06P176_本間 愛弥子

平成 23 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅱ
論文題目
新規ケミカルピーリング剤の開発とその効果
Development of novel chemical peeling agents and its therapeutic
evaluation
物理薬剤学研究室 6 年
06P176
本間 愛弥子
(指導教員:飯村 菜穂子)
要 旨
ニキビ(尋常性痤瘡)をとりまく環境は今、大きな節目を迎えている。以前の“ニ
キビは青春のシンボル”という「生理的現象」としての認識はくずれ、「治療を必要
とする一つの疾患」として捉えられるようになり、積極的な治療が行われるようにな
った。患者数も年々増加しており、ニキビ治療の需要は増加の一途をたどる。しかし
ながら、その治療法・治療薬剤の開発・認可は諸外国に比べ大きく後れをとっており、
治療に対する満足度は医師・患者ともに十分とは言えない。
そんな中、近年、ケミカルピーリング(Chemical Peeling:CP)が注目を集めている。
CP は、皮膚剥離作用を有する薬剤を皮膚に塗布し、一定の深さで表皮や真皮を化学
的に剥離させ、その自然治癒能力を利用して、新しく皮膚の再生を促す治療法である。
この治療法は他とは異なりニキビの原因とされる面皰に対する作用を持つため、従来
の治療法では改善が見られなかった症例に対しても効果を得られ、また、初期投資や
必要経費が安価である等多くの利点が評価されている。一方で、処方開発初期に提案
された resorcinol(Res)、salicylic acid(SA)等が現在でもそのまま主流薬剤として用い
られており、それらの皮膚刺激性、低い皮膚浸透性、酸素や光による薬剤不安定性は
未だ改善されていない。CP における副作用、危害報告の多くはその使用薬剤による
ものであり、CP での使用薬剤(CP 剤)の新規開発が求められている。
そこで今回、多くの医薬品がその溶解性、安定性、安全性等を向上させる目的で両
親媒性物質を用いていることに着目し、上述の CP 剤の問題点を、両親媒性物質を用
いて改善することを目的に研究を行った。実験の結果、CP 剤である Res と両親媒性
物質との間で良質な分子複合体を得ることに成功した。また、小動物及び皮膚モデル
細胞を用いた実験において、Res を分子複合体化することにより、CP 効果は保持し
たまま、皮膚への刺激性を低下させることができた。
キーワード
1.尋常性痤瘡
2. 色素沈着症
3. ケミカルピーリング
4.α-hydroxy acid
5.glycolic acid
6.lactic acid
7.β-hydroxy acid
8.salicylic acid
9.Jessner 液
10.resolcinol
11.trichloroacetic acid
12.phenol
13.皮膚剥離
14.面皰
15.瘢痕形成
16.両親媒性物質
17.分子複合体
18.経皮吸収
目 次
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
1.はじめに
2.実験
3.結果・考察
4.おわりに
引用文献
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
10
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
11
論 文
1.はじめに
皮膚の表面は、数十倍拡大しただけでも分かるように、複雑な細かい溝(皮溝)
が刻まれその深さやそれらで囲まれている丘(皮丘)の形は様々である。このよう
な複雑な模様が蛇腹のように働き、皮膚の収縮、弾力性、美しさを担っている。従
って皮膚は我々の体を覆う膜と単純に解釈することはできない。皮膚は生体を包み、
様々な外的因子に対して防御効果を施し、また同時に外界の変化に柔軟に対応する
仕組みも併せ持つ最大の臓器である 1。
近年、温暖化や生活環境の汚染等、地球規模における環境の変化に加え、社会生
活を営む上での過度なストレスが誘因となって皮膚疾患を抱える人々が増えてい
る。代表的な疾患にアトピー性皮膚炎、乾癬、光老化、色素沈着症等々があげられ、
痤瘡などの難治性皮膚疾患もその一つとして取り扱われており、罹患層が幅広いこ
とも特徴の一つである 2。
このような患者に対する治療法としてこれまでは、美容手術、すなわち外科的療
法が推奨されてきたが、最近の皮膚科治療手技は比較的患者へのストレスが軽減さ
れる非手術医療に大きく転換してきており、それに伴い薬物治療、機能性化粧品の
開発など、新発想治療法に注目が集まっている 3。その一つにケミカルピーリング
がある。日本では、数十年ほど前から難治性皮膚疾患治療法として注目され、その
施術法、適応薬剤に関して広く研究がなされてきた 4。2001 年には日本皮膚科学会
からケミカルピーリングガイドラインが発行され、皮膚科医の行うべき医療と位置
付けられて期待されてきた 5。
ケミカルピーリング(Chemical Peeling:CP)は、皮膚剥離作用を持つ薬剤を皮
膚に塗布することで、表皮や真皮を一定の深さで化学的に (Chemical) 剥離させ
(Peeling)、その自然治癒能力を利用して皮膚の再生を促す治療法である。日本にお
ける歴史はそれほど古いとは言えないが、4000 年以上昔のエジプト文明での民間
療法に起源すると言われている 6。それらが 1882 年、ドイツの皮膚科医である
Unna らによって医療に導入され、ピーリング剤としてβ-hydroxy acid(BHA:
カルボン酸のβ位に水酸基を持つ脂肪族の総称)の中でも代表的な salicylic
1
acid(SA) 7、SA と lactic acid8 と ethanol とともに Jessner 液 9 に配合されている
resolcinol(Res)、acetic acid をベースに水素原子 3 個を塩素原子 3 個に置き換えた
trichloroacetic acid (TCA)10、ベンゼン環に水酸基を一つ加えた構造を持っている
phenol(Phe)が提案された 6。1903 年にはイギリスの皮膚科医 Mackee が、強力な
消毒、殺菌剤として用いられる Phe をニキビ痕治療に用いるようになり、1960 年代
には形成外科医 Baker が、Phe を用いた CP を美容皮膚科における治療法の一つ
として確立させた。その後米国で急速に発展し、1970 年代にα-hydroxy acid
(AHA:カルボン酸のα位に水酸基を持つ脂肪族の総称)の中でも最短構造で分
子量が小さい glycolic acid(GA)11,12 が、1980 年代には Phe に比べ安全でアレルギ
ー反応がほとんどなく中和や麻酔の必要もない TCA が、1998 年には Kligman ら
が 30%SA エタノール溶液を CP 剤として開発し、高い効果を示した 13。
一方日本では、1985 年に第 2 回国際美容外科学会で CP が取り上げられたもの
の、皮膚に化学的損傷を与え治療に応用するという考え方が受け入れられず、また、
色素沈着の憎悪や合併症の危険性などから日本人には適応がないとされ定着しな
かった。しかし 1989 年、第 6 回日本臨床皮膚外科学会で L.S.Moy が黄色人種に
対しても有効であると講演し、これがきっかけとなりようやく日本でも CP が実施
されるようになった 14。また 1994 年に、安全性が確認された AHA を厚生労働省
が CP 剤として認可したことも手伝い、1998 年以降日本での CP は急速な発展を
みせた 6, 13,15,16,17。CP 剤として利用されている化合物の構造を図 1 に示す。
その後 2003 年、梶田らの報告
18 では低濃度(20%)GA
で面皰に対し高い改善率
が得られ、2008 年には橋本らの SA(M)を用いた研究 19 で面皰数が 75%減少したと
の報告があるなど、CP 剤はニキビの原因となる面皰にも有効に作用すると確認さ
れたことで、抗菌薬やビタミン剤等従来の治療法で改善がみられなかった症例に対
する効果も期待されるようになった 6,17, 20,21。またニキビにとどまらず肝斑、日光
角化症等の色素沈着症にも適応されている。
上述のように CP 剤として数種の薬物が広く利用されているが、病態により CP
剤の種類やその濃度選択が重要と言われている。このことは CP による皮膚剥離の
深さに起因する。従ってその深度(皮膚深達度)により CP の手法は分類されてい
る 5,6, 14。皮膚深達度は、次のように区別される。角層までの very superficial
2
図 1
CP 剤として利用されている化合物
peels(最浅層ピーリング)はレベルⅠ、表皮顆粒層から基底層までに留まる
superficial peels(浅層ピーリング)はレベルⅡ、表皮全層と真皮乳頭層の一部か
ら全部を含む medium depth peels(中間(深)層ピーリング)はレベルⅢ、網状
層までに及ぶ深度の deep peels(深層ピーリング)はレベルⅣと分けられる 14。主
にニキビはレベルⅠ~Ⅱの CP で、肝斑や日光角化症等はレベルⅢ~Ⅳの比較的深
い層まで作用させる CP により効果があると報告されている 5。日本においてはレ
ベルⅠ~Ⅱの CP 剤に GA が広く使用されており、GA ピーリングでは術後の痂皮
形成がなくダウンタイム(術後一時的に紅斑や乾燥等の症状が現れる場合があり、
その期間のこと)が短いことを特徴とする。藤沢らの症例報告
12
では 2 週間~1
ヵ月に 1 回の GA ピーリングを 2~12 回継続した結果、顕著な回復が認められた。
また 2004 年、マクロゴールを主基剤としたサリチル酸マクロゴール(SA(M))ピ
ーリングが月 1 回 5 分の塗布で高い効果が見られたことが上田らにより発表された
7
。本手法を用いることによる副作用報告もほとんどみられないことから注目が集
3
まり有効性の高い CP 法として皮膚科専門医等の使用が増え始めている。しかし調
剤過程においてこの SA(M)は、種々分子量マクロゴールの混合比、撹拌回転スピ
ード、溶解温度、冷却温度等種々の条件設定が必要となり、均一な調製が極めて難
しい。調製不十分な SA(M)は SA の析出、濃度低下が起きやすく効果発現不良によ
る二次的な炎症の原因となる。またこれまで使用されている CP 剤の一部が、薬物
の皮膚浸透性が低いことで高濃度を適用せざるを得ず、皮膚への刺激性が懸念され
ているのもまた事実である。CP 剤はその種類、pH、基剤、塗布時間、塗布方法、
病変部の状態、室温、湿度などの影響で同一患者、症状であっても異なる効果、結
果が見られることもあり 13,16,22、確立された方法はなく患者へのストレスが大きい
ため、軽減された副作用の少ない安全な新規薬剤の開発が望まれている。益々増加
する CP への関心、ニーズに答えるための CP 剤開発には、1) 個々の患者の病変
部にあわせた選択性のある CP 剤をそろえ、2) 低濃度でも十分に作用し、3) 薬剤
安定性が高く、調製が簡易的であることが必要と思われる。
新規薬剤の開発、製剤技術の発展には様々な手法の導入、提案がなされている
23 が、物質の安定性や溶解性等の物性改善に両親媒性物質が用いられるのもその一
例である 24,25。両親媒性物質とは、分子内に親水基(水になじみやすい部分)と疎
水基(油になじみやすい部分)を持つ物質であり、界面の性質を著しく変化させる
性質があることから界面活性剤とも呼ばれている。このような構造をもつ両親媒性
物質の共存が、本来混合させることが難しい水と油を均一に分散させ、また難水溶
液性薬物の溶解度を高める働き(可溶化)を示す 26。その他、薬物の浸透性や持続
性等の向上が期待でき、安定な医薬品の提供や反応の場としても重要な役割を担っ
ている 27。当研究室におけるこれまでの研究成果 28,29 にも「両親媒性物質を利用し
た製剤化技術の提案」がある。そこでは医薬品が両親媒性物質と複合体化されるこ
とで新しい物性を付加することが発見された。今回、本技術を応用し、高いニーズ
がありながら未だ CP 開始当初の処方 14 を利用している現状を打破するため、新規
CP 剤を提案することを目的に研究を行った。
4
2.実験
2.1.試料
CP 剤は代表的な resorcinol (Res)(和光純薬)、salicylic acid(SA)(和光純薬)
を用いた。また、当研究室におけるこれまでの研究成果 30,31 としてカチオン性の両
親媒性物質が芳香族化合物と複合体を形成しやすいことがわかっているため、両親
媒 性 物 質 は 4 級 ア ン モ ニ ウ ム 塩 系 の 両 親 媒 性 物 質 Dimethyl dipalmityl
ammonium Bromide(DMDPB)(東京化成)、Cetyl dimethyl ethyl ammonium
Bromide(CDEAB) ( 和 光 純 薬 )、 Benzyl
cetyl
dimethyl
ammonium
Chloride(BCDAC)(東京化成)の 3 種類を用いた(図 2)。
図 2
4 級アンモニウム塩系両親媒性物質
2.2.分子複合体生成方法
両親媒性物質を用いて Res 及び SA を、通常可溶化法または Methanol(MeOH)、
Ethanol(EtOH)に両者を均一溶解したのち冷却放置により分子複合体を得た。得ら
れた結晶は、紫外可視吸光光度計(UV-1800A、SHIMADZU)を用いて生成確認を
行った。
5
2.3.分子複合体のピーリング効果
生成した分子複合体のピーリング効果について、比較的皮
膚浸透性が低いことで知られ、様々なタイプの色素沈着症に
有効とされ皮膚科医に利用されている hydroquinone(HQ)
(和光純薬)(図 3)を用いて、分子複合体による前処理を
行った complex 処理群の皮膚への薬物浸透性について無処
理群、あるいは Res 単体処理群との比較により行った。皮
膚は 3 週齢、雄モルモットの背部皮膚及び三次元培養ヒト皮
膚モデル(TESTSKINTM LSE-high(東洋紡)) (testskin)(図
図 3
hydroquinone
4)を用いた。
ピーリング効果の検討には、Franz 型セル(図 5)を用いた。モルモット皮膚ま
たは testskin を Franz 型セルにセットし、37℃、遮光条件下、1 時間リン酸緩衝
液(PBS)でプレトリートメントした後、Res 単体処理群及び complex 処理群には、
donor 相に Res または分子複合体 0.001M を 1mL 投与し 1 時間の前処理を行う。
その後、全ての群に HQ 0.001M を 1mL 投与し 6 時間適用させた。さらに、receiver
相の溶液及びモルモット皮膚または testskin の MeOH 抽出液を用い、HQ の皮膚
透過量及び蓄積量について紫外可視分光光度計(UV-1800A、SHIMADZU)を用
いて検出した。
図 4
TESTSKINTM LSE-high32
図 5
6
Franz 型セル
3.結果・考察
3.1.分子複合体の生成
2.1.の各試料を組み合わせたうち、良質な分子複合体を得られた次の 5 種類(表
1)の中から特に再現性の高かった Res と DMDPB からなる分子複合体(complex)
について、CP 効果を評価した。
表 1
得られた分子複合体
生成モル比
CP 薬剤
界面活性剤
Res
DMDPB
1:1
Res
BCDAC
1:1
Res
BCDAC
1:1
SA
DMDPB
1:1
SA
BCDAC
1:1
(CP 剤:両親媒性物質)
3.2.モルモットの背部皮膚を用いたピーリング効果
モルモットの背部皮膚を用いて complex による前処理後の HQ の皮膚透過量(図
6-(a))及び蓄積量(図 6-(b))について、未処理と Res 単体処理した場合とを比較
した。complex 処理後の HQ の皮膚透過量、蓄積量はともに無処理群に比べ小さ
い値を示した。また、Res 単体処理後の HQ の皮膚透過量は未処理群に比べ小さい
値を示したが、皮膚に蓄積する傾向を示した。
3.3.三次元培養ヒト皮膚モデルを用いたピーリング効果
testskin を用いて、complex による前処理後の HQ の皮膚透過量(図 7-(a))と
蓄積量(図 7-(b))を、未処理または Res 単体処理した場合と比較した。complex
処理後の HQ の皮膚透過量、蓄積量はともに未処理群に比べ大きい値を示した。し
かし HQ の皮膚透過量では Res 単体処理群ほどの透過を確認することは出来なか
った。また、Res 単体処理群の HQ の皮膚透過量は、未処理群に比べ大きい値を示
したが、蓄積量は逆の傾向を示した。これらのことより、Res は高い角質除去作用、
7
CP 効果を有する薬物であることが確認できたが、そのため HQ の透過量が多くな
り皮下組織にまで到達させてしまう結果になったと思われる。一方 complex 処理
群では、Res 単体処理群ほどの角質除去作用は有さないが、CP 効果は適度に持ち、
HQ の経皮吸収の促進に貢献したと考えられる。角質層全てを除去してしまう程の
作用がなかったために HQ が表皮内に滞留する現象が見られたと考えられる。
図 6-(a)
モルモット背部皮膚を用いた HQ 透過量
図 6-(b)
モルモット背部皮膚を用いた HQ 蓄積量
図 7-(a)
testskin を用いた HQ 透過量
図 7-(b)
testskin を用いた HQ 蓄積量
3.4.モルモット背部皮膚と testskin 間でのピーリング効果の比較
モルモット背部皮膚及び testskin を用いたピーリング効果(HQ の皮膚透過量、
蓄積量を指標とした)は一致する結果を得なかった。しかし、モルモット皮膚とヒ
ト皮膚においては類似の構造となっておらず、モルモット皮膚は比較的角質層が薄
く、皮膚細胞もきちんと整っていない。一方ヒト皮膚の角質層は角質細胞が 1 の壁、
2 の壁、3 の壁というように幾重にも重なって外部からの微生物の侵入や、様々な
物理的あるは化学的な刺激より体を守り、生命維持に大きな役割を果たしている。
8
そのためモルモット皮膚とヒト皮膚では結果が一致しなかったと考えられる。CP
剤の適用はヒトになることから今回の実験結果は意義あるものと思われる。
(a)
(b)
図 8
CP 剤の皮膚に対する刺激性
(a) 表皮側から見たモルモット皮膚の変化
(b) 真皮側から見たモルモット皮膚の変化
3.5.皮膚刺激性
CP の適用はヒトであることから、CP 剤の効果だけでなく安全性の確保が重要
と思われる。未処理群、complex 処理群、Res 単体処理群の実験終了後(complex、
Res 塗布後 6 時間)のモルモット皮膚の状態及びその変化を観察した結果、Res 単
体処理群で一部びらん、発赤が見られたが complex 処理群においてはそのような
皮膚変化は認められなかった。また未処理群においても実験前後で特別な皮膚変化
は確認できなかった(図 8)。この結果から DMDPB との分子複合体を形成するこ
とで Res による皮膚刺激性を低下させることができたと考えられる。
9
4.おわりに
CP 剤として用いられる Res は、4 級アンモニウム塩系の両親媒性物質 DMDPB
と分子複合体を形成させることにより、その角質剥離作用を保持しながら、Res の
持つ皮膚刺激性を和らげる性質を付加させることができた。これにより、複合体化
することで、浸透性の乏しい薬物の吸収を高め、また皮膚刺激の少ない角質剥離薬
物としての機能を持たせることに成功した。
今回の研究で、CP 剤として十分に機能した分子複合体の濃度は、実際の CP で
使用されている薬物よりもはるかに低い濃度(1/40 以上)で、角質剥離作用を確
認することができた。このような低濃度設定での作用発現は、副作用を抑え、薬剤
費の軽減にもつながることが示唆され、安全に使用できる CP 剤として期待できる。
今後、本複合体の剤形検討、臨床、薬理的データを蓄積することでより良い CP 剤
の提案へ導けると思われる。臨床現場への実用化を目指し、さらなる研究展開を進
めたいと考えている。
10
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