オークション

ゲーム理論 (上級 I)/ゲーム理論特論 I(2015 年度)
教授 清水大昌
第 7 回 2015 年 11 月 16 日
[email protected]
http://www-cc.gakushuin.ac.jp/˜20060015/lecture/gradgame2015.html
オークション・入札の種類
• オークションや入札は色々な方法で分類することが出来る。
• Single auction, double auction: 買い手や売り手のうち価格提示するのが片方か双方か。今
回は前者を主に扱う。後者は証券取引所などで使われる。
• open, closed: 競売の間、他のプレーヤーの行動が観察できるか。
• reverse (逆): 売り手を決める。公共事業の工事などの競争入札などで見られる。
オークションの基本理論の設定
• 仮定としては、売り手は 1 人、買い手は n 人。売り手が一つの財を提示して、買い手は
それぞれその財に対する自分の評価額を持つ。買い手自身以外はその評価額は分からない
が、ある分布に従うと考える。今回は簡単化のために一様分布を扱う。また、この分布は
全ての買い手に共通で、common knowledge である。
• 情報の非対称性があるため、モラルハザードや逆選択を絡めた分析も可能であるが、基本
モデルでは扱わないことにする。
• Krishna (2002) の本にとても詳しいが、難易度は高い。
Single auction における 4 つの手法
• 公開入札方式#1 English auction: いわゆる通常のオークション。入札する買い手が価格
を吊り上げていき、最終的にせり人が価格上昇を止めたときに最も高い価格を提示してい
る買い手に落札する方式。
• 公開入札方式#2 Dutch auction: 通常とは逆に、価格が少しずつ下がっていく。売り手が
最高価格を設定し、順に価格を下げていき、最初に入札した買い手がその価格で落札で
きる。高速であり、大田花市場のように多くのオークションで用いられる。バナナの叩き
売り。
• 封印入札方式#1 First price auction: 封印入札のうち最も高い価格を付けた買い手に、そ
の価格で落札される。一般的な設定。
• 封印入札方式#2 Second price auction: 封印入札で最も高い価格を付けた買い手に落札さ
れるが、支払額は 2 番目に高い価格に設定される。
• これらの 4 つには以下の性質と関係性がある。
1
– English auction では、参加者は他のプレーヤーの行動に関わらず、自分の評価額ま
でオークションに参加し、それ以上価格が上昇したら止めるのが最適戦略。全てのプ
レーヤーがそのように行動すれば 2 番目に評価額が高いプレーヤーが脱落した時点
で終了となる。結果、財への評価額が一番高いプレーヤーが 2 番目に高い評価額で落
札することになる。
– Second price auction でも、自分の評価額で入札するのが良いし、財への評価額が一
番高いプレーヤーが 2 番目に高い評価額で落札。
– よって、English と Second price は全く同じ結果をもたらす。
– First price auction では、自分の入札額を増加させると、落札する確率は上がるが、
利益が下がる。
– Dutch auction でも状況は全く同じ。早く手を挙げれば勝ちやすいがそんなに嬉しく
ない。
– つまり First price と Dutch は同じ結果をもたらす。これらには勝者の呪い (Winner’s
curse) が存在するといわれている。
– 均衡戦略は、English と 2nd では自分の評価額を申告すること。First price と Dutch
では自分の評価額の (n − 1)/n 倍を申告すること。
2nd price と 1st price での対称均衡戦略について
• Second price では各買い手は自分の評価額を正直に申告するのが最適であると言った。よ
り厳密に言うと、それが各買い手にとっての弱支配戦略になっている。
• これは自分の申告額が、自分の利得に影響しないことが利いている。
• もし自分が正直に申告していたら相手の申告額より高くなり、落札でき正の利得が得られ
たとして、過少に申告をしたら相手の申告額がそれより高くなっていたら落札できず利潤
が 0 となる。
同様に、正直な申告では相手より申告額が低く落札できず利得が 0 のはずが、過大に申告
することにより、相手の申告額を超えると落札かつ負の利潤が生じる。
• 評価額が 50 と 45、戦略が (40, 50, 60), (35, 45, 55) の利得表でプレーヤー1の立場から見る
と分かりやすい。
• First price ではそうではなく、自分が高く申告すれば利得が減るので弱支配戦略にはなり
ようが無い。
• それでは対称均衡はどのようになるだろうか。ここでは 2 人ゲームを考えよう。それぞれ
のプレーヤーの事前の評価額分布は [0, 1] の一様分布であるとする。(n 人のケースは宿題
の問題とする。)
• このゲームのベイジアン・ナッシュ均衡を求めてみよう。各プレーヤー i は自分の評価額
vi の k 倍の値の申告をするとする。ここで、プレーヤー 1 は相手の申告額 kv2 より自分
2
の申告額 b1 が高ければ勝てるし低ければ負ける。つまり b1 /k > v2 が勝つ条件。v2 は一
様分布をしているため、こうなる確率は b1 /k となる。
• よって、プレーヤー 1 の期待利得は
(v1 − b1 ) ·
(b )
1
k
(
b1 )
+0· 1−
k
となる。これを b1 について最大化すると、b1 = v1 /2 が最適な申告額になることが分かる。
• よって、両方のプレーヤーが自分の評価額の半分を申告するのは均衡となる。
• 勝者の呪いがあるため、全てのプレーヤーが過少申告するのは自然。
• また前述したが、n 人の場合には vi (n − 1)/n が均衡となる。
n → ∞ で正直な申告が最適となる。
その他には?
• 理論的には他にもいくつかの設定がありうる。
• Third price auction. 買い手はここでは正直に自分の評価額をいうわけではない。
• All-pay auction. ロビー活動のように、投資した額がサンクコストになって回収できない。
つまり、勝利した人以外も支払う必要がある。
収入等価定理
• それでは、売り手はどのオークションを設定すれば期待収入が最大になるのだろうか。そ
れを選べれば良いのだが。
• 収入等価定理では一番高い評価額を表明した人が落札する、どのようなオークションで
も期待収入が同じになることを示している。つまり、売り手は収入の面からはどのオーク
ションでも結果は同じ。(よって、費用が少ないオークションにするべき)
• V1 と V2 が [0, 1] を i.i.d で一様分布しているとする。1st price での売り上げ価格は
∫1∫1
max(V1 /2, V2 /2)。V1 < V2 とすると、平均値は 0 v1 v2 /2 dv2 dv1 = 1/6 となり、V1 > V2
のケースと合わせると 1/3 が平均となる。
∫1∫v
同様に、2nd price では、売り上げ価格は min(V1 , V2 ) なので、その平均は 2 0 0 1 v2 dv2 dv1 =
1/3 となり、一致する。
• 買い手が 3 人や n 人の場合は?
• ただ、いくつかの仮定が必要。
– 買い手は対称。非対称の場合は、1st か 2nd のどちらでも高くなるケースを作れる。
– リスク中立的。リスク回避的では一般的に 1st が 2nd よりも高くなる。
3
– 予算制約があることは、契約理論でも扱うが、リスク回避的と同値なので、1st が 2nd
より高くなる。
– 評価額の実現値がお互いに影響を与え合う (相関がある) 状況も収入等価ではなくなる。
– そもそも一番高い価格付けをした人が勝つという仮定。
共通価値オークションモデル
• ここまでは買い手の評価額は自分のみが分かっていて i.i.d であるとしてきた。美術品など
はそれにあたるだろう。
• それに対して、お互いの価値の分布が相関するケースも考えられるだろう。これを共通価
値オークションと呼ぶ。
• 例: 石油の採掘権、オリンピックの放映権など。
• 財の価値は各参加者にとって同じだが、その認識に誤差が入るとしよう。
• 例えば 2nd price でも自己の評価額を正直に言うことが最適にならなくなる。1st price と
同様、勝者の呪いが起こるため、少し入札額を抑える。
• イングリッシュでは、他のプレーヤーが脱落した時点でそのプレーヤーの評価額の情報が
得られるため、戦略をアップデートできる。
• よって、2nd price とイングリッシュが一致しない。
• 他のオークションも複雑になり、収入等価定理も成り立たない。
まとめ
• 基本モデルではとてもきれいな結果が出ているといえる。
• 拡張すると非常にむずかしくなる。
• 上記の拡張以外の例:複数財の入札。それらをどのように行う、誰に配分するかなど。非
効率な入札が行われる可能性が高まる。
• インターネットや公共事業など、現実例が年々増えていく分野である。
• 例: 最低落札価格、希望落札価格、自動延長
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