「数学的な考え方」と児童の既有経験(含.思考経験)の関連を とらえた指導改善の在り方 研究指導主事 1 田口 哲郎 研究のねらい これまでの算数教育では,児童が幼児教育や日常の生活経験を通して身に付けてきたと考え られる既有経験(含.思考経験)が,十分に活用されないままに指導がされてきている面があ る。そこで,算数科で求められている「数学的な考え方」と,問題解決の場面における既有経 験(含.思考経験)との関連性をとらえ直し,その活用や定着のさせ方を重視した指導改善の 在り方を明らかにする。 2 研究の内容 (1 )「数学的な考え方」を支える既有経験(含.思考経験)の概要を明らかにする。 ○「数学的な考え方」を支える既有経験(含.思考経験)には ,「対応 」「弁別 」「相殺 」「置 換 」「消去 」「簡便化 」「還元 」「仮定 」「適用 」「直観 」「洞察 」「振り返り 」「条件の調整」等 が考えられる。 ○児童が「問題解決」を図る場合に,既習事項を自在に活用することができるようにするため には,幼児期から様々な日常の事象にふれる中で積み重ねてきたと考えられる,豊かな既有 経験(含.思考経験)を生かせるようにすることが大切と考える。 (2)具体的に既有経験(含.思考経験)をはたらかせて問題解決を図る場を設定する。 ○「 図形 」領域における円の面積の求積の応用として ,面積を公式に直接にあてはめて解くと , 手間と複雑さが想定される場面を設定する。 ○授業を通して,図形の重なった部分を処理するために ,「数学的な考え方」を支える既有経 験( 含 .思考経験 )として ,図形相互を「 対応させる 」・「 相殺し合う 」・「 置き換えをする 」, 「消去してみる」等の活用のさせ方を明らかにする。 (3)指導の実際 第6学年 算数科学習指導略案 1.単元名「6年のまとめ」---円の面積 2.本時の指導(1/1) (1)目標 〇正方形内の特別な形の面積を求めることができる。 (2)指導上の留意点 〇 児童に導入段階における試行錯誤から開放するために,時間をかけて説明し,自力で解決しなけ ればならない問題点を焦点化する。 〇 面積の公式を使って数値的に求積するのは最終段階にさせ(煩雑になるだけなので),重なりの処 理のために相殺・置換・消去(数学的な処理)等を通して,問題を解決させる。 (3)展開 時配 学 習 活 動 教師の働きかけと評価 ①問題を理解する。 ア エ オ 10 カ ク cm キ イ ウ 資料等 の面積を求める。この手裏剣形は,一辺 10cmの正方形の中におさまっている。 〇図形の構成を知る。 + + + = 〇四半円 4つの 構成図 10cm ②問題点を明らかにする。 2 3 3 15 分 2 4 3 ⇓ ●手裏剣形アカイキウクエオのうち 内部の形カキクオに重なりが ある。これをどう処理するか 2 ⇑ ⇑ 3 2 2 3 3 4 2 3 1 - 2 - = 1 2 半径 10cm の円 〇円の求積公式 (半径) × (半径) ×3.14を想起させ る。 3 1 1 2 〇各部分の面積を知らせる。(これを提示することは混乱の引き金となることもある) - 63 - 〇大円と 正方形 の関連 図 〇中心部 分の重 なり図 (10 ×10×3.14) ÷4=78.5 á 100-78.5 =21.5 á 〇部分積 図と数 値 (10 ×10×3.14) ÷2-100=57 á 1 2 1(10 ×10×3.14) -200=114 á 1 1 ③自力解決をする。 〇解決には,相当の困難も予想されるので,子どもの解決に必要と思われる図は 十分 〇重ね 図 に準備しておく。 ⅰ 重ね図から,四半円を引き去る操作 〇 四半円 2 2 3つ 3 3 1 3 4 - - = 2 2 2 2 3 3 1 1 2 2 1 25 1 3 2 分 2 - = 1 2 1 1 1 1 ⅱ 四半円に置き換えをする操作 A 1 エ カ 1 → → → → 図形アカオ 図形ウクキ 図形カアイ 図形キイウ 図形イキカ 図形イキカ 図形エオク 図形エオク → → → → 図形アカオ 図形ウクキ 図形ウクキ 図形アカオ 図形エオク 図形クウエ → → 図形アカオ 図形カアイ 図形エオク 図形オエア → → 図形ウクキ 図形キイウ 〇置き換 え図 4つ B ア オ 図形エオク 図形エオク 図形オエア 図形クウエ 2 ク 1 又は 又は C 1 キ イ ウ D ④まとめる。 ○10×10×3.14÷4=78.5 答え78.5 á 5分 面積を求めるには,直ぐに公式を使って計算するので はなく,重なりをなくしたり,置き換えをしたりして解 けばよい。 4 研究のまとめ (1)成果 ○「 数学的な考え方 」を支える既有経験( 含 .思考経験 )として ,第6学年の「 6年のまとめ 」 の単元における「図形」領域において,図形相互を「対応させる 」・「 相殺し合う 」・「 置き 換えをする 」,「消去してみる」等の活用のさせ方を明らかにすることができた。 ○「数学的な考え方」を支える既有経験(含.思考経験)を視点に,小学校高学年(第5・6 学年)の「図形」領域で学習させることのできる教材の開発をすることができた。 (2)課題 ○研究領域を ,「数と計算」の領域の単元レベルまでしぼり込み,視点を明確にした調査項目 を作成し,研究対象を幼児並びに小学校児童に設定する。 ○各学年の「数と計算」の領域において ,「数学的な考え方」を支える既有経験(含.思考経 験)の活用が想定される箇所を拾い出す。 - 64 -
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