1 章 連続流れ分析装置(CFA)とは 1.1 自動分析の始まり 自動化学分析装置は、オートアナライザーの登場により初めて実現した。 1957 年にアメリカの Dr. Skeggs(写真)により発明された「連続流れ分析法 * (Continuous Flow Analysis、略して CFA) 」と呼ばれる原理を用い、テクニ コン社が臨床分野における血液中の生化学項目の高速自動分析装置として開発 したのが世界最初の自動化学分析装置である。その後、産業分野の高度成長と ともに、その化学分析分野における自動分析機器として利用され、分析メソッ ドの開発が急速に進み、現在では環境、農業、食品、医薬品などの広範な分野 で 1,000 項目以上に及ぶ分析が行われている。 また、我が国においては国内の需要に応じた分析項目、分析技法の CFA へ の適用を推進し、国内での開発製造化によって確固たる CFA 自動分析装置の 提供が可能となった。 自動分析の多様化が進む中、CFA はそのシンプルな原理ゆえ、人為レベル・ Dr. Leonard T. Skeggs *連続流れ分析法(Continuous Flow Analysis)の名称は 1950 年代末に発明者であ る Dr. Skeggs と、それを商品化したテクニコン社によって“空気分節式流れ分析 装置”に対して命名された。 2 施設レベルの差異の極小化ができることはもちろんのこと、同時に多項目を迅 速に分析できるため各種研究目的の手段として、また検査センターなどではそ の検査施設のコスト削減に貢献している。 さらに、作業に手間の掛かる蒸留や溶媒抽出、全窒素全リン測定時のオート クレーブ分解などが、連続流れの中で完全に自動化されたことで、分析者にと って時間的、精神的に大きなメリットとなり、分析ボリュームの拡大をもたら している施設が多くなっている。 1.2 連 続流れ分析装置(CFA 分析装置) の 基本概念 サンプルをポンプで吸引してチューブに流し、その中に反応試薬や分節空気 などを注入することで、反応・混合を行い検出器で測定する方法である。 サンプラー上に並べられたサンプルがポンプによって正確に秤量され、分析 カートリッジ(反応マニホールド)と呼ばれる反応系に送られる。 同時に、反応目的に応じた一定量の試薬が反応系内に送られる。一定間隔に 注入した空気によってサンプルと試薬をいくつにも分節し、その分節された一 つ一つが独立した形で同一の化学反応を起こし、次の検出器(比色計など)に 送られ、フローセルで吸光度を測定し定量する。細長いチューブ内に広がった 液体を空気で分節することで、サンプルと試薬の混合を可能にしている。ま た、注入された空気が管の内壁を押しながら流れていくことで、チューブ内の 洗浄に役立っていることも立証されている(図 1.1) 。 秤量ポンプ オートサンプラー 空気 試薬1 サンプル 試薬2 試薬3 反応マニホールド 分光光度計 5T 5T 20T 5T 混合、反応コイル フローセル 図 1.1 連続流れ分析(CFA)装置の構成例 3 1 章 連続流れ分析装置(CFA)とは 1.3 分 類 流れ分析法には大きく分けて 2 つの体系が存在し、次のように区別される (図 1.2)。 (1)CFA(連続流れ分析法) CFA(Continuous flow analysis、連続流れ分析法)は、管内に一定流量で 連続的に試薬を導入し、それに空気を規則正しく注入して気泡分節し、次にサ ンプルおよび必要とする試薬を順次注入し、混合コイルや反応コイルなどを用 いて反応を行わせ、生じた反応生成物をフローセル装着の吸光光度計などの検 出器で測定する方法である。この方法では、気泡で分断された分節液内での渦 流および混合コイル内での転倒混和により混合を完全に行う。また、分節液は 気泡で分断され独立して管内を流れていて、相互の分散が抑えられる。そのた め、サンプル間の相互汚染を最小限に抑えることができる。さらに、反応コイ ルの長さを調整することで反応時間を数秒から 1 時間程度まで設定できる。 (2)FIA(フローインジェクション法) FIA(Flow injection)は、内径 0.5 mm 程度の細いチューブ(例えばテフロ ンチューブ)を使用し、これに一定の流量でキャリア液や反応試薬を流してお き、キャリア液の流れの途中に設けたサンプル注入器からサンプルを一定量注 入する。サンプルは、キャリア液で運ばれ、反応試薬と合流し、主に拡散しな がら反応が進行し、検出器で測定する方法である。細管内は液体のみが流れて いるので、反応時間が長いと拡散サンプルがブローディングするため、サンプ 流れ分析法 CFA 連続流れ分析法 FIA フローインジェクション法 (参考)JIS K 0126 流れ分析通則 2009 図 1.2 流れ分析法の分類 4 ル注入後はできるだけ早く測定する必要がある(通常 1 分以内:反応の終点手 前で測定を行う) 。 歴史的には、CFA 法は 1957 年に、アメリカの Dr. Skeggs によって発明さ れた世界最初の自動化学分析装置であり、このことからオートアナライザー (Autoanalyzer)とも呼ばれている。 これに対し、FIA 法は 1975 年デンマークの Dr. Ruzicka らによって始めら れた分析技法である。 1.4 CFA 分析装置(オートアナライザー)の 主な用途 表 1.1 に CFA 分析装置の主な用途を記す(抜粋・非臨床分野)。 表 1.1 CFA 分析装置の主な用途(連続流れ分析を用いた測定の一例) 分野 対象品目 項目 環境科学 河川水・湖水・海洋水 の研究から、用水およ び排水中の物質監視、 また、工場の排水中の 毒性化学分析。 アンモニア態窒素、硝酸態窒素、亜硝酸態窒素、総 窒素、正リン酸、無機ポリリン酸、総リン、ケイ酸、 DOC、色度、マンガン、塩化物、硬度、鉄、シア ン化物、フェノール、フッ素、アルキルベンゼンス ルホン酸、アルカリ度、硫酸塩、その他 農業関連 (肥料を含 む) 農作物の育種改良試験 に、土壌、農業環境水 の基礎研究に、肥料分 析、植物の栄養分の分 析。 アンモニア態窒素、リン酸塩、硝酸塩、カリウム、 尿素、マグネシウム、ホウ素、硫酸塩、還元糖、全 糖、グルコース、でんぷん、アミロース、ショ糖、 ラフィノース、ナトリウム、総アミノ態窒素、アミ ラーゼ、コリンエステラーゼ、プロテアーゼ、アル ミニウム、マンガン、その他 化学・製薬 工業 化学製薬における原料 管理・工程管理・製品 管理などに関連する化 学物質の分析。 カルシウム、マグネシウム、カリウム、陰イオン界 面活性剤、六価クロム、シアン、ホルムアルデヒド、 アルコール、銅、ポリサッカライド、ポリビニルア ルコール、硬度、4 級アンモニウム塩、アセチルサ リチリ酸、アモバルビトール、クロロフェニラミン、 デジトキシン、ヂゴキシン、グルコース、鉄、ケト ステロイド、フェノール、たんぱく、ヒスタミン、 ペニシリン、サッカリン、陽イオン界面活性剤、各 種酵素、ビタミン類、動物生化学検査、その他 5 1 章 連続流れ分析装置(CFA)とは バイオイン ダストリー 原料・中間体・不純物 生 成 物 質 な ど の、 迅 速・精密な分析。 アミラーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、プロテアー ゼ、アンモニア態窒素、全糖、還元糖、グルコース、 抗生物質、アルコール、フラクトース、グルタミン 酸、リジン、乳酸、その他 食品工業 原料のチェック、中間 製品の管理、最終製品 の規格チェックなど。 アミノ態窒素、還元糖、全糖、乳酸、カリウム、硝 酸、グルタミン酸、アンモニア、アルデヒド、ビー ル苦味成分、鉄、フラクトース、グリセリン、尿素、 ヒドロキシルプロリン、ラクトース、リジン、ピル ビン酸、亜硫酸、その他 ボイラー冷 却水関連 ボイラー・冷却水の供 給水および缶水の経時 的状況の管理分析。 M アルカリ、P アルカリ、硬度、カルシウム、マ グネシウム、溶解鉄、正リン酸、シリカ、ヒドラジ ン、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、その他 その他産業 鉄鋼業;ホウ素、リン、窒素 非鉄;リン めっき;各種金属イオン、酸 労働衛生;馬尿酸、ヒドロキシプロリン、δ ALA、 その他 1.5 CFA 分析装置の基本構造と概略 1.5.1 概 略 CFA 法に必要な装置の基本構成は、オートサンプラー、秤量ポンプ、反応 カートリッジ(加熱、混合、攪拌などの操作を行う部分)、検出器、データハ ンドラー(記録装置)およびシステム制御装置である。 これらの構成モジュールを、目的とする分析に合わせて組むことにより、単 調で時間と手間の掛かる手分析法による化学分析を、サンプリングからデータ の収集まで一貫して連続的に行うシステムを構築することができる。 装置全体は、サンプリングから反応の終点、検出まで、1 本のチューブによ り連結され、チューブ内の液流は小さな空気(気泡)によって分断されてい る。これにより通常自動化が困難と考えられている溶媒抽出、蒸留、オートク レーブ分解までを可能としている。さらに分節空気の流れを監視することで、 反応工程の良否をモニターすることができる。 6
© Copyright 2024 ExpyDoc