第 61 回応用物理学会春季学術 講演会に参加して

特集
学生の研究活動報告−国内学会大会・国際会議参加記 20
第 61 回応用物理学会春季学術
講演会に参加して
上
見
洋
人
Hiroto UEMI
電子情報学専攻修士課程
2年
1.はじめに
図 1 2 枚のシリンドリカルレンズを組み合わ
せた,スペクトルを平坦化するための光学系.
光源から 1 枚目のレンズまでの距離を s ,レン
ズ間隔を d ,レンズから測定位置までの距離を
z とする
私は,2014 年 3 月 17∼20 日に青山学院大学で開
催された「第 61 回応用物理学会春季学術講演会」
う.逆に,レンズから遠い側にファイバを置くと,
に参加し,17 日に「レンズ系の非点収差と色収差
赤外光は強くなるものの紫外光は弱くなってしま
を用いたスペクトル整形」というテーマで発表を行
う.そこで,紫外光と赤外光の両方を強くするた
った.
め,シリンドリカルレンズの使用を検討した.図 1
は,2 枚のシリンドリカルレンズを互いに直交する
2.研究背景
ように置いた光学系であり,水平面および垂直面で
キセノンランプやハロゲンランプの発光は,可視
光ビームが集束する様子を示している.非点収差に
域で強く紫外域や赤外域では弱いため,広い波長域
より,光ビームは縦長に結像した後,円形を経て横
で分光計測を行う際には,スペクトルの両端で SN
長に結像する.結像位置は色収差によっても変わる
比が悪くなる.一方,紫外・赤外での測定精度を上
ので,適切な光学設計により,紫外線と赤外線の結
げるために光源強度や検出器感度を上げると,可視
像点を一致させることが可能である.焦点距離 100
域で飽和が起こってしまう.従来は,カラーフィル
mm(波長 588 nm)の石英シリンドリカルレンズを
タで可視域の光を抑制する方法が取られているが,
2 枚置いた場合(間隔 15 mm)の結像位置を z とす
個々の光源スペクトルや,それぞれの計測で要求さ
ると,光源の位置 s が 290 mm の時,波長 350 nm
れるスペクトル形状に合わせて,その都度多層膜フ
の垂直面の結像点と 800 nm の水平面の結像点が一
ィルタを設計・製作することは難しい.通常,収差
致する.よって,z =140 mm 付近で光を検出する
はレンズ設計の障害となるが,逆にこの特性を利用
と,紫外光と赤外光が強く観測される一方,円形に
すると,光源スペクトルの平坦化や整形が可能にな
広がる可視光を抑制して,ランプ強度の波長による
る.本報告では,シリンドリカルレンズの非点収差
違いを低減できると予想される.
と色収差を利用して光源スペクトルを平坦化するこ
とについて検討した.
4.実験結果
今回の実験では,光源としてキセノンランプを用
3.レンズ系の設計
いた.レンズ系を通さずに測定したランプのスペク
正常分散を持つガラスレンズでランプ光を集める
トルを図 2 に示す.イオンの再結合放射と電子の制
と,レンズに近い方から紫外・青・緑・赤・赤外の
動放射にもとづく連続スペクトルに加え,原子内の
順で結像する.したがって,レンズに近い側に受光
電子遷移にもとづく線スペクトルが見られる.連続
ファイバを置くことで,緑を中心とした可視域の強
スペクトルによって太陽光に近い幅広い波長域での
い光を抑制して紫外光を相対的に強くすることがで
発光が見られるが,紫外域(380 nm 以下)や赤外
きるが,その一方で赤外光は非常に弱くなってしま
域(770 nm 以上)では強度が弱く,500 nm 付近の
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ホールをマルチチャネル分光器の光ファイバプロー
ブ(コア径 400 μ m)の先端に装着し,光軸方向に
移動させながら測定を行った.球面レンズから 128
mm 離れた位置では,紫外光の縦長結像位置に近い
ため,紫外域での強度が強くなっているが,全体的
に光量不足である.137 mm の位置では,まだ赤外
光の結像位置から離れているため,赤外域での強度
図2
キセノンランプの光源スペクトル
が弱い.140 mm の位置では,紫外光が横長に,赤
外光が縦長に結像するので,スペクトルの両端とも
強度が強くなって平坦な形状になっていることが分
かる.検出位置がさらに遠くなると,148, 152 mm
のように紫外域での光量が弱くなってしまう.140
mm のスペクトルでは,紫外域の強度が可視域の半
分程度まで上がっており,赤外域でも 1/4 程度にな
っている.また,光軸からはずれた適当な位置で測
定すると,図 4 のようにほぼ平坦なスペクトルが得
られた.
5.まとめ
図 3 光軸上で測定したスペクトル.図中の数
字は,2 枚目のレンズから測定位置までの距離
z を表す
レンズ系の色収差は通常の分光計測において障害
となるが,これを逆に利用すると,光源スペクトル
を平坦化できることを示した.今回の実験では検出
位置を光軸方向にだけ移動させたが,光軸に垂直な
方向にも移動させると,特定の波長域だけを強くす
ることもでき,簡便なスペクトル調整法として有用
である.
6.おわりに
今回は口頭発表を行ったが,参加者の方々から多
図 4 光軸からはずれた位置で測定したスペク
トル
くの質問や意見をいただき,ディスカッションをし
ている中で非常に良い経験ができた.
可視域と比べると最大で 10 倍程度の差が生じてい
今回の発表を行うにあたって,懇切なご指導をい
る.この光を図 1 で設計したレンズ系に通して測定
ただいた斉藤光徳教授をはじめ,斉藤研究室の皆様
したスペクトルを図 3 に示す.直径 50 μ m のピン
に,この場を借りて厚く御礼申し上げます.
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