理工学部 無機化学 II 2015 年 坪村 [email protected] 無機化学 I では,無機化学,いや科学を学ぶ上で重要な基礎事項と主に典型元素の性質について学んだ.無機 化学 II では,まず序章として地球上の無機化合物がどのように使われているかを量的な側面もあわせて見る.資源 の観点からも考えてみたい. 本論の最初は遷移金属の単体と化合物の性質を学ぶことに費やす.遷移元素の性質とその差異を考えるときは酸 化還元反応が重要である.どのように鉱石から単体を得るのか,その差異のエネルギーについても考える. その後私の専門である錯体についてもその基礎と応用をお話しする.錯体は有機と無機の境界に位置する化合 物であるが,多くの研究者が研究を行い,応用分野も材料から医療まで幅広い. 無機物質は本来の意味としては生物と関係ない物質であったが,多くの金属元素が生物内でも重要な働きをして いることも分かった現在,有機と無機の区別はなくなりつつある(と私は思う).物質生命理工学科の一員として,しっ かりと学べるように有意義な講義をしたいと思っている. 特に教科書は指定せずに、プリントを使って講義を進めていく。但しプリントは必要に応じて資料の図や表を示す だけである。講義中にしっかりノートを取ってもらいたい。なお、資料と補足説明は私のウェブサイトに順次掲載する 予定であるので適宜参照のこと。http://www.ml.seikei.ac.jp/tsubomura/education/ 6 回の小テストを行う予定である。 内容 1. 無機化学 I の復習と無機化学 II で学ぶこと 2. 無機化学と環境,資源 原子力 3. 産業と無機化合物のかかわり 4. 遷移金属元素 性質と資源* 5. 遷移金属の化合物 6. 希土類元素* 7. 金属錯体の基礎 8. 金属錯体の反応* 9. 10. 11. 12. 13. 14. 15. 金属錯体の構造 金属錯体と電子の軌道* 有機金属錯体 触媒反応とその機構* 無機化合物・錯体の分析と構造解析 錯体と光エネルギー* 自然界や医療と金属錯体 無機化学Iの復習 (試験の解説は web 上にあり) 原子核反応に関して(無機I補足) 核分裂のエネルギー > その後の原子化学反応のエネルギー >>通常の化学反応の反応熱 半減期 131I:8 日、 137Cs:30 年、90Sr:29 年 いずれもベータ崩壊する。 総発電電力中に原子力発電が占める割合 日本 30%、アメリカ 20%、フランス 80%、ドイツ 30%弱 韓国 40%、中国 2%、ロシア 18% (大震災以前) 多く使われている元素 (または化合物) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 1H 18 2He 3Li Be B C N O F 10Ne 11Na Mg Al Si P S Cl 18Ar 19K Ca Sc Ti V Cr Mn Fe Co Ni Cu Zn Ga Ge As Se Br 36Kr 37Rb Sr Y Zr Nb Mo Tc Ru Rh Pd Ag Cd In Sn Sb Te I 54Xe 55Cs Ba 5771 Hf Ta W Re Os Ir Pt Au Hg Tl Pb Bi Po At 86Rn 87Fr Ra 57La Ce Pr Nd Pm Sm Eu Gd Tb Dy Ho Er Tm Yb 71Lu 89Ac Th Pa U Np Pu Am Cm Bk Cf Es Fm Md No 103Lr 理工学部無機化学Ⅱ 補足 1) 原子力エネルギーについて 日本では総発電電力の約 3 割が原子力によっていた。 原子力のエネルギーは核分裂の際の質量減少によることは無機化学 I でも勉強した。 天然ウラン中に 0.7%含まれる質量数 235 のウランが核分裂する。 核分裂の際は多くの反応が同時に起こり、質量数が 90 程度の原子核と質量数が 140 程度の原子核に分裂する。反応の 例としては 235U + 1n → 141Ba +92Kr + 31n や 235U + 1n → 143Xe +90Br + 31n があげられる。 235 U の核分裂で発生する反応熱は 187MeV と言われ、これは 1.8×1013J/mol に相当する。 核分裂後生じた原子核はさらにベータ崩壊などの反応によって変化していく。 例えば 90Br → 90Kr → 90Rb → 90Sr → 90Y → 90Zr 1.6s 32.5s 2.7m 29y 64h ← 半減期 このような核分裂後の一連の反応の際にもエネルギーを放出し、そのエネルギーは核分裂の6-7%である。 このエネルギーは核分裂に比べれば1/20にすぎないが、1012J/mol であり、通常の化学反応の反応熱が大きくても 105 ~106J/mol であるのに比べるとはるかに大きい。ただし一度に放出されるわけではない。よって原子炉は核分裂がおさま っても非常に大きな熱を出し続けるために恒常的な冷却が必要なのである。 α 崩壊等で崩壊していく場合原子核の数は下記の式にしたがって減少する。 N=N0×2-t/t1/2 N0 最初の原子数 t1/2 半減期 ・ 例えば N0=100 個 t0=1h なら 1h後に 50 個、2h 後に 25 個となる。 t 秒間に反応する原子数は N0 - N0×2-t/t1/2 = N0 (1- 2-t/t1/2) ・ 例えば 40K(半減期 12 億年)が 1mol あったら、1 秒間に反応する原子数は 6×1023(1- 2-1/(1200000000×365×24×60×60))= 11×106 個 人間の 0.2%がカリウム(=100g=2mol) K は 93%が 39K 7%が 41K、0.01%が 40K よって人間には 2×10-4mol の 40K が含まれる。 これらは 40K → 40Ca+e- β 崩壊により少しずつ崩壊している。 よって毎秒 11×106×2×10-4≈2000 個の 40K が崩壊しベータ線を出している。 つまり人は 40K によって 2000 ベクレルの放射線が体内で出ている。 (放射性物質の原子核反応にはさまざまな種類があり、出てくる放射線もさまざまであるが、ともかく毎秒 n 個崩壊すれば nベクレルとなる。) 2) 1 ページ目の下には無機Ⅰで示した表を形を変えて示した。黒は世界での一年間の生産量(元素単体またはその主 要な化合物;セメントのような混合物は除く)が 107t 以上のもの、灰色は 104t 以上のものである。遷移金属でもかなりの量が 使われているものが多数あることが分かるであろう。皆さんはほとんど聞いたことがない様な金属元素も多数含まれている であろう。聞いたことのない金属元素でも非常に重要な用途に用いられているものは多数ある。この無機化学 II では、遷 移金属の単体と化合物を主に取り扱うが、身の回りのどのようなものがこれらの金属を利用しているかも含めて勉強してい くことにする。 理工学部無機化学Ⅱ
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