特集 学生の研究活動報告−国内学会大会・国際会議参加記 21 レンズの非点収差と色収差を利用して光源スペクト 2014 OSA Classical Optics Congress に参加して 上 見 洋 ルを平坦化することについて検討した. 人 3.レンズ系の設計 Hiroto UEMI 電子情報学専攻修士課程 2年 正常分散を持つガラスレンズでランプ光を集める と,レンズに近い方から紫外・青・緑・赤・赤外の 順で結像する.したがって,レンズに近い側に受光 1.はじめに ファイバを置くことで,緑を中心とした可視域の強 私は,2014 年 6 月 23∼26 日にアメリカ,ハワイ い光を抑制して紫外光を相対的に強くすることがで で開催された「2014 OSA Classical Optics Congress」 きるが,その一方で赤外光は非常に弱くなってしま の一環として行われた「International Optical Design う.逆に,レンズから遠い側にファイバを置くと, Conference(光学設計国際会議)」に参加し,24 日 赤外光は強くなるものの紫外光は弱くなってしま に「Lamp Spectrum Modification by the Use of Lens う.そこで,紫外光と赤外光の両方を強くするた Aberration(レンズ収差を用いたランプスペクトル め,シリンドリカル(円柱状)レンズの使用を検討 の整形)」というテーマでポスター発表を行った. した.図 1 は,シリンドリカルレンズと球面レンズ を組み合わせた光学系であり,水平面および垂直面 2.研究背景 で光ビームが集束する様子を示している.非点収差 キセノンランプやハロゲンランプの発光は,可視 により,光ビームは縦長に結像した後,円形を経て 域で強く紫外域や赤外域では弱いため,広い波長域 横長に結像する.結像位置は色収差によっても変わ で分光計測を行う際には,スペクトルの両端で信号 るので,適切な光学設計により,紫外線と赤外線の 対雑音比(SN 比)が悪くなる.一方,紫外・赤外 結像点を一致させることが可能である.図 1 の光学 での測定精度を上げるために光源強度や検出器感度 系の場合,z=72 mm 付近で光を検出すると,紫外 を上げると,可視域で飽和が起こってしまう.従来 光と赤外光が強く観測される一方,円形に広がる可 は,カラーフィルタで可視域の光を抑制する方法が 視光を抑制して,ランプ強度の波長による違いを低 取られているが,個々の光源スペクトルや,それぞ 減できると予想される. れの計測で要求されるスペクトル形状に合わせて, その都度多層膜フィルタを設計・製作することは難 4.実験結果 しい.通常,収差はレンズ設計の障害となるが,逆 今回の実験では,光源としてキセノンランプを用 にこの特性を利用すると,光源スペクトルの平坦化 いた.レンズ系を通さずに測定したランプのスペク や整形が可能になる.本報告では,シリンドリカル トルを図 2 に示す.幅広い波長域での発光が見られ 図1 シリンドリカルレンズと球面レンズを組み合わせた,スペクトルを平坦化するための光学系 ― 55 ― 図2 キセノンランプの光源スペクトル 図4 光軸からはずれた位置で測定したスペク トル 置がさらに遠くなると,74, 76 mm のように紫外域 での光量が弱くなってしまう.72 mm のスペクト ルでは,紫外域の強度が可視域の強度と同じ程度ま で上がっており,赤外域でも半分程度になってい る.また,球面収差を考慮して光軸からはずれた適 当な位置で測定すると,図 4 のようにほぼ平坦なス ペクトルが得られた. 5.まとめ 図 3 光軸上で測定したスペクトル.図中の数 字は,球面レンズから測定位置までの距離 z を 表す. レンズ系の色収差は通常の分光計測において障害 となるが,これを逆に利用すると,光源スペクトル を平坦化できることを示した.今回の実験では検出 るが,紫外域(380 nm 以下)や赤外域(770 nm 以 位置を光軸方向にだけ移動させたが,光軸に垂直な 上)では強度が弱く,500 nm 付近の可視域と比べ 方向にも移動させると,特定の波長域だけを強くす ると最大で 10 倍程度の差が生じている.この光を ることもでき,簡便なスペクトル調整法として有用 図 1 で設計したレンズ系に通して,分光器の光ファ である. イバを光軸方向に移動させながら測定したスペクト ルを図 3 に示す.球面レンズから 68 mm 離れた位 6.おわりに 不慣れな英語で聞き取れないことが多かったが, 置では,紫外光の縦長結像位置に近いため,紫外域 での強度が強くなっているが,全体的に光量不足で 参加者の方々から丁寧に質問や意見をいただき,議 ある.70 mm の位置では,まだ赤外光の結像位置 論をしている中で非常に良い経験ができた. から離れているため,赤外域での強度が弱い.72 また,今回の発表を行うにあたって,懇切なご指 mm の位置では,紫外光が横長に,赤外光が縦長に 導をいただいた斉藤光徳教授をはじめ,斉藤研究室 結像するので,スペクトルの両端とも強度が強くな の皆様に,この場を借りて厚く御礼申し上げます. って平坦な形状になっていることが分かる.検出位 ― 56 ―
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