第5回講義

「地理学概論II」
第五回:地理学と帝国主義・植民地主義
2015年5月25日
担当: 二村 太郎
[email protected]
前時の授業にあった質問&コメントから:
 環境決定論について、たしかに人間の文化は周りの環境から大
きな影響をうけていると思います。風土が伝統産業に関係したり
します。しかし、やはりそれだけでは言えないことも多いと考えま
した。環境だけではなく、他の地域との相互の影響によっても発
展すると考えたからです。人間の文化はもっと複雑に発展してき
たのだと思います。
 環境決定論の問題は、人間が環境に与える影響について考慮
されていないことだと思います。(中略)人間が環境を変えること
もあるし、同じ気候に住んでいる人が同じ行動をする訳ではない
と思いました。(下線TF追加)
 今回のディスカッションで考えたことは、人間は地理を変える力
を持ち、現代では輸送などで多くの人が平等に地理的利益を得
ることができるのではないか、ということです。
 地図ができてナイル川(パナマやスエズ運河?)を作ろうという話
になった、というのを聞いて、地図は日常生活の利便化にも役立
つことがわかりました。
大阪都構想住民投票結果
QGISによる投票結果の分析
http://demacassette2.hateblo.jp/entry/2015/05/19/234734
前回の内容
ダーウィンの進化論と環境論への批判
探検の知から学問として確立した地理学



大学における地理学の講義(ドイツ)
探検から調査・研究へ(イギリス)
チャールズ・ダーウィンによる『種の起源』刊行
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
南太平洋の探検・標本収集を通じて生物と地理の関係を検討
生物学と地理学の視点から検討した種の進化過程
自然(環境)と人間の関係をとらえる研究の多様化




リヒトホーフェン(ドイツ)による地形学の確立
ラッツェルによる人文地理学の確立
ラッツェルがとらえた人間と環境の関係
環境決定論への批判と新たな展開


ブラーシュ(フランス)による環境可能論の提唱
19世紀後半以降の世界の変貌
 産業革命の進展と西欧諸国の成長
 都市化、工業化、インフラ拡充
 世界各地の植民地から原料を調達
 植民地とは?
 ある国の経済的・軍事的侵略によって支配され、政治・経済
的に従属させられた地域
 世界各地の地図化と地理的知の増加
 各国における地理学協会の発展
 学校教育の普及
 学ばれる知としての地理学:植民地主義を正当化する議論とし
て援用される
World Colonization Map, 1900
http://www.vrml.k12.la.us/hs/ss/ss_curr/wor_hist1/hotlist.htm
ラッツェルの政治地理学とその影響
 『政治地理学』の刊行
 諸国家は可能な限り土地・資源を獲得しようとして戦争
を永遠に続けるという前提から、戦争によって獲得され
る国家の生存に必要な空間(「生存空間(Lebensraum)
」)の概念を導入
 国家の生存空間を求める闘争として戦争を位置付ける
 国家を有機体とみなす視点 国家有機体説
 生物学的視点からうまれたラッツェルの着想
地政学の登場
 欧米を中心とした帝国主義の激化
 帝国主義とは?
 帝国による世界各地の分割が後に大きな影響を与える
 政治地理学から派生した地政学
 世界情勢と今後の国際政治的動向を考えるうえで、地理的
知が援用される
 マッキンダーのハートランド理論
 ハートランド(中央アジア)を世界の中心としてとらえ、他地
域の脅威について検討
帝国主義の諸段階
年代
主要勢力
主要植民地
政策・思想
15世紀末~
17世紀後半
ポルトガル・
スペイン・イギリス
アジア・アフリカ港 キリスト教化
湾・アメリカ大陸
17世紀後半~ イギリス・オランダ・ 東インド(南・東南 重商主義
18世紀前半
フランス
アジア)・西インド
(カリブ海域)
18世紀後半~ イギリス・フランス
19世紀前半
オセアニア(中南
米独立)
啓蒙主義、
ロマン主義
19世紀後半~ 先発・後発列強
20世紀前半
(米独伊日)
アフリカ・中東・ア
ジア
自由主義、
社会進化論、
実証主義
20世紀後半~ 多国籍企業
脱植民地化
新自由主義
小林到広「地理学と帝国主義」人文地理学会編(2013)『人文地理学事典』丸善出版, p. 16.
オスマン帝国の崩壊と中東の分割
Timemap World Atlas: Middle East
http://www.timemaps.com/history/middle-east-1914ad
マッキンダーのハートランド論
Binghamton War Studies Blog
https://birminghamwarstudies.wordpress.com/tag/mackinder/
地政学の発展と変化
 ハウスホーファーとドイツ地政学
 3つの「パン・リージョン」に基づく世界秩序を提唱
 小牧実繁と日本地政学
 西欧中心の地政学に対抗する意識
 大日本帝国の方向性について検討
(日経ビジネスオンラインにて地政学に関する連載が進行中)
 ディスカッション:
 地政学は20世紀前半以降の世界にどのような影響を与え
たのだろうか?
ハウスホーファーによる
パンリージョンと世界の分割
The Policy Tensor
http://policytensor.com/2013/05/
第二次世界大戦の終結と地政学の終焉
 戦争に加担した地政学への批判
 ナチス・軍国日本との関わりを糾弾
 地政学を過去のものとして封印し、政治と地理の関係を議
論することを避けるようになる(~1970年代まで)
本日のまとめ
政治化されていく地理的知


帝国主義、植民地主義を自明のものとして考える
人文地理学の一分野として発展した政治地理学の変貌



国策と国益の議論に組み込まれた地政学の誕生と衰退
政治過程をめぐる議論が大地に向けられることへの危険
性を経験