経験的強震動評価への断層破壊効果導入の試み

S15-08180331-2175A
経験的強震動評価への断層破壊効果導入の試み
○
香川敬生(地域 地盤 環境 研究所)
Introducing fault rupture effects to empirical ground motion estimation.
Takao KAGAWA(Geo-Research Institute),
1.はじめに
複数の堆積盆地を跨ぐ広域の場合や,即時地震情報を用いて短時間で地震動分布
を推定する場合には,高精度だが多くの情報と大規模な計算を要する断層破壊を考
慮した波形合成法よりも,個別の地点に対しての精度は劣るものの少ない情報から
高速に平均的な地震動が把握できる,経験的評価法[例えば,司・翠川(1999)など]
に分のあるケースも少なくない。また,波形は望めずとも震度分布から経験的評価
法を介して歴史地震の断層破壊モデルを推定する試みもおこなわれている[神田・
他(2003)]。しかし,経験的強震動評価法では,断層破壊進行の影響が十分に反映
されておらず,想定される地震動分布が実地震による分布を十分に表現できている
とは言い難い。そこで,経験的強震動評価に断層面の広がりと非一様破壊を導入し
た等価震源距離[大野・他(1991)]を介して,断層破壊効果(ラディエーション・
パターン,フォーワード・ディレクティビティ)の導入を試みたので報告する。
2.検討方法
等価震源距離は式(1)のように表現され,大地震の断層面を走向(i),幅方向(j)
に矩形小断層に分割し,その震源距離の加重自乗調和平均となっている[大野・他
(1991)]
。この加重項 eij をアスペリティ部と背景領域の重みとする検討は行われて
いるが[神田・他(2003)など],今回これに断層破壊効果を新たに導入した(式(2))
。
eij
1
x eq
eij
=
∑R
4.おわりに
経験的強震動評価に断層破壊効果を導入する第1ステップとして,等価震源距離
の補正を提案した。より現実的な広域地震動分布の即時推定や,歴史地震の震源破
壊過程の推定などへの利用が期待される。ただし,ハイブリッド法などの詳細法に
よる地震動分布と対応するための各効果の表現法((2)式の具他的表現法)の検討
や,これらの効果を踏まえた距離減衰式の再構築(ばらつきの軽減)など,クリア
すべき課題は多い。
南
北
2km
18km
地表
2km
18km
★
40km
図-1 仮定した断層破壊シナリオ
図-2
横ずれによる Xeq(従来)
図-3 横ずれによる Xeq (提案)
図-4 逆断層による Xeq(提案)
2
ij
∑e
= f (M ) ⋅ f (θ
2
3.検討結果
入倉のレシピ[Irikura et al.(2004)]に沿って,図-1 に示す非一様断層破壊
モデルを想定した。総地震モーメントは 2.46×1019N・m(Mw6.9)
,アスペリティ部
の応力降下量は 14.1MPa である。この断層を鉛直横ずれと仮定して,等価震源距離
の分布を示したものが図-2 である。非一様破壊が反映され,単純な楕円分布には
なっていない。これに,提案する断層破壊効果を加えたものが図-3 であり,北側
への破壊伝播効果が現れている。また,同断層を傾斜 60 度の逆断層とした場合を
図-4 に示す。
(1)
ij
0 ij
ij
) ⋅ f (δ ij )
(2)
ラディエーション・パターン効果(θij)としては SH 波と SV 波の放射係数の2乗
和を与えた。また,フォーワード・ディレクティビティ効果(δij)としては,破
壊開始点からサイトへのベクトルと破壊開始点から要素断層へのベクトルのなす
角,および破壊開始点からサイトへのベクトルとすべり方向のベクトルのなす角の
それぞれ余弦を用いた。