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日消外会誌 2 1 ( 8 ) : 2 1 4 4 ∼ 2 1 4 7 , 1 9 8 8 年
超音波内視鏡検査 が術前診断 に有用 で あ った
胃平滑筋芽細胞腫 の 1例
尾鷲総合病院外科
中井 昌 弘
佐
々木 英 人
池
田 弘 徳
広固
河
村 勝 弘
田
辺 賀 啓
有
下
村
誠
A CASE OF LE10MYOBLASTOMA OF THE STOMACH DIAGNOSED WITH
ENDOSCOPIC ULTRASONOGRAPHY BEFORE OPERATION
Masahiro NAKAI,Hideto SASAKI,Hironori IKEDA,
MakOtO SIMoMURA,Tamotsu HIROTA,KatsuhirO KAWAMURA
and YoshihirO TANABE
Department of Surge呼,Owase General HOspital
索引用語 i胃粘膜下腫易超音波内視鏡診断, 胃筋原性腫瘍超音波内視鏡診断, 胃平滑筋茅細胞腫
I . は じめ に
部
胃粘膜下腫瘍 の診断 は, 消 化管造影 や内視 鏡検 査 の
進歩, 普 及 に よ り容 易 とな ってはい る1 ) が
, そ の発生母
地や質的診断 につ いてはい まだ十 分 で あ る とはい えな
い。 一 方, 近 年 開発 された超音波 内視鏡検査 は粘膜 下
の情報 を非侵妻性 に得 られ る唯 一 の方法 で あ り, 最 近
粘膜下腫瘍 に対 す る有 用性 につ いての報告 2 ド的が 散 見
され るよ うになって きた。今 回われわれ は超音波 内視
鏡検査 が術前診 断に有用 で あ った 胃平滑筋芽細 胞腫 の
では右下腹部 に手術創疲痕 を認 め る以 外平坦 で圧痛
は
入
よ
上
な く, 腫 瘤 は触知 しなか った。
院時検査成績 ! 血 液 一 般検査,
血 液生化学検査 お
び腫瘍 マ ー カ ーでは異常を認 めなか った。
部 消化管造影 : 背 臥位 2 重 造影 で 胃体部小弯やや
壁 よ りに, 中 心 に浅 い陥凹を伴 う表 面平滑 な隆 起性
変 を認 めた ( 図 1 ) .
後
病
胃
内視鏡検査 : 冒 体部後壁 に, 中 心 に浅 い陥凹 を伴
い
, 立 ち上 が りの滑 らか な半球 状 の隆起性病変 を認め,
1 例 を経験 したので, 胃 粘膜下腫瘍 に対す る超 音波 内 そ
視鏡検査 の有用性 につ いて考察 を加 え報告す る.
1).
H.症
例
の表 面 は周 囲 とほぼ 同 じ粘 膜 で 被 わ れ て い た ( 図
症例 174歳 ,女 性.
主訴 :心 富部痛.
家族歴 :特 記す べ き こ とな し.
既往歴 :54歳 ,虫 垂切 除術.
現病歴 :入 院 1カ 月前 よ り心 笛部痛 が 出現 したため
胃超音波内視鏡検査 :オ リンパ ス ・ア ロカ社製 の ラ
ジアル走査式超音波 内視鏡 4号 機 (GA‐UM2:周 波数
10MHz)を 用 いて,病 変部 の描 出を行 った 。第 4層 の
固有筋層 に連続 した3×2.5cmの 腫 瘍 が 内陸 に 向 か っ
て突 出 し,内 部構造 は大小不 同 の 3個 の結節 を認め,
かつ それぞれの結 節 は不 均 一 な高 エ コー像 と低 エ コー
近 医を受診.上 部 消化管造影 お よび 胃内視鏡検査 にて
像 が混在 していた (図 2)。
胃粘膜下腫場 を指摘 され ,当 科 へ 手術 を 目的 として入
院す る,
以上 の所見 に よ り,筋 原性 の 胃粘膜下腫瘍 と くに平
滑筋芽細胞腫 と診断 し,R2リ ンパ 節郭清 を伴 う胃亜全
入院時 現症 :栄 養状態 は良好 で,表 在 リンパ節 は触
知せず ,眼 険結膜 には貧血 は な く,眼 球強膜 には黄疸
を認 め なか った。胸部 では心肺 には異常 を認めず,腹
摘術 を施行 した.
<1988年 4月 13日受理>別 刷請求先 !中井 昌 弘
〒51936 尾 鷲市上野町 5-25 尾 鷲総合病院外科
切除標 本 :胃 体 中部後 壁 に大 きさ3.0×2.5X2.Ocm
で,表 面 は粘膜 で被われ,中 心 に浅 い陥凹を伴 う半球
状 の粘膜 下腫瘍 を認 めた (図 3).害 」
面 では,腫 瘍 は超
音波 内視鏡像 と同様 に粘膜下 に大小不 同 の 3個 の結節
か らな り,不 均 一 な黄 白色を呈 して いた (図 4)。
83(2145)
1988年 8月
図 1 上 部消化管造影および胃内視鏡検査. 胃 体中部後壁 に中心 に浅い陥凹を伴 う隆
起性病変を認める。
図 2 胃 超音波内視鏡検査.第 4層 に連続 した有茎性腫瘤 が 内控 に向か って突出 し,
内部 に大小不 同の 3個 の結節を認め,そ れぞれ高 エ コー像 と低 エ コー像 が混在 して
ヽヽ
る。
ヽ
ミ
\ヽ
ヽ
紡錘形 を示 し, 細 胞質 は好酸性 で核 は偏在 してお り,
、
ヽ 内腔 に突 出 した周囲組 織 と境界 明瞭 な結節状 の腫瘍 を
認 めた ( 図 5 ) 。 強拡大 では, 腫 瘍細胞 は 円形 あ るいは
一
″/
″
病理組織所見 : ル ーペ像 では 固有筋層 か ら連続 して
生 した 胃平滑筋茅細胞腫 と診断 され ,術 前診断 と一 致
していた。
術後経過 !経 過 は良好 で,術 後 4カ 月 日の現在再発
の兆 しな く健在 であ る。
核周 囲 に透 明体 を有 してい るもの もあ ったが, 分 裂像
はほ とん ど認 め なか った( 図 6 ) 。 なお, リンパ 節転移
IH.考
察
のに よ り
胃 平 滑 筋 芽 細 胞 腫 は 1 9 6 0 年M a r t i n ら
は認 めて いない。以上 の所見 に よ り, 固 有筋層 よ り発
i n t r a m u r a l m y o i d t u m o rして報
と 告 され, 1 9 6 2 年
超音波内視鏡検査 が術前診断に有用であ った 胃平滑筋茅細胞腫 の 1例 日 消外会誌 21巻
84(2146)
図 3 切 除標本. 胃 体中部後壁 に径3 0 × 2 5 × 2 0 c m
の粘膜下腫易 を認め る.
会
8号
図 6 病 理組織像.腫 易細胞 は 円形 あ るいは紡錘形 を
示 し,細 胞質 は好酸性で核 は偏在 している.核 分裂
像 はほ とん ど認めない。
恐 10
図 4 切 除標本, 割 面所見. 腫 瘍 内に大小不同の不均
一 な 3 個 の結節 を認め る.
図 7 胃 壁 5 層 構造 と病変の局在診断 ( 文献 4 よ り引
用)
1 . 正 常 胃壁
,.)lun r
ぺi営
挙E
5 頻 険 府
3 . 粘 膜 下 腫 蕩 ( 粘膜 下 層 )
4 . 粘 膜 下 腫 瘍 ( 筋層 )
図 5 病 理組織像,ル ーペ像.固 有筋層 か ら有茎性に
内腔 に突出 した腫瘍 を認め る.
5.外 圧 迫
しえた症例 は209all中
134/1(6.2%)に す ぎな い。す な
を ち従来 の上 部消化管造影や 胃内視鏡検査 では粘膜下
腫瘍 と診断 されて も,そ の性状 の診 断 までは不 可能で
あ った。 そ こで 胃粘膜下腫瘍 の質的診 断 に対す るアプ
ローチをみ る と,過 去 の症例 では潰瘍底 か らの生検 や
ポ リペ ク トミーに よ る腫 瘍 組 織 の 採 取 が 試 み られ た
が,最 近 では腫場 を被 ってい る粘 膜 に対 して高周波凝
固や粘膜切除 あ るいは エ タノール局所注入 に よる人工
Stoutの
に よ りl e i o m y O b l a s t o m a と
命 名 され た 腫 瘍 で
あ る。また 本邦 で は1 9 6 4 年吉 田めの報告以来, 1 9 8 6 年末
潰瘍作成後生検 な どの工夫が され てい る。 しか し, こ
れ らの手技 も,1)生 検部位 の不 良,2)採 取切片 の量
まで に2 0 9 4 / 1が
り集計 されてい るが, 術 前 に本症 と診断
的不足,3)生 検材料 に よる質的診 断の困難性 な どの理
1988年 8月
85(2147)
表 1 超 音波 内視鏡 に よる胃筋原性腫場 の鑑別診断
平滑筋腫および平浩筋肉腫
平滑筋芽細胞腫
第 4 層 と連続性の認められ る, 境 界明瞭 な低 エ コー レ
ベルの腫場像. 良 悪 の判定 は今後の課題.
第 2 層 お よび第 4 層 と連続性を示 し, 筋 層 とはぼ同 じ
レベルの低 エ コー像. 4 c m 未 満では均一 な内部 エコー,
4 c m 以 上では嚢胞性変化や不整高 エ ヨー変化を認め,
腫瘍形態や内部 エ コー像 のみか ら術前に鑑別す ること
は困難である
第 4 層 と連続す る腫場像, 内 部 エ コーは固有筋層 と同
じかやや高 く, 内 部 エコーの不均一や腫瘍辺縁の凹凸
不整などは大 きい ものに認め られる傾向があ り, 良 悪
と必ず しも相関 しない
第 4 層 に連続 した内部構造不均一 な
高エ ヨー像 と低 エコー像 の混在
由 に よ りその診断率 は必ず しも高 くな く,ま た合 併症
術 前 診 断 が 可能 に な る もの と思 わ れ た 。
と して の 出血 や 穿孔 の 危 険 性 を拭 い 去 る こ とが で き
IV.結
語
ず,一 般的 な手技 とはな っていないのが現状 で あ る。
一 方,超 音波 内視鏡検査 は,1)非 侵襲性 の安全 な検査
平 滑 筋 芽 細 胞 腫 の 1例 を経 験 した の で ,胃 粘 膜 下 腫 瘍
法であ り,2)腫 瘍全形 のす ぐれた描 出能 を持 ち,3)消
に 対 す る超 音 波 内視 鏡 検 査 の 有 用 性 に つ いて 考 察 を加
化管 の 5層 構造 か ら壁 内 の局在診 断 (図 7)す なわ ち
発 生母地 の指摘 が可能 で,4)そ の 内部 エ コー像 か ら組
え報 告 した 。
織診断 も可能であ る。本症例 の ご とく第 4層 に連続 し
において発表 した。
た腫瘍 像 を認めた場合 ,固 有筋層原発 の筋原性腫瘍 が
最 も疑われ る。 さらに 胃筋原性腫瘍 の超音波内視鏡検
査 に よる鑑別診断を報告例 (表 1)よ り検討す る と,
平滑筋腫 お よび平滑筋 肉腫 では,第 2あ るいは 4層 に
連続 し,筋 層 とほぼ 同 じエ コー レベル の 内部 エ コーを
有 し,4cm未 満 の小 さい ものは均 一 で ,4cm以 上 の大
きい ものは嚢胞 性変化 や不 整高 エ コー像 を有す る不均
一 な像 にな るのに対 し
,平 滑筋芽細胞腫 で は報 告例 10)
が まだ l Trllに
す ぎな いが 内部構造不均 一 な高 エ コー像
と低 エ コー像 の混在 を認 め る。本例 では,最大径 が3cm
と4cm未 満 で,結 節状 で,か つ それぞれ の結節 の 内部
に高 エ コー像 と低 エ コー像 が混在 していたため,平 滑
筋芽細胞腫 と診断 し手術 を施行 した ところ,術 後 の病
理組織診 断 と一 致 して いた 。 胃粘膜下腫瘍 に対す る超
音波 内視鏡検査 は まだ報 告例 が少 な く,現 時点 では平
滑筋腫 と平滑筋 肉腫 の鑑別 な どは困難 でいまだ 問題 点
も多 いが,今 後症例 の蓄積 に伴 い粘膜下腫瘍 の画像診
断法 として さらに高 い評価 を得 る もの と考 え られ る。
また ,将 来,超 音波 内視鏡機器 の開発 に よ り超 音波 内
視鏡映像下 に腫瘍 生検 を行 えば,出 血や 穿孔 な どの合
併症 もな く,病 理組織診 断が容易 とな り, よ り確実 な
超 音 波 内視鏡 検 査 に よ り術 前 診 断 が 可 能 で あ った 胃
なお,本 論文 の要 旨は第223回東海外科学会総会 (浜松)
文 献
1)信 田重光,黒沢孝夫,滝 田照二 ほか !胃 粘膜下腫瘍
の診断。 日臨 22 i l13-124,1967
2)野 口隆義,相部 剛 ,秋 山哲司ほか !超 音波内視鏡
に よ る 上 部 消 化 管 粘 膜 下 腫 瘍 の 検 討. G a s ‐
troenterol Endosc 28!69--77, 1986
3 ) 安 田健治朗, 清 田啓介, 向井秀 一 ほか : 内 視鏡超音
波断層法 ( E U S ) に よる上部 消化管粘膜下腫瘍 の診
断. Cattroenterol Endosc 28:685-691, 1986
4 ) 渡 辺洋伸, 山中恒夫, 吉 田行雄 ほか i 腹 部 エ コーの
みかた, 上 部消化管粘膜下腫瘍. M e d P r a c t 3 !
1868--1874, 1986
5)光 永 篤 :超 音波内視鏡 による上部消化管 粘膜下
腫瘍 の診断.Gastroenterol Endosc 29 i 3-15,
1987
6)Martin JF,Bazin P,Fereldie J et al: Tumerus
myoides intra、inurales de l'estomac:Consider‐
ation microsecopiques a propos de 6 cas. Ann
Anat Patho1 5:484-497, 1960
7)Stout AP i Bizarre smooth muscle tumors of
the stOmach.Cancer 15:400--409, 1962
8)吉 田 明 ,小針頼晴,渡辺庄造 :胃 平滑筋腫 と思わ
れた 1例 につ いて.日 医放線会誌 24:446,1964
9)大 高道郎,小松真史,島 仁 ほか :腹 控鏡検査 で
発見 され た 胃平 滑筋 芽細胞 腫 の 1例 一本邦報 告
の 文 献 的 考 察 ―. G a t t r o e n t e r o l E n d o s c
209例
281 2598--2603, 1986
10)福 家博史,佐藤兵衛,東山浩敬 ほか :胃 平滑筋芽細
胞 腫 の 2 例. G a s t r o e n t e r o l E n d o s c 2 9 , 1 0 9
114, 1987