平成27年1月1日 №468

あなたのレポーター The Aquaculture
育てる漁業
ナマコ漁業生産の現状とICTによる資源管理
北海道のマナマコ漁獲量は、平成15年頃から生産単価
の上昇に伴って急激に増加し、平成19年には過去最高の
2,835トンを水揚げしております。生産金額は平成22
年に107億円とピークを迎え、以後減少傾向です。キロ
当たり平均単価は平成22年に4,500円にまで上昇し、平
成24年に一旦2,600円に減少しておりますが、平成25
年には再び3千円台への単価上昇がみられています。
道内では平成20年以降、生産量は下降気味となってお
り、資源管理や種苗放流(平成24年:575万個)により資
源の維持増大を図る取り組みが各地で実施されております。
新星マリン漁協の留萌地区ではICT 技術を活用したナマ
コ資源管理を実施して成果を上げており、本紙の栽培漁業
技術情報(8P)に、道総研稚内水試の佐野主査からその内
容について寄稿して頂きました。こういったICT 技術は今
後、漁業の分野でも大いに活用が進むことが期待されます。
(ICT:Information and Communication Technology =
情報処理や情報通信など、コンピュータやネットワークに
関連する技術やサービス等の総称。
)
平成27年1月1日
NO.468
発行所/公益社団法人 北海道栽培漁業振興公社
発行人/川崎一好
〒060-0003 札幌市中央区北3条西7丁目
(北海道水産ビル3階)
TEL(011)271-7731/FAX(011)271-1606
ホームページ http://www.saibai.or.jp
ISSN 1883-5384
CONTENTS 目次
会長年頭挨拶…………………………………… 2
栽培公社発アクアカルチャーロード…… 3〜5
魚類の生息環境に対する
重要な水質項目について
川村敏勝
明日の浜へチャレンジ…………………… 6〜7
ニシンがつなぐ地域の夢
〜放流試験の一翼を担って〜
岩内郡漁協青年部
栽培漁業技術情報……………………………… 8
マナマコの資源管理における
ICT技術の活用
稚内水試 佐 野 稔
年頭挨拶
公益社団法人 北海道栽培漁業振興公社
会長理事
新年明けましておめでとうございます。
川崎一好
これから、道の第7次栽培漁業基本計画と
皆様には、ご健勝にて2015年の初春を迎
日本海漁業振興基本方針等に基づき、新たな
えられましたことを、心からお慶び申し上げ
水産施策が展開されるに際しては、当公社と
ます。
しても十分連携に努めつつ、積極果敢に会員
の皆様方と共に栽培漁業の推進に取り組みた
さて、迎えた新しい年明けに期待されるの
いと存じます。また、私共の「公益事業運営
は、国が中長期的な視野に立って強力な成長
等検討委員会」で俎上にのせておりますの
戦略を打ち出し、足踏みする景気を上向かせ
は、種苗生産の効率化と放流技術の向上、新
ると共に、私達の生活をしっかりと安定させ
たな魚種の種苗生産の試みや調査設計事業の
ることではないでしょうか。
拡充強化、公益法人たる体制整備と財務基盤
そのためには、金融緩和や財政出動だけに
の安定等の課題です。今後は、これら課題の
頼らない、地方が元気を取り戻すための国の
解決を通じ、漁業者の所得向上と地域経済の
施策が不可欠であり、一次産業の活性化が優
活性化に、より一層貢献しうる栽培漁業を目
先されるべきです。とりわけ漁業にあって
指して着実に歩みを進めて参りたいと存じま
は、各海域の特性に応じた生産振興策の拡充
す。
が図られなければなりません。
こ う し た 情 況 の 中、 各 地 域 の 漁 業 者 の
振返りますと、昆布は生産量が回復基調に
方々、関係市町村、水試など各研究機関、普
あるものの、秋サケの来遊に異変が見られた
及指導所の皆様におかれましては、栽培漁業
り、ブリやサバが増大しているなど、海域に
の推進に格別なるご理解とご協力を頂いてお
よっては海洋環境の変動等に伴う生産の振れ
ります。改めて深く感謝致しますと共に、本
幅が大きくなっています。こうした現状を踏
年も変わらぬご指導ご鞭撻を賜りますよう、
まえつつ、沿岸の資源を大切に育て、次の世
切にお願い申し上げます。
代へ繋いでいくことも、今を生きる世代とし
ての重大な責務の一つです。
末尾となりましたが、皆様のご健勝とご多
幸を、併せて全道の浜の安全操業と大漁を心
からご祈念申し上げ、新年のご挨拶とさせて
頂きます。
2
西暦 2015年
栽培公社発
アクアカルチャーロード
魚類の生息環境に対する
重要な水質項目について
はじめに
(2)SS(懸濁物質)
難しくなるなどの影響が生じます。
魚類は、一般に、化学的に不活
水産用水基準では、pH 値を6.7
魚類の主要な生息環境である河
性な濁りに対してはかなりの耐性
〜7.5の範囲とし、急激な変化が
川の生態系は、水質を基礎として
を有しており、短期的にはその生
ないこととしています。
成立しています。ここでは、代表
存にとって直接的な影響が及ぶこ
的な水質項目を取り上げて、その
とは少ないと考えられます。しか
特性や水質基準などについてまと
し、生存可能な限界値よりかなり
生命の基本となる生化学的反応
めました。
低い濃度であっても、魚類は濁水
は温度に規定されます。魚類は変
に対して忌避行動を示すこともあ
温動物であり、体温が環境の温度
り、その生育への影響が考えら
とともに変化します。したがっ
生息環境の状態を知る上で重
れ、十分注意が必要となります。
て、水温の影響を強く受けること
要な項目として DO、懸濁物質、
水産用水基準では、SS で25mg/
になります。一般に、魚にとって
pH、水温、BOD の基礎的な水質
L 以下、特に人為的に加えられる懸
水温2度の変化は人間にとっての
項目が上げられます。
濁物質は5mg/L 以下とされていま
10度の変化に相当するとされて
す。
います。
基礎的な水質項目
それぞれの水質項目の特性と水
(4)水温
質基準を以下に述べます。
道内河川の代表的な魚種である
(3)pH
(1)
DO
(溶存酸素)
サクラマスの適水温域は、下表
pH は、水中に溶けている水素
(水産生物適水温図)に示したと
酸素は、生物にとって、基礎的
イオン濃度の逆数の常用対数で
おり、遡上期で9〜16℃、産卵期
代謝(生物が生存していくために
あり、酸性とアルカリ性の指標と
で11〜18℃とされています。
必要な生体内でおきているエネル
して使われています。値は0から
水産用水基準では「水産生物に
ギー代謝)を司る重要な項目で
14までであり、pH 7が中性で、こ
悪影響を及ぼすほどの水温の変化
す。溶存酸素が少なくなると魚は
れより値が高いとアルカリ性にな
がないこと。
」とされており、前述
空気中の酸素を利用するために
り、低いと酸性になります。アル
した水産生物適水温図などにより、
“鼻上げ” をはじめます。魚類の種
カリ性が強くなったり、酸性が強
魚種毎に検討する必要があります。
類によって耐性の違いはあります
くなったりすると、魚類の呼吸が
が、溶存酸素がなくなると、生息
し続けることができません。
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水産用水基準1)では、6mg/
います。また、魚類が生理的変化
を引き起こす臨界濃度は3.0mL/
L とされています。
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(5)
BOD
(生物化学的酵素消費量)
4
溶存酸素量(DO)で表します。
だし、サケ・マス・アユを対象と
汚れている河川は、一般に、有
河川の有機物汚濁が進むと、BOD
する場合は3mg/L 以下であるこ
機物が多くなっています。有機物
は大きくなり溶存酸素の消費も進
と。とされています。
は家庭の雑排水等河川の流入水に
み、生息する魚類への影響が生じ
含まれています。BOD は、この
る恐れがあります。
湖 沼 や 海 域 で は、 一 般に、有
機物の汚濁の状態を表すのに、
河川の有機物の量の表す代表的な
水産用水基準では、①自然繁殖
COD(化学的酵素消費量)を用い
数値であり、溶存酸素が存在する
の条件として、3mg/L 以下であ
ます。COD は、水中の有機物を
状態で、水中の微生物が、この有
ること。ただし、サケ・マス・ア
酸化剤で化学的に分解する際に消
機物を分解する際の増殖呼吸作用
ユを対象とする場合は2mg/L 以
費される酸素の量で表されます。
によって消費する酸素の量で、通
下であること。②生育の条件とし
常は、20℃、5日間で消費される
て、5mg/L 以 下 で あ る こ と。 た
アクアカルチャーロード
それらによる水質汚染の有力な指
制限する要因となっていることが
標となります。アンモニウム態窒
多いとされています。このためリ
湖沼、内湾や流れの緩やかな河
素は、やがて酸化して亜硝酸態窒
ン酸態リンの多量の流入が湖や海
川などのように、水の出入りや交
素や硝酸態窒素に変化していきま
でプランクトンを大増殖させ、赤
換が少ない地形的に閉鎖された水
すが、深い井戸などでは、逆に硝
潮やアオコと呼ばれる現象を引き
域において、藻類その他の水生植
酸態窒素の還元によってアンモニ
起こす原因になることが多いとさ
物が増殖するための必要な各種元
ウム態窒素が生じることもありま
れています。
素である栄養塩類(主に窒素、り
す。アンモニウムイオンが検出さ
ん)が増加すると富栄養化となり
れることは比較的新しい汚染の可
ます。栄養塩類の増加は生活排水
能性があり、それ自体の毒性も
水産用水基準では、河川には窒
や産業排水の流入などが想定され
懸念されます(水産用水基準:
素・リンの基準は設定されていま
ます。富栄養化の状態が継続し大
0.01mg/L)。
せんが、湖沼・海域には設定され
栄養塩類
(3)栄養塩類の管理
量の藻類が発生すると、その藻類
亜硝酸態窒素は、主にアンモニ
ています。これらの基準を参考に
の死骸が沈殿・堆積し、それが分
ウム態窒素の酸化によって生じ、
して管理してく必要があります。
解されるときに酸素を消費するの
水中では亜硝酸イオンとして存在
また、河川は山と海を繋げる役
で底層水の溶存酸素が欠乏するこ
していますが、きわめて不安定な
目を担っており、栄養塩類につい
とがあります。更には、生息する
物質で、好気的環境では硝酸態窒
ては、富栄養化の原因ではある
魚類への影響が生じることもあり
素に、嫌気的環境ではアンモニウ
が、動植物の生存に欠かせないも
ます。しかし、これらの栄養塩類
ム態窒素に速やかに変化します。
のでもあります。良好な循環が図
は富栄養化の原因となりますが、
硝酸態窒素は、水中では硝酸イ
られることも視野にいれて管理す
動植物の増殖に欠かせない元素で
オンとして存在しています。種々
ることが今後の課題と考えます。
もあります。
の窒素化合物が酸化されて生じた
栄養塩類である全窒素(T-N)
最終生成物です。
魚類の生息環境としての水質基
及び全リン(T-P)について以下
に述べます。
(2)全リン(T-P)
全リンは、無機態リンと有機態
(1)
全窒素
(T-N)
おわりに
リンに分けられます。
全窒素は、無機態窒素と有機態
無機態リン(リン酸態リン)は水
窒素に分けられます。さらに無
中で、リン酸イオン(PO43-)と
機態窒素はアンモニウム態窒素
して存在するリンであり、pH によ
(NH4- N)
、亜硝酸態窒素(NO2
り PO43-、HPO42-、H2PO4
- N)
、硝酸態窒素(NO3- N)に
-、H3PO4などの形になります。
準の適用に当たっては、対象魚種
により、耐性の違いがあることも
あり、環境基準や現況の水質など
も考慮して適用していくことが望
まれます。
(環境技術部 部長 川村敏勝)
(引用文献)
窒素と同様、栄養塩として藻類
1)水産用水基準 7版(2012年
に吸収利用されるため富栄養化現
版)[(社)日本水産資源保護協
アンモニウム塩として含まれてい
象の直接的な原因物質となります。
会(平成25年1月)]
る窒素のことです。アンモニウム
リン酸態リンは、他の栄養塩元
2)水産生物適水温図[(社)日本
態窒素は、主に、し尿や家庭排水
素に比べて天然水における存在量
水産資源保護協会(昭和55年
及び産業排水に起因するもので、
が低いため、生物活動そのものを
10月)]
分けられます。
アンモニウム態窒素は、水中に
5
ニシンがつなぐ地域の夢
〜放流試験の一翼を担って〜
岩内郡漁協青年部
道の日本海ニシン資源増大プロ
イカ釣り漁業に携わっています。
ジェクトは開始から18年が経過
平成21年、青年部長に就任した
しました。その間、積丹以北の海
中村正紀さんが、浜の将来を見据
域で群来が見られるようになるな
えて青年部活動を活性化させる方
ど石狩湾系群のニシン資源は徐々
針を打ち出したことを契機に、青
に回復の兆しを見せており、ニシ
年部が主体となってニシンの調査
ン漁は日本海の冬の漁業を支える
に取り組むようになり、現在、ヒ
主力漁業へと成長しつつあります。
ラメ、マゾイ、サクラマス、サケ
この成功を受け、岩内町をはじ
などの種苗放流にも参画し、資源
錯誤の連続でした。
「自分達はも
増大に努めています。
ちろん親の世代もニシン漁に携わ
めとする近隣の漁協および町村が
「後志南部地域ニシン資源対策協
平成20年に始まったニシン種苗
った経験がありませんので、水産
議会」を設立し、積丹以南海域で
の放流は、岩内港北側にある堀株
試験場からアドバイスをもらいな
のニシン増殖事業実施に向け要請
川河口付近から、当初3年間が30
がら技術を改良していきました。
活動を続けた結果、平成20年、積
万尾、平成23年以降は40万尾の規
魚の泳ぎ方や回遊経路も全く解り
丹以南の海域でも石狩湾系ニシン
模で行われており、岩内郡漁協青
ませんので、網の角度や向きなど
の人工種苗放流事業が開始されま
年部は、その放流効果を計るため
を工夫しながら調査捕獲の形を作
した。それに伴い放流効果の調査
の調査事業に協力しています。そ
り上げていきました」と中村部長
計画が立てられたことから協議会
れが2月から4月の間に計5回行
は振り返ります。調査開始から5
は、岩内郡漁協青年部に協力を依
う刺網による天然および放流魚の
年が経った昨年、ようやくニシン
頼。それをきっかけに同漁協の青
回帰調査と、5月から6月の間に同
の通り道の傾向がつかめてきたそ
年部員は未知の魚種の調査に乗り
じく5回実施する地曳網による放
うです。
出すことになりました。
流魚の摂餌・害敵調査および餌環
境を調べるプランクトン調査です。
岩内郡漁協青年部は現在8名。
部員は主に定置網漁と底建網漁、
刺網による親魚採補調査
青年部が協力した地曳網調査で
大きな成果がありました。積丹半
島以南では産卵していないとされ
青年部が担う放流・調査事業
6
大きな成果が出た地曳網調査の様子
岩内沿岸でニシンが産卵
ていた石狩湾系群のニシンが岩内
沿岸で産卵している傾向が見られ
「祖父の世代ですら姿を見たこ
たことに加え、石狩湾系群とは別
とがない岩内のニシンはまさに
系群の天然ニシンの稚魚が見つか
『幻の魚』でした」と中村部長は言
ったのです。「岩内町沿岸は管内
います。資料として岩内町でまと
他地区と同様に磯焼けが深刻です
まったニシンのまとまった漁獲が
が、どこかに産卵可能な場所があ
記載されているのは昭和6年が最
り、そこでニシンが産卵行動をと
後(伊勢諭至指導員による)
。全く
っているのかもしれません」と伊
の未経験からのスタートとなった
勢指導員は言います。放流魚以外
青年部の調査活動は、まさに試行
の系群が見つかったことから固有
種が存在する可能性もあり、今後
は望めない」と資源管理の重要性
の調査研究の結果が待ち望まれて
を強く認識しています。
います。
冬の岩内は時化が多く、時には
幻のニシンを夢の魚へ
1ヶ月にわたり沖に出られないこ
「一度は消滅したニシンという
ともあります。そこで調査に求め
資源を自分たちの手で復活させ、
られるのが網を刺すタイミングの
見極めです。
「近年では岩内にも
石狩湾系群以外のニシン稚魚が見つか
った地曳網調査
冬場の仕事としてニシン漁を成立
させることが最終的な目標であり
トドやアザラシが来ており、刺網
の破損や食害の被害も出ていま
調査に限界がありますので、いろ
夢」という8名の岩内郡漁協青年
す。そのために網を留め置きでき
いろな場所に網を刺せればもっと
部員。人手は足りないのは事実と
ないので、調査の際は網を揚げる
深い調査ができるという思いがあ
しながらも中村部長は、この人
タイミングまで考えなければなり
ります」と青年部員は口を揃えま
数・このメンバーだったから全員
ません」と中村部長は調査の難し
す。少しずつ成果は見えてきたも
が同じ方向を向いて調査事業に取
さの一面を語ってくれました。
のの、経験値と実証データはまだ
り組むことができていると話しま
まだ不足しています。結果が判ら
す。「結束力は他のどこにも負け
ないからこそ、港内の多くの場所
ません。このメンバーなら必ず岩
で可能な限りの調査をしたいと考
内にニシンを甦らせることができ
えていますが、その実現には高い
ると信じています」と胸を張りま
壁が立ちはだかっています。
す。今後の課題は「継続」と「産
冬場のニシン漁確立が目標
放流事業と調査事業に着手する
ことにより、岩内郡漁協青年部に
は10年程度の時間をかけてニシ
資源状況について中村部長は
卵基質」となる藻場の拡大です。
ン資源を地元に根付かせ、冬場の
「調査を継続しているうちに本当
藻場造成は青年部だけの力ででき
収入源にできる水準にまで育てる
に少しずつですが、ニシンが増え
るものではないことから、より大
という目標ができました。冬場は
ていることを実感しています」と
きな枠組みの中での事業展開が望
時化が多く、厳しい風雪にさらさ
現状を語ります。それでも岩内で
まれます。
れる岩内では春を迎えるまで、収
漁獲されるニシンはまだ年間でキ
「幻の魚」だったニシンを「夢の
入源となる沿岸漁業がありませ
ロ単位でしかなく、本格的な資源
魚」にするために岩内郡漁協青年
ん。そのため青年部ではニシン資
回復を果たすためには今後の放流
部は、未来を見据え、持続可能な
源の回復実現に向け、今以上に掘
事業の継続と親魚保護が非常に重
漁業を実現するための取り組みを
り下げた調査をしたいという強い
要となります。青年部員は皆、
今後も継続していきます。
意向を持っていますが、調査は本
「岩内のニ
業の合間のわずかな時間で行わな
シンは復活
ければならないこと、港内の航路
への一歩を
や船の停泊場に網を刺せないなど
ようやく踏
多くの制約があります。調査環境
み出したば
は決して整っているわけではあり
かり。目の
ません。
「網が刺せない埠頭付近
前の魚はな
の場所では遊漁者がかなりの数の
んでも獲る
ニシンを釣っているという話も聞
ような漁業
いています。ニシンが来る2月か
では、将来
ら3月は、時化の影響で外海での
の資源回復
「ニシン復活を必ず実現する」結束力抜群の岩内郡漁協青年部
(前列左=中村正紀部長)
7
栽培漁業技術情報
マナマコの資源管理における ICT 技術の活用
留萌管内にある新星マリン漁業協同組合の留
す。つまり、このシステムを導入することで、
萌地区では、全てのなまこ漁業者がタブレット
漁業者自らが調査して、資源評価を行い、資源
端末の iPad(Apple 社製)を活用して、自主
管理に取り組めるようになります。
的な資源管理を行っています。この取り組みに
このシステムを使った資源管理は単純です。
より、留萌地区のマナマコの資源量は V 字回
このシステムでは精度の高い資源量が推定でき
復しました。資源量が回復した背景には、漁業
るので、前年の漁期終了時の獲り残し量(漁期
者間で資源管理の自主的なルールを決めること
始めの資源量-漁獲量)のデータがあれば、漁
が進んだことと、その合意形成を支援したシス
期始めの1〜2週間以内に計算される資源量と
テムの存在があります。このシステムは、北海
比べることで、前年の漁期が終わってから次の
道マナマコ資源管理技術開発共同研究機関(代
漁期が始まるまでに自然に増えた量が漁期中に
表:北海道立総合研究機構)が農林水産省農林
わかります。これはマナマコ資源が加入や成長
水産技術会議の委託を受けて平成23-25年度
で増えた量であり、銀行の貯金で例えると利子
にかけて開発した「マナマコ資源管理支援シス
に相当します。そこで、この増えた量を超えな
テム」です。全てのなまこけた曳き網漁船に、
いように漁獲すれば資源が減ることはありませ
iPad のデジタル操業日誌と GPS データを送信
ん。この情報はシステムを通じて、漁期中に漁
するマイクロキューブを搭載し、漁業者は網を
業者へ配信されますので、資源が自然に増えた
曳くたびに曳網開始時刻と終了時刻、その漁獲
量を超えないように調整しながらマナマコを漁
量をデジタル操業日誌に入力します。入力した
獲することができます。実際に留萌地区では、
データと GPS データは、携帯電話回線を通じ
資源状況を確認しながら漁期を早めに切り上げ
てサーバに自動的に送信されます。そして、サ
ることで、獲りすぎを回避して資源を着実に増
ーバが自動的にマナマコの資源量を計算して漁
やしていくことができました。マナマコの資源
業者に配信します(図1)。これにより、漁業者
管理では資源が自然に増えた量に見合った漁獲
は漁期中に今現在の資源量を知ることができま
を続けることが最も大切です。それを客観的な
データをもとに支援するのが、このシ
ステムです。なお、このシステムやマ
ナマコの資源管理については、
「北海
道マナマコ資源管理ガイドライン」に
詳しい内容をまとめました。稚内水産
試験場のホームページ(http://www.
fishexp.hro.or.jp/cont/wakkanai/
inpvt40000001d2w.html)で 公 開
していますので、ご参考にしてください。
稔)
(稚内水産試験場 調査研究部 佐野
図1 マナマコの資源管理支援システムの概要
8
表紙写真提供 道総研稚内水試 佐野主査
留萌地区水産指導所 留萌南部支所