有明海再生機構主催 平成27年5月13日(水) 有明海市民講座 第6回 有明海異変の解明1 シミュレーションモデルの構築 有明海再生機構 理事長 荒牧 軍治 海域の環境変化 海はどうなっているのか (現況) なぜこうなったのか (原因解明) 海域環境 異変の原因 どうすれば良くなるか (対策検討) 有明海再生機構設立時(2005年):漁民からの聞き取り調査 ●締切(1997年)以降流れが遅くなりつつある 諫早湾締切→潮流速の低下→成層強化 →貧酸素・赤潮の増加 モデルが想定 ●湾奥谷部に泥がたまり、ベタついている 有機物の増加、底質の悪化 1 有明海モデル →原因を調べる・改善策を検討する コンピューターシミュレーション ■有明海で起こっている事象(気象等外的条件、流 れ、泥の移動、プランクトン発生、貧酸素、二枚貝 の挙動など)の関係を調べる 現状分析・理解 各種調査結果を矛盾なく説明できるモデルを作る ■地形変更、気象変化、ベントスの増減等が貧酸素、 二枚貝、海苔生産などにどのような影響を及ぼす か(感度解析) 予知・予測 有明海がなぜこうなったのかを検討する(過去) 考えている対策は有効であるかを検証する(未来) 2 私が考える環境の最も重要な指標 貧酸素 硫化水素の発生 魚類・二枚貝 ベントスの減少 有明海以外の海域(東京湾 瀬戸内海等) プランクトン 陸域からの有機物 の大量発生 栄養塩の過剰流入 (赤潮) × 有害赤潮の 引き金 貧酸素 微生物の作用 遮断=再生策 3 有明海で貧酸素が起こる理由を探る 有明海に流入する有機物・栄養塩 干拓・締切などの 陸域の変化 外海の干満差 の減少 COD [103 t/year] 横ばい、むしろ減少傾向 有機物 1960 潮位・潮流速の低下 TN [103t/year] 50 諫早湾締切 その他の流域 筑後川流域 160 140 120 100 80 60 40 20 0 40 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 年度 (2000年以降は年) チッソ 2000 2005 2010 その他の流域 筑後川流域 30 20 10 0 1960 1965 透明度の上昇 上下撹拌力の低下 成層化増進 TP [103 t/year] 掃流力の低下 貧酸素 1975 1980 1985 1990 1995 年度 (2000年以降は年) リン 7 6 5 4 3 2 1 0 1960 赤潮の増加 1970 1965 1970 2000 2005 2010 その他の流域 筑後川流域 1975 1980 1985 1990 1995 年度 (2000年以降は年) 2000 2005 2010 有明海に流入する有機物・栄養塩 これらの事象を解析できる有明海モデルの構築 4 シミュレーションモデルって何? (Simulation Model) 物理的あるいは抽象的なシステムをモデルで表現し,そのモデルを使って実験を 行うこと。実際に模型を作って行う物理的シミュレーションと,数学的モデルをコン ピューター上で扱う論理的シミュレーションがある。模擬実験。 ①流動モデル 潮位・潮流速、塩分濃度、水温 ②低次生態系モデル 懸濁物輸送、プランクトン発生消失 水質 物質循環 底質 底生生物 ③生物生活史モデル アサリ、サルボウ、スズキ等の 資源量(漁獲量) 誰もが認める原理 運動方程式(ニュートンの第2法則) エネルギー保存則 質量保存則 数学 微分方程式 5 シミュレーションモデルの到達点(結論) 流動モデル 潮位・潮流速、塩分濃度、水温 低次生態系モデル 懸濁物輸送、プランクトン発生消失 水質 物質循環 底質 底生生物 生物生活史モデル アサリ、サルボウ、スズキ等の 資源量(漁獲量) 九大モデル、佐大モデル JSTモデル 鹿島モデル 観測塔での観測値とほぼ一致 時系列まで再現可能 JSTモデル 鹿島モデル 観測塔での溶存酸素(DO)観測値 時系列までは再現で きていないが、傾向と オーダーは一致 JSTモデル 検証に用いるデータが十分に得 られていない 6 楠田プロジェクトJSTモデル ■モデルの基本的な枠組み 流れ・水温・塩分 泥・プランクトンの巻き上げ・移動 水中の物質循環 底質内の物質循環 7 楠田プロジェクトJSTモデル ■低次生態系モデルの概要 ■ 浮遊系 非生物項 ・有機物・栄養塩 ・溶存酸素・酸素消費物質 ・SS 生物項 ・植物プランクトン ・動物プランクトン ・養殖ノリ ■ 底生系 非生物項 ・有機物(易分解・難分解・不活性) ・栄養塩 ・溶存酸素 ・遷移金属元素類 (マンガン・鉄・硫黄・メタン) 生物項 ・付着藻類 ・懸濁物食者 (アサリ,サルボウ, タイラギ, アゲマキ,カキ,その他) ・堆積物食者 8 流動モデルの基礎方程式 D: 全水深(H+η), U,V: x,y方向の3次元流速成分, ω: σ-座標系のもとでの鉛直流速成分 η: 水位 f: コリオリカ g: 重力加速度 ρ: 海水密度 ρ0: 基準海水密度(1025kg/m') Km: 鉛直渦動粘性係数 Fx: 流速U成分に係る水平粘性項 Fy: 流速v成分に係る水平粘性項 T: 水温 S: 塩分 Ft: 水温に係る水平拡散項 Fs: 塩分に係る水平拡散項 KH: 水温, 塩分,ssに係る鉛直渦動拡散係数 その他 水中における鉛直方向の短波放射収支 乱流運動エネルギー 乱流運動エネルギーに係る鉛直渦動拡散係数 など 9 水質−底質−底生生物サブモデルの構造 10 水質サブモデル 水質サブモデルの基礎方程式は,富栄謝上関連物質の移流拡散方程式であ る Fc: 水平拡散項 Q: 富栄養化関連物質の負荷量 R: 反応項 11 水質サブモデルで 考慮する反応項 表中の+の列はその反応項に より予測項目が増加する項,― の列は予測項目が減少する項, +は予測項目が増減する項を 示している. たくさんの項目が考慮され ていることを感じてください 12 底質サブモデルで 考慮する反応項 底生生物サブモデル で考慮する反応項 13 計算に必要なデータ 室内実験・現地観測等から得られるもの→絶対に作ってはいけない 物理的な場の条件 どれくらい広く、どれくらい 細かくモデルを作るかで 結果が決まる 地形: 地図より取得→デジタルデータが公表 水深: 深浅測量結果を集積 楠田JSTモデル ・900m~2700mの可変長格子 ※有明海内は一律900m ・底質・底生生物サブモデルはボックスモ デルで有明海内を71に分割 120 150 130 110 95 85 75 65 55 48 44 40 36 32 28 24 20 16 12 8 4 0 100 [km] 80 60 depth[m] 40 20 楠田JSTモデル 鹿島モデルで用いた深浅測量データ 20 40 60 80 [km] 100 120 14 楠田プロジェクトJSTモデル ■鉛直層分割 海底面 1 cm 10 cm 15 cm 25 cm 40 cm 60 cm 100 cm 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 泥深「cm] 層厚「cm] 0.00 ~ 0.02 0.02 ~ 0.05 0.05 ~ 0.10 0.10 ~ 0.20 0.20 ~ 0.50 0.50 ~ 1.00 1.00 ~ 2.50 2.50 ~ 4.50 4.50 ~ 6.50 6.50 ~ 10.00 10.00 ~ 15.00 15.00 ~ 25.00 25.00 ~ 40.00 40.00 ~ 60.00 60.00 ~ 100.00 0.02 0.03 0.05 0.10 0.30 0.50 1.50 2.00 2.00 3.50 5.00 10.00 15.00 20.00 40.00 【浮遊系】 多重σ座標 【底生系】 3段の多重σ座標:最大15層モデル 0~3m :5層 3~15m :5層 15m~海底:5層 不等間隔格子:表層をより詳細に分割 ・底泥表層より100cmを解析 ・0.02cm~40cmの15層に分割し 15 楠田プロジェクトJSTモデルの構築・検証 ■外力条件(流動サブモデル) 【淡水流入量】 1級河川および直接流入域を実測値をもとに設定。 時別値で設定 【湾口境界条件】 潮位:長周期潮を含む13分潮 水温・塩分:沿岸定線データ(1回/月) 【気象条件】 熊本新港(風向・風速)および熊本気象台(気温、 相対湿度、全天日射量、雲量)。気象条件は時別 値を設定 【パラメータ等】 ・Mellor and Yamada(1982)による乱流モデル ・Smagorinsky(1963)による水平粘性・拡散 ・海底摩擦:対数則(Z0=0.01m) ・ノリ網による抵抗 河川流量の時間変化 16 楠田プロジェクトJSTモデルの構築・検証 ■外力条件(水質-底質-底生生物サブモデル) 2001年 COD T-N T-P 10000 負荷量(g/s) 【流入負荷量】 1級河川および直接流入域を実測値をもとに 時別値で設定。 100000 1000 100 10 【湾口境界条件】 公共用水域水質調査結果などの実測値をもと に設定. 1 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 月 筑後川からの流入負荷量 【生物現存量】 環境省「有明海・八代海総合調査評価委員会 委員会報告書」(2006)で整理された漁場図を もとに,漁獲率(=0.2)や、九州大学森教授の 現地調査結果から現存量を整理し,水深およ び底質分布(MdΦ)を参考に底生生物現存量 (アサリ,サルボウ,カキ,その他)を設定. 【パラメータ等】 既存の値を基本として再現性を考慮して修正 有明海のMdΦの分布 17 18 19 20 モデルの精度向上 巻き上げ特性はMdφに依存 水深精度は流れ場の計算の精度を左右する 佐賀大学懸濁物輸送モデル 底質 地形 図 1 有明海の水深と底質粒度(Mdφ)の分布 21 陸域から供給される物質の負荷量 佐賀大学有明海総合研究プロジェクト 最終報告書pp.27 有明海の流入負荷算定のためには有明海流域におけ る信頼できる原単位データの取得が重要 L:物質負荷量(g/s) L-Q式 n Q:流量(m3/s) C,n:定数 L-Q式の係数 L=CQ TN負荷量 TN = 0.345 Q 800 1.22 700 600 500 400 TN負荷量 300 200 100 0 0 200 400 600 流量(m3/s) 22 シミュレーションを実施したビッグプロジェクト 佐賀大学有明海総合研究プロジェクト(佐賀大学モデル) 科学技術振興調整費(JSTモデル) 環境省有明海貧酸素水塊発生機構実証調査(鹿島モデル) 流動解析モデル 九州大学モデル 基礎プログラム POM:Princeton Ocean Model 公開・非公開種別 公開 サブモデル構成 メッシュ構造 東西約250m 南北約310m 鉛直メッシュ σ座標 10 流れ場だけのモデル 田井明博士論文に使用 (九州大学モデル) 低次生態系モデルの比較 JSTモデル 基礎プログラム 鹿島モデル POM:Princeton Ocean Model DELFT3D 公開・非公開種別 非公開 サブモデル構成 流動サブ、懸濁物輸送サブ 水質・底質・底生生物 水平メッシュ 900m格子 鉛直メッシュ σ座標 20 非公開 流れ解析(DELFT3D-FLOW) 水質解析 DELFT3D-WAQ (水中の計算) sub-model SWITCH (底泥中の計算) 湾奥 250m×300m(一般直交) 湾口 350×450m σ座標 20(一様) 佐賀大学モデル FVCOM Ver.2.6 公開 流動モデル 懸濁物輸送モデル 低次生態系モデル 湾奥 500m(三角形非構造格子) 開境界付近 1200m σ座標 10 23
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