急性心不全の初期診療 急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)

急性心不全の初期診療
急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)より
平成27年11月20日
救急カンファレンス
急性心不全:心臓に器質的/機能的異常が生じて急速に心ポンプ機能の代償
機転が破綻し,心室拡張末期圧の上昇や主要臓器への灌流不全を来たし,
それに基づく症状や徴候が急性に出現,あるいは悪化した病態
うっ血性心不全の診断基準(Framingham criteria)
大症状2つか,大症状1つおよび小症状2つ以上を心不全と診断する
[大症状]
[小症状]
・発作性夜間呼吸困難または起座呼吸
・下腿浮腫
・頸静脈怒張
・夜間咳嗽
・肺ラ音
・労作性呼吸困難
・心拡大
・肝腫大
・急性肺水腫
・胸水貯留
・拡張早期性ギャロップ(Ⅲ音)
・肺活量減少(最大量の1/3以下)
・静脈圧上昇(16cmH2O以上)
・頻脈(120/分以上)
・循環時間延長(25秒以上)
・肝頸静脈逆流
自覚症状, 他覚所見
・左心不全
症状:呼吸困難,息切れ,頻呼吸,起座呼吸
所見:水泡音,喘鳴,ピンク色泡沫状痰,Ⅲ音やⅣ音の聴取
・右心不全
症状:右季肋部痛,食思不振,腹満感,心窩部不快感,易疲労感
所見:肝腫大,肝胆道系酵素の上昇,頸静脈怒張,右心不全が高度な時は肺うっ血所見が乏しい
・低心拍出量による症状,所見
症状:意識障害,不穏,記銘力低下
所見:冷汗,四肢冷感,チアノーゼ,低血圧,乏尿,身の置き場がない様相
BNPによる心不全診断の有用性
N Engl J Med 2002;347:161-7
急性心不全の原因疾患および増悪因子①
1 慢性心不全の急性増悪:心筋症,特定心筋症,陳旧性心筋梗塞など
2 急性冠症候群
a) 心筋梗塞,不安定狭心症:広範囲の虚血による機能不全
b) 急性心筋梗塞による合併症(僧帽弁閉鎖不全症,心室中隔穿孔など)
c) 右室梗塞
3 高血圧症
4 不整脈の急性発症:心室頻拍,心室細動,心房細動・粗動,その他上室性頻拍
5 弁逆流症:心内膜炎,腱索断裂,既存の弁逆流症の増悪,大動脈解離
急性心不全の原因疾患および増悪因子②
6 重症大動脈弁狭窄
7 重症の急性心筋炎(劇症型心筋炎)
8 たこつぼ心筋症
9 心タンポナーデ,収縮性心膜炎
10 先天性心疾患:心房中隔欠損症,心室中隔欠損症など
11 大動脈解離
12 肺(血栓)塞栓症
13 肺高血圧症
14 産褥性心筋症
15 心不全の増悪因子
a)服薬アドヒアランスの欠如, b)水分塩分の摂取過多, c)感染症,肺炎や敗血症
d)重症な脳障害, e)手術後, f)腎機能低下, g)喘息,COPD, h)薬物濫用,心機能抑制作用のある薬,
i)アルコール多飲, j)褐色細胞腫, k)過労不眠,ストレス
16 高心拍出量症候群 a) 敗血症, b) 甲状腺中毒症, c) 貧血, d) 短絡疾患
急性心不全における初期アプローチ
初期治療の目標
(1)救命,生命徴候の安定
(2)呼吸困難などの自覚症状改善
(3)臓器うっ血の軽快を図る
クリニカルシナリオ (CS)
急性心不全患者の早期管理に関する実践的勧告
初期の収縮期血圧(SBP)と臨床症状から5群に分類
CS1:SBP>140mmHgで呼吸困難やうっ血あり
CS2:SBP 100~140mmHgで呼吸困難やうっ血あり
CS3:SBP<100mmHgで呼吸困難やうっ血あり
CS4:急性冠症候群で呼吸困難やうっ血あり
CS5:孤立性右心不全
治療 管理目標
血圧:著明な高血圧に対して,NTG,Ca拮抗薬の点滴投与による降圧
心拍数:心房細動のレートコントロール
動脈血酸素飽和度95~98%を目標とした酸素投与,重症時CPAP,NPPV,気管内挿管を考慮
尿量:時間尿量40mL以上の確保
うっ血がある場合,1日の体重減少1~1.5kg以内の除水
食事栄養摂取:循環と利尿の安定が得られるまでの栄養摂取を目的とした経口摂取の禁止
塩分摂取量の制限
安静度: 血行動態が安定している場合の速やかな安静度の緩和
長時間安静が余儀なくされる場合,静脈血栓症の予防としての弾性ストッキングの使用
治療
・本症例はCS1 に該当
・血圧高値、下腿浮腫を認め起座呼吸を呈していた.
・ERでニトログリセリン頓用, ASV装着.
・入院後利尿薬(フロセミド)を適宜静注し加療した.
硝酸薬
どんな薬剤か?
・一酸化窒素(NO)を生成し血管拡張作用を発現する.
・静脈系血管, 冠動脈の拡張作用に優れる.
適応は?
・CS1の急性心不全(volume central shiftあり).
・特にIHDを基礎心疾患とする心不全.
注意点
・AS, 右室梗塞などの合併疾患
・数時間で薬剤耐性が出現する.
利尿薬
ナトリウム利尿薬
・ループ利尿薬
・サイアザイド系
・抗アルドステロン薬
水利尿薬
・抗バソプレッシン薬
・心不全で体液量過剰のある症例はER診療の時点で経静脈的に
ループ利尿薬を投与することで急性期死亡率を低下させうる.1)
Yancy CW et al.2013 ACCF/AHA guideline for the management of heart failure
改善が得られない場合は...
・投与量を増やす, 持続静注する.
・サイアザイド系利尿薬等、作用機序の異なる薬剤を追加する.
Reference Guidelines into Practice - Heart Failure
陽圧呼吸療法
ASV = Adaptive Servo Ventilation
Cheyne-Stokes呼吸治療用に開発されたbilevel PAP (BiPAP)
オートセットCS
【サポート圧供給パターン
EEP
:呼気終末圧力
MIN
PS :吸気時サポート圧力の最低値
MAX
PS :吸気時サポート圧力の最大値
Pressure
(cm H20)
MAX PS
MIN PS
EEP
Time
心原性肺水腫におけるNPPVの効果
呼吸器系への作用
循環器系への作用
PEEP
・末梢気道の閉塞防止
・虚脱肺胞の再拡張
(換気改善)
静脈還流の減少(前負荷の減少)
左心室に対する外部からの陰圧解除
肺伸展による交感神経活性の制御
(後負荷の減少)
肺容積の拡大
(機能的残気量増加)
・酸素化能改善
・呼吸仕事量の軽減
・循環補助効果(前負荷/後負荷の軽減)
・交感神経興奮の軽減
今中 秀光:心不全とNPPV.集中治療 vol.11 no.12.1999
ASVの急性期・慢性期効果
急性期:
1)心拍数と血圧を有意に低下.
2)SVRを減少させ, stroke volume, cardiac outputを有意に増加.
慢性期:
1)LV, LA volume減少させ, LV収縮/拡張能を改善.
2)機能的MRの有意な改善.
European Journal of Heart Failure(2011) 13, 1140-1146
NPPVの禁忌
心停止、呼吸停止している場合
マスク換気への協力が得られない場合
気道が開通していない場合
気道分泌過多(誤嚥の可能性が高い)場合
マスクが合わない場合
上気道や上部消化管術後など
拡張性心不全
heart failure with preserved EF(HFpEF)
「リモデリング(心筋組織の線維化)」により拡張能が障害された結果生じる心不全
高齢者,女性,高血圧患者に多く認められ、心不全症例の1/2~1/3を占めるとされる.
左室駆出率
収縮機能
拡張機能
左室容積
左室肥大
左室線維化
年齢
性別
収縮不全
低下
低下
低下
拡大
あり(遠心性肥大)
あり
若年~高齢者
男性に多い
拡張不全
保持
保持~軽度低下
低下
正常
あり(求心性肥大)
あり
高齢者
女性
原因疾患
虚血性心疾患, 心筋症が多い
高血圧性心疾患が多い
予後
不良
不良
HFpEFとHFrEFの予後比較
Owan TE et al. N Engl J Med 2006;355:251-9.
まとめ
・日本における急性心不全治療ガイドラインを参考に、
救急外来での初期対応を中心にお話しました。
・急性心不全の患者さんが来院された際は、CS分類などの
指標も用い、総合的に評価し病態の把握に努め、迅速な
治療を開始することが望ましいです。
・少しでも循環器疾患が疑われた場合は、いつでも当科まで
御紹介ください。