第 10 回 情報格差(Digital Divide)とその克服(労働・企業) 1、IT と情報

情報化社会と経済
IT 革命と情報化社会
第 10 回
情報格差(Digital Divide)とその克服(労働・企業)
1、IT と情報格差(Digital Divide)
IT 革命の象徴であるインターネットの利用は拡大し続けている。2013 年末の
インターネット利用者数は、2012 年末より 392 万人増加して 10,044 万人(前
年比 4.1%増)、人口普及率は 79.1%(前年差 0.9 ポイント増)となった。
端末別インターネット利用状況をみると、
「自宅のパソコン」が 58.4%と最も多
く、次いで「スマートフォン」が急増して 42.4%となっている。
また、「携帯電話・PHS」及び「パソコン」の世帯普及率は、それぞれ 94.5%、
77.4%となっている。特に、
「携帯電話・PHS」の内数である「スマートフォン」
は、49.5%(前年比 15.9 ポイント増)と急速に普及が進んでいる。
『
総務省『平成 26 年度版
51
情報通信白書』より
情報化社会と経済
IT 革命と情報化社会
一方、インターネットの利用には、情報機器の購入と利用に関する知識が必
要であるため、世代別、性別、地域別、年収別、さらに障がいの有無などの面
での利用格差=情報格差(Digital Divide)が生じるのが現状である。
これはインターネット利用自体の格差であるが、情報化社会においてはインタ
ーネットの利用が生活、労働、企業活動(ビジネス)、地域間など、さまざまな
分野で格差が広がっていく。インターネットの利用格差=情報格差(Digital
Divide)はそのまま経済格差につながっていく。
一方で、IT を活用することによってこれらの格差を克服しようとする取組み
もみられる。
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IT 革命と情報化社会
2、IT 革命と SOHO・テレワーカー
(1)IT 革命と雇用・労働の可能性
IT 革命による生産過程・流通過程の情報化による生産のオンライン化、ネッ
トワーク化は、生産過程においても流通過程においても労働過程の強度の増大、
厳しい競争、そしてリストラにつながる側面を持っている。
一方で、IT を活用は雇用の場、雇用の可能性を拡大する側面も持っている。
女性の場合は結婚や出産、育児によるキャリアや賃金水準の非連続性を伴いや
すい。
内閣府 男女共同参画局資料より
そこで、企業でキャリアを積みながらも様々な理由で職場を離れざるを得な
くなった女性のために、仕事が在宅でも自らのキャリアを利用して仕事に結び
付けようとする取り組みや、そのための仕事を紹介するネットワークの取り組
みが見られる。
(2)SOHO からテレワーク(テレワーカー)
1990 年代後半から登場してきた SOHO(Small Office Home Office)や、2000
年代に入ってからは、インターネットや携帯電話等の進展により、在宅でも働
きやすい環境が整備されることによる「テレワーク」という勤務形態も注目さ
れてきた。IT の活用によって女性の潜在的労働力を引き出そうという試みであ
り、また女性にとってキャリアを連続させようとする取組でもある。また、テ
レワークは女性だけでなく、男性、そして高齢者や障がい者にも雇用と社会参
加の場を拡大する可能性がある。
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情報化社会と経済
IT 革命と情報化社会
インターネットの普及によって、情報化の進んだ地域ほど女性の社会参加が高
まる傾向が見られる。
図13-7 各国のテレワーカー比率
(%)
35.0
30.0
25.0
20.0
15.0
10.0
5.0
ポ ルトガ ル
ス ペイ ン
ルク セ ン ブ ルク
フラ ン ス
イタ リ ア
日本
ベ ルギ ー
ア イ ルラ ンド
オー スト リ ア
ドイ ツ
英国
ス ウ ェー デ ン
デ ン マー ク
フ ィンラ ンド
オ ラ ンダ
米国
0.0
国土交通省『平成 17 年度テレワーク実態調査』より
図13-9 百人当たりインターネット加入率とジェンダー・ エン
パワーメント指数の相関 (相関係数=0.68)
ジェンダー・ エンパワーメント
指数
図13-8 ICT競争力指数とテレワーカー比率の相関
(相関係数=0.74)
テレワーカー比率
35.0
30.0
25.0
20.0
15.0
10.0
5.0
0.0
4.0
4.5
5.0
ICT競争力指数
5.5
1.00
0.90
0.80
0.70
0.60
0.50
0.40
0.30
0.20
0.10
0.00
0.00
6.0
10.00
20.00
30.00
40.00
百人当たりインターネット加入率
日本
3、IT 革命と格差克服の取り組み
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50.00
情報化社会と経済
IT 革命と情報化社会
日本では 2000 年代以降、企業におい
ては、インターネットやクラウド・コン
ピューティング(Cloud Computing)利
用などの IT 環境の整備は進んできた。
一方で、企業におけるテレワーク制度の導入率は IT 環境の整備に比べて進ん
でおらず、加えて、大企業に比べて中小企業における導入率が低い傾向にある。
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IT 革命と情報化社会
(3)クラウド・ソーシング
2010 年代に入って、発注者がインターネット上のウェブサイトで受注者を公
募し、仕事を発注することができる働き方の仕組みとしてクラウド・ソーシン
グ(Crowd Sourcing)が注目を集めている。
(出典)総務省「ICT の進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」
(平成 26 年)
日本におけるクラウド・ソーシングの利用は 2009 年頃から本格化したと言わ
れており、2012 年時点でその市場規模は 100 億円を超えている。国内の市場規
模はその後右肩上がりで成長を続け、2017 年度には 1,473.8 億円規模に達する
見込みである。一方で、クラウド・ソーシングの拡大は労働市場における労働
者の格差をますます進める可能性があることも考えなくてはならない。
(出典)矢野経済研究所「BPO 市場・クラウドソーシング市場に関する調査結果 2013」
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IT 革命と情報化社会
3、IT 革命と格差克服の取り組み
(1)IT 革命と女性の取組み
別紙資料に見られるように、IT 革命は女性の職場への進出を進めてきた。し
かしながらこれは男女間の賃金格差を利用するという側面もある。また、IT は
急速な技術進歩を伴うため、女性の場合は結婚や出産、育児によるキャリアや
賃金水準の非連続性を伴いやすい。そこで、企業でキャリアを積みながらも様々
な理由で職場を離れざるを得なくなった女性のために、仕事が在宅でも自らの
キャリアを利用して仕事に結び付けようとする取り組みや、そのための仕事を
紹介するネットワークの取り組みが見られる。
女性の声を商品の企画・開発に結びつける
「キャリアマム」http://www.c-mam.co.jp/
女性の在宅ワーク支援ネットワーク
「ハーストーリー」http://www.herstory.co.jp/
(1)IT 革命と高齢者の取組み
ニューメディアやマルチメディアに代表される地域情報化政策の中で IT が情
報発信や新しい地域活性化政策として位置づけられてきたが、その中で登場し
た最新の情報インフラや情報機器が地域の活性化に活用されてきたとは言い難
い(第 7 回参照)。一方、ニューメディアの実験の「最先進地」であった三鷹市
では、最新のインフラや情報機器を利用するのではなく、パソコンの普及やパ
ソコン利用の講習などを高齢者中心に行い、
「パソコン講習」や企業を退職した
高齢者のノウハウなどを活かした仕事、事業展開を目指した取組みを始めた。
「団塊の世代」の退職に伴い、同様の事業が全国各地で行われている。
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IT 革命と情報化社会
シニアの社会参加、就労支援とまちづくり
「シニアSOHO三鷹」http://www.svsoho.gr.jp/
(2)IT 革命と障がい者の取組み
現代の IT 革命を象徴するユビキタス・ネットワークは「いつでも、どこでも、
なんでもつながるネットワークであるが、それは「だれでも」が、女性でも高
齢者でも、そして障がい者でも使えるものでなければならない。そこで、IT を
利用した障がい者のための福祉機器の開発は進められている。
一方、障がい者自身が IT を活用して、仕事や就労に結び付け
ようという取組みも注目される。ナミねえ、こと竹中ナミ代表
が主宰する「プロップステーション」)は、障がいを持つ人
(challenged: チャレンジド)の自立と社会参加、とりわけ就
労の促進や雇用の創出を目的に活動する社会福祉法人が代表的
である。
ITによる障がい者就労支援組織
「プロップステーション」
http://www.prop.or.jp/
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