共創・共育・共感 尾鷲市教育長だより 2015.6.19.(金) 第130号 学 力 向 上 の 風 土 づ く り ~効果のある学校~ かつて、1950年代から60年代の半ばにかけて、年によって受験した 児童生徒や教科は異なりますが、小・中・高校生を対象にした昭和の全国学 力 テ ス ト が 実 施 さ れ た 経 緯 が あ り ましす 。特に1960年から64年にかけて つ かい は 、 中 学 校 に お い て 現 在 と 同 様 の 「 悉 皆 調 査 」( 全 員 が 受 け る 調 査 ) が 実 施 さ れました。その背景には、戦後の教育改革により子どもたちの学力が低下し たのではないかという危機意識があったのです。 それから、40数年の後に、平成の全国学力・学習状況調査が実施される ことになりました。1回目は2007年5月に実施され、12月初旬に結果 が公表されました。毎回の調査結果については、国の研究機関や全国の教育 研究者によってさまざまな角度から分析され、調査研究が進められています。 多くの調査研究の中で、いくつか目に止まった研究があります。その一つ に大阪大学志水宏吉教授の「階層差を克服する学校効果―『効果のある学校』 論からの分析」という論文があります。 『効果のある学校』という言葉は、日本ではまだ一般的ではありませんが、 ア メ リ カ や イ ギ リ ス で は “ effective school” の 名 で 、 も う す で に 1970年 代から研究が進んでいます。 『効果のある学校』というのは、 “子どもの環境的要因のいかんにかかわらず、 学校の教育力が子どもの学力形成に効果を上げている学校” と 定 義 さ れ て い ま す 。( 環 境 的 要 因 … 収 入 ・ 学 歴 ・ 通 塾 等 の 社 会 経 済 的 状 況 ) 志水教授は、独自に行った学力テストのデータを欧米の『効果のある学校』 論に基づいて分析し、環境的要因を克服する学校の教育力を解明しています。 ま ず 、 調 査 対 象 校 ( 7 県 42 校 ) の 社 会 経 済 的 状 況 の 指 標 と し て 、 ① 家 庭 の 収 入 ( 500 万 円 以 上 / 500万 円 未 満 )、 ② 保 護 者 の 学 歴 ( 大 卒 / 非 大 卒 )、 ③ 通塾の有無(通塾/非通塾) という6つの区分をつくり、6つの区分におけるテストの通過率(得点)を 調べました。そして、すべての区分で6割を超える学校を『効果のある学校』 と設定しました。 次に、保護者の収入や学歴が高く、通塾のさかんな学校を「学校背景Ⅰ」 とし、そうでない学校を「学校背景Ⅲ」とし、その中間を「学校背景Ⅱ」に 分 け 、「 学 校 背 景 Ⅰ ・ Ⅱ ・ Ⅲ 」 ご と に 、 上 記 の 『 効 果 の あ る 学 校 』 が ど れ だ け 出現するかを調べました。 そ の 結 果 、「 学 校 背 景 Ⅰ 」 に お け る 『 効 果 の あ る 学 校 』 の 出 現 率 は 30.8% 、 「 学 校 背 景 Ⅱ 」 は 2 5 . 0 % 、「 学 校 背 景 Ⅲ 」 は 3 8 . 5 % と な り ま し た 。 こ の 数 字 は「学校背景と『効果のある学校』の出現率との関連は、ほぼ見られない」 と い う こ と を 示 し て い ま す 。「 学 校 背 景 Ⅲ 」 で あ っ て も 、『 効 果 の あ る 学 校 』 であることは、学校の教育力の成果を示すものとみていいということです。 志水教授の研究で注目されることは、全国学力・学習状況調査でいい結果 を お さ め て い る 県 は 、「 学 校 背 景 Ⅲ 」 で も 『 効 果 の あ る 学 校 』 の 出 現 率 が 高 い ということが明らかになったということです。格差問題は都市部で特に深刻 ですが、全国学力・学習状況調査の結果のいい県は、環境的要因に関係なく、 家庭・地域と連携した「学力形成力のある学校」が多いということです。 これを子ども対象のアンケートと照らし合わせてみると、 『効果のある学校』 には、次のような特徴がみられるというのです。 ( 1) ( 2) ( 3) ( 4) ( 5) 家庭での学習習慣が身についている。 よく本を読む。勉強する時間を自分で決めて実行している。 教師と子どもの関係づくりが良好である。 対人関係で自信をもっている。 学校の勉強に積極的である。 こうした「風土」をもつ学校の学力が高いことは、学校関係者であれば誰 もが経験的に知っていることです。しかし、問題は、こうした風土をどう創 り出していくかです。 学校背景(校区の社会経済的状況)とは関係なく、子どもの学力を高める ことに成功している学校が多くあるという調査結果やこれまでの経験をもと にして、尾鷲市が目指す『効果のある学校』像を描いてみました。 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ 学校の目標を家庭や地域と共有し、実現に取り組む学校 子どもに居場所や出番があり、どの子も一人ぽっちにさせない学校 聴き合う関係を大切にし、支え合い学び合う学校 つながりを大切にし、安心感や励ましのある学校 子どものために!と気持ちをそろえてチーム力を発揮する学校 先ず動く!という一貫した実践志向のある積極的な学校 家 庭 、 地 域 の 皆 様 の お 力 添 え も い た だ き 、『 効 果 の あ る 学 校 』 の 実 現 を 目 指 し て 、「 す べ て は 子 ど も た ち の た め に ! 」 と い う 思 い を 共 有 し 、「 ど の 子 も 一 人ぽっちにさせない!」と心を一つにして取り組んでまいりたいと思います。
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