大阪大学大学院理学研究科博士前期課程 高分子科学専攻 平成27年4月入学試験問題 化学ⅠⅠ ①物理化学 ②有機化学 ③高分子物理化学 ④高分子有機化学 ⑤生化学 ⑥生物物理化学 (15:00- 16:00) (表紙を含めて16ページ) 注意事項 (1)すべての解答用紙について右上の欄外に受験番号のみを記入せよ。 (2) 6科目の中から2科目を選択して解答し、科目ごとに別組の解答用紙 を用いよ。 (3)解答した科目を各組の解答用紙1枚目の左上欄外に記入せよ。 (4)各科目、大間ごとに別々の解答用紙を用い、解答した問題番号を記入 せよ。 ①物理化学(20点) 1.下の表は、種々の物質の101325Paにおける沸点Tya。と標準モル蒸発エントロピ ー変化△,苗を示したものである。この表を見て以下の設問に答えよo 表1 物質㌔pA,a㍉ 兒壱 KJK-1rno1-1 水素20.3844.95 窒素77.472.22 5 酸素90.275.63 h4 x5 'f 閥、イモ リ 俶ネ冑峪% アルゴン87.374.53 v リ モ ク8ウ33ゅ u ヤ S B苒 c3C偵ゴコ繧 ク8ウ3S 紊S リ7x4ネ5H933S2繝Sコ メタンll1.6573.2 85ク933S2 硫化水素212.7587.9 塩素239.185.36 S3s2 ネ褫3 アンモニア239.7397.41 S 偵 紊c h4ィ93CCr ジメチルエーテル250.1586 二硫化炭素319.483.7 Sビ 纈 Sッ縒 Xセ#c#偵sS釘 x8ィ4X8 Scィ縱 (出典:アトキンス著、物理化学第8版) (1)多くの液体のAvaFSは、 85 JK lmorl程度である。この経験的な規則は、 Trouton の規則と呼ばれる。この規則の物理的意味を50字程度で説明せよ。 (2) Tva,の低い物質では、 AyapSがTroutonの規則よりも小さいCこの理由を50字程 度で説明せよ。 (3)水のAva,Sは、 Troutonの規則より大きい。この理由を50字程度で説明せよ。 (4)一般に圧力が上昇した場合、沸点は上昇する。ベンゼンと水では、どちらがこ の効果が大きいか、理由とともに答えよ。 2 2.直鎖共役炭化水素の冗電子の波動関数は、電子が分子の長さLにわたってほぼ自 由に移動できると考えると、長さがLの1次元井戸型ポテンシャルVtx) (0<X<Lで Iltx)-0、 X≦0およびX≧LでTltx)-co)中での電子の波動関数vn(X)で近似できるoこ の近似を利用して、以下の設問に答えよ。 ( 1 )井戸型ポテンシャル中の0<X<Lでの波動関数vn(X)は、以下のSchr6dinger方 程式(1)の解として与えられる。 一志豊vn - Envn (.) ここで、 hはPlanck定数、 meは電子の質量、 Enは量子数nにおける固有エネル ギーを表すD井戸型ポテンシャルに対する境界条件から、 vn(X)Eま式(2)のように 表せる。 vn - Asin(fx〕 (2, 式中の規格化定数Aを、Lを用いて表せ.また、 n-lおよびn-2のときの0< X<Lにおける電子の存在確率をグラフで示せ。 (2)直鎖共役炭化水素の7T電子の固有エネルギーEnを、上、 me、 h、およびnを用い て表せo (3) 1,3-ブタジェンの場合について、基底状態と第一励起状態間の遷移スペクトル の波長且を、上、 me、 h,および光速Cを用いて表せ。 ②有機化学(20点) 1.分子式がC3H6C12で示される化合物には異性体が存在する。そのうち3つの異性 体のlHNMRスペクトルのシグナルパターンを模式的にA∼Cに示す。各NMR スペクトルに対応する化合物の化学構造式を示せ。 7.0 6.0 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 7.0 6.0 5.0 4.0 3 0 2 0 1.0 ppm (♂) ppm (♂) 70 6.0 5.0 4.0 30 2.0 1 0 ppm (♂) 4 2.以下の合成経路を設計せよ。ただし、下記の例にならって、使用する試薬、反応 条件、および中間生成物がある場合はその化学構造式を明らかにせよ。 例題 (1) CH3 l H3C-C-C-CH3 : I cH3 0 CH3 0H l I H3C-C-C-C2H5 t l CH3 CH3 (2) ∈} NH2 (3) (4) Br令NH2 3.以下の合成経路と各化合物の測定データを参考にして、化合物1-6の化学構造 式を示せ。なお、 lHNMRとIRのデータ(図1-4)は、次のページに示され ている。 (注) 分子量180 1HNMR:図1 1R:図2 2.7ppm 2H 7.3ppm つOH ロコ S -I/ I.、夏 LvN 4 6 分子量178 (注)本試験における問題用紙には図1 -4がデータとして掲載されているが、 web 上に公開する PDF ではこれらを省略する。なお、図1-4は SDBSWeb : http://sdbs.db.aist.go.jp (National Institute of Advanced Industrial Scienceand Teclmology, 2014年7月)より引用した。 ③高分子物理化学(20点) 1.次の文章を読んで、以下の設問に答えよ。 単結合まわりの回転で相互に変換できる空間的な配置のことを立体(あ)、変 換できない配置のことを立体(い)という。主鎖に不斉炭素を含む鎖状高分子の 立体(い)は重合の際に決まり、不斉炭素の絶対配置に規則性が生じることがあ る。このような規則性を立体規則性という。モノマーユニットに1つの不斉炭素を含 む場合、主鎖に沿った全ての不斉炭素のまわりの立体(い)が交互のものを (う)タクチック、全て同じものを(え)タクチック、立体規則性のない構 造を(お)タクチックという。 (え)タクチック ポリプロピレンオキシドで は、図1の(か)にメチル基が付く。また、ポリプロピレンは(う)タクチ ックと(え)タクチックでは、とりやすい立体(あ)が異なるため、図2の ような異なる形態の鎖となる。これらは、高分解能固体13c NMRで見分けることが できるo (1)文中の(あ) ∼(お)にあてはまる適切な語句を答えよ。 (2)図1の1-6の中から(か)に入る数字を選べ。 (3)図2は、ポリプロピレンの2つの形態の鎖(a)と(b)を主鎖に沿った方向から繊維周期分だけ描いたものであるo (a)と(b)の高分解能固体13c NMRを測定し 了\ ヽ/ CH3 日 3 4 C rk.ンー 、 / たとき、 CH、 CH2、 CH3に相当するピークはそれぞれ何木見られるか。 C H C H 3 2 H (a) C ● 0 0 CT2G2) 2 2.ポリ(オキシメチレン)とポリエチレンは結晶性高分子である。ポリ(オキシメチ レン)は三方晶が安定で、格子定数はa-b-0.45nm、C- 1.74nm、α-β-900、Y- 1200、 ポリエチレンは斜方晶が安定で、格子定数はa-0.74nm、 b-0.5011m、 C-0.25nm、 a -p-Y-900であるoいま、ポリ(オキシメチレン)試料とポリエチレン試料の密度を 測定したところ、ポリ(オキシメチレン)は1.44gcm 3、ポリエチレンは0.95gcm 3で あった。以下の設問に答えよ。ただし、 Cの原子量は12、 0の原子量は16、 Hの原 子量は1とする。 (1)上記のポリ(オキシメチレン)試料は、結晶化度が85%を超える結晶性わ高い試 料だった。三方晶結晶の単位格子に含まれるポリ(オキシメチレン)のモノマー ユニットの数を求めよ。 ( 2)上記のポリエチレン試料の体積分率結晶化度は何%か。有効数字2桁で答えよ。 ただし、ポリエチレンの斜方晶結晶領域の理論密度を1.01 gcm 3、非晶領域の 密度を0.83 gem-3とするo (3)このポリエチレン斜方晶結晶について、指数1 10と指数020の回折点に対応 する反射面を示せo その際、下に示すような結晶格子のab面をC軸方向から 見下ろした図をそれぞれ作製し、そこに指数とともに示せ。 bよこコb[コ (4)設問(3)における指数110の回折点と指数020の回折点ではどちらがより 大きな角度で回折するか。理由を付して答えよo 9 ④高分子有機化学(2 0点) 1・以下の空欄を最も適当な化学構造式で埋めよ。副生成物は記入しなくて良い。 (1'nHO'CH2'PH + nOCN-R-NCO - ⊂二二] '2'n。:班. nH2N母.⑤NH2 1 日 0 0 聖[=≡コ > `3'n C旦 [:::=] 加熱または触媒 加水分解 > == メタセシス重合 > (5) + +cH2-?H七 OH H ホルムアルデヒド水溶液 10 ヽl■』 』llI■ 2.以下の設問に答えよ。 (1)ビニル化合物の重合において、バルク重合、溶液重合、懸濁重合と比較しなが ら、乳化重合の特徴について述べよ。 (2)不安定な反応中間体が生成する連鎖重合において、リビング重合を達成するた めに用いる一般的な手法を説明せよ。また、具体例を反応式を用いて示せ。 (3)ビニルモノマーの付加重合は、通常逆反応が問題となることは少ないC この理 由を簡潔に説明せよo また、どのような場合にビニルモノマーの付加重合で逆 反応が起こりやすくなるか、モノマーや生成するポリマーの化学構造と関連づ けて答えよ。 ll ⑤生化学(20点) 1.次の文章を読んで、以下の設問に答えよo タンパク質はアミノ酸がつながったポリペプチド鎖である。その配列は[二亘コに ょって規定され、 [二二亘コ構造とよばれる。ポリペプチド鎖は屈曲性を持っが、 [二二亘二コ結合の二重結合性により主鎖骨格の立体配座が制限されている。対照的に、 主鎖骨格におけるα炭素周りの結合は単結合である。これらの単結合を軸とする回 転は、 [二王コ角によって規定でき、碑、頑と呼ばれている。推Vの組み合わせは 原子同士の立体障害のため特定の範囲に限られており、これを二次元プロットによ って表したものを[二亘コと呼ぶ。 ポリペプチド鎖は規則的な繰り返し構造に折りたたまれることが多い。米国の研 究者LinusPaulingは、円柱状の[:亘コと、 βシート構造という二つの周期構造を提案 したo その後、 X線結晶解析と核磁気共鳴解析の研究により、実際のタンパク質構 造中にその存在が確認されている。さらに、ケラチンのような繊維状タンパク質は、 二つの[亘:]が相互に絡み合いながら[:亘コとよばれる超らせん構造を形成してい る。この超らせん構造を特徴づけるのは、 ⊂亘二二]と呼ばれる[二二亘コ残基ごとの反復 配列である。二次構造の組合せのうち、ある種のものは多くのタンパク質中に存在 して、しばしば類似の機能を示す。これらの二次構造の組合せはl=≡]とよばれ、 二次構造と三次構造の中間として位置づけられているo 例えば、ターン構造によっ て隔てられた二つのα-リックスは-リックス・ターン・-リックス構造とよばれる。 この構造の多くは、 [二亘コに結合する性質をもつ。 (1)文中の空欄を埋めよ。 (2)図1に示すArg-Ile-Leuのトリペプチドのうち、イソロイシンの[二二≡コ角に適 合する組み合わせを選べ。 (a) 4--600、 V--600 (b) 4--600、 V-1200 (C) 4-1200、 V-600 (d)〆ニー1200、 V-1200 12 (3) [二亘コ構造により構成されるK十チャネルは、図2のような形状をした膜タン パク質である。構造解析の結果、小孔の直径は3.0ÅでありK十イオンがチャ ネル内部の8個のカルポニル基と相互作用していることがわかっている。表 1にあるアルカリ金属陽イオンの性質に基づいて、 Na+ィォンをなぜ透過させ ないのかを説明せよo 脂質二重膜 イオン イオン半径【Å] 水和に要するGibbsエネルギーlkJmol 1】 Na+ 0.95 -301 K' 1.33 1230 13 2.次の文章を読んで、以下の設問に答えよ。 単糖は複数のヒドロキシ基をもつアルデヒドまたはケトンである。ベント-スと -キソースは環状となり(a)プラノース環とビラノース環を形成する. RNAやDNAの 構造に見られるように、 D-リボ-スや2-デオキシーD-リボ-スのようなベント-ス はプラノース環を形成する。単糖は、グリコシド結合を介してrb1アルコールやアミ ンと結合するo また、二個の単糖が0-グリコシド結合により連結されると二糖とな り、単糖の高重合体は多糖とよばれて、 (。)動物細胞や植物細胞で重要な役割を担って いる。 (1)下図に示したD-フルクト-スも、下線部(a)のように環状構造をとる。 D-フ ルクト-スが取りうる環状構造を全て書け。ただし、アノマ-を区別して構 造式は下例に示すハース投影式で記述することo y OH 一 [ 0 H H H I I OH I z H 1 oH E oH C - C -CIC- C / L 2 H H 0 C 0 HO‖ 2CHqZ OH OH V D-フルクト-ス ハース投影式の例: β-D-リボ-ス (2)下線部(b)のような修飾糖であるPID-アセチルグルコサミン(GIcNAc)を 介して、タンパク質に糖鎖が付加されると糖タンパク質となる。糖とタンパ ク質問の結合様式は二種類知られており、 N結合型と0結合型とよばれるo それぞれ糖鎖が結合するアミノ酸名を記せ。 (3)グルコースは-モグロビンなどのタンパク質とゆっくりと反応し、共有結合 を形成するo グルコースが反応性をもつ理由と付加生成物の特徴を述べよo (4)動物由来のグリコーゲンおよび植物由来のセルロースは、それぞれグルコー スの重合体である。お互いの化学結合の違いを説明し、下線部(C)に示す生体 中における役割をそれぞれ簡潔に説明せよ。 14 ⑥生物物理化学(20点) 1.次の文章中の空欄に当てはまる、最も適切な語句や数値を答えよ。数値で解答す る場合は、有効数字2桁とする。 一生→ A B く一石 反応l AとBの平衡反応1において、 kl、 k2は速度定数であるo lA]、 [B]をそれぞれ の分子種の濃度とし、平衡定数KをK- lB]/lA]とするoKは速度定数を用いて、 K-ロ=]と表わすことができるoまた、分子種AとBのモル分率を、 fA - lA]/(lA]・lB]) 、 f, - lB]/(lA]・lB]) とすると、ふ兎は速度定数を用いて、 fA-ロコJB- ⊂⊂]と表わすことが できる。 反応1に伴うモルGibbsエネルギー変化AGは、気体定数R、絶対温度T、およ びKを用いて、 AG - [≡コと表わすことができる∴重た、 AGは反応にともな うモルエンタルピー変化△ガ、モルエントロピー 変化ASを用いると、 AG- [二重コと表わすこと ができる。 表1 温度(℃) fB 温度を変化させたとき、反応1のfBは表1の 30 0.01 ように変化したo50℃においては、K- [:亘コ、 40 0.10 AG - [二二亘コkJmol 1である.熟測定実験によ って50℃でのAHの値を求めたところ200 kJ 50 0.50 mol 1であった0 50℃におけるASは、 [二二亘コJ 60 0.90 molll K-1である。 70 0.99 15 2.次の文章および表中の空欄に当てはまる、最も適切な語句や数値を答えよ。数値 で解答する場合は、有効数字2桁とするo 光が溶液を透過すると、溶質の種類や波長に依存して光の一部が吸収される。 吸収の程度は吸光度Aで表わされる。強度Ioの単色光が、光路長Lのセルに入っ たモル濃度Cの溶液を透過した後、強度丁になったとすると、これらの数値と吸 光度Aの間には、 Lambert-Beerの法則と呼ばれる関係式(1)が成り立つo A-loglO吾-scL (1) ここで、 Cは[=亡]と呼ばれる溶質に固有の定数である.なお、 1/loは透過率 と呼ばれる。 [二亘コと光路長が分かっていると、観測された吸光度Aから、溶 質の濃度を算出することができる。 光路長1 cmのセルを用いてタンパク質p溶液の280mmでの透過率を測定した ところ、1.0%であった。タンパク質p溶液の280nmにおける吸光度Aは[二三コで ある。 タンパク質pの分子量は15,000であり、280nmにおけるCの値は20,000M 1cmLL である.タンパク質p溶液の280 nmでの吸光度が全てタンパク質によると考え た場合、モル濃度は[二二亘コM、重量濃度は[二三コgL 1である。 一般にタンパク質の280 nm付近の吸収は芳香族側鎖をもつアミノ酸による。 表2に芳香族側鎖をもつアミノ酸の280nm付近の、中性pH溶液における吸収極 大波長とCの値を示すo 表2 アミノ酸 吸収極大波長(nm) S(M【1cm 1) [二二亘コ 278 5 ,500 [二亘コ 275 1 ,340 [亘コ 257 1 90 なお、タンパク質を構成する主要なアミノ酸は以下の20種類である:グリシン、 アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、フェニル アラニン、トリプトファン、セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、 チロシン、システイン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グ ルタミン酸 16
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