第 9 章 連続写像 9.1 写像の極限 本節においては写像の極限の概念について考察する. X と Y は二つの位相空間であるとする. 一般に, f は X のある部 分集合 D から Y の中への写像であるとする. A は D の集積点の集 合であるとする. 集合 {f (x); x ∈ D} の触集合 B に対し, lim f (x) = B x→A であるということは, B の任意の近傍 V に対し, A のある近傍 U が 存在して, f ((U ∩ D)\A) ⊂ V が成り立つことであると定義する. このとき, lim f (x) = B x→A であることを, f (x) → B, (x → A) と表すことがある. いま, 極限 lim f (x) = B x→A 1 が成り立つことは, xα → A となる D\A の任意の有向点列 {xα } に 対し, B が極限集合 lim f (xα ) 全体の合併集合であることと同値である. 与えられた f と X の集合 A = {a} に対し, B = {b} であるなら ば, b は x → a のときの f (x) の極限点であるといい, x → a のとき の f (x) の極限であるという. X と Y は二つの位相空間であるとし, f : X → Y は関数ある いは写像であるとし, D は f の定義域であるとする. A は D の集 積点の集合であるとし, U(A) は A の基本近傍系であるとする. こ のとき, さらに, (U ∩ D)\A ̸= ∅ であると仮定する. このとき, {f ((U ∩ D)\A); U ∈ U(A)} は Y のフィルターの基になる. いま, Φ はこのフィルターの基によって生成されたフィルターであるとす る. このとき, x → A ならば f (x) → B が成り立つことと Φ → B が成り立つことは同値である. 次に, 6.1 節において定義した数列の広義の極限を考えるとき, 1 価関数の列 {fn (x)} の各点収束による極限関数 f (x) が多価関数に よって与えられるような例があることを示す. 例 9.1.1 有理数の全体に番号を付けた数列を {an } とする. こ のとき, R 上の関数列 {fn (x)} が次のように定義されているとする. すなわち, 各関数 fn (x) は定数関数で, 関係式 fn (x) = an , (x ∈ R, n ≥ 1) によって定義されているとする. このとき, 各点 x ∈ R において, fn (x) = an → R, (n → ∞) が成り立つ. これに関しては例 6.1.2 を参照してもらいたい. ゆえ に, 1 価関数の列 {fn (x)} の極限関数 f (x) は無限多価関数 f (x) = R, (x ∈ R) 2 によって与えられる. 次に, これを一般化して, 定数関数とは限らない関数列の広義の 各点収束極限の例を与える. 例 9.1.2 N = {0, 1, 2, · · · } は自然数全体の集合であるとする. S∞ = S∞ (N ) は N の変位全体のつくる無限対称群であるとする. 数列 {an : n ≥ 0} は有理数の全体に番号付けをして並べた数列 であるとする. このとき, R = (−∞, ∞) の各点 x に S∞ の元 σx を 対応させる. このとき, 関数列 {fn (x)}∞ n=0 を fn (x) = aσx (n) , (x ∈ R, n ≥ 0) によって定義する. このとき, 各点 x ∈ R において, 関数の値の数 列 {fn (x) : n ≥ 0} は数列 {an } に変位 σx を施した数列 {aσx (n) } に 等しい. したがって, 各点 x ∈ R において, fn (x) → R, (n → ∞) が成り立つ. すなわち, 無限多価関数 f (x) が f (x) = R, (x ∈ R) によって定義されているとすると, 各点 x ∈ R において, fn (x) → f (x). (n → ∞) が成り立つ. 例 9.1.2 において, 各関数 fn (x) は 1 価関数である. それに対し, 極限関数 f (x) は各点 x において集合 R を値にもつ無限多価関数で ある. このように, 6.1 節において定義した数列の広義の極限を考えると き, 1 価関数の列 {fn (x)} の各点収束極限である極限関数が無限多 価関数になることがある. 3 9.2 連続写像 本節においては連続写像の概念について考察する. 位相の概念は写像の連続性を特徴付けるための基本概念である. それ故に, ここでは写像の連続性を位相の公理系に基づいて考察す る. ここで, 次の定義を与える. 定義 9.2.1 X, Y は二つの位相空間であるとし, f は X から Y の中への写像であるとする. このとき, f が X から Y の中への連続 写像であるということは, 次の (i)∼(iv) の同値な条件のいずれか一 つが成り立つことであると定義する: (i) Y の任意の開集合 O に対し, f −1 (O) は X の開集合である. (ii) Y の任意の閉集合 F に対し, f −1 (F ) は X の閉集合である. (iii) X の任意の部分集合 A に対し, f (A) ⊂ f (A) が成り立つ. (iv) X の任意の点を a とする. このとき, f (a) ∈ Y の任意の近 傍 V に対し, a のある近傍 U が存在して, f (U ) ⊂ V が成り立つ. f が連続写像であるとき, 略式に f は連続であるということがある. 系 9.2.1 定義 9.2.1 と同じ記号を用いる. このとき, 定義 9.2.1 における四つの条件 (i)∼(iv) は同値である. 4 次に, 連続写像を有向点列の収束とフィルターの収束を用いて特 徴付けることを考える. このとき, 次の定理が成り立つ. 定理 9.2.1 X, Y は二つの位相空間であるとし, f は X から Y の中への写像であるとする. このとき, 次の (1)∼(4) は同値である. (1) f : X → Y は連続写像である. (2) X の任意の収束する有向点列 {xα } に対し, xα → A ならば, Y において, f (xα ) → f (A) が成り立つ. (3) X の任意の収束するフィルター Φ に対し, Φ → A であると する. このとき, f (Φ) = {f (M ) : M ∈ Φ} であるとすると, f (Φ) はフィルターの基であって, f (Φ) → f (A) が成り立つ. (4) 写像の極限の意味において, A ⊂ X に対し, x → A ならば, f (x) → f (A) が成り立つ. X, Y は二つの位相空間であるとし, f は X から Y の中への写像 であるとする. 特に, f の定義域が D ⊂ X であるときには, D を X 5 の部分空間であると考え, 写像 f は D から Y の中への写像であると 考えて, 上と同様に写像 f の連続性について考察することができる. X, Y は二つの位相空間であるとし, X が T2 空間であるとする. このとき, f : X → Y が X の 1 点 a において連続であるというこ とは, 定理 9.2.1 において A = {a} である場合であると考えればよ い. しかし, 一般に X が T2 空間でない場合には, X の一点 a におい て写像 f が連続であるということを定義することはできない. 定理 9.2.2 X, Y, Z は三つの位相空間であるとし, 二つの写像 g : X → Y と f : Y → Z は連続であるとする. このとき, 合成写 像 h = f ◦ g : X → Z は連続である. X と Y は二つの位相空間であるとし, f は X から Y の中への写 像であるとする. Y における開集合全体のつくる集合族を O1 であ るとする. このとき, f −1 (O1 ) は X において開集合の公理系 (I) を 満たしているから, これによって X の位相を定義できる. このようにして, Y の位相から導かれる X の位相を Y の位相か ら写像 f によって誘導された誘導位相であるという. ここで, 二つの位相空間 X と Y に対し, X から Y への写像 f が 連続写像であるという性質は, X, Y の位相の細粗の性質と深い関係 があることを見てみよう. 二つの位相空間 X と Y に対し, 写像 f : X → Y は上への 1 対 1 写像であって, 連続であるとする. このとき, X と Y の位相の比較 について考察する. f は上への 1 対 1 写像であるから, X と Y は集合としては対等で ある. このとき, X と Y の位相の比較を考える. X における開集合全体のつくる集合族を O であるとし, Y におけ る開集合全体のつくる集合族を O1 であるとすると, f −1 (O1 ) は X における開集合族である. したがって, f −1 (O1 ) ⊂ O 6 が成り立つ. f −1 (O1 ) は開集合の公理系 (I) を満たしているから, X の位相を定義できる. このとき, f −1 (O1 ) によって定義される X の位相より O によって定義される X の位相の方が細かいことがわ かる. X と Y は集合として対等であるから, 1 対 1 上への連続写像 f に よって集合 X を Y に写像するとき, X の位相は Y の位相より細か いことがわかる. ゆえに, 次の定理が成り立つ. 定理 9.2.3 二つの位相空間 X と Y に対し, 写像 f : X → Y は 1 対 1 上への連続写像であるとする. このとき, f によって Y の位 相から誘導される X の位相より, X の位相の方が細かい. 定理 9.2.4 Y は位相空間であるとし, 集合 X から Y の上への 1 対 1 写像を f であるとする. このとき, 写像 f : X → Y が連続で あるような X の最も粗い位相を定義することと, X と Y が同相と なるような位相を X に定義することは同値である. このような考え方に基づいて, 位相空間 X の部分集合 Y を位相空 間にするような Y の自然な位相を定義することについて考察する. すなわち, Y の位相構造を, X の位相構造から自然に導けるよう にすることを考える. いま, Y は X の中に自然に埋め込まれている と考える. すなわち, X の中への Y の埋め込みが恒等写像 fY (x) = x, (x ∈ Y ⊂ X) によって与えられているとする. このとき, X の開集合全体のつくる集合族を O とするとき, O ∈ O に対し, 等式 fY−1 (O) = O ∩ Y = O′ ⊂ Y が成り立つ. このとき, Y の集合族 fY−1 (O) は, f −1 の性質によって 開集合の公理系 (I) を満たす. 7 したがって, fY−1 (O) は Y における開集合族になる. これによって Y に定義される位相は fY を連続にする Y の位相のうちで最も粗い ものである. このようにして定義された位相に関して位相空間 Y が 定義される. これは X の部分空間としての Y の位相である. 残りの三つの型の公理系を用いて定義された X の位相から上の ようにして X の部分空間 Y の自然な位相を同様に定義できる. X, Y は二つの位相空間であるとし, f : X → Y は X から Y の 中への連続写像であるとする. このとき, f を X の部分空間 S に制 限して考えることにより, f |S : S → Y は S から Y の中への連続 写像になる. したがって, 等式 f |S (x) = f (fS (x)), (x ∈ S) が成り立つ. このとき, f |S = f ◦ fS は合成写像で, 連続写像と連続 写像の合成写像は連続であるから, f |S は連続写像になる. X, Y は二つの位相空間であるとし, f : X → Y は X から Y の 中への写像であるとする. このとき, f が同相写像であるというこ とは, f が 1 対 1 上への写像であって, f と f −1 がともに連続である ことと定義する. 同相写像 f は位相写像であるということもある. 定理 9.2.5 X, Y は二つの位相空間であるとし, f : X → Y は X から Y の上への 1 対 1 写像であるとする. このとき, 次の (1)∼(3) は同値である: (1) f は同相写像である. (2) X の任意の開集合 O に対し, f (O) は Y の開集合であり, 逆 に, Y の任意の開集合 O に対し, f −1 (O) は X の開集合である. (3) X の任意の閉集合 F に対し, f (F ) は Y の閉集合であり, 逆 に, Y の任意の閉集合 F に対し, f −1 (F ) は X の閉集合である. (4) X の任意の部分集合 M に対し, f (M ) = f (M ) が成り立つ. 8 二つの位相空間 X と Y が同相であるということは, X から Y の 上への同相写像 f が存在することであると定義する. 二つの位相空間 X と Y が同相であるということは, X と Y が集 合として対等であって, さらに, X と Y が位相空間として同じ構造 をもっていることを意味する. 例 9.2.1 次の (1), (2) が成り立つ: (1) R = (−∞, ∞) と (0, ∞) は同相である. 同相写像は y = ex によって与えられる. (2) (−1, 1) と R = (−∞, ∞) は同相である. 同相写像は πx y = tan 2 によって与えられる. 二つの位相空間 X と Y が同相であるとき, 位相空間の公理から 導かれる位相空間の性質はすべて X と Y において全く同様に成り 立つことを意味する. 9.3 連続写像の基本性質 本節においては, 連続写像の基本性質について考察する. 定理 9.3.1 X と Y は二つの位相空間であるとし, X はコンパ クトであるとする. f は X から Y の中への連続写像であるとする. このとき, 像 f (X) は Y においてコンパクトである. 定理 9.3.2 X と Y は二つの位相空間であるとし, f は X から Y の中への連続写像であるとする. このとき, X の中の任意のコン パクト集合 K の像 f (K) は Y においてコンパクト集合である. 9 したがって, f はコンパクト空間 X から T2 空間 Y の中への連続 写像であるとき, X の中の任意の閉集合 F の像 f (F ) は Y において 閉集合である. これは, X と Y が上の条件を満たさない一般の位相空間に対して は成立しない. さらに, 一般に, 二つの位相空間 X, Y と連続写像 f : X → Y に 対し, X の開集合の像は開集合であるとは限らない. コンパクト空間 X から T2 空間 Y の中への 1 対 1 連続写像は同相 写像である. 定理 9.3.3 二つの位相空間を X, Y であるとし, 写像 f : X → Y は X から Y の中への連続写像であるとする. 位相空間 X は連結で あるとする. このとき, f による X の像 f (X) = {f (x); x ∈ X} も 連結である. 9.4 一様連続写像 本節においては, 一様空間 X から一様空間 Y の中への写像の一 様連続性について考察する. このように, 写像の一様連続性という 性質は一様位相構造によって規定される性質である. 定義 9.4.1 二つの一様空間 X と Y に対し, X から Y の中への 写像 f が一様連続であるということは, Y における任意の一様近傍 V に対して, X におけるある一様近傍 U が存在して, x, y ∈ X が U 位の近さにあるとき, f (x), f (y) ∈ Y が V 位の近さにあることであ ると定義する. 定理 9.4.1 X, Y は二つの一様空間であるとする. 写像 f : X → Y が一様連続であるための必要十分条件は, Y における任意の一様 10 近傍 V に対し, X におけるある一様近傍 U が存在して, (x, y) ∈ U ならば, (f (x), f (y)) ∈ V が成り立つことである. したがって, X, Y が一様空間であるとき写像 f : X → Y が一様 連続であるならば, f は連続写像である. 二つの一様空間 X と Y が一様同相であるということは, 写像 f : X → Y が 1 対 1 上の写像であって, f と f −1 がともに一様連続で あることであると定義する. X は集合であるとし, Y は位相空間であるとする. f は X から Y の中への写像であるとし, Φ は X 上のフィルターであるとする. 点 A ⊂ Y がフィルター Φ による f の極限であるということは, Y 上 のフィルターの基 f (Φ) から生成されるフィルターが A に収束する ことであると定義する。 また, 点 y ∈ Y がフィルター Φ による f の触値であるということ はフィルターの基 f (Φ) から生成されたフィルターの触点であるこ とと定義する. 定理 9.4.2 X は集合であるとし, Y は完備空間であるとする. f は X から Y の中への写像であるとし, X 上のフィルターを Φ とす る. このとき, f が Φ による極限をもつための必要十分条件は, Φ の f による像 f (Φ) が Y 上のコーシー・フィルターであることである. 証明 極限の定義と, 一様空間上の収束するフィルターが任意に 小さい集合を含むことから証明される. // 定理 9.4.2 は極限の存在定理であると考えるときに, 完備空間が本 質的に重要であることを示している. さらに, 写像 f の極限の存在 を, あらかじめその極限が何であるかを知ることなしに証明できる ということが大切な要点である. 以下に, 完備空間の基本性質について考察する. 定理 9.4.3 次の (1), (2) が成り立つ: 11 (1) 完備空間の閉部分空間は完備である. (2) 必ずしも完備とは限らない分離一様空間の完備部分空間は閉 部分空間である. 定理 9.4.4 一様空間 X 上のコーシー・フィルターの触点はこの コーシー・フィルターの極限点である. ここで, 極限点は極限集合 の点のことをいう. 定理 9.4.5 一様空間 X 上のコーシー・フィルターより細かい フィルターはコ−シー・フィルターである. 定理 9.4.6 一様空間 X において点 x0 に収束するフィルターよ り粗い任意のコーシー・フィルターはまた x0 に収束する. 定理 9.4.7 X は一様空間であるとし, X の部分集合 A は X に おいて到る所稠密であるとする. このとき, A 上の任意のコーシー・ フィルターの基が X において収束するならば, X は完備空間である. 一般に, 完備一様空間 X の一様連続写像 f による像 f (X) が完備 であるとは限らない. X と Y は二つの位相空間であるとし, f は X から Y の中への写 像であるとする. このとき, X × X から Y × Y の中への写像 g を, 条件 g{(x, y)} = (f (x), f (y)) によって定義する. このとき, 写像 g は f の拡大であるという. いま, Y は一様空間であるとし, その一様近傍のフィルターを U であるとする. このとき, 集合族 g −1 (U ) は X 上の一様近傍系にな る. このとき, 一様近傍系 g −1 (U) によって定義された X 上の一様 位相は Y 上の一様位相から f によって誘導された誘導一様位相で あるという. 12 定理 9.4.8 X と Y は二つの一様空間であるとし, f は X から Y の中への一様連続写像であるとする. このとき, X 上のコーシー・ フィルターの基の f による像は Y 上のコーシー・フィルターの基で ある. 特に, 一様空間 X の一様部分空間を A とし, A から X の中への 一様連続写像 f (x) = x, (x ∈ A) を考える. A 上の任意のコーシー・ フィルターの基を X 上のフィルターの基であると考えたとき, これ は X 上のコーシー・フィルターの基である. 集合 X から一様空間 Y の中への写像を f であるとし, X 上の一 様位相は Y の一様位相の f による誘導一様位相であるとする. も し, Y 上のコーシー・フィルターの基の f による原像がフィルター の基であれば, これは X 上のコーシー・フィルターの基である. いま, X は一様空間であるとし, X の部分集合 A は空でないとす る. このとき, X 上のコーシー・フィルターの A への制限が A 上の フィルターであれば, これは一様部分空間 A 上のコーシー・フィル ターである. 次に, 分離一様空間または完備空間への写像について考察する. X と Y は二つの位相空間であるとし, Y は T2 空間であるとする. f は X から Y の中への連続写像であるとする. いま, M は X の到 る所稠密な部分集合であるとする. このとき, f の X 上の点でとる 像は M 上の点で f のとる像によって決定される. すなわち, 次の定 理が成り立つ. 定理 9.4.9 X と Y は二つの位相空間であるとし, Y は T2 空間 であるとする. f, g は X から Y の中への二つの連続写像であるとす る. X の到る所稠密な部分集合を M であるとする. このとき, 条件 f (x) = g(x), (x ∈ M ) が成り立つならば, 等式 f (x) = g(x), (x ∈ X) 13 が成り立つ. 次に連続写像 g の連続的延長 f について考察する. 定理 9.4.10 X と Y は二つの位相空間であるとし, Y は正則空 間であるとする. M は X の稠密な部分集合であるとする. M か ら Y の中への連続写像を g であるとする. 任意の x ∈ X に対して, 有向点列 xα ∈ M で, xα → x となるものがとれる. いま, Y 上の 有向点列 {g(xα )} が Y の一つの点 y に収束するとする. このとき, y = f (x) と定義すれば, f は X から Y の中への連続写像である. 上の定理の連続写像 f は連続写像 g の連続的延長であるという. 定理 9.4.11 X と Y は二つの位相空間であるとし, さらに, Y は完備な分離一様空間であるとする. X の部分集合 M は X におい て到る所稠密であるとする. f は M から Y の中への連続写像であ るとする. X の任意の点 x の近傍のフィルターの M への制限の f による像が Y 上のコーシー・フィルターの基になっているならば, f の X 上への連続的延長が存在する. 定理 9.4.12 X は一様空間であるとし, Y は完備な分離一様空 間であるとする. M は X の到る所稠密な部分集合であるとし, f は M から Y の中への一様連続写像であるとする. このとき, f の X 上 への連続的延長 g が存在し, g は X から Y の中への一様連続写像で ある. 次に, 全有界という概念について考察する. 完備性とともに, 一様性によって導かれる位相空間の特徴は有界 性である. 有界性とコンパクト性は同じではない. R2 において閉円 板 x2 + y 2 ≤ 1 はコンパクトであり, 有界でもある. しかし, 開円板 x2 + y 2 < 1 は有界ではあるが, コンパクトではない. 14 定義 9.4.1 一様空間 X が全有界であるということは, 任意の一 様近傍 V に対し, V 位の近傍の有限個からなる X の被覆が存在す ることと定義する. 定理 9.4.13 X と Y は一様空間であるとする. さらに, X は全 有界であるとする. このとき, X の部分空間 M から Y への一様連 続写像を f とすると, f (M ) は全有界である. d ≥ 1 とすると, Rd の完備な部分空間は閉集合である. したがっ て, Rd の完備かつ全有界な部分空間はコンパクト空間と一致する. この性質は一般の一様空間においても成り立つ. すなわち, 次の定 理が成り立つ. 定理 9.4.14 一様空間が全有界かつ完備であるための必要十分 条件は, この空間がコンパクト空間であることである. この定理の証明は難しいから, ここでは考えない. それは, 証明の ために極大フィルターの概念を必要とするからである. 定理 9.4.15 X はコンパクト T2 空間であるとし, Y は一様空間 であるとする. このとき, X から Y の中への連続写像は一様連続で ある. 定理 9.4.16 X はコンパクト T2 空間であるとし, Y は完備な分 離一様空間であるとする. M は X の到る所稠密な部分空間である とする. f は M から Y の中への連続写像であるとする. このとき, f を X から Y の中への連続写像に延長できるための必要十分条件 は, f が M において一様連続であることである. 15
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