マグロ加工残渣からの高機能性DHA・EPA含有油脂の抽出・濃縮技術の

地域課題に係る産学共同研究委託事業 概要報告書
1.委 託 事 業 名 :
マグロ加工残渣からの高機能性 DHA・EPA 含有油脂の抽出・濃縮
技術の開発
2.委託事業者名:
委託団体:伊比水産株式会社
連携大学:国立大学法人 静岡大学工学部化学バイオ工学科
教授 佐古猛、助教 岡島いづみ
3.研究成果概要:
1
はじめに
清水港は、冷凍マグロ水揚げ日本一と言われる港だが、その水揚げ量は最盛期の 1/3 にま
で減少している。その中で、未利用資源の有効活用策として、
「高付加価値の DHA・EPA 高
濃度含有油脂の生産」という目標を立てた。魚油(特に青魚)の中には、DHA・EPA が含まれ、
これらは生活習慣病の予防、血液循環の向上、脳の活性化(認知症予防)などの効果が期待さ
れており、今後もサプリメント利用率の高い中高年層への販売増加が見込まれる。
現在、マグロ加工残渣からの魚油の抽出は、残渣加工場において、加熱法(煮出し法)とい
う厳しい条件のもとに処理されており、品質の劣化が懸念されるところである。そこで本研
究では、温和な抽出操作として期待される超臨界二酸化炭素による魚油抽出と、その後の
DHA・EPA の濃縮技術を組み合わせ、品質劣化の少ないサプリメントとして商品化(新事業
化)を計ることを目的とした。
2
目的と要旨
本事業では、マグロ加工残渣から高効率で魚油を抽出する技術及び魚油中の DHA や EPA
含有油脂を高濃度かつ高品質で分離・濃縮する技術を開発することを目標とする。具体的に
は、①マグロ加工残渣から効率よく魚油を抽出するための粉砕及び乾燥工程の最適化、
②マグロ加工残渣から魚油の抽出及び魚油から DHA や EPA 含有油脂の分離・濃縮条件の最
適化を行い、これらを組み合わせた全体プロセスを構築する。
マグロ加工残渣からの DHA や EPA 含有サプリメントの商品化に対する本事業の位置づけを
図 1 に示す。将来的には本事業で開発した機能性物質の分離・濃縮技術を活用して、広くサ
プリメント等の健康食品市場に参入することを目標とする。
本事業で技術開発
加工残渣の
粉砕・前処理
魚油抽出
DHA 及び EPA
含有油脂の濃縮
DHA、EPA 濃縮
サプリメント等
油脂の動物試験
製品試作
図 1 本事業の位置付け
実用化
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研究結果概要
1.[乾燥]
マグロ加工残渣から魚油を抽出するための前処理工程の最適化ついては、当社現有のサイ
レントカッターによる粉砕とマイクロ波解凍乾燥機で確認した。事業用で使用していたため、
詳細な実験条件での試みはできなかったが、品質を左右するほどの影響は認められなかった。
そのため、食用クラッシャーでの粉砕による実験材料の提供とし、血合部分、骨肉皮部分に
ついてはバンドソー作業の際の残渣(切り粉)を実験材料として提供することとした。
その各部位分の組成は次の通りであった。
図 2 マグロ加工残渣の部位別の組成
これより、油分については他の残渣部よりも、頭部に圧倒的に多く含まれていることがわか
る。以上のことから、今後はマグロ頭部を用いて魚油抽出、濃縮実験に取り組むことにした。
2.[抽出]
図 3 の装置を用いて
超臨界二酸化炭素を用
いるマグロ残渣からの
DHA・EPA 含有油脂
の抽出条件の最適条件
を検討した。この場合
の抽出率は、ヘキサン
溶媒抽出を 100%と見
立てて比較した。その
結果、図 4 に示すよう
に、60℃、30MPa、3
時間でマグロ残渣中の
図 3 超臨界二酸化炭素抽出装置
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魚油の 93%を抽出することができた。また、抽出魚油の脂肪酸組成を分析したところ、抽出
前後で組成は殆ど変化していないことも確認している。
図 4 超臨界二酸化炭素による加工残渣からの魚油の抽出率の温度依存性
(抽出圧力 30MPa)
3.[濃縮]
次に、図 5 に示す実験装置を用いて、超臨界二酸化炭素と 10%硝酸銀担持シリカゲル充填
カラムを用いた濃縮実験を行った。実験結果を図 6 に示す。魚油中の DHA は、濃縮前は魚
油中に 14.9wt%含まれていたが、経過時間 9~10 時間の間に回収された油分中で最大の
53.6wt%まで濃縮することができた。また EPA は濃縮前の濃度は 5.9wt%だったが、経過時
間 7~8 時間の間に回収された油分中で最大 51.3wt%まで濃縮することができた。
1:CO2 ボンベ
2:冷却器
3:高圧ポンプ
4:予熱コイル
5:高圧溶解槽
6:スターラー
7:恒温水槽
8:高圧濃縮槽
9:背圧弁
10:トラップ瓶
11:フィルター
12:積算流量計
T:温度計
図 5 超臨界 CO2+充填剤を用いた流通式濃縮装置
P:圧力計
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図 6 超臨界 CO2+硝酸銀担持シリカゲル充填カラムによる魚油中の
DHA 及び EPA 濃縮(60℃、30MPa)
4.[市場調査]
市場調査は伊比水産が、静岡商工会議所産業振興部の相磯コーディネーターの協力を得て担
当した。
(1)残渣加工(魚油、魚粉製造)の工場見学・情報入手―
事前調査における「焼津ミール社」(焼津)「平金産業」(静岡)の2社に協力頂いた。
(2)サプリ製造工場所見学・情報入手―
静岡に於いて、サプリメントの自社開発・OEM 製造・日本予防医学研究所による研究を行
っている「アムスライフサイエンス」に協力頂いた。
(3)文献による資料入手―図書館、市販書籍による―
(4)展示会等における市場動向の調査―
東京シーフードショーやスーパーマーケットショーに参加した。
高齢化社会を迎える中で、サプリメント業界全体が上昇機運にある中で、EPA、DHA は
市場規模として 53.5 億円(2012 年)を有し、市場伸長率(2013 年/2008 年)も 110%としている
(富士経済推計)
他方、魚油由来成分と言うことで、日本水産、マルハニチロ食品が各 40%、20%のシェア(数
量ベース)を有している。
しかし、今後現在の 20%台の含有率を高めた製品が求められており、濃縮技術の開発は大き
な力となり得る。
5.[まとめと今後の課題]
以上のように、当法の安全性・優位性は確認され、市場での可能性もあると考える。事業
化しようとする時は、装置の高コストがネックと思われるが、濃縮法における優位性は、こ
のコストをカバーし得る可能性もある。実現には、魚油メーカー、サプリメントメーカーと
の協力、共同化などが必要であろう。いずれにしても、全体プロセスの物質収支とイニシャ
ル・ランニングコストを明確にしていきたい。