特集 学生の研究活動報告−国内学会大会・国際会議参加記 21 2014 OSA Classical Optics Congress に参加して 野 上 淳 3.褪色現象と防止法 シリコーンゴムは,シリコーンオイルと硬化剤 平 (信越シリコーン,KE-103)を内径 35 mm のガラ Jumpei NOGAMI ス瓶の中で混合して作製した.分散させる色素とし 電子情報学専攻修士課程 1年 てロダミン 6 G を使用したが,シリコーンオイル には溶けないため,イソプロピルアルコール 1.はじめに (IPA)に溶かした後,シリコーンオイルと混合し 私は,2014 年 6 月 23∼26 日にアメリカ,ハワイ た.この色素溶液には,シリコーンゴム中の色素の で開催された「2014 OSA Classical Optics Congress」 循環を速めるためにトルエンも追加した.その後硬 の一環として行われた「Optical Fabrication and Test- 化剤を加え,ガラス瓶の中で約 8 時間かけて常温で ing(光学設計と検査)」に参加し,23 日に「Post-Curing 硬化させた.トルエン,IPA,シリコーンオイル, Dye Diffusion for Creating a Durable Photo polymer 硬化剤の体積混合比は 32 : 8 : 58 : 2 とし,この混合 (耐久性のある光学ポリマー作製のための硬化後色 溶液中の色素濃度は 20 μM(2×10−5mol/l)とした. 素拡散)」というテーマで口頭発表を行った. 図 1(a)(b)は硬化剤添加直後と 9 日後の試料の 写真である.試料は最初赤色を呈していたが,9 日 2.研究背景 後には薄くなっていた.(c)の透過率を見ても,時 色素レーザは色素溶液を絶えず循環させることに 間が経過すると吸収帯が小さくなり,色素の褪色が より,出力効率を維持したまま長時間発振できるよ 起きていることがわかる.シリコーン自体には色素 うにしている.しかし,ポンプや電源などの部品が との反応性がほとんどないと考えられ,実際,図 2 大型となり,操作性が悪いことやメンテナンスに手 間がかかるという問題がある.そのため小型軽量化 のため固体化の研究がなされている.しかし固体中 では液体のように色素分子を流動させることができ ないので,光による劣化で素子寿命が短くなるとい う問題がある.色素を分散させる固体として,優れ た透明性を持ち,常温で硬化可能なシリコーンゴム (ポリジメチルシロキサン,PDMS)が注目されて いる.シリコーンゴムは固体でありながらミクロに 図1 は液体と同じぐらい自由な構造を持ち,分子間の空 シリコーンゴム中の色素の褪色 (色素濃度 20 μM) 隙を通って溶液や色素が流動することが知られてお り,この性質を用いることにより,光学素子の長寿 命化が期待される.しかし,シリコーンゴムに色素 を分散させると時間経過とともに光学機能が低下す る褪色現象が発生したため,本研究では,褪色が起 こる原因について調べ,それを防止する試料作製法 について検討した. 図2 ― 57 ― シリコーンオイルの写真とスペクトル (a)(b)のように硬化剤を入れる前の混合液では色 8 : 2)を使用した.注入する混合溶液の色素濃度は が消えず,(c)の透過率を見ても褪色は起きていな 50 μM,体積比は 40 vol%(残りの 60% はシリコー かった.したがって,硬化剤と触れないように色素 ン)としたので,均一に分散すればシリコーン中の を分散させる試料作製法が必要である. 色素濃度は 20 μM になると予想した.加熱処理を 行なったシリコーンに色素溶液を注ぐと,図 4 のよ 4.色素浸透法 うに浸透し,1 か月後にはシリコーンが均一に着色 シリコーンの架橋反応が完了して硬化剤が消費さ した.図 5 は注入から 30 日後と 60 日後の透過率を れた後で色素を浸透させることを試みた.図 3 にそ 測定した結果であるが,ほとんど変化がないことか の手順を示している.8 時間の硬化後にシリコーン ら,30 日で色素が均一に浸透し,60 日の間には褪 ゴムを 170℃ で 8 時間加熱して硬化剤を蒸発させ, 色も起こらないことが分かる. 未反応の硬化剤が残らないようにした.IPA だけで はシリコーン中に浸透しなかったので,色素の IPA 5.まとめ 溶液にトルエンを混合した溶液(トルエン:IPA= シリコーンオイルを色素溶液と混合し硬化させる と,色素の褪色が発生し光学機能が低下する.褪色 の原因は硬化剤にあるため,硬化後のシリコーンゴ ムに残った未反応の硬化剤を除去し,色素溶液を浸 透させた.色素溶液は約 1 か月でゴム全体に均一に 拡散した.透過率を測定したところ,褪色は発生し ておらず,安全な色素分散ポリマーを作製すること ができた.今回の作製方法では,色素が均一に拡散 するまでの時間が長いという問題があるが,加熱処 図3 浸透法による作製手順 理を済ませたゴムを色素溶液に直接漬けることで改 善可能である. 6.おわりに 国際会議ではポスターセッションにも参加した. 図4 色素溶液の浸透 英語に不慣れであったため,内容を理解できないこ ともあったが,英語で会話することの難しさを知る 良い経験となった. また,今回の発表を行うにあたって,懇切なご指 導をいただいた斉藤光徳教授,およびプレゼンテー ションをご指導いただいたイングリッシュラウンジ の宮田ワンダ先生に,この場を借りて厚く御礼申し 上げます. 図5 色素溶液注入から 60 日後の透過率 ― 58 ―
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