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Hirosaki University Repository for Academic Resources
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植物細胞壁のフェノール性物質ジフェルラ酸の合成研
究
北原, 晴男, 沼田, 雅子, 元村, 佳恵
弘前大学教育学部紀要. 78, 1997, p.51-56
1997-10-31
http://hdl.handle.net/10129/2741
Rights
Text version
publisher
http://repository.ul.hirosaki-u.ac.jp/dspace/
51
弘前大学教育学部紀要 第 7
8号 :51
-56 (
1
997
年1
0月)
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akiUni
v.7
8:51
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997)
植物細胞壁 のフェノール性物質
ジフェル ラ酸 の合成研究 1'
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北原
晴男* ・ 沼 田
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TAHARA
雅子 * ・ 元村
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任意**
Yos
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論文要 旨
植物細胞壁 の主な構成成分 はセルロース,ヘ ミセル ロース及 びペ キチ ンな ど多糖類 であ り,
これ ら多糖間 は水素結合,カル シウムイオ ンな どで架橋 されている。 これ ら架橋構造 の中で フ
ェノール性物質 は細胞 や組織 の伸長 を制御す ると考 えられ,植物生理学者 に注 目されている。
しか し植物 にお けるフェノール性物質の分布や役割 はほ とん ど解明 されていないため,植物
細胞壁 のフェノール性物質 の研究 に深 く関連す るジフェルラ酸 は必要不可欠 な物質であるが,
市販品 はな く, これ ら研究の妨 げ となっている
。
そこで ジフェルラ酸 の合成 を行 うことによ り,標品 とし,植物 におけるフェノール性物質の
分布や役割 を研究す ることとした。
キーワー ド :ジフェルラ酸,化学合成,植物細胞壁 の成長制御, ア リールカ ップ リング反応
Ⅰ.背 景 (
BackGr
ound)
1)植物細胞壁 はセル ロース,ヘ ミセルロース及
i
r びペキチンな どで構成 され, これ ら多糖間 は
水素結合, カル シウムイオ ン架橋 されている。喪 橋構造 の中で特 にフェノール性物質 は細胞や
組織 の伸長 を制御す ると考 えられ,植物生理学者 に注 目されている1
)
0
イネの培養細胞 な どで は, ジフェルラ酸が検 出 され, またコムギの節間か らはフェル ラ酸や
シ リンガ酸 な どを含むフェノール酸 のオ リゴマーが検 出 されている。
しか し植物,特 に果実の果肉組織 におけるフェノール性物質 の分布やその役割 はほ とん ど解
明 されいない。植物細胞壁 のフェノール性物質の研究 において, フェル ラ酸 は市販品 として入
手が容易であるが, ジフェルラ酸 は必要不可欠な物質 に もかかわ らず市販品がな く,研究 の妨
げ となっている。
f
er
ul
i
cAci
d)の化学合成 を行 うことによ り,標品 とし,植物 に
そこでジフェルラ酸 (1,Di
おけるフェノール性物質の分布や役割 を検討す ることとした (
Fi
g.1)
0
*弘前大学教育学部 自然科学科教室
De
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*弘前大学農学部生物資源科学科教室
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2
北原
晴男 ・沼田 雅子 ・元村
COOH
OH
佳恵
COOH
OH
F
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g.1 St
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fDi
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l
i
cAc
i
d (1)
Ⅰ
Ⅰ.ジフェル ラ酸の合成例
1)酵素法
植物 におけるフェノール性物質 の研究 において,標品 としてのジフェル ラ酸 の合成 は,バニ
ni
l
l
i
n)を出発原料 として,∫.
Ba
umc
a
r
t
n
e
rと H.Ne
uko
m の方法 に従 い 2
)
,H2
リン (2,Va
02
と酵素 (
Pe
r
o
xi
da
s
e
)を用 いてジバニ リン (3,Di
va
ni
l
l
i
n)としたのち, アセチル化 し,引
l
o
ni
cAc
i
d) との縮合反応 によって合成 3)している (
Fi
g.
2)0
き続 きマロン酸 (4,Ma
H202
Per
oxi
da
s
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MeO
4
・
Vani
l
l
i
n(
2)
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3)
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f(1)
しか しこの合成法 は酵素 を用いるため,得 られ るジフェル ラ酸 の量 は極 めて少 な く,本研究
には適 さない ものであった。
2)化学合成法
酸 化 的 ア リー ル カ ップ リング反 応 が 用 い られ て い る。M.
G.
Dr
umo
n
dら 4)は K2S204と
Fe
SO。, また J
.
M.
Bo
b
bi
t
tと Z.
Ma5)はオキ ソアンモニ ウム塩 (
0Ⅹo
a
mmo
ni
umSal
t
)をそ
れぞれ用 いて,バニ リンよりジバニ リンを合成 している。
しか しこれ らの方法 は,実際に検討 を行 ったが, 目的のジバニ リンを得 ることはで きなか っ
た 。
そ こで新 たな方法でのジバニ リンの化学合成 を検討す ることとした0
植物細胞壁 の フェノール性物質 ジフェルラ酸の合成研究
5
3
l
l
【
.合成計画
ジフェルラ酸 の合成 において,最 も重要な鍵反応 は,ア リール化合物のカ ップ リング反応 と
考 えた。 またカ ップ リング反応の原料 として は,反応 の複雑性 を避 けるために,バニ リンの誘
導体 を用いることとした。
近年カ ップ リング反応,特 に抗菌性 な ど生理活性 の面か らア リール化合物のカ ップ リング反
応 は注 目され,多 くの論文や総説が報告 されている6)。
ア リール化合物 のカ ップ リング反応 としては,銅試薬 を用いたハ ロゲ ン化ア リールのカ ップ
リング反応である Ul
l
man反応が古 くか ら知 られている7
)(
Fi
g.3)
。
F
i
g.3 UH
mannRe
ac
t
i
on
また最近, クロスーカ ップ リング反応やホモーカ ップ リング反応が開発 され,多 くの研究が
なされてい る6)0
1) クロス-カ ップ リング反応
ニ ッケルやパ ラジュムを用いて,ハ ロゲン化 ア リール とア リール金属試薬 (
Gr
i
gnar
d試薬,
Or
ganozi
nc試薬, Al
umi
ni
um 試薬, St
annane試薬, Bor
ane試薬) との反応 (
Fi
g.
4)
。
Pd orNi
・ - ト
Ar
X+Ar
M
Ar・Ar
■
+MX
F
i
g.4 Cr
o
s
s
Coupl
i
ngRea
c
t
i
on
2)ホモーカ ップ リング反応
化学試薬や電極 を用いたハ ロゲ ン化 ア リールのカ ップ リング反応 (
Fi
g.5)
0
Pd orNi
2Ar
X+2o(orZn)
Ar・Ar+2X (orZnx2)
F
i
g.5 Ho
moCou
pl
i
ngRea
c
t
i
o
n
これ らカ ップ リング反応の中で,最 も反応や収率が安定 していると考 えられ る Borane試薬
を用いることとし,ジバニ リン誘導体 (4)に導いたのちに,
縮合反応 によってジフェルラ酸 (1)
を合成す る計画 を立案 した (
Fi
g.
6)
。
5
4
北原
晴男 ・沼田
雅子 ・元村
任意
CH(
OR) C
H(
OR■
)
Di
f
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uL
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I
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L
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4
)
C
H
(
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2
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R
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㊥
x
OR●
=
三 。㊥OR-M
Va
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l
l
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n(
2
)
Fi
g.6 Synt
het
i
cofPl
anofDi
f
er
uH
cAci
d (1)
Ⅳ.結果 ・考察
初 めにア リールカ ップ リング反応 を行 う原料 の合成 を検討 した。
Z,Yang8) らの方法 に従 い,バニ リンを酢酸中,臭素 と反応 させ, プロム体 (5)得た。次 に
ア リールカ ップ リング反応 を行 う時 に障害 となるアルデ ヒ ド基 と水酸基の保護 を行 った。
アルデ ヒ ド基 の保護 はベ ンゼ ン中,エチ レング リコール と p- トルエ ンスルホン酸 を反応 さ
せ, 目的のケタール体 (6)を8
6%の収率で得 ることがで きた (
Fi
g.
7)0
β
M.
。
感
Br
量
Va
ni
l
l
i
n(
2
)
(5)
(
CH
2
0H)
2
=ニ
P
・
Ts
OH
8
6%
_
i
Me
O
_
≡_
(6)
Fi
g.7 Synt
het
i
cofKet
al(
6)
ケタール体 (6)が合成で きたので, カ ップ リング反応 において反応 を阻害す ると思われ る水
酸基 の保護 とホウ素体 (8)の合成 を行 った。
i
Pr
)2
NEt存在下 MOMClと処理 し,2
8% と低収率で はあるが 目的の化合
水酸基 の保護 は (
物 (7)を合成で きた。引 き続 き nBuLiと反応 させ リチウム塩 とし, B (
OMe)。
で反応 を補足
7
% の高収率でホウ素体 (8)を得 た (
Fi
g.
8)0
し,8
55
植物細胞壁のフェノール性物質 ジフェルラ酸の合成研究
1
)n・
Bi
i
L
MOMCl
Br
MeO
忠
(
i
・
Pr
)
2
NEt
MeO A
Br
B(
OH )2
8
7%
OMOM
(6)
2)A(
OMe
)
3
MeO 忠
(7)
OMOM
(8)
F
i
g.8 Su
bs
t
r
a
t
e
s(7) an
d(
8) o
fCou
p‖
n
gRe
a
c
t
i
o
n
カ ップ リング反応 の重要中間体 (7)と(8)が合成で きたので, いよいよカ ップ リング反応 を
行 うこととした。
PPh)。を用い,DME 中で 1週間反応 を行 った ところ, 冒
触媒 としてパ ラジュウム試薬 Pd(
的のジバニ リン誘導体 (9)を NMR によって観測す ることがで きた (
Fi
g.
9)
0
M..
A
M
B,
・
OH)
2
B(
MeO A
OMOM
(7)
(S)
Pd(
PPh3
)
4
aq.
Na2
CO3
Et
OI
I
,DME
MeO
三
三
_
_
_
OMOM
、
OMe
OMOM
(9)
F
i
g.9 Cou
pl
i
n
gRe
a
c
t
i
ono
f(
7)an
d(
8)
現在, ジバニ リン誘導体 の収率改善 と反応時間の短縮及 びジフェル ラ酸への縮合反応 を検討
している。
以上述べて きたように, ジバニ リン誘導体 の合成がで きたので, ジフェル ラ酸 の大量合成 の
方法が確立で きた。
Ⅴ.謝
辞 (
Acknowl
egement
)
270MHzNMR スペ ク トルを測定 して頂 いた本学理学部氏 に感謝致 します。
5
6
北原
晴男 ・沼田 雅子 ・元村
任意
引用文献 (
Re
f
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en
c
e
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)
1)北原晴男,弘前大学教育学部紀要,第 7
7号 ,3
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年 3月.
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