こちら。

第9章
子どもからの卒業
自己理解の発達
年齢にかかわらず多いもの
•
•
•
•
知的関心
芸術活動
その他の活動
能力の意識
日々の活動に即した
より具体的な事柄
年齢と共に記述した者の割合が
減少
増加
国籍・地域
職業
もちもの・財産
存在(私は私、など)
身体的特徴
思想・信念
自己決定の意識
全体感覚
対人関係の様式
精神状態
外から見てすぐに分かる内容、
客観的に理解される内容
外から見えない
内面的・心理的な内容
一般に・・・
• 表面的・外見的→深層的・内面的
– 年齢と共に目に見えない内面的な内容をとらえる
ことができるようになり、より自己の中核的なとこ
ろをとらえた自己理解が進んでいく
• 自由回答形式の方法
– 個人の意識に何が上りやすいか?が現れる
– 自分自身をどうとらえるかという点でも変化が生
じているともいえる
年齢と共に記述した者の割合が
目で見たり,手で触ったりして
減少
増加
確かめることができない
国籍・地域
職業 経験をどのように
他者に尋ねてもわからない
自分の感覚,自分の理解に
もちもの・財産
存在(私は私、など)
理解していくか?
頼らざるを得ない事柄
という問題
身体的特徴
思想・信念
自己決定の意識
目で見たり,手で触ったりして
全体感覚
確かめることができる
対人関係の様式
他者に尋ねたりして
確認することができる
精神状態
外から見てすぐに分かる内容、
客観的に理解される内容
外から見えない
内面的・心理的な内容
4つの発達段階
• 「操作」(行為が内化されて表象されたもの)
の水準をもとに
• 「感覚運動期」(0~2歳頃)
• 「前操作期」(2~7歳頃)
• 「具体的操作期」(7~11歳頃)
• 「形式的操作期」(11~15歳頃)
感覚運動期(0~2歳)
• 運動と感覚を通した外界への働きかけ
• →反射から随意運動への発達
• 対象(もの)の永続性が獲得される
• →ものが急になくならない事が分かる
• =「表象」の機能の発達
• 象徴的な思考が可能になる
「感覚運動期」(0~2歳頃)
• 自己意識の成立
– 自己主張,拒否
• 自己表象~客体的自己の意識の成立
– 鏡像の自己認知の成立
• 言語による自己理解の始まり
• 自己評価的感情の成立
• 自己制御の始まり
– 感情制御など
前操作期(2~6歳)
• 自己中心的な直感的思考
–
–
–
–
自分の見えている世界が中心になる
転導推理が多用される
アニミズム的思考:無生物を生物として捉える
“全か無”の思考
• 単一の表象のみを扱う。
– 全体をとらえる視点はまだない。
• 保存の概念が不十分
– 見かけにまどわされる
– 一部の目立った特徴だけみてしまう
「前操作期」(2~7歳頃)
• 言葉による理解が進む
– カテゴリーを用いた自己語り
– 自己概念
– 全体的自己への理解はまだない
• 比較を用いた自己語り
他者との比較
基準との比較
異なる時間における自己との比較
→ただし,自己への評価は非現実的なまでにポジ
ティブ
– +転導推理,“全か無”の思考→万能感
–
–
–
–
早期~前期児童期(3‐4歳)
・全体的自己の理解なし
・目に見える具体的な内容
単一の表象のみを扱う
“全か無”の思考
視点取得の能力が低い
非現実的なまでに
ポジティブ
中期児童期(5‐7歳)
・目に見える具体的な内容について
単一次元上で対比的に自分や他者を
理解する表現がみられるようになる
→だが大抵,自分は“よい”存在
・全体的自己の理解なし
“全か無”の思考
二分法的思考がさかん
非現実的なまでに
ポジティブ
具体的操作期(7~11歳)
• 保存概念が成立:保存課題に正答する
• クラス概念の形成が可能になる
– 加法的分類:生物=動物+植物
– 乗法的分類:「丸い形」かつ「色は黒」
• 脱中心的な思考が可能になる(脱中心化)
– 他者の視点が分かる、三つ山課題ができる
具体的操作期(7-11歳)
• 第1段階(7,8歳):
– 数の保存、系列化、クラス化などができるように
なる。
• 第2段階(9,10歳):
– 高度なクラス化、
– いくつかの山や建物からなる模型を別の角度か
ら見た時の見え方を推理することが可能になる。
– cf. 中学年以降の教材
具体的操作期(7-11歳)
• 全体的自己のとらえ
– 抽象的用語
• 社会的比較が進む
– 類似他者との比較
– →視点取得の能力により,客観的自己理解へ
– →自己評価の低下
後期児童期(8‐11歳)
・より抽象的な性格用語での理解
・全体的自己をとらえるようになる
・社会的視点取得が発達
・抽象的レベルでの表象理解
自己知覚が少しずつ
否定的なものになる
具体的操作期の子どもには
何ができないのか?
• 事実に反することについて予測できない
– もし人間が未来を知ることができたら,今より幸
せだろうか?
• 抽象的概念が理解できない
– 「力」「慣性」「加速度」「生きる意味」「愛」
• 計画的に順序よくものごとを比較できない
– いきあたりばったり
• 自分の仮説を修正できるか?
– 何を仮説としているかに対するメタ認知が必要
• 8,9歳のグループvs11,12歳のグループ
– 年少グループは、データから強く示唆された最初の仮説
(たとえば道具か道具でないか、乗り物か乗り物でないか、
など)に固執するように見えた。
– 年少の子どもは、ほとんど検証できなくても、なお当初の
仮説にこだわり続けたのである。
– 年長グループはうまく他の仮説を立てることができ、それ
ぞれの仮説を事実に対して検証し、間違いであることが
明らかになった仮説は捨て去ることができていた
形式的操作期(11,12~15,16歳)
• 言語によって内容をあらわした命題について、内容
が現実かどうかにかかわらず、論理的・形式的に考
えることができる
– 命題的操作
• 思考によって立てられた仮説について体系的な検
証を行える「科学的思考」
– 確率的概念、三段論法などの「論理的思考」
– 仮説演繹的思考を可能にする「仮説的思考」
• クラスについてのクラス、関係間の関係などの「操
作についての操作(二次的操作)」
論理的思考以外の発達
• 注意の発達
– 選択的注意の発達:どの手がかりに注意を向けるべきか
がわかる
– 分割的注意の発達:同時に一組以上の手がかりに注意
を向けられる
• 記憶の発達:
– 長期記憶、短期記憶 ともに
• 情報処理の速度の発達
• メタ認知の発達:
– 特定の状況において、どんな方略がもっとも効果的かを
立ち止まって自問することができるようになる
• 自分自身の思考に対する理解の発達
早期青年期(13歳くらい)
・全体としての自己の差異化
・状況や人間関係で異なる
色々な自分への気づき
個別の抽象的表象を扱う
抽象的レベルでの
“全か無”の思考、二分法的思考
自己への評価や感情は
場面や状況で変動
中期青年期(15歳くらい)
・状況や人間関係に応じた多
様な自己
・抽象的表象感の比較・検討
・他者からの評価に強い関心
抽象化された表象間の比較が可能
自己内の矛盾に気づき始める
中期青年期(15歳くらい)
・状況や人間関係に応じた多
様な自己
・抽象的表象感の比較・検討
・他者からの評価に強い関心
?
抽象化された表象間の比較が可能
自己内の矛盾に気づき始める
「自己の真実性」に
ついての葛藤
後期青年期(17歳くらい)~早期成人期
・他者評価ではなく自身の信
条を反映した自己表象
・矛盾していた表象を統合
・思想や信念、価値観からの
自己の整理
・矛盾を許容する高度な理解
多様な自己が存在する
ことに対する葛藤は
おおむね軽減
自己理解の発達(Damon & Hart, 1982)
• 児童期前期
– 範疇的自己規定:カテゴリー的に理解する
• 児童期中・後期
– 比較による自己規定:9歳頃から他者との比較がさかん
になり,その関係から自己を理解する
• 青年期前期
– 対人的意味づけ:他者との関係性が重要になる時期であ
り,その観点から自己について意味づけ(価値づけ)を行
う
• 青年期後期
– 体系的信念と計画:自己を,信念や価値観との関連から
理解する
自己理解の発達
発達レベ
ル
共通の組
織化の原
理
青年期後
期
体系的信
念と計画
青年期前
期
対人的意
味づけ
客体としての自己
社会的自
己
心理的自
己
がんばり
信仰のた
のきく丈夫 め教会に
な体
行く
生き方とし
てボラン
ティア
世界平和
をめざす
強いので
頼られる
人に親切
判断力が
あって頼り
になる
児童期中・ 比較による 人より背が 他の子より 先生にほ
後期
自己規定 高い
絵が上手 められる
人より頭が
悪い
児童期前
期
嬉しい
範疇的自
己規定
身体的自
己
行動的自
己
遊びが好
きで人に
好かれる
青い眼をし 速く走れる 妹がいる
ている
(Damon & Hart, 1982)
• 自己中心性を脱し、他者の視点に立つことができるように
なったことで、新たな自己中心性が獲得される…“青年期の
自己中心性”
• 想像上の観客
自意識過剰の状態に陥る
– 例)自分の気に入らない髪型について、皆が注目していると思
う。
– 自分が気にする対象≠他人が気にする対象
• 個人的寓話
特別意識や他者尊重の欠如,孤立感につながる
– 自分は他者とは違う特殊な力や運命をもつ特別な存在だと信
じる
– 自分の興味や関心は、唯一独自のもの
– 自分が思いついたことや自分の悩み、考えは自分一人のもの
と思ってしまう
• 自身焦点
思い込みと現実の乖離を招く
– 他者の考えや思いよりもむしろ自分自身の内面の考え、思い
の方に注目する
関係性の発達
青年期の挑戦や向上心の原動力にもなる
獲得される新たな“自己中心性”
「友だち」とは
• 友だち…関わりの持続する同年齢の他者
• ごく幼い子ども:共に遊ぶこと
• 小学校の間に;理解すること、忠誠、信頼できる、とい
う要素に,その定義が変化する
– その頃の子どもは、友達と、多くの時間を共に過ごすこと、
関心を共有すること、そして自己開示し合うことを期待し
ている。
– 親友(intimacy)という言葉は使わないものの、青年期の
少し前になると、友だちと親友とを分けるようになる
– より年長の者:理想の友人について、大抵の場合、支援
的であること(頼りがいがある、理解してくれる、受け入れ
てくれる)、秘密を打ち明けることができること、信頼でき
ること、が挙げられるようになる。
仲の良い友達選択の理由
• Bigelowらの研究(カナダとスコットランド)
– 3年生までの子ども:物理的近接性と共有活動
– 5年生:互いに対する忠誠や助け合いといった内
面的な理由
– 友人選択において内面的な事柄を挙げる傾向は、
その後、青年期や成人期を通して増加していく
– 青年期:価値を共有することが友人選択における
重要な理由を占める
関わり方の変化
• 友人関係を構築する際に用いられる方法は年齢と共
に変化する
– 6歳の場合:友達との相互作用では遊んだりおもちゃを共
有したりする
– 10歳:お互いを誘うといった行動
– 13歳:相手が困ったときに助ける。特に、13歳では、信頼
するという行為によって友情が示されていた。
• 友人関係は
–
–
–
–
具体的行動に基づく友人関係
互恵的態度に基づく友人関係
相互恩恵、そして深い心理的関心を共有する友人関係へ
と発達する
青年期の友人関係
• 青年期:友人の感情的な状態をやりとりする
ことが友情を深めることが分かってくる
– 相互に親密で、互いの内面を打ち開け合うものと
なる。
– 友情を維持しようとより多くの時間が割かれるよ
うになる
– 青年期において形成される友人関係は、人格的
尊敬と共鳴に基づいて形成される「心の友」とも
よぶべきもので、互いに人格的影響を及ぼし合う
ものとなる
友人関係の意義
• Hartup & Stevens(1997):年齢による変化はほとんど
見られず、生涯を通して安定した特徴があると主張
• 人格発達を促す機能を有する
– 協同したり共同したりすることを覚え、相手に対する共感
や理解や親密性、利他性など対人的側面を発達させる
– 相互的な承認が経験され、自己価値の感覚が獲得され、
課題に取り組んだりするための精神的安定を得る
• 遊びのつながりと内面的なつながりをもつ
– 生涯を通して続く友人関係において重要な2側面
– 高校生、新婚夫婦、中年期の親、定年間際の者いずれに
おいても、理想の友人として重要なこととして挙がってくる
のは、話が合う(communicative compatibility)ことと、関
心、経験、活動を共有できること
Question 9‐2‐2
• 友人関係と親子関係との共通点・相違点と
は?
• 友人関係ときょうだい関係との共通点・相違
点とは?
• 友人関係と先生との関係との共通点・相違点
とは?
友人関係と自己形成
• 自己としての意識の明確化
– 行動主体としての自己としての意識
– 自己の個別性の感覚の獲得
• 自己形成を導く指針
– ライバル
– 理想形成
• 友人関係に伴う不安
– 親密な関係と排除の関係
– 関係性攻撃
仲間集団の発達
ギャング・グループ
• 児童期後半の時期において形成される集団
• 多くの場合、同性、同年齢の者によって構成され、
特に同一行動による一体感が重んじられる…「同
一の遊び」によってつながる仲間集団
– 排他性・閉鎖性が強く、力関係による役割分化や固
有の価値が共有される。
– 仲間集団の承認が過程(親)の承認より重要となる
– 「権威に対する反抗性、他の集団に対する対抗性、
異性に対する拒否性」が特徴であり,その結束力の
強さがそれまでの集団との違い。
– ここで経験されるグループのメンバーとの強く結びつ
きが、親から自立しようとする際の子どもの不安を和
らげると考えられている。
チャム・グループ
• “チャム(chum)”:特に親密な友人
• 思春期以降,中学生頃からみられる,親密で排他的な同
性の仲間関係
• 興味や関心における一体感が重視され,互いの共通点・
類似性をことばで確かめ合うという行為
– 保坂(1998):彼ら・彼女らの会話においてはその内容よりも
「私たちは同じね」という確認に意味がある
– しばしばその集団内だけでしか通じない言葉を作り出し,その
言葉が通じる者だけが仲間であるという境界がひかれる…「同
一言語」が特徴となる
• 言語による一体感の確認→仲間への絶対的な忠誠心
– Sullivan:これらの行動は,チャムのメンバーに,幸福,充足感,
自信を与えたいという欲求が生じたことによる…「共同
(collaboration)」とよべるものであり,ここにおいて真の社会化
が始まる
• 特に女子に特徴的にみられる(黒沢・有本・森, 2003)。
ピア・グループ
• “ピア(peer)”:「同等」という意味合いを含んだ「仲間」
を意味することば
• 自立した個人として互いに尊重し合って共にいること
ができる状態であり,むしろ,個性の違いこそが共に
いる意義となる
– 互いの興味や関心が似通っているという共通性・類似性
だけでなく,互いに異なる部分を有することが認識され,
自他の違いを認め合いながら友人関係を育むようになる
– 互いの価値観や理想・将来の生き方などを語り合うことも
多く見られるようになる。
• 高校生以上でよくみられる男女混合のグループ
榎本(1999)
• 千葉葉県内の公立中学1~3年生326名(男
156名,女170名),
• 千葉県内の県立高校および東京都内の都立
高校1~3年生335名(男158名,女177名),
• 国立大学1~4年生247名(男109名,女138
名)の計908名。
• 調査時期 1996年7月上旬~9月上旬。
(因子説明)
• F1 相互理解活動
– 互いの相違点を認め合い,価値観や将来の生き方
などを語り合う
• F2 親密確認活動
– 親密的で友人との行動や趣味の類似点に重点をお
き,仲がいいことを確認するようなつきあい方
• F3 共有活動
– 友人と遊ぶことを中心としたつきあい方
• F4 閉鎖的活動
– 自分たちの世界を持ち,他者を入れない絆で関係を
作る
• 学校段階でどのようなつき合い方が優勢?
– 中学男子:共有活動>相互理解活動>親密確認
活動>閉鎖的活動
– 高校男子:共有活動=相互理解活動>閉鎖的活
動>親密確認活動
– 大学男子:相互理解活動>共有活動>閉鎖的活
動>親密確認活動
– 中学女子:親密確認活動>相互理解活動>共有
活動>閉鎖的活動
– 高校女子:閉鎖的活動=相互理解活動>親密確
認活動>共有活動
– 大学女子:相互理解活動>閉鎖的活動>共有活
動=親密確認活動
友だち関係における男女差
• 榎本(1999)
– 男子は、
– 友人と遊ぶ関係の「共有活動」
– →互いを尊重する「相互理解活動」へと変化する。
– 女子は、
– 友人との類似性に重点を置いた「親密確認活動」
– →他者を入れない絆をもつ「閉鎖的活動」
– →「相互理解活動」へと変化する。
cf. Golombok & Fivush(1994)
• 小学校の最初の1年間,男子と女子は別々に遊ぶ。
• 女子は,たくさん話をし,小さな秘密を共有する子と親
友になる。一緒に遊ぶが,ゲームなどは彼女らにとっ
てそれほど重要ではない。もしいさかいが生じれば,
関係の調和を取り戻すためにゲームをやめる。
• 男子は逆に,集団で遊び,ひとりの親友に絞ることは
あまりない。男子は,明確なルールのある競争的な
ゲームをする。もしいさかいが生じればそれを解決し
ようとするものの,それはゲームを続けるためである。
• 男子は,仲間と長いおしゃべりはしない。もし話すなら,
ゲームかそのルールについてである。このように男子
は,交渉することや,集団と協力すること,競争するこ
とを学ぶ。
cf. Golombok & Fivush(1994)
• 逆に女子は,通じ合うことや,聴くこと,関係
を続けることを学ぶ。
• このような性別による対人関係の違いは,そ
の後の人生においても見ることができる。女
子は,情緒的で,個人的でより深い関係をも
ち,男子は,活動中心でより手段的な関係を
もつ。
• もし男子あるいは男性がより深い会話に関心
があるなら、彼らは話し相手に女性を求める。
Question 9‐2‐4
• 各段階での友人関係にどのような発達的意
義を見出すことができるか?
Question 9‐3
• 友人関係と恋愛関係との間には,どのような
違いがあるだろうか。
Question 9‐4
• あなたは10代の頃,どのような親子関係を過
ごしただろうか。
– 自分のことをわかってくれると感じていたか
– どのようなことで頼っていたか
– など
• 10代から20代にかけて,あなたの親に対する
気持ちにどのような変化があっただろうか。