思考をつなぐ算数の授業 指導助言者 司 発 1. 会 表 者 者 元大阪市立西中島小学校長 大阪教育大学講師 豊中市立新田小学校 本学附属池田小学校 小嶋 理裕 真野 祐輔 樋口万太郎 吉田 崇之 はじめに 『学習指導要領』(2008)において、算数科の目標に「表現する能力」が付け加えられ、授業の中で、子どもたちが いろいろな考えを出し合い、お互いに学び合っていく場を設定することが求められている。また、表現する過程で、自 分の考えのよいところや誤りに気づいたり、考えをさらに深めたりすることも期待されている。単に、計算の答えを発 表するなどの、結果としての表現でなく、考えに至った過程を、根拠を明らかにしながら表現することで、この「表現 する能力」は育成されるのではないかと考える。 しかし、表現するためには、まず自分の考えや疑問を持つことが必要である。 「あれ?」 「知っていることと違うぞ。 」 というような、“ずれ”をしかけることで、子どもたちが思わず考えたくなる、そして表現したくなる教材づくりを目 指す。 さらに、それぞれの子どもに生まれた考えや疑問を「点」とするなら、指導者がその「点」同士をつなぎ線にする。 最初の線は指導者がつなぐが、やがて子供達同士で線をつなぎ始め、たくさんのつながった線が面をつくり、高さや深 みが生まれ、立体的につながっていく。そんな授業を創っていきたいと考える。 思考をつなぐ手だてとしては、『 「ずれ」の創出』、『比べる』、『仲間分け』 、『指導者の言葉掛け』などが考えられる。 本発表ではそのうち、前の2つについて、実践をもとに述べる。 2. 思考をつなぐ手だて ① 第 2 学年 分数 〜“ずれ”が生み出す思考〜 この実践は 2 年生のものだが、中学年で深める分数において素地になるものであり、あえて提案したい。 1 「2m を3等分したうちの 1 つ分は m である」という分数学習での有名なミスコンセプションがある。それは、 3 全体と部分とを意識していないからおこる。そのため、1 を等分するする活動だけで終わらせるのではなく、分割 されたものを合わせて全体を作るという活動を行い、分数という新しい数を量としてとらえる、量感覚を養う授業 を行った。 本時の目標 分割されたものを合わせて、もとの丸にする活動を通して、全体と部分の関係について考え、等分の意味理解を深 めることができる。 分割されたものを合わせて、もとの丸にする活動 「このケーキは何分の 1 といえるかな。 」 1 ・全体の形を提示し、つぎに にカットされたものを提示。“組み合わせると 1 6 に戻る。 ”という活動を繰り返し行い、全体と部分を意識させた。 全体と部分の関係について考える 〜 1 6 を作る活動〜 「丸い紙をわたすので、ぴったりの大きさを作ってみよう。 」 1 1 1 ・友達の発言をもう一度説明させる活動を通して既習の 、 と同様の作り方で も作ることができるという見通しを持たせる。 2 4 6 等分の意味理解を深める 〜誤概念をしめし、思考のずれをつくる〜 1 1 1 「この 3 つ( 、 、 )をあわせても、もとのケーキにもどりますね。だから 2 この 1 つ分も 1 3 3 6 といっていいですね。 」 ・ここまでに、 “組み合わせると 1 に戻る。 ”活動を十分に行ってきたので、 「さっ 1 きまで だったはず。 」と、思考のずれを生みだした。 3 ・「三つに分けたうちの一つ分」と「三つに等しく分けたうちの一つ分」は違う。 1 ・ といえない理由を表現させることで、 「もとの大きさを等しく分ける」意味理 3 解を深めることができた。 1 2 1 3 1 6 ② 第3学年 表とグラフ 〜比べることで思考をつなぐ〜 第3学年では、棒グラフについて、数量の大小や差などを読むことに加えて、最大値や最小値をとらえたり、項 目間の関係、集団のもつ全体的な特徴などを読み取ったりすることができるようにする。 授業の中では「棒グラフにしたら見えるようになった。 」と子供達がつぶやくことがねらいである。本提案では、 年度別のけがの数と発生場所を3年間分比べる。その際、異なる目盛りの付け方で表した 3 つのグラフを比較す ることで、目盛りの付け方を工夫し、目的に合った目盛りを用いることができるようにした。 本時の目標 ポスター作りを通して、目的を達成するために、適切な表や棒グラフを選び、その表や棒グラフを用いて自分の考 えを発表することができる。 ポスター作りの見通し ・ポスター作りの目的として、 “けががふえていること”と“けがの発生場所”を伝えたいことと設定した。 「けがを減らすためのポスター作りをします。先生の使う資料を見てもらいます。どうですか。 」 ・課題の多いポスターをあえて提示し、課題を共有する。 ☆タイトルがない…何のグラフかわからない。 ☆保健室に行った児童の数…けがをした児童の数はわからない。 ☆目盛りが 100 きざみ…目盛りが大きすぎて、変化がないように見える。 (けがを減らすという)目的を達成するために、適切や表やグラフを選ぶ 「(3年間のけがの場所の棒グラフと表を示し、 )共通していることは何ですか。 」 ・比べたいとおもうものについて、種類の異なるものを棒の長さという量の違いとし て表現しようとする図表が「棒グラフ」である。 ・しかし、資料として出した棒グラフでは、発生場所の多少は一目瞭然であるものの、 目盛りが50刻みで、年度別の差がわかりにくく、児童は「図ではけががふえてい ることは伝わりにくいので、表をポスターにのせることが効果的である。 」と選択し た。 表や棒グラフを用いて自分の考えを発表することができる。 ・次時に、ポスターの目的を「けがをへらすために、 “どの場所でのけがが一番多いか”を伝える。 」と整理し、ポ スターにのせる資料の検討を行った。 ・場所に着目したことで、「3年間分の棒グラフを組み合わせると、運動場が突出していることがわかりやすいこ と」 、 「経年で見ると微増していることがわかること」から、棒グラフの有効性についてしっかりとおさえること ができた。
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