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シーラントの必要性を再考する
福本
敏
東北大学大学院歯学研究科 小児発達歯科学分野
齲蝕予防には、物理的な歯面の清掃、糖質摂取のコントロールやフッ素などを応用した歯質強化が挙げ
られる。しかしながら臼歯部の裂溝部は、その形態学的な特徴から、清掃困難であるとともに、フッ素な
どの効果も少ないとされている。このような背景から、12歳までの齲蝕の発生はかなり抑制できるよう
になってきたが、20歳以降の成人の齲蝕発生の抑制には至っていないのが現状である。
裂溝部の齲蝕予防には、シーラントによる同部の閉鎖が行なわれてきた。齲蝕の無い成人の健全歯の深
い裂溝においては、石灰化物の沈着により自然に閉鎖されていることが多く、このことからも裂溝封鎖は
齲蝕発生の抑制には極めて有効な手段であると考えられる。一方で、セメントやレジンによる閉鎖では、
厳しい口腔内の環境(常に湿潤下状態、さらに飲食による温度変化など)において、安定的に封鎖が継続
できるかどうかの課題もあり、また萌出したばかりの未成熟な歯質に対し、材料による物理的な閉鎖は、
エナメル質の成熟過程を阻害する可能性も示唆されてきた。したがって、特にレジン系シーラントにおい
ては、裂溝辺縁部の破折を生じ、破折した材料と歯質のステップが齲蝕リスクを増大させることから、齲
蝕予防におけるシーラントの可否が議論されている。残念ながら、これらの議論は個々の歯科医師の経験
測よるもので、大規模でかつ長期的な症例の追跡によるエビデンスに基づいた議論とはなっていない。ま
たどのような症例でシーラントが破折し齲蝕を発生しているのか、どのような術式がシーラントの予後に
影響を及ぼすかなど、精査の上で議論されるべきだと考える。既にアメリカでは、70 年にわたるフッ化物
応用(水道水フッ素化)における齲蝕予防効果の評価を行い、フッ化物のみでは成人の裂溝部齲蝕の発生
を完全に抑制できないことから、15 年前より小児期からの臼歯部におけるシーラントを徹底することで成
人の齲蝕を完全に撲滅する試みがされている。
一方で、シーラントによるエナメル質表面の外界との隔離に伴うエナメル質成熟への影響についても検
討しなければならない。成熟したエナメル質の組成は、リン酸カルシウム(ハイドロキシアパタイト)や
フッ素を含有したリン酸カルシウム(フルオロアパタイト)が 89.82%、炭酸を含むカルシウム塩(炭酸ア
パタイト)が 4.37%、リン酸マグネシウムが 1.34%、その他の塩が 0.88%と、残り 3.59%が有機質である。
一方、未成熟エナメル質には炭酸アパタイトが 10%、リン酸マグネシウムが 5%程度含まれており、これ
らの塩が酸による脆弱性を示す主な要因である。そこで本セミナーでは、このようなエナメル質の成熟過
程をも考慮したシーラントによる齲蝕予防の必要性、さらに予後の良い術式について、そのステップごと
の勘所について紹介する。