2015 年 11 月 26 日 No.10 数学を学ぶ (微分積分 2)・授業用アブストラクト §10. 長方形領域上での重積分 この節以降では、2変数関数の積分、すなわち、重積分について学ぶ。ここでは、長方形領 域上で定義された関数に対する重積分の定義を述べ、連続関数に対しては、重積分の値が1変 数関数の定積分を2回行うことで求められることを説明する。 ● 10 - 1 : 長方形領域とその分割 閉区間 [a, b] と閉区間 [c, d] に対して、R2 の部分集合 [a, b]× d [c, d] を (10 - 1 a) [a, b] × [c, d] = { (x, y) ∈ R2 | a ≤ x ≤ b, c ≤ y ≤ d } c a によって定義する。[a, b] × [c, d] を長方形領域と呼ぶ。 長方形領域 R = [a, b] × [c, d] の分割 ∆ とは、a か b R ij d yn ら始まって b で終わる狭義単調増加な有限数列 = ··· ∆(1) : a = x0 < x1 < · · · < xm−1 < xm = b と c から始まって d で終わる狭義単調増加な有限数列 x x = xm との組のことをいう。これは長方形領域 R を座標軸 = = c ∆(2) : c = y0 < y1 < · · · < yn−1 < yn = d y y に平行な直線によって、mn 個の小さな長方形 a b (10 - 1 b) Rij = [xi−1 , xi ] × [yj−1 , yj ] ··· (i = 1, 2, · · · , m, j =, 1, 2, · · · , n) に分割したものを表わしている。 |∆| = max{x1 − x0 , · · · , xm − xm−1 , y1 − y0 , · · · , yn − yn−1 } を分割 ∆ の細かさと呼ぶ。ここで、max は最大なものを表わす記号である。 ● 10 - 2 : リーマン和 f (x, y) を長方形領域 R = [a, b] × [c, d] を定義 (ξij, f(ξij)) 域に含む関数とする。R の分割 { a = x0 < x1 < · · · < xm−1 < xm = b, ∆: c = y0 < y1 < · · · < yn−1 < yn = d M と、各小長方形領域 Rij = [xi−1 , xi ] × [yj−1 , yj ] から任意に一点 ξij を取って作った点列 ξ = {ξij }1≤i≤m に対して、実数 ξij 1≤j≤n (10 - 2 a) S(f ; ∆, ξ) = m ∑ n ∑ f (ξij )µ(Rij ) i=1 j=1 – 55 – を分割 ∆ とそれにフィットする点列 ξ に関する f (x, y) のリーマン和という。ここで、 µ(Rij ) = (xi − xi−1 )(yj − yj−1 ) (10 - 2 b) (Rij の面積) である (注:教科書では Rij の面積を |Rij | という記号で表わしている)。 ● 10 - 3 : 分割の細分 長方形領域 R = [a, b] × [c, d] の分割 ∆ は、閉区間 [a, b] の分割 ∆(1) : a = x0 < x1 < · · · < xm = b と閉区間 [c, d] の分割 ∆(2) : c = y0 < y1 < · · · < yn = d から作られているものとする。 分割 ∆(1) の分点でない s ∈ [a, b] をとると、xi−1 < s < xi を満たす i がただ一つ存在する ので、[a, b] の新しい分割 ∆(1) [s] : a = x0 < · · · < xi−1 < s < xi < · · · < xm = b を作ることができる。∆(1) [s] と ∆(2) によって与えられる R の分割を ∆ の初等細分と呼ぶ。 同様に、[c, d] の分割 ∆(2) の分点でない t ∈ [c, d] をとると、[c, d] の新しい分割 ∆(2) [t] が得 られる。∆(1) と ∆(2) [t] によって与えられる R の分割も ∆ の初等細分と呼ぶ。 初等細分を有限回繰り返して得られる分割を ∆ の細分という。 ● 10 - 4 : 長方形領域での積分 f (x, y) を定義域の中に長方形領域 R = [a, b] × [c, d] を含む関数とする。R の分割 ∆ とそれ にフィットする点列 ξ をとり、リーマン和 S(f ; ∆, ξ) を考える。N → +∞ のとき |∆N | → 0 となるように ∆ を細分していって R の分割の列 ∆ = ∆0 , ∆1 , ∆2 , · · · · · · を作り、各 ∆N に対 してそれにフィットする点列 ξN を選ぶとき、リーマン和 S(f ; ∆N , ξN ) が ⃝ 1 ∆ の細分の列 ∆ = ∆0 , ∆1 , ∆2 , · · · の取り方 ⃝ 2 各細分 ∆N にフィットする点列 ξN の選び方 ⃝ 3 最初の分割 ∆ とそれにフィットする点列 ξ の取り方 によらずにある値 γ に限りなく近づいていく場合、関数 f (x, y) は R 上で (リーマン) 積分可 能であるという。この値 γ を R における f (x, y) の重積分といい、 ∫ (10 - 4 a) f (x, y)dxdy R ∫ によって表わす:γ = f (x, y)dxdy . R 注意 10 - 4 - 1 教科書では、(10 - 4 a) を ∫∫ (10 - 4 b) f (x, y)dxdy R と記している。どちらの記号を用いてもよい。 – 56 – 例 10 - 4 - 2 α ∈ R への定数関数 f (x, y) = α を考える。この場合、R = [a, b] × [c, d] の分 割 ∆ とそれにフィットする点列 ξ = {ξij }i,j に関する f (x, y) のリーマン和は、 S(f ; ∆, ξ) = ∑ f (ξij )µ(Rij ) = i,j n ∑ αµ(Rij ) = α(b − a)(d − c) i,j となり、 ∆, ξ の選び方によらない。したがって、定数関数 f (x, y) = α ((x, y) ∈ R2 ) は、任意 ∫ の長方形領域 R 上で積分可能あり、値は f (x, y)dxdy = αµ(R) である。但し、µ(R) は R R の面積を表わす。 □ ● 10 - 5 : 重積分可能性 1 変数の場合と同様に次が成立する。 定理 10 - 5 - 1 R = [a, b] × [c, d] 上で連続な関数は積分可能である。R 上で連続でなくても、不連続な点が 有限個であれば、やはり、積分可能である。 定理の証明は、煩雑になるので、ここでは省略する。証明は微積分学に関する本格的な教科 書 (例えば、米田薫・谷口和夫・木坂正史『じっくり学べる微分・積分』p.185) などを参照。 ● 10 - 6 : 累次積分による計算 長方形領域で積分可能な関数の重積分は、1変数関数の定積分を2度計算することによって、 求めることができる。 定理 10 - 6 - 1 f (x, y) を定義域の中に長方形領域 R = [a, b] × [c, d] を含む連続関数とする。このとき、次 式が成立する。 ∫ (10 - 6 a) ∫ b (∫ f (x, y)dxdy = R a d ∫ d (∫ b ) ) f (x, y)dy dx = f (x, y)dx dy c c a この定理の証明はここでは省略するが、定理の意味を簡単に説明しておこう。 f (x, y) はそのグラフが右図で与えられる連続関 z 数としておこう。重積分 ∫ S(x) f (x, y)dxdy R は、その定義から、幾何学的には、(x, y, z)-空間に おいて方程式 z = f (x, y) によって定まる曲面と 直方体 [a, b] × [c, d] × [−K, K] (但し、K は十分大 きな正の定数) とで囲まれる立体 V の体積を表わ していると考えられる。 一方、各 x0 ∈ [a, b] に対して、積分 ∫ (10 - 6 b) d f (x0 , y)dy c – 57 – y a x b x は V を方程式 x = x0 によって表わされる平面 H で切断したときの断面積 S(x0 ) を表わして いると考えられる。したがって、積分 ∫ b (∫ d ∫ ) f (x, y)dy dx = a c b S(x)dx a は立体 V の体積に等しいはずである。これは等式 ∫ ∫ b (∫ (10 - 6 c) f (x, y)dxdy = R a d ) f (x, y)dy dx b ) f (x, y)dx dy c が成立することを示唆している。等式 ∫ ∫ d (∫ (10 - 6 d) f (x, y)dxdy = R c a も同様にして理解することができる。 例 10 - 6 - 2 ∫ 3 (∫ ∫ x3 dxdy = [0,1]×[1,3] y 1 1 0 ∫ 3[ 4 ] x3 ) x 1 log 3 dx dy = dy = · · · = . y 4 1 4y 0 □ ● 10 - 7 : 重積分の性質 次の定理は重積分の定義からすぐにわかる。 定理 10 - 7 - 1 f (x, y), g(x, y) を定義域の中に長方形領域 R = [a, b] × [c, d] を含む連続関数とする。この とき、 (1) (線形性) ∫ ( ∫ ∫ ) (i) f (x, y) + g(x, y) dxdy = f (x, y)dxdy + g(x, y)dxdy. R ∫ (ii) 任意の α ∈ R に対して、 R ∫ R αf (x, y)dxdy = α R f (x, y)dxdy. R (2) (単調性) 任意の (x, y) ∈ R に対して f (x, y) ≤ g(x, y) ならば、 ∫ f (x, y)dxdy ≤ (10 - 7 a) ∫ R g(x, y)dxdy. R (3) (加法性) R に含まれる長方形領域 R1 , R2 が • R1 = [a, s] × [c, d], R2 = [s, b] × [c, d] (但し a < s < b)、あるいは、 • R1 = [a, b] × [c, t], R2 = [a, b] × [t, d] (但し c < t < d) によって与えられているとき、 ∫ R ∫ ∫ f (x, y)dxdy. f (x, y)dxdy + f (x, y)dxdy = (10 - 7 b) R2 R1 重積分の加法性公式 (10 - 7 b) を繰り返し用いると、例えば、R を右図のように小長方形領域 Ri (i = 1, · · · , 5) に分割したとき、 ∫ f (x, y)dxdy = R 5 ∫ ∑ f (x, y)dxdy R i=1 Ri となることがわかる。 – 58 – R R R R 2015 年 11 月 26 日 No.10 数学を学ぶ (微分積分 2) 演習問題 10 10-1. 次式で定義される長方形領域 R = [0, 1] × [0, 1] 上の関数 f (x, y) = 1 + x log y を考える。 自然数 N を固定して、R の分割 { 2 N −1 N < ··· < N < 1 0 < < N2 < · · · < NN−1 < 1 j−1 j i i j [ i−1 N , N ] × [ N , N ] から点 ξij = ( N , N ) ∆: を考え、各小長方形領域 Rij = 0< 1 N 1 N < を作る。リーマン和 S(f, ∆, ξ) を求めよ。 10-2. ∫次の重積分の値を求めよ。 (xy 2 + 3x)dxdy (1) [0,2]×[1,2] ∫ (2) (xe−y + yex )dxdy [−1,0]×[−1,1] – 59 – を選んで点列 ξ = {ξij } 数学を学ぶ (微分積分2) 通信 [No.10] 2015 年 11 月 26 日発行 ■ 第8回の学習内容チェックシート Q1 について ◦ 最初の枠に「偏導関数」と書き入れた人が多かったです。これは同じ不正解でも「よくない」 不正解です。よく考えて書いたとは思えないからです。その枠に「偏導関数」を入れたとき、 意味が通じる文章になるでしょうか。前後の文章をよく読めば、その枠の中には、f::::::: (x, y) の偏導関数をさらに偏微分することによって定義される関数につけられた名前を入れるべ ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: きであることがわかるでしょう。このような関数のことを f (x, y) の何と呼ぶのでしたか。 ( ∂ ) 4f ∂ 4 ◦ 最後の枠には h ∂x +k ∂y f の展開式を書き込むだけでしたが、h, k がなかったり、 ∂x∂2 ∂y 2 の係数を 4h2 k 2 としていたり、思いのほか出来ていないシートが多かったので驚きました。 (a + b)4 = (a2 + 2ab + v 2 )(a2 + 2ab + b2 ) の展開式に当てはめるだけですから、さすがに 出来て欲しいものです。 ちなみに、(a + b)n の展開式の係 1 数はパスカルの三角形 (右図) を利用 1 して求めることができます (2 段目以 1 降の各数は線で繋がっている上の段 1 の数の和をとるというルールで作ら れています)。 (a+b)0 1 1 2 3 4 5 (a+b)2 1 (a+b)3 1 3 6 10 (a+b)1 1 10 (a+b)4 1 4 5 1 (a+b)5 ■ 演習 9-1 について (√ ) ∂f = −y 2 − 2xy = 0 から直ちに y を約したため、極値を与える点の候補の 1 つ 3 34 , 0 ∂y を見逃した答案が沢山ありました。数が文字で表わされているとき、その文字で割るときには 常にそれが 0 になるのかならないのかを考えるようにしてください。 どこに何が書かれているのかが分かりにくい答案もあります (式の羅列で終わっているもの、 途中で急に解答が右上に飛んだかと思うと、また元の場所に戻って続くものなど)。授業の中で 解くときには時間が限られているので多少仕方がないと思いますが、再提出の場合は自分のペー スで解答を作成できるわけですから、書き方についても気をつけて答案を作成するようにしま しょう。論理の展開がはっきりするように適宜つなぎの言葉を入れるのはもちろんですが、複 数の場合に分けて考察するときには箇条書きにして項目や番号をつけたり、複数行にわたる式 変形では等号の位置を揃えたりすることも大切です。適切な行間をとることも重要です。こう いったことをすると見栄えがよくなるだけではなく、自分自身の理解の仕方にもよい作用を及 ぼすことでしょう。是非、実践してください。 ■ 次回予告 次回は、必ずしも長方形でない有界閉集合上での重積分を扱います。特に、x-軸 に平行な 2 直線と2つの 1 変数関数 y = h(x), y = k(x) のグラフで囲まれた領域 (これを縦線領域と呼 ぶ) 上での重積分が 1 変数関数の定積分を2回行うこと (累次積分) により求められることを学 びます。 – 60 – 2015 年 11 月 26 日 数学を学ぶ(微分積分2)第 10 回・学習内容チェックシート 学籍番号 Q1. 次の 氏 名 に適当な言葉や数式を入れてください。 • f (x, y) を長方形領域 R = [a, b] × [c, d] を定義域に含む関数とするとき、R の分割 { a = x0 < x1 < · · · < xm−1 < xm = b, ∆: c = y0 < y1 < · · · < yn−1 < yn = d と、それにフィットする点列 ξ = {ξij }1≤i≤m に関する f (x, y) のリーマン和 S(f ; ∆, ξ) 1≤j≤n は S(f ; ∆, ξ) = • 長方形領域 R 上で ∫ . な関数は重積分可能である。このとき、重積分 f (x, y)dxdy は R の分割を細かくしていったときの の極限とし R て定義される。 • 重積分は線形性、単調性、加法性という3つの性質を持つ。 線形性は次の2つの等式からなる。 単調性とは、重積分の下で大小関係が保たれることを表わす、次の性質のことをいう。 f (x, y) ≤ g(x, y) ((x, y) ∈ R) のとき 加法性とは、次の性質のことをいう:R を R1 R2 のように2つの長方形 領域 R1 , R2 に分けたとき Q2. 次の表を完成させてください。 解決方法・方針 長方形領域 R = [a, b]×[c, d] 上 で定義された連続関数 f (x, y) の重積分を計算するには? Q3. 第 10 回の授業で学んだ事柄について、わかりにくかったことや考えたことなどがありまし たら、書いてください。
© Copyright 2024 ExpyDoc