は,一年間や単元全体を見渡しながら,それぞれ1時間ごとの指
導において,伸ばさなければならない力,伸ばしていける力等を明確にした授業を構成すること
である。2点目は,1時間の中でも,協働的な課題解決が特に有効にはたらく核となる場面につ
いて,その課題解決を可能にするための要素を明らかにすることである。
Ⅲ
研究内容と方法
協働的な課題解決を構築し,目指す児童の姿を具現化するために,1時間ごとの指導において,
身に付けさせたい力を明確にした授業を構成する。さらに,協働的な課題解決が特に有効にはた
らく核となる場面において,自分の立場を明確にさせた後,それぞれの考えを伝え合わせて比較
・検討させる中で,考えの共通点,相違点,既習との関連を見出させる。
【参考文献】
杉山吉茂『「確かな算数・数学教育をもとめて」東洋館出版社,2013
中野博之「「数学的な考え方」を育成するための教材研究-統合的に考えることに焦点をあてて-」
『続・新しい算数数学教育の実践をめざして』東洋館出版社,2012
中島健三『算数・数学教育と数学的な考え方-その進展ための考察』金子書房,1981